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    こは斑ワンドロワンライ、今週も開催ありがとうございます!
    お題「逆バニーの日」お借りしました。

    #こは斑ワンドロワンライ
    #こは斑
    yellowSpot

    酒と嫉妬と兎と君と 斑は酒に強い。まだあまり飲酒経験は多くないが、成人してからこのかた酒の席での失敗というものをしたことはないし、同年代のアイドルたちと飲んでいても、最後には酔い潰れた彼らを運ぶ力仕事さえこなせた程度には強かった。自分の限界を見誤らない自信があったとも言う。しかし、今朝の部屋の惨状を見る限り、どうも昨夜、自分ははじめてあまりよろしくない酔い方をしたらしかった。
     共に酒を煽っていたのは天城燐音である。彼と酒を飲むのは初めてだった。
     良い店を知っていると言われ、連れて行かれたのは彼がいつもパフォーマンスを披露している居酒屋だった。あまりにも楽しそうに彼が酒を煽りつつ歌ったり踊ったりするものだから、つられて斑もついつい羽目をはずしたのだ。「ここならESの目もそう届かねェぞ、好きにやれ」と囁かれて、どこから持ち出したのか渡されたギターをかき鳴らし、やがて小さなステージの上で持ち歌まで披露してすっかり良い気分になってしまった。
     そうして明け方まで騒いだあと、燐音とともに店を後にした。途中からの記憶はおぼろげだが、何度か店のトイレに世話になって、名前の知らない酒を何杯も煽った気がする。薄暗い路上を歩いているとコンクリートの道が自分の後ろへ猛スピードで飛んでいった。要するに、飲みすぎたのだ。
     ガンガン痛む頭をおさえてベッドから立ち上がると、ぐらりと足元が崩れた。慌てて床に手をつくと、何やら柔らかいものに指先が触れた。
     呻きながら薄いビニールの被膜ごと手繰り寄せて顔の前に持ってくると、斑は深いため息をつく。
     見るからに安っぽいその品は、衣装である。それも、割といかがわしいタイプの。
    (逆、ばにー? なんでこんなものが……ああ、昨日、そうか、ここに帰り着く前に……)
     パッケージには、若い女性が胸元を手で隠し、その衣装を着用している写真が掲載されている。大きくポップに題された『逆バニー衣装』の文字を改めて見ると、もはや乾いた笑いしかこみ上げてこなかった。正真正銘、昨夜の遺物である。
     酒を飲み店を出たあと、二人でふらふらと街を歩いていると不意に燐音が買いたいものがあると言い出したのだ。どこそこの店に行きたいと言うので、調べてみると二十四時間営業しているらしい。素直にそこには行ったことがないと言うと面白いので付き合えと言われたのでついて行った。それが間違いだった。
     何もかも破格の値段で売っている。そんな内容のキャッチコピーは知っていたが、特に用がなかったため足を運んだことはなかった。
     夜でも眠らないその店で二人は大いに深夜の買い物を楽しみ──何に使うかわからないようなジョークグッズや衣装に大笑いし、味が不安になるようなパッケージの商品を見て回り、そうして二人とも「冷やかしは良くない」などと言い合ってそれぞれくだらないものをいくつかレジに持っていった。いま斑が手にしているのも、そのうちの一つだ。
     地は黒色、胸元が大きく開き、メイド服のような白いフリルが肩についていて胸の真ん中には赤いリボンが一つ。ぎりぎり恥部が見えない黒いタイツと、ご丁寧にうさぎの耳までついている。
     そこまでパッケージから読み取って、限界を迎えた。吐き気と頭痛、目眩が一気に押し寄せてきて冷や汗をかきながら斑はフローリングの床に這いつくばった。昨夜寮に帰らなくて本当に良かった。こんな姿を年下の健全なアイドルたちにはとてもではないが見せられない。
     こみあげてくる吐息まで酒臭くて辟易としていると、玄関の鍵が回される音がした。一瞬にして頭の芯がスッと冷える。
    「ただいまぁ。おる? 生きとるー?」
     が、聞こえてきた声に斑は再び床に突っ伏した。情けないことに、先程まで年下のアイドルたちにこんな姿を見せたくないと思っていたにもかかわらず、真っ先に抱いた感情は「助かった」という安堵だった。
    「こはく、さあ、ん……」
    「うわ声すご。どこにおる……うわ! 待っ……酒くっさっ! 死んどるやないかい!」
    「危機一髪……生きてる……」
