エッグ・クライシスはすぐ傍に 専用容器に卵を入れ、電子レンジで時間設定。音を立てて加熱を始めたそれを確認して、天は冷蔵庫から薄切りベーコンのパックを取り出した。換気扇にスイッチを入れておもむろにフライパンを出したところでぐいぐいと脚に妙な圧力を感じて見下ろせば、モンてんが慌てたように全身で天を押し出そうとしている。
「どうしたの、モンてん」
困惑を綺麗に隠してモンてんを掬い上げて目線を合わせれば、天の手の上でぴょんこぴょんこ跳ねながら電子レンジを指し示した。
「ああ、卵をレンジに入れたら爆発すんじゃないかって?」
切羽詰まった顔でこくこくと頷くモンてんを宥めるように天は努めて優しく「大丈夫だよ」と微笑んだ。
「普通にレンジにかけたら確かにそうなっちゃうけど、ゆで卵メーカー使ってるからね。今までのゆで卵も実はレンジで作ってたんだよ」
天の告白に背後に落雷を背負い、「なんと!!」という顔をしてモンてんが固まった。
モンてんからすれば、一緒に暮らし始めた当初に龍之介が真剣な顔で言っていた「爆発しちゃうから卵とアルミホイルは絶対にレンジに入れちゃ駄目だよ」という忠告を守らなかった天が危ない目に遭うのかもしれないと焦っていたのだろう。
「ボクを守ろうとしてくれたの?」
すっかり落ち着いたらしいモンてんがこくりと頷く。危険性がないことがわかったので大人しいものである。
「ありがとう、モンてん」
ふっと相好を崩せばモンてんもまた嬉しそうに満面の笑みを向けた。