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    suno_kabeuchi

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    suno_kabeuchi

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    i7/まげちょん(間下高良)
    自分の結婚式に何故かTRIGGERがいたはなし。

    ##i7_SS

    一生推します! 現時点の人生で最大ともいえる大舞台。
     間下高良は吐きそうな緊張感と溢れてやまない多幸感を抱いて新郎の席に着いていた。
     視線が集中する。式場スタッフがまめに進行や情報を共有してくれるのを流れ出そうな脳味噌に無理やり詰め込んでは必死にこの後の流れを復習していた。

     今日は、間下高良の結婚式である。

     父の店でバイトしていた彼女の優しさや真面目さに惹かれて必死にアプローチして口説き落として数年。互いに社会人になり、高良が作曲家としてそれなりに安定したからとプロポーズしたのが一年前の話だ。
     まげちょんの名前は、作曲家としての高良が今でも大事に抱いている。その名は学生時代のバンドネームだった。かつてのバンド仲間はそれぞれの道を進んでいったけれど、今でもこうして結婚式と披露宴に呼ぶ程度には親交がある大切な友人たちだ。
     大切といえば。
     作曲家としての道を選ぶ大きな契機になった、高良が恋した宇宙一のアイドルグループはこの場にいない。
     その曲はたくさん今日の披露宴で流しているけれど、当人たちの姿はここにない。
     当然である。
     何故か八乙女楽から個人的な連絡が来たりTRIGGERとのグループチャットが作られたり楽曲提供したりしているが、こんなプライベート極まるところに招待するなんて恐れ多すぎる。
     結婚式に先駆けて籍を入れて高良の妻となった彼女からは声をかけるくらいはしたらどうか、と言われたけれど無理なものは無理である。作曲家として話はするし、その仕事に手抜きはありえない。だが根本はTRIGGERのファンである高良からすれば「結婚するので祝ってください」など厚かましさと不敬のあまり爆発しそうだった。
    「それでは新婦が用意した余興に移らせていただきます!」
     進行役のスタッフが高らかに告げ、もうそんなタイミングかと高良は机の上のサイリウムを手に取った。
     式の段取りを決めている過程で、折角だから高良の作った曲を歌いたい、と彼女が提案してきた。それに驚きながら是非と首肯したのはおよそ半年前の話である。
    「事前に受付でお知らせしました通り、皆様のお手元に三色サイリウムをご用意させていただきました。是非そちらを振って応援ください」
     会場から笑いが起きる。任せろ、と高良の友人たちも彼女の友人たちもサイリウムを振っている。
    「この曲は高良くんが初めて大好きなアイドルグループのために書いた曲です。私も彼も大好きな、日本一……いえ、銀河一最高のアイドルです」
     その顔は誇らしく、嬉しそうで。
     それを見ながら高良は自分が緩やかに破顔するのを自覚した。
     自分が布教したTRIGGER。その魅力が本物だからこそ彼女もまたTRIGGERを好きになってくれた。一緒に恋してくれた。
     プロポーズの言葉が「俺と一緒に一生TRIGGER推してください!!」なのは冷静になると相当にアレだと思う。寧ろ彼女はよくプロポーズだとわかってくれたものだと後々思った。そこも含めて俺の彼女改め奥さん最高だなと噛み締めた。
    「それでは聞いてください。TRIGGERで、『BE AUTENTIC』」
     そうして会場の照明が落ちる。
     曲が流れる。ああ、九条天の吐息は今日も宇宙一ファビュラス──。
    「………え?」
     これ、生音?
     何千何万と聴き込んでいるからわかる。少なくともCD音源ではない。作曲家の端くれとしてそれくらいの聞き分けは出来る。もとい、聴き込んできた回数が違和感を示す。
     彼女は持っていたはずのマイクが何故かサイリウムに変えている。その視線はまっすぐ大扉へ向いている。
     まさか、と高良が視線の先を追った瞬間。

     星が、瞬いた。
     間下高良が恋した、一等星が。

     式場スタッフが開いた扉の向こうから、現れたTRIGGERその人たちに会場から歓声が上がる。
     スポットライトを浴びて。ゴージャスに、ラグジュアリーに笑う彼らに高良の全機能は停止した。

