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    紫蘭(シラン)

    @shiran_wx48

    短編の格納スペースです。

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    紫蘭(シラン)

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    グルアオです。
    gr→(←)ao。
    モブの女の子が割と出てきますので、ご注意下さい。
    ※モブ子に悪気は全くないです。

    取らないで!/グルアオ「ねえねえ、あなたがチャンピオンランクのアオイさん?」

    授業が終わって廊下を歩いていると、金色の長い髪に薄らメイクをした、ふわふわ可愛い女の子に呼び止められた。
    同学年では見たことない人だけど、私に何か用かな?

    「はい、そうですけど…」

    不思議に思いながらも返事をしたら、彼女は可憐な笑みを浮かべる。
    それを見ただけで私の胸がどきりと高鳴った。
    すごい。この子のとくせいはメロメロボディなのかなって一瞬よぎったけれど、すぐにあれは異性限定での効果だったことを思い出す。

    「あのね、あなたとお話したいことがあるんだけど、今からいいかな?」

    こてんと首を傾げるその仕草はとても可愛らしいのに、NOとは言い難い妙な迫力がある。
    え、私何かこの人にしちゃったのかな?

    恐る恐る大丈夫ですと答えたら、こっちに来てと手を引かれてとある空き教室まで連れていかれる。
    何が目的なのかがわからなくて、さっき感じたものとは別のドキドキが私を襲う。
    彼女が広いスペースまで行き、立ち止まると私の方へと振り向いた。

    「アオイさんって、よくナッペ山に行くって聞いたのだけど、それって本当?」
    「は、はい」
    「…ナッペ山ジムのグルーシャさんとは仲いいの?」
    「仲がいいというか、よくバトルの相手をしてもらってます」
    「週に何回くらい行ってるの?」
    「大体一回です。グルーシャさんの邪魔にはなりたくないので」
    「ふぅん…」
    「あ、あの…用件は?」

    矢継ぎ早に質問を投げかけられても見えてこない目的に、私の方から聞いてみた。
    グルーシャさんのことで、何かあるのかな?

    「ああ、ごめんね 急に。ただちょっと…あなたにお願いしたいことがあるの」

    そう申し訳なさそうにしながら差し出したのは、ラッピングされた小箱。
    目の前の彼女は、顔をほんのり赤らめながら話を続ける。

    「いきなりで悪いのだけど、これを…グルーシャさんに届けてくれないかな」
    「…プレゼント、ですか?」
    「うん。前にね、あの人に助けてもらったことがあって、それの…お礼。
    自分で渡した方がいいとは思うんだけど、私のポケモン達はまだレベルも低いから行けなくて。

    アオイさんは強いし、よくグルーシャさんと会ってるって聞いたから、代わりに届けてくれたら嬉しいな…だなんて。
    …ごめんね、こんな面倒なお願いしちゃって」

    フラエッテも恥じらう乙女ってこんな感じなのかな。
    唐突に前に読んだお話のフレーズが思い出されるほど、彼女は可憐で美しかった。
    自然と、ああ この人のお願いならなんでも叶えてあげたいなって思えるくらいの影響力があって、気がついたら首を縦に振っていた。

    するとふわりと彼女は微笑む。

    ありがとうと言う言葉と一緒に可愛く梱包された小箱を受け取ると、大事に抱える。
    念のため中身を聞いたら、ムクロジで購入した焼き菓子セットと手紙が入っているとのことだった。
    ちょうど明後日グルーシャさんのところに行く予定だったから、その時に渡そう。

    話は以上とのことだったから、彼女とはその場で別れた。


    そしてグルーシャさんとの約束の日、彼女から託されたプレゼントを紙袋に入れると ぐちゃぐちゃにならないよう気をつけながら鞄の中にしまうとナッペ山ジムへ向かった。



    「また強くなったね。
    アオイとだと弱点タイプの対策を試せるから助かるよ」
    「本当ですか?お役に立ててるなら良かったです!
    私もグルーシャさんの戦い方、参考になります」

    グルーシャさんとのバトルを終えて、外のベンチに座りながらそれぞれの感想を言い合っていると、ジムの方から顔見知りのスタッフの人が走ってくるのが見えた。
    グルーシャさんもそれに気づいてベンチから立ち上がると、少し離れた場所でその人と会話をしたかと思えば、申し訳なさそうな顔で帰ってくる。
    どうやら挑戦者が来たとのことで、今日はもうお開きらしい。
    一瞬彼女から託された贈り物が頭をよぎったけれど、仕事優先だろうから、スタッフさん経由で渡してもらおう。
    事前に直接渡せないかもしれないと話はしているし。

