しあげはおにーいさーんカルエゴが眠る準備をしている時の事。歯磨きをしているところにナルニアが帰宅した。うまく出迎えの言葉を発する事の出来ないカルエゴの姿に、歯ブラシを奪うとうがいをさせ、ついておいでとリビングへカルエゴを連れて行く。
暖炉前の絨毯に腰を下ろすと、カルエゴを引き寄せ自らの足に頭を乗せさせる。
「口を開けなさい」
「自分で、出来ますよ?」
「私がしてあげたいんだ」
ナルニアに言われるがままカルエゴは口を開く。小さな口を無防備に開けて、恥ずかしいのか目を閉じているカルエゴにナルニアは歯ブラシを当てていく。
奥を磨こうと歯ブラシを奥へ入れたところで、当たりどころが悪くカルエゴの眉が寄り小さく声が漏れる。普段は出すことの無いような声にナルニアの口角が僅かに上がっている事も。合法的に唇へ触れる事も許されるやり方を乳母が居た頃教わっていた事をカルエゴは知らない。
前歯を磨くからと歯を合わせさせたカルエゴがこっそりと薄目にして見上げたナルニアの表情にすぐに目蓋を下ろす。
どくんと音を立て始めた胸に訳が解らず閉じる目蓋に力が入った。
自分の言うことに素直に従うカルエゴにナルニアの悪戯心が沸き上がる。歯が見やすいように唇に触れ柔らかさを堪能するように歯ブラシを動かしながら押さえる手で唇を挟む。
磨き終えるのが勿体無いと思いつつも長くかかってはカルエゴも不審がるだろうと手を止める。
「磨き終わったぞ」
感謝を告げようとしたが、口の中に溜まった唾液にカルエゴは口を閉じナルニアへ向け礼をする。
困った表情をするカルエゴの腕を引き寄せると、ナルニアはカルエゴの唇を奪う。性急に舌を捩じ込むと、カルエゴの口の端から唾液が溢れる。カルエゴの口の中だと言うのに歯磨き粉の味が邪魔だな。と思いながら逃がさないようカルエゴの腰を抱き口内を舌でなぞる。
離してくれる様子も見せないナルニアにカルエゴはナルニアの服を掴んだ。
唇が離れると、カルエゴは目を潤ませていた。
「カルエゴ?」
「っ……汚れてしまいました……」
「?あぁ。気にすることはない。お前は……汚れなかったな」
泣き出しそうな声すら愛しいとカルエゴの体を確認すると、ナルニアはその体を抱き上げる。
「兄上……?」
「驚かせてしまったか」
「少し……」
魔術で汚れを全て消し、口元が汚れたままのカルエゴを抱いたままラバトリーへと連れて行く。自分で出来ると言うカルエゴの言葉も全て聞かなかった事にしたのか、水を入れたコップをカルエゴの口へ傾ける。うがいをして水を吐き出すまで間近な距離で見つめるナルニアに、カルエゴは顔を洗いたいと願うもナルニアは抱き上げた手を離すことはせずに水の流れを変えた。
魔術の無駄遣いではと思うカルエゴはその思いを口にはせずに顔を洗う。タオルを手にしたナルニアは優しくカルエゴの顔を拭いていく。
「あ、にうえ……」
「どうした?」
「あの……突然どうしたのですか?」
「何がだ?」
カルエゴに言われていることが何なのか解らないと首を傾げたナルニアに何故突然歯を磨いたり抱き上げたままおろしてくれないのかと訊ねるも、その間含めカルエゴの部屋へ戻るまでカルエゴを離す事はしなかった。
「また。私がしてあげよう」
「でも自分で……」
「まだ私に甘えなさい」
唇を親指でなぞり、うっすらと開いた口の中へ指を入れ前歯をなぞった。恥ずかしげで困った表情を浮かべながらカルエゴは小さく頷く。
もっと口の中に触れてみたいと言う欲を抱かれている事も知らずに。
それから続いていたその行為に慣れてしまい、おかしいと気付き直したのは悪魔学校へ入ってから。
やめて欲しいと伝えたところで返ってきた言葉はひとつ。
「私がしたいのにダメなのか?」
しょぼんとして見えたナルニアに拒絶する事が出来なかったのを後悔するのはそれから僅か数ヵ月後の事とはカルエゴも知りはしない。