モゴと褪が野原で花愛でる話ふと足元に目をやると間近に花が咲いていた。
晴れ渡る空に向かって焦がれるように花弁を向け、両腕のように葉を懸命に伸ばしている。
ともすれば踏みつけてしまいそうなそれに褪せ人は目を奪われて、その場にかがみ込むと手甲の端で傷付けてしまわないように指先で撫でていた。
「……お前のような男にも花を愛でる趣きがあったとは」
褪せ人より遥かに長身の曲がり角を幾本も生やした男が屈んだ褪せ人の近くで足を止めて、落ち着いて微かに揶揄いを含んだ声を掛けた。
「もう少しで踏んでしまうところだった。気をつけなくちゃな」
尻尾を生やした巨躯の男の言葉に気を悪くした風もなく褪せ人は穏やかな微笑まじりの声を返した。
「その花は多少踏まれたとて枯れんよ」
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