    「いえ、お仕事頑張ってください」
    「…ありがとう。良かったら見てく?」

    ありがたいお誘いに はい!と答えかけたけど、夕方にピーニャくんから勉強を教えてもらう予定があり、観戦してしまうと間に合わない可能性があったから泣く泣く断ることにした。
    ああ、見たかったなー…と思いながらそう伝えると、一瞬グルーシャさんの形のいい眉が中央に寄せられたような気がする。
    どうしたのか尋ねようとしたけれど、スタッフの人からの催促を受けて彼は軽く別れの挨拶をすると、一人建物の中へと入っていった。
    さっきまで私と戦ってたから、ポケモン達を回復しにいったんだろうな。
    手を振りながら見送っていると、スタッフの人が歩いてくる。

    「アオイさん、お話されていたところすみません…」
    「いいえ!こちらこそ長居しちゃってごめんなさい。
    あ…すみませんが、後でこれをグルーシャさんに渡してくれませんか?」

    鞄から紙袋を取り出すと、彼はにこやかな笑顔で了承してくれたからそのまま手渡した。
    よし、これで頼まれていたこと果たせたし、明日伝えよう。

    「お邪魔しましたー」

    そう言って頭を下げると、ジムスタッフに見送られながら帰宅した。


    *****


    「あの、挑戦者が来ちゃったのでスタッフさんにお願いしました。
    直接渡せなくてごめんなさい」
    「ううん、こんなお願い聞いてくれて本当にありがとう」

    次の日、彼女と会った私は校庭のベンチに座りながらジムスタッフ経由で届けたことを伝えてると、またふわりとした笑顔でお礼を言われた。

    「あ、わたしもね頑張ってレベルを上げている最中なんだ。
    この子達と強くなってこおりのいしを手に入れたら、グルーシャさんに会いに行こうって」
    「もしかして、グルーシャさんに助けられた理由って…」

    「うん。このイーブイをグレイシアに進化させたくて山に登ったんだけど、私達のレベルが低過ぎてね。
    強い野生のポケモン達に囲まれて動けなくなっていたところを、グルーシャさんが助けてくれたの。
    あんなに手強かったポケモン達をあっという間に倒してて…かっこよかったんだ」

    その後彼女をブリッジタウンまで送り、アカデミー行きのそらとぶタクシーを呼ぶと彼はナッペ山ジムへと帰っていったそうだ。
    道中 そんなレベルで登山するとか舐め過ぎだと怒られたそうだけど、その言葉尻から心配と優しさが伝わって来たみたいで、それを聞いて私はグルーシャさんらしいなと思った。
    あの人、口を開いたらちくちく文句ばっかりだけど、誰よりも優しくて責任感がある人だから。

    その様子を想像しながら心の中で笑っていると、隣に座る彼女の頬が薔薇色に染めながらもじもじと忙しなく手を動かしていることに気づく。

    「…どうかしたんですか?」

    そう声をかけると潤んだ瞳を向けられ、女の子同士なのにどきりと胸が震えた。

    「グルーシャさんて、彼女…いるのかな?
    どんな子が好きなんだろ」

    この反応を見て、私はようやく彼女がグルーシャさんに思いを寄せていることに気がついた。
    そっか…。だからグルーシャさんのことを話していると顔が赤くなったりしてたんだ。

    私は初恋もまだだから、恋をしたらこんなにも可愛くなるんだなーと呑気に思いつつ、脳内で二人を並べてみた。

    クールでカッコいいグルーシャさんと、甘い香りが漂う 笑顔が可憐な彼女。
    まさに美男美女。
    お似合いだな…と思った瞬間、どこかで軋む音がした。

    あれ、なんだろ。

    胸に手を当ててみても、さっきのはもう聞こえなくて…。

    「…それとなく探るのって、できたりしない?」
    「あ、はい」

    考え込んでいる間 彼女の話を全く聞いていなくて、何をお願いされたのかわからないまま返事をしてしまう。
    はっと顔をあげれば、彼女はまたあの笑顔を浮かべながら私の手を両手でしっかり握りしめていた。

    「アオイさん、ありがとう!」

    …もしかして私は、とんでもないことに首を突っ込んでしまったかのかもしれない。
    嬉しそうな彼女とは対照的に、私は顔を引き攣らせながらなんとか作り笑いを浮かべるのが精一杯だった。


    *****


    「グルーシャさんて、今付き合ってる人はいるんですか?」
    「…何急に」
    「ただの雑談です。私、あんまりグルーシャさんのこと知らないなって」
    「だとしてもいきなりプライベート過ぎない?」

    次の週、ポケモンバトルをしにナッペ山ジムに来て早々 問いかける。
    でも私の質問に対して むむっと顔を顰めたグルーシャさんを見て、聞き方を間違ってしまったのだと理解した。
    あまりにも下手くそで、唐突だったと思うけど仕方ない。
    …だって誰かと恋バナとかしたことなんてないから さりげなく聞く方法なんて知らないし、こうやってストレートにぶつけるしかない。