     え? なにこれ? え? え? 何? 俺夢みてる? 白昼夢ってやつ? だって俺の結婚式にTRIGGERが、え? TRIGGER? TRIGGER!? えっなんで!? なんでTRIGGERがここに!? しかもそれブラホワで初めて『BE AUTHENTIC』歌ってくれた時の衣装だよね!? なんで!? えっ、俺の願望露骨に現れすぎて笑えてきた。あっあっあっやば待って今のダメです格好よすぎて俺一万回は死んだ。

     嵐の如き狂喜とキャパオーバー故の賢者モードが交互に高良の精神世界を訪れる。
     しかし高良は有能な限界ファンであるために歌っている最中に大声を出してTRIGGERの歌を阻害するような真似は決してしない。やるとしても間奏や一瞬の合間など歌を邪魔しないタイミングである。

     顔ちっっっっちゃ。なにあれ米粒? この距離で見る生TRIGGERやばすぎない? 理性保てる人、全員修行僧なの? 俺が知らないだけでみんな滝行してきたの? いや股下えっっっっぐ、一人100mくらいない? もはや顔から手足が生えてるまであるでしょあんなの。本当に同じ人類? 人種まで一緒とかなんの冗談? 百億回生まれ変わってもああなれる気がしない。っていやちょっと待ってまさかのフル!?ライブエディションとかじゃなくてフル!? 本当に全部歌って踊ってくれるんですか!? いいんですか!? いやちょっと待ってタイムタイムTRIGGERの横文字は最高ファビュラス罪でアウトですよ!! あー! いけません! 吐息はいけません!! 死人が出ますよ!! というか今まさにここに!! 死人が出ます!! 誰だよこんなやばい曲作ったの! 俺だよ!! 

     高良の精神世界は過去最高に匹敵する盛り上がりを見せ、しかし表面上は興奮に打ち震えるだけに留めている。
     涙腺は今にも決壊しそうだしなんなら汗腺も赤ゲージ。顔から出しうる液体すべて垂れ流しそうになるのをただただ必死に堪えた。
     ああ、一瞬たりとも視線が外せない! こんな最高があって許されていいのだろうか!
     潤んだ瞳が視界をぼやけさせる。勿体ない、と袖で拭いかけて自分の衣装が借り物であることをギリギリ思い出す。
     す、とチーフが差し出される。ありがたく受け取って隣の彼女に視線を向ける。目が合う。にこ、と笑ったその顔がどうしてか愛しくて仕方なかった。
     胸に迫る情動に一瞬時を忘れ、しかし彼女がサイリウムを振り出したから正面を、TRIGGERを見る。
     
     小さな箱のサイリウムの海の中。
     数十人の歓声の波の中。
     きらきら、きらきらと。
     まるで月光に照らされたように光を纏って、星が輝く。

     それはきっと衣装のストーンや刺繍だけではなく、TRIGGERという星の輝き。彼らの矜持の、魂の輝き。
     誰よりも格好よくて、何よりも強くて、どこよりも美しい。間下高良が恋した、至高にして極上の輝ける星。
     ふと。九条天と目が合う。
    ──おめでとう。お幸せにね。
     まるでそう言ってくれたように。心からの祝福を授けるように。優しく天使が微笑む。
     瞬間、間下高良の涙腺も汗腺も何もかもが崩れ去った。
     迫り上げてくる情動のまま、ぶわりと溢れた涙と吹き出す汗をそのままにぼろぼろと滂沱する。
     ああ、この人たちのファンをやっていてよかった。

    △▼

    「それで新郎のお色直し? 前代未聞じゃない?」
    「だっで、だっでえぇぇぇぇぇ」
     新郎の控室。顔を真っ赤にして色々な体液でべちょべちょの高良を天は呆れたような目で見下ろした。それでもその瞳には嬉しさが隠しきれておらず、龍之介は「天は素直じゃないなあ」とにこにこしている。
     龍之介だって天の気持ちは理解できる。こんなに大泣きするほど自分たちの歌を歓迎して喜んでもらって嬉しくない理由がないのだ。それも結婚式という人生の大舞台の場で。
    「ちょっと泣きすぎだよ。衣装借り物なんでしょう? 汚さないようにね」
    「うううう汚じまぜん……!」
    「ほら泣き止めって。折角の男前が台無しになっちまうぞ」
    「それは無理でずぅ……!!」

