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    kusare_meganeki

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    kusare_meganeki

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    バルーンアート作るンポとそれを見てるナタのナタンポです。

    ナタンポオレグに呼ばれていたナターシャは、少し診療所を空けていた。今後の物資の対策と、リベットタウンについての所管を互いに交換し、少しの世間話の後、診療所へと戻る。昼間は鉱夫等で働く親が預けている子供が多く居る診療所で、後暗い話を聞かせたくは無いナターシャのワガママだった。
    診療所を空ける際は、ゼーレに留守番を頼んでいる。ボルダータウンも騒がしくないし、何も無かったのだろうと安堵を抱えて、扉を開けた。
    「おかえりナタお姉ちゃん!」
    「……それは?」
    出迎える子供たちの手に握られる犬の形を模した風船に、ナターシャは目を丸くする。ゼーレを探せば、彼女よりも先に目立つ赤いジャケットと紺色に襟元が白い髪が目に入った。その手に空気ポンプと、膨らませる前の風船が握られている。
    サンポはナターシャの帰宅に気がつくと、いつもの軽薄な笑みを浮かべて、おかえりなさいと言った。
    「お邪魔してます」
    「お邪魔するのはいいけど……これは何?」
    「バルーンアートですが?」
    「いえ、そうではなくて」
    そんなことは見れば分かる。ナターシャが気にしているのは、その風船の出処だ。下層部にこのような娯楽があるわけもない。必然的に、上層からサンポが持ってきたと分かる。
    「……ああ、なるほど。別に後ろめたいものではありませんよ。もう引退なさるという大道芸人のお爺様から譲ってもらったんです」
    「……」
    それが事実かはナターシャに判別出来ないが、すくなくとも巷にあるような、ありふれた話だと思った。
    何故、サンポがそのような老人と出会い、風船を譲ってもらうに至ったか。それをツラツラを話す彼を横目に、壁際に立つゼーレを見る。彼女もその手に花のバルーンアートを持っていた。目が合えば、小さく首を横に振って少女を視線で示す。どうやら、その子から貰ったらしい。
    「ま、語ったところで別にどうという訳でもありませんが。子供たちも大はしゃぎなので良いのでは?」
    ナターシャが聞いてないことに気がついているサンポは、適当に話を切り上げて空気ポンプに風船を差し込んだ。慣れた手つきで空気を送る。瞬く間に、細長く伸びた風船の根元を縛り、子供たちに何作りましょっか?と聞いていた。
    猫がいい!犬!剣作って!​───そんな子供たちの声を聞きながら、ナターシャはゼーレに近づく。
    「……前、あいつらが風船欲しいって言ってたの覚えてる?」
    「そういえば、何かの絵本で読んだのよね。確か」
    「その本もあいつが持ってきたもんだけど。……その約束らしいわ、あの風船」
    「口約束でも果たす。まぁ、彼らしいわね」
    ナターシャは呟いた。約束を破ることは、商人以前に人間としての信頼を損なうから、出来ない約束はしない───いつだったか、サンポはナターシャにそう語っていた。それは、子供であっても同じことらしい。
    そうとはいえ、サンポは子供には滅法甘い。そのようにも思う。
    「子供に罪はない、か」
    「ナターシャ?」
    「なんでもないわ」
    ふぅん?とゼーレはそれ以上追求せず、手に持つバルーンアートをナターシャに渡す。
    「それじゃ、私は帰るから」
    「ええ、ありがとうゼーレ」
    「また何かあったら呼んで。すぐ行くわ」
    そう言って、ゼーレは診療所を後にする。子供たちが口々に彼女の名前を呼んで、手を振るのに小さく手を振り返して、その背中は扉の奥に消えた。
    花にしては大きいそれを見て、ナターシャは息を吐く。ここにいる子達は、花すらちゃんと見た事は無いんだと。太陽も届かず、空気も澱んでいるこの下層部では、花を始めとした植物は育てられない。思えば、風船も見たことない子供がいるのでは無いのか。
    その事を考えると、ナターシャの胸中に複雑な感情が芽生えた。
    「ナターシャ」
    サンポが声をかける。顔をあげれば、エメラルドグリーンの瞳が真っ直ぐにナターシャを見ていた。
    「何かリクエストは?」
    「私の?」
    「貴女の」
    聞かれ、考える。バルーンアートに指を擦り当てれば、きゅ、と音が鳴る。
    やがて、ナターシャはサンポを指さした。
    「……ん?僕ですか?」
    「ええ」
    「えへへ〜……ほんとにいります?」
    「診療所の前に飾ろうかなと」
    「魔除けですよねそれ!?」
    別にいいですけどぉ〜とサンポは言って、風船に空気を入れ始める。
    「手持ちの色じゃ精巧には作れませんので、大体の形で……マジックありますか?」
    「あるよ!」
    「あはは、ありがとうございます」
    一人の子が元気よくマジックを差し出すと、サンポは優しく笑ってその頭を撫でた。
    (子供が好きなのか、それともこの境遇に同情して優しいのか……)
    どちらにしても、サンポにとって子供は庇護すべき対象であり、金銭や価値観を度外視する貴重な存在なのはナターシャにも理解出来た。
    「すごーい!!」
    子供たちの歓声に、サンポは笑っている。その手元にある、バルーンアートサンポは、確かにだいたいの形であるが彼だと分かるものだった。
    「ナターシャ、診療所の外のどこにこれを?」
    「あら、本当に飾るの?冗談だったんだけれど」
    「作ってしまったんですから飾ってくださいよ。……ちょっと待っててくださいね」
    子供たちにそう言って、サンポはナターシャを診療所の外に連れ出した。
    「それで、今回の納品の話なんですが」
    扉を閉めて、サンポは話を切り出した。診療所の外に連れ出した理由を理解して、ナターシャは彼の言葉を聞く。
    「食料について、少し多めに確保してあります。確か、今月誕生日の子が多かったはずですから」
    「助かるわ。薬品についてはどう?」
    「消毒液が少し足りないですね。これについては後ほど追加で仕入れます」
    「分かった」
    物資の乏しい下層部、特に子供や患者を抱える診療所は常にギリギリでやりくりしている。それを一手に担って解決してるのがサンポだった。唯一、炉心という上下を繋ぐ螺旋階段を使わずに行き来できる手段を持つ彼に、診療所の生命線を任せることは地炎からも疑問の声が上がってはいるが、こうして毎度律儀に納品し、足りないものは掻き集めているサンポの姿勢は評価されるべきものだと、ナターシャは思っている。
    「いつもありがとう、サンポ」
    「こうして貢献することで、地炎の信頼を得られるのならば、このサンポは労力を厭いませんよ」
    その言葉は、真にナターシャが地炎のボスであると知っていての発言だった。
    バルーンアートを適当な場所に飾り、サンポは診療所の扉に手をかける。
    「こんなものでも、少しは退屈が紛れるといいんですけどね」
    サンポがぽつりと呟いた言葉を、ナターシャは聞き逃さない。しかしそれが、自身に向けられたものではなく、ただの独り言だと理解して言葉を返さなかった。
    後ろから、フックたちの元気な声が聞こえてくる。
    「さ、1番の元気っ子が来たわよ」
    「ははは、腕がなりますね。ホールマスターは力作になりそうです」
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