いざゆかん、おおうなばらのだいぼうけん! 蛇口レバーを捻り、髪を掻き上げて水滴を払う。撮影でたっぷり汗を掻いた今日のような日は特にシャワーが気持ちいい。滴る水をそのままに扉を見る。磨硝子の向こうに見慣れたシルエットが見えて、龍之介はくすりと笑みを零した。
「お待たせ。いいよ、入っておいで」
扉を開けば、予想通りモンつながわくわくした顔でそこにいた。
空の風呂桶を差し出せば、モンつなは慣れた様子でぴょんと飛び乗った。それを認めて龍之介がモンつなが入った風呂桶を持って湯船に身を沈める。ざぷり。龍之介の体積分水嵩が増した。ぷかぷか。ゆらゆら。着水したばかりの風呂桶は不安定に揺れている。ひと匙の不安と、それ以上の期待を込めてモンつながきりりと表情を引き締める。やがて風呂桶が安定すると、「しゅっぱつしんこう!」とばかりに瞳を輝かせたモンつながびしりと短い手を突き上げる。ちゃぷちゃぷと音を立ててゆっくりと風呂桶が進み始めた。モンつなのテンションも鰻登りである。
「モンつな号、出発したね。モンつな、楽しい?」
龍之介が問えば、モンつなは百点満点の笑顔を向けた。つまりそういうことである。ちゃぷちゃぷ進む風呂桶、もといモンつな号の上で興奮気味にふんすふんすしている。
このモンつな号、実は引っ繰り返らないように龍之介がこっそり底面を支えているし何なら動かしてもいるのだが、幸いなことにモンつながそれに気づいている様子はない。モンつなの中では自在に動く魔法の舟とでも思っているのかもしれない。それならそれでいいよね、と龍之介も敢えて野暮はしない。
優しい秘密を乗せてモンつな号は湯船の海を征く。海神の眼差しを受けてどこまでも。