呼吸が喉を焼くようだ。
久しぶりの酸素を必死で取り込んだせいで変な風にむせてしまう。
チカチカする視界。
背中に添えられる大きな手が温かい。
「大丈夫?」
頭の上からかけられる言葉に嫌味は無い。だから余計に、窒息寸前のキスに怒れないのだ。
「落ち着いた?」
「ぁ……ああ。もう平気」
「そっか、よかった」
心から安堵したようにふわりと笑う美人に呆れを通り越して関心すら覚えた。
彼は、私を愛している。
こんな腕で、あんな過去を持つ私を。
戦場で旗を掲げ、数多の憎悪を受ける私を。
物好きだ。酷い変わり者だ。
そして、仕方ないほど愛しい男だ。
「グレッグ、髪解けそう」
「え? ああ、結び直さないと」
「ねえ、よかったら私にやらせて。こう見えても髪結ぶの得意なんだよ」
ニコニコ笑ってそんなことを言うロージャに半信半疑。しかしそんなに自信があるならと、髪紐を渡して彼の膝に浅く座る。
「痛かったら言ってね」
取り出した櫛で撫でるように髪を梳いていくロージャ。
するすると、丁寧に。
決して乱暴に扱わない。
他人に髪を触らせるなんて滅多に無かったが、これは気持ちがいい。
「グレッグの髪、柔らかくて可愛い」
「そう?」
「うん。ミルクチョコみたい」
小さなリップ音は髪に口づけた証拠。
少し気恥ずかしくてむずがゆくて、返事もそこそこに受け流してしまった。
恋愛、どころか、戦場から離れて以降人付き合いも避けていたせいで、こういう時の正しい仕草が分からない。
「はい、できた」
「ありがとう。へぇ、ちゃんと結んでる」
「でしょ?」
結ばれた髪に軽く触れ、得意というのが嘘ではないことを確かめる。
「次は三つ編みにしてあげる。ポニーテールもいいね」
「いいよ。似合うか怪しいし」
「グレッグ可愛いから何でも似合うよ」
世辞か本音か。
軽々と抱きあげられてベッドに押し倒され、こんな時にわざわざ確かめる必要はなさそうだ。
「……髪、結んだばっかりだけど」
「いいよ。何度でも結び直してあげる」
欲の滲んだ笑顔。
また、呼吸を奪うようなキスを受け止める。
するりと解かれた髪に、ポニーテールくらいならいいかもしれないと、呑気なことを思った。