僕が車でひとつ県境を超えて会議をし、それからまた自分の住む街に帰ってきたのは、翌日の午前1時ごろの事だった。
タイヤが静かに地面を滑る音を聞きながら、時折り対向車のライトが車内を撫でるように通り過ぎる。帰宅時間は深夜になるだろうと予想はしていたが、思っていたより疲労していて、ここに辿り着くまでに車内でブラックコーヒーをふたつ空けてしまった。
ようやく、自宅マンション近くの契約している駐車場に車体を納めて、明るい都会の夜空にひとつ伸びをするとスーツがきちきちと鳴る。
目を上げると、走行中フロントガラスの隅にずっと浮かんでいた、柔らかい輪郭の春の半月。ちゃんとここまでついてきていて、今はビルの谷間からちょうどこちらを覗き込むようにおだやかに照らしている。
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