Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    kusare_meganeki

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💴
    POIPOI 42

    kusare_meganeki

    ☆quiet follow

    ナタとの約束を守るンポの話

    #ナタンポ

    ナタンポ───約束、と言っても君が守るかは知らないけど。約束しましょう、サンポ。怪我をしたり、病気になったら必ずここに来ること。借りは全部ツケにしてあげるから、いいわね?

    ナターシャの言葉を、なぜ今思い出したのかサンポにもよく分からない。ただ、ぼうっとする頭でフラフラと歩いた先にあったのは診療所だった。
    深夜だ、喧騒に塗れたボルダータウンも今は眠りについている。それは診療所も例外ではなく、扉には鍵が掛かっていた。ズルズルと、壁にもたれこんで座る。確か、彼女と初めて出会った時も同じような状態だった。死にかけていたサンポは下層部に逃げ込み、診療所の前で行き倒れていた。今思えば、なかなかに刺激的な出会い方だったろう。
    息を吐けば、喉奥が強く痛んだ。上層と違い、蒸し暑いはずのここにいて、寒い。座っているのが段々と辛くなり、サンポは汚れた地面に身体を横たえた。
    ───眠ろう、少しだけ。起きたら、とりあえず自分の隠れ家に戻って、それから。
    段々と思考が鈍くなる。投げ出した手が、ぼやけ始めて、ゆっくりとその意識を手放す。
    ナターシャとの約束だったから、きっとここに来たんだろう。



    死んでいるんじゃないかと、一瞬肝が冷えた。それが生きていると分かったのは、彼が呻きながら呼吸をしているからだ。
    朝早くとはいえ、人通りがある診療所の前でサンポが倒れていても誰も気に止めて居ない。
    「酷い熱……」
    脈を測り、額に手を添えてナターシャは言葉を漏らす。この高熱の中、彼はずっとここで倒れていたのか。
    『このボルダータウンで、サンポは半分以上の人間に恨まれてんのよ。あんまり肩入れしたら、大変なのはナタじゃない』
    いつか、ゼーレに言われたことを思い出す。彼女の言葉は決してサンポを嫌っている訳ではなく、ナターシャを心配して、そして事実を述べているに過ぎなかった。
    確かに、サンポは好き勝手やるきらいがある。その時の最大の利益の為に、他人の信頼と期待を利用して裏切ることもある。多くの人間がそれに出会い、そうして彼を嫌うのだ。
    事実、それはサンポが悪い。だが、目の前で弱っている命が居て、それを見て見ぬふりをするほど、下層部は冷え切っている。
    それが、ナターシャには受け入れ難い。
    「ちょっといいかしら。彼を診療所内に運び込むのを、手伝って欲しいのだけど」
    道行く男性に声をかければ、彼は嫌そうな態度を隠すことなく顔に出す。
    「そいつのこと知らんわけじゃないだろう、ナターシャ」
    「知ってるわ。その上で、私が彼に仕事を振っているを君も知っているはずよ」
    声をかけた相手は地炎のメンバーだった。腕に巻いた赤いスカーフは、少し薄汚れている。
    「だが……」
    「運ぶだけでいいの。あとは私が処置するから」
    そう言って、サンポの片腕を掴む。男が渋々と言った様子でもう片方の腕を掴み、2人で肩を貸しあってサンポを運び出す。
    「……なぁ、ナタ先生。俺ァこんなこと言いたくないけどよ」
    「何かしら」
    サンポをベッドに寝かせ、再度脈を測るナターシャに、男は言う。
    「あんた、こいつに肩入れし過ぎじゃないか?知ってんだろ、上でやらかしまくって指名手配されたから、シルバーメインの入り込めない下層部に逃げて来たって」
    「それがどうかした?」
    「なんつーか……いいように使われてる気がして。ナタ先生、あんたまさか、その男に」
    「勝手な事を言わないで」
    強い語気で、男の言葉を遮った。
    「私は医者よ。サンポがどういう人間であるかなんて今はいいの。それ以前に救える命を救わない。その選択を私は選ばない。それだけ」
    それにね、と睨むように男に視線を向けながら、言葉を続ける。
    「彼の扱いは心得てる。君が言おうとしていたことは全てないわ。憶測だけで勝手な事を言わないでちょうだい。それは、私への侮辱よ」
    「……すまん」
    男の謝罪に、ナターシャは息を僅かに吐いて自分の中の熱を収めようと務める。少し、感情的になりすぎたのかもしれない。
    「私の方こそ、ごめんなさい。運ぶのを手伝ってくれて、身を案じてくれてありがとう」

    診療所を後にする男の背を見ながら、彼の心配は最もだとも考える。
    診療所や地炎の為、裂界に赴いて物資を集める行為は命懸けだ。それを二つ返事で受け入れるサンポは、正直重宝している。上と下、炉心を利用せずに行き来できるそのスキルもまた、彼だけのものだ。
    その一方で、異常とも言える金への執着はいつか自分たちを売るのではないかと、地炎の中で声が上がるのも理解出来る。
    それでも、ナターシャはサンポへの微かな信頼を捨てられずにいる。あの夜に、仮面を外した彼を知っているのは、ナターシャだけだ。
    (顔色が酷い……とにかく、点滴を入れなきゃ)
    汗を吹き、服をはだけさせて熱を逃がし寝やすいように。夜中ずっと診療所の前で倒れていたのなら、衰弱しきっているのは目に見えている。とにかく、身体に栄養を入れるのが先だと点滴の袋を取ろうと動いた時、ナターシャの腕を、弱々しく何かが掴んだ。
    「サンポ……!良かった、目を覚ましたのね……」
    「……いきてる……?」
    「ええ、君は生きているわ。待ってて、点滴を入れるから」
    そう言っても、サンポはナターシャの腕を離そうとはしなかった。
    「約束、したの、おぼえてます?」
    いつか、何気なくナターシャがサンポに向けた言葉。
    ───約束、と言っても君が守るかは知らないけど。約束しましょう、サンポ。怪我をしたり、病気になったら必ずここに来ること。借りは全部ツケにしてあげるから、いいわね?
    「……勿論、覚えているわ。君も、覚えていてくれたのね」
    「もし、僕がいて迷惑なら、出て行くので」
    「そんなわけない。約束を守ってくれてありがとう、サンポ。大丈夫、必ず良くしてみせるからね」
    そう言うと、安心したようにサンポは再び目を閉じた。腕を握る手から完全に力が抜ける。
    風のような、自由な彼が約束を覚えて、頼ってくれたその事実。ナターシャは心の中で噛み締めながら、サンポの頭を優しく撫でる。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭💘🙏🌋🌋🌋🌋👏😭😭😭👏👏👏💘💘💘💯💯
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works