輝小練習ぎぎぎっと得体の知れない音がした。
これが出世への近道なのか、と半ば項垂れつつ、手を伸ばした先には大きくて柔らかな指が待ち構えていて、それにひゅっと摑まった途端、俺の中のひと際大きな塊がぐにゃりと音を立てて尻の奥へと侵入していく。
これが輝宗様の身体の一部でなければ恐らく肛門の圧迫感に堪えかねて逃げ出していたのだろうが、これも立派な御務めと思えば歯を食いしばってでも耐えるしかない、寧ろこの程度の仕事一つで小姓に格上げされるのなら運が良かったと言うべきなのではないか。
「ふう…。」
「痛むか、小十郎。」
「いえ、気持ちが、良いです。」
腹の奥から絞り出した言葉のどこにも気持ちいいという感情はなかったが、女の情感溢れる姿を真似して咄嗟にそれらしい嘘をついてみた、夜伽に必要なのは殿方を退屈させない演技だという教えは一度も夜伽の経験がない姉喜多からの助言だ。
「嘘をついているな。」
だからだろうか、咄嗟に思いついた嘘を一瞬で見抜かれたと思いきや腹の中の異物が徐々に外へと戻っていく、これはまずいと踵を返した途端、硬くて熱い異物の代わりにぬるくて粘々したものが塗りつけられた、夜伽に必須とされる丁油である。
「っ。」
「いいか小十郎、尻が痛むときは遠慮なく申せ、下手な嘘はつくなよ。」
「はい、っ。」
するりと抜け出た指の代わりに再び異物がぐにゃっと押し込まれ、先ほどの圧迫感が嘘のように美しい光沢を帯びたまま肛門の最も深いとされる部分へ押し込まれた、その瞬間視界の奥にバチバチと火花が散った感覚が走ったのだ。
「ふぁっ!」
「どうだ、まだ痛むか。」
「い、いえ、いたみは、ありませっ。」
経験のない感覚に頭がおいつかなくて、これが気持ちいいものなのか、はたまた痛いものなのかの判別がつかなかったが、先ほどのようなヒリヒリする感覚とは打って変わって尻の奥が一物に馴染んでいるという自覚だけはある、これが一般的にいわれる性交というものなのだろうか。
「そうか、具合はどうだ、よく濡れているようだが。」
「わかりませっ、もうし、わけ――あ、あっ!」
改めて顔を上げると輝宗様の腰の動きは優しくて滑らかなのに、どういう訳か一物が最奥へ到達するたびに激しい痙攣が起こって言葉を紡ぐことすら困難になってしまう、おまけに股の間の陰茎も少しづつ勃ち上がっているように見えて、自分が尻の奥を弄られて感じていることを知らしめられたのだ。
「なかなか良い筋をしているぞ、小十郎。」
「あ、ありがたき、――は、はあっ!」
尻の奥を揉み扱かれる度に言いようのない疼きが駆け巡って、無意識のうちに股間の奥へ奥へと煮えた熱が集中していく、これが昇天を意味することは頭では分かってはいても、実際に射精するとなると昂奮よりも恐怖の方が大きかった筈だ、一体俺はこれからどうなってしまうのだろう、と。
「て、てるむね、さま、からだが、へん、なのです…ここが熱くてっ、しびれて。」
「それは誰しも必ず経験することだ、恐れることはない、安心して儂の腕に掴まっていればいい。」
「は、はいっ――。」
そう呟いて優しく微笑んだ輝宗様のお顔を暫くの間忘れることが出来なかった。
背中が大きく仰け反って視界がぐるりと一回転した瞬間、俺の鈴口からは粘り気を帯びた液体がびゅ、びゅっと吐き出され、全身の力が抜けたようにぐったりと身を預けることになるのである。