     結局高良が落ち着いたのは、今はお色直し中の新婦が「こんなことがあろうかと」と事前に準備してくれたバスタオルを三枚ほど駄目にした頃だった。
     スタッフに案内されてステージ衣装からフォーマルなスーツ姿に早着替えしたTRIGGERが再び新郎の控室に戻れば。
    「………たいへんお見苦しいところをお見せして誠に申し訳ありませんでした………」
    「その格好で情けない真似はしないで」
     今にも土下座しそうな高良をステイさせながら天が咳払いする。
    「改めてご結婚おめでとうございます、高良さん」
    「おめでとう高良くん! 素敵な家庭を築いてね」
    「高良、おめでとう。幸せになれよ」
     優しくあたたかに。最高のアイドルかけてくれる祝福の言葉に高良の修復されたばかりの涙腺が再びゆるっゆるになる。じんわりと視界が滲む。喉が熱い。込み上げてくる情動が肺を震わせて胸を突く。
    「……あ……ありがとうございます……っ!!」
     どうしてTRIGGERが来てくれているのかとか何もかもがどうでもよかった。
     ただ高良とて理解できる。彼らは、TRIGGERは。高良のためにわざわざこの結婚式に足を運んでくれたのだ。
    「はは……泣くなってば」
    「主役がこんなにいっぱい泣いてどうするの」
    「そうだよ、高良くん。そんなに泣いたら………俺だって…………」
    「おまえも泣くのかよ。まあわかるけどさ」
    「……うん。正直ボクも泣きそう」
    「ええええ……!?」
     瞳を潤ませて鼻を鳴らす龍之介と、情感を込めて小さく笑む楽、そして何かを堪えるように眉を下げる天を見ながら高良はただただ動揺する。一ファンのためにこんなに心を砕いてくれるとか優しすぎないだろうか。一生推します。高良のケツイがみなぎった。
    「ねえ、どうして招待状送ってくれなかったの?」
    「え? 招待状……って……」
    「おまえの結婚式のだよ。そもそも相手がいるってことも俺ら知らなかったんだぜ」
     天の言葉を引き継いだ楽に高良は目を丸くした。
    「いやいやいや! 無理ですよそんなの!! いくらなんでも厚かましすぎるじゃないですか!!」
     ぶんぶんと手と顔を振って恐縮を示す。
     高良にとってTRIGGERは憧れのアイドルである。確かに『BE AUTHENTIC』以降、個人的な付き合いがないこともないし仲良くしてもらっている自覚はあるが、だからといって友だちと呼ぶにはあまりにも恐れ多い。
     その考えがなかったといえば嘘になる。だが実行するには少しばかり勇気がなかったのだ。
    「友だちの結婚式に呼ばれないのは正直ちょっとショックだったよ」
     鼻が少し赤い龍之介に悲しげに向けられた言葉に高良は本日二度目のフリーズをキメた。
    「………トモ………ダチ………?」
     感情を知ったばかりのアンドロイドよろしくぎこちなさ極まる単語がまろび出た。
    「そうだよ。俺たちはおまえを友だちだと思ってる。俺たちと同じくTRIGGERに本気で恋した仲間だって」
     思考が止まる。理解が追いつかない。ただでさえ常軌を逸した状況だというのに追撃の追い撃ちを掛けられたらたまったものではない。
     間下高良は、TRIGGERがファンを友だちと思うタイプではないのはよく知っているつもりだ。まして彼らはそんなくだらない嘘を吐くような恥ずかしい男たちではない。いつだって自分たちの姿に、言葉に、責任と矜持を抱いてまっすぐに立っている。
     だから。
     高良に向けられた言葉に嘘偽りなどありえない。
    「今日ボクたちがここにいるのは、キミの彼女さん……奥さんのおかげだ」
    「え?」
    「彼女、挙式が決まったその日のうちにメールをくれたんだよ」
    「ええ!?」
    「『お願いします、どうか私たちの結婚式に来てください』ってな」
    「ええええええ!?」
     初耳だし寝耳に水だった。
     確かに来てもらえたら嬉しいとは思っていたけれど、そこまでしてまで呼ぼうとは思っていなかった高良からすれば驚愕の新事実である。
    「俺たちが来るってことを他の招待客にも親族の方々にもしっかり周知してくれたり式場スタッフとも俺たちとも密に計画してくれたんだぜ。事務所にも話を通した上でな」
    「スマホでの撮影NGとか、SNSを始めとして他言無用の誓約書を用意してくれたりね」
