射干玉に雷声、鬱然を薙げ 眠りの淵から強引に引き上げるような閃光が瞼の裏を走った直後、轟音が天の鼓膜を殴った。あまりの凄まじさに思わず天は瞼を押し上げる。寝起きがいい方だとは言えないが、そんな天をして無理やり呼び覚まさせる程の雷だった。
ぼんやりする頭によぎったのはちいさないのちのことだった。こんな酷い雷雨で怯えたり怖がったりしていないだろうか。微睡みの湖からのそりのそりと遠ざかりながら辺りを見渡せば、不自然にカーテンの裾が捲れていることに気づく。目を凝らしてみれば、細い尻尾がぴょろりと覗いていた。わざわざ窓際に行ってまで外を眺めているということは、特に恐怖しているということはなさそうだ。
「モン天、外を見ているの?」
ベッドから降りてモン天の傍にしゃがみ込む。天の存在に気づいたモン天がこくりと頷く。大きな両の瞳が再び外を向いた。何かをするということもなく、ただじっと雷が避雷針に向かって殴りつけてくる様をじっと見つめている。空が割れる音がするや否や、稲玉が怒声を上げる。モン天を見る。いつもきらきらしている瞳は、雨と一瞬の雷を反射させてより燦爛とした色を帯びていた。
「……モン天、そろそろ寝ない?」
思わず呼びかけてしまってから天は内心でしまったと内省した。
いつになく静かに雷雨を眺めるモン天に上手く言葉にはできない不安のようなものを抱いてしまったことも、それを消化しないまま無意識に言葉を出してしまったことも。今までならそういった感情全て自分の中に仕舞い込んでコントロールしてきたというのに。
ふと天の脳裏に楽と龍之介の姿が浮かんだ。今頃はきっとそれぞれの部屋でよく眠っているであろう大切なメンバーたち。小さく笑みを口の端に刻んだ。キミたちの影響、出るの早すぎなんだけど。
いきなり笑い出した天を実に不思議そうな面差しでモン天が小首をかしげる。「ごめん、思い出し笑いみたいなものだから気にしないで」と弁明すると、何を思ったかモン天がニコッと満面の笑みを見せた。天気がいい日のおひさまのような笑顔だった。モン天が勢いよく飛びついてきたのは、天が目を丸くしたのと同時だった。なんだかよくわからないけど天が嬉しそうだからいっか。言葉こそなかったけれど、モン天の雰囲気が如実に物語っていた。