    「言うとる場合か。うわほんまに酒くさ……昨日シャワーも浴びずに寝たやろ、これ」
     ずかずかと上がり込んできたこはくが呆れきった声を出した。
     個人名義で借りているこの部屋の合鍵を渡しているのは彼一人だ。それを自由に使ってここに出入りしているこはくは、勝手知ったるというふうに寝室を覗き込み、一旦リビングに消えたあと再び戻ってきた。
    「ニキはんから、昨日遅くまで燐音はんと飲んどったっち聞いてな。来て正解やったみたいやね」
    「ヴ……」
     低く呻くと、こはくがサッと黒いビニール袋を口元に差し出してきた。何も出てくる気配はないためそれを押し戻し、なんとか寝返りをうって仰向けになる。
    「やばい……」
    「こんなになるの珍しいなぁ。ちなみに燐音はんも二日酔いで今日の練習はなしになってん」
    「ヴム……」
     頭のすぐ横に何かが置かれたので視線をやるとスポーツドリンクだった。急に猛烈な喉の渇きを覚え、体を起こす。視界がまたも大きく揺れたが、今度はこはくが身体を支えてくれた。
    「よぉけ飲むなぁ。二日酔い、はじめてなん?」
     声もなく数回頷いて、再び飲み口に口をつける。苦笑しながら背中に手を当ててくれていたこはくが、ふっと散らかり放題の床に目をやった。
    「なんやこれ。バニー……は? 逆バニー……なんや、この頭悪そなおべべは」
    「いやあ、酒の過ちというやつで……」
    「えっ、着たん?!」
    「着てません。着てほしいかあ? そんなもの」
     こんな大の男に、と続けるとこはくが意地悪く笑った。
    「んー、そやねぇ。見たいかも」
     目ざとく見つけた手提げのビニール袋をあさり、中から小さな紙箱を振ってこはくが笑みを深くする。
    「気合十分。こんなもんも買うてきてくれたみたいやし?」
     ショッキングピンクの小箱をつまみ上げるこはくを見ていると余計に頭痛が酷くなるようだった。「なんにせよ」と、こはくは何も言い返せずに黙り込む斑の背をさすった。
    「これ。着てもらうにはまず、このどうしようもない状態をなんとかしてからやな。さっき風呂のボタン押してきたから、沸けたらはよ入り」
    「ありがとう……」
    「長風呂はあかんで。あとちゃんと水分補給せぇよ。それからゼリーも買うてきたから風呂出たら食べてみ」
    「ママ……?」
    「産んだ覚えないわド阿呆。……燐音はんがな、ちょっこし無理させすぎたかもしれんっち連絡くれたんよ。あの頑丈なんが弱っとる、珍しいとこ見れるかもしれんから行ってやれ、っち……ま、わしはぬしはんの弱っとるとこなんか見飽きとるけどな」
     ぼんやりとこはくの声を聞いていると、くしゃくしゃとやわらかく頭を撫でまわされた。一応気遣ってくれているらしい。優しい手つきに、思わずその手のひらに頭をすりつけた。
    「けど、まだわしにはできんような遊び、二人でしとったんは……面白くないなぁ。なぁ、斑はん。お酒飲んで、お歌うたって踊って、初めて入るお店行って、楽しかった?」
     恐る恐る見上げると、きれいな顔をしてこはくは微笑んでいた。紫の瞳がすうっと細められる。
    「ちょっこしな。ほんまのほんまにちょっこし悔しいんや……今夜はわしにしか見せへんお顔、ぎょうさん見せてくれるよな。すけべなうさぎさんになって、ぴょんぴょんしてくれはるやろ?」
     まだずきずきと頭は痛み続けている。胸のあたりもむかむかしていて、視界はなんとなくぼんやりとしていて、しかし彼の美しい笑顔はよく見えた。
     ずくん、と腹の奥底が疼く。優しく背中に添えられた手のひらの温度が途端に質を変えた気がした。こんな状態だけれども、目の前でにこにこ笑いながら静かに嫉妬しているこはくを可愛いと思ってしまうのだから、自分も大概である。
    「仕方がないなあ。……言っておくが、衣装のサイズが合わなかったらこの話はなかったことにするぞお」
     そう言うと斑は精一杯余裕そうに笑ってみせて、残りのスポーツドリンクを一気に飲み干した。

     なお、幸か不幸かこの衣装は意外と大きめに作られており、斑が身につけるとぴちぴちになるもののきちんと着用できるサイズであることを最後に記しておくこととする。
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