    「おかげで混乱もなく素敵な式に参加させてもらってるよ」
    「お、俺の奥さんめちゃくちゃ有能………!!」
    「おまえ気づいてなかったみたいだけど、俺たち結婚式から参列してたんだぜ」
    「えっ!? 式からですか!?」
    「招待状もらったからね。キミからじゃないけど」
    「うっ………」
    「もう、天ってば……」
    「まあ天が拗ねるのも無理ないだろ。俺だって拗ねてる」
    「すねてる」
    「俺も拗ねてる」
    「すねてる」
     真剣な顔で何を告白されているのだろうか。
     宇宙を背負った猫のような面持ちで鸚鵡返しするしか高良にはできなかった。
     ただ顔面偏差値が三桁乗っている美の化身たちが揃ってむすりとしているのが視覚情報として取り込まれている。あざとい。なんてあざといんだこのどイケトリオは。いつぞやか見たあざと可愛いポーズを取るTRIGGERが高良の脳裏によぎった。現実逃避である。
    「お父様と一緒にヴァージンロードを歩いてきた奥さんを迎えた時の高良くん、すごく真剣な顔でドキドキしちゃったなあ」
    「ドキドキ!? エロエロビーストの十龍之介が!? てか本当にちゃんと参列してくれてる……!! う、うわあああなんで俺気づかなかったんだ……!!」
     龍之介の言葉に頭を抱えようとしてぐっと堪えた。わざわざお色直しの時間を取ってまでセットした髪を崩すなど高良にはできない。
    「うう、格好悪くなかったですか俺……? 誓いの言葉の時、声も体もガタガタに震えてたし……」
     思い出して居た堪れない気持ちになる。
     何度も予行演習はしたしシミュレーションだって重ねてきた。その時は完璧だった。緊張は確かにしていたけれど、あんなに震えるなんてことはなかったのだ。
     友人たちは「頑張った! おまえ頑張ったよ!」「ガチな気持ち伝わってきた!」と慰めのような褒めのような言葉をくれたけれど、高良としてはやはりもっとスマートにいきたかったのだ。
    「何言ってんだ。おまえがそれだけの覚悟をもって親御さんの大事な娘さんを預かったってことだろ」
    「え……」
    「楽の言う通りだよ。本気で彼女を幸せにするんだって熱い想いがすごく伝わってきた」
    「うん。あの時のキミは最高に格好良かった。思わず見惚れちゃった」
    「え!? 九条さんが!?」
     声を裏返して天を見れば、「そうだよ」と穏やかに笑んでいる。
    「任せてくださいって、絶対幸せにしてみせますからって。キミの瞳が、全身がそう物語ってた」
    ――心から愛してるんだね、彼女のこと。
     そこに揶揄や嘲弄など欠片もなく。いっそ敬意すら感じるほどの美しい眼差しが高良に注がれる。
    「…………はい」
     思わず照れてしまったけれど、その気持ちに嘘はない。
     彼女と結婚すると決心したその日から。高良は絶対に幸せにするのだと己の魂に誓っているのだ。
     そうだ。誓ったのだ。
     TRIGGERに恋したあの日から、自分に恥じない生き方をするのだと。
     あの高潔で美しく、眩しいまでに輝く星に憧れたあの瞬間から。
     だから、今。間下高良がすべきことは――。
    「あの! い、今さらなんですけど………っ俺たちの結婚式に参加してくれませんか!?」
     自分が知らなかっただけで最初から参列していたようだけれど。どうやら披露宴でも席は用意されているようだけれど。
     それでも今。
     間下高良は言わなければならないのだ。
     プロポーズした時と同じくらい心臓が跳ね回る。
     今すぐ逃げたくてたまらない。やっぱりなしで、と叫んでしまいたい。
     でも。そんな臆病な自分より、仲間だと、友だちだと言ってくれたこの人たちに恥じない自分の方がずっとずっと好きになれる。胸を張ってこの人たちとそのために尽力してくれた愛しい人と立っていたい。
     どこまでもまっすぐなこの人たちに、誰よりも優しい愛しい人のために。そして何より自分のプライドのために。間下高良は目の前の三人から目を逸らさない。突きつけた銃口の引き金は、引いたのだ。
    「ああ、もちろん!」
    「言うのが遅えよ、バカ」
    「ふふ。でも許してあげる」
     放たれた弾丸は歪みなく、澱みなく。TRIGGERの胸を撃ち抜いた。

    △▼

     そうして一足先にTRIGGERの三人は控室を後にする。
     披露宴会場に足を踏み入れればわっと雰囲気が華やいだけれど、それに微笑み一つだけ返してまっすぐ新郎に一番近いテーブルに向かう。
     三つの空席。それぞれのネームプレートに『九条天様』『八乙女楽様』『十龍之介様』と書かれたそれを認め、それぞれ着席する。
     同じテーブルに三人の男が着いている。それぞれ顔が輝いていた。
    「あの! 楽さん! 『BE AUTHENTIC』、最高でした!!」
    「サンキュ。おまえ、すげえサイリウム振ってくれたし俺の名前叫んでくれた奴だよな」
    「アッ認知されてるゥ………やばいどうしよう八乙女楽が俺を認知している………ッ!!」
    「龍之介さん、すっげー格好よかったです! 次のライブも絶対行きます!!」
    「あはは、ありがとう。俺も君に会うのを楽しみにしてるよ」
    「ウーッ、イケメンのスマイルえぐすぎ……!! ときめきすぎて死ぬ……!!」
    「こんなやばいステージを見た俺ら、日本一……いや銀河一幸せです」
    「ありがとうございます。ボクたちもこんなに素敵なステージで歌わせていただけて光栄に思っています」
    「うおっ、美少年………美声すぎてやば………」
     本物の芸能人のオーラに圧倒されながら、しかし過剰ではないその距離感に天は内心で感心した。流石あの高良の友人たちだと微笑む。彼の人の良さに惹かれた気のいい友人たちなのだろう。
    「それで、その……高良の奴とどんな関係なんですか?」
     おずおずと高良の友人の一人が気まずそうに、けれど好奇心を隠せない顔で天たちに声を掛ける。
    「曲提供したとは聞いたことあるんですけど、あいつガチファンだからTRIGGERさんを招待するの意外で」
     気を悪くしたらすみません、と控えめな姿勢を示す高良の友人に、にこ、と。悪戯っぽく、それでいて満たされたように天が笑う。
    「友人です」
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    suno_kabeuchi

    TRAININGtwst夢/イデア・シュラウド
    集中している間に髪と戯れられてるはなし
    待てができるいいこなので ゆらゆらとゆらめくサファイアブルーを見つめること数十分。幸いにしてプログラム生成に集中しているイデア先輩に気取られることもなく、私はじっくりとっくり拝ませてもらっている。
     ほう、と何度目かもわからない感嘆の息が漏れる。昼だろうが夜だろうが、常に薄暗いイデア先輩の部屋ではそのサファイアブルーが陽の下のそれよりも鮮やかに映る。彩度の高いそれは驚くほど瞼に焼き付いては目を伏せてもその名残で閉じた視界に青が散る。
     足首まである長いそれはいざ座ると殆どが背凭れと痩躯の間に隠れてしまうけれど、一筋二筋と零れ落ちるそれもある。カーペットに座っていたけれど、そろりそろりと近づいて音もなくそれに手を伸ばす。燃えているだけあって毛先こそ掴めはしないが、もう少し上の方であれば実体がある。指に絡ませてみれば鮮やかな青に照らされて私の肌が青褪めたように光を受ける。視線だけイデア先輩に向ける。足元にいる私に気づいた様子もなくブツブツと早口で何か捲し立てながらキーボードを叩いている。それに小さく笑みを零して指に絡ませたそれに唇を添える。殆ど何も感じないけれど、ほんのりと温かい気がした。
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