    ここからどうやって軌道修正しようか悩んでいると…――

    「今はいないよ。…いや、引退してからずっといない」
    「そうなんですね。
    では、好きなタイプってなんですか?
    あ、ポケモンの話じゃないですよ!」

    思いがけず回答をもらえたから、このチャンスを逃すまいとたたみかける。
    念のためポケモンの話題ではないことを伝えたら、アオイじゃないんだからわかってるよと呆れられた。

    そして少しの間黙ったかと思えば、ぼそりと呟く。

    「…笑顔が可愛い子」

    耳まで赤くなっているところをぽかんと見ていると、彼は恥ずかしそうにマフラーで顔を隠し始めたからいろいろ衝撃を受けた。
    …グルーシャさんも、こんな顔するんだ。

    驚いたと同時に 笑顔が可愛い子というワードに、グルーシャさんに恋をする彼女の顔が脳内で思い起こされる。
    ふわふわとわたあめみたいに甘くて、誰もが魅了されるあの可愛い笑顔を浮かべる彼女を。

    「やだ…」

    迫り上がって出てきたものは拒絶の言葉。
    絶対に、彼女とグルーシャさんを会わせたくないという 底知れない真っ黒な感情に激しく動揺する。
    だって、彼女はグルーシャさんとまた会うためにも強くなろうとキハダ先生の授業だって受けてるし、レベルアップのため苦手なバトルにだって積極的に取り組んでる。

    そんな精一杯できる限りの努力している彼女に対して、どうして私は…――

    「アオイ…?顔色悪いけど、体調悪い?」

    心配そうな声色に導かれて目の前にいる彼を見ると、アイスブルーの瞳と視線が合って、その中には硬直する私が映っていた。
    …私はなんでこんなにも酷い顔をしているんだろう。

    キラキラ輝く彼女の恋を、応援しないといけないのに…。

    体の中が痛くて苦しい。
    ここから早く逃げ出したい。

    「…ごめんなさい。今日は帰ります」
    「は え、何かあった?そんな状態で下山するより、もう少し落ち着いてから…」

    何かを提案しようとしてくれていたけれど、最後まで聞かずに首を振って断った。
    来週また来ることを伝えるとミライドンをボールから出して背中に乗り込む。
    そして戸惑っているグルーシャさんに、忙しい中会ってくれたのにすぐ帰ることへの謝罪を伝えるとバトルコートからグライドモードで飛び降りた。

    ぐるぐると回る負の感情に耐えきれなくて一刻も早く立ち去るためにも、普段はしない方法でテーブルシティに向かう。

    …来週会う時には、この変な気持ちがおさまっていたらいいな。

    ミライドンと一緒に風を感じながら空を移動するのは、いつだって楽しくて気持ちいいはずなのに、今日はどうしてもそんな風には思えなかった。


    寮に帰ってからも全然食欲が湧かず、友達に心配されながら日中を過ごすことになった。

    この日以来、彼女に会うことも ナッペ山に行くこともしていない。
    ほんの少しでも二人のことを思うと、心の中にハルクジラが住み着いちゃったのかなってくらい重くて冷たくて、苦しかったから。
    だから授業以外はなるべく他の地域に行ってトレーナーとポケモンバトルしたり、図鑑のデータを登録するための捕獲に勤しんだ。
    唯一彼女と重なっていたバトル学の授業も、なるべく彼女の視界に入らないように後ろの方で聞いていたし、終わったらすぐにグラウンドから走り去っていた。

    何度か声をかけようとしてくる彼女を視界の端で認識していたけれど、とてもじゃないけど今は話す気にもなれなくて。

    グルーシャさんの好きなタイプは、笑顔の可愛い子。
    そんな彼の好みに合致する彼女を見ると、激しい怒りにも似たどす黒い嵐が私の感情を掻き乱すから、それを表に出さないよう必死だった。

    彼女は何にも悪くないのに、それなのにこんなよくわからない気持ちを持つ自分が許せなくて…みっともなく ただただ逃げ回っていた。



    *****


    アオイの様子がおかしい。

    あの日ぼくに彼女はいるかどうかを急に聞いてきてから、全く会えていない。
    パトロール中に来ていたり、挑戦者の相手をしていたりと 単純に会うタイミングが合ってないだけかと思ってスタッフに聞いてみたけれど、この一ヶ月間 アオイは来ていないし姿も見ていないとのことだった。

    それを聞いて 最後に会った時アオイの顔色が非常に悪かったから体調を崩したのかと思っていたけれど、いくらなんでも長すぎる。

    まさかあの一言でぼくの気持ちがバレたのか?
    …いや、あのアオイがそんなに鋭いわけないか。
    鈍感だからこそ、こっちは必死でアピールしているのに…。
    でも ぼくが 笑顔が可愛い子が好きだと言ってから態度がおかしくなっていたし、やっぱり気づかれて避けられてる?

    何があったのか聞きたくても連絡先は知らないし、あの子が会いに来てくれないと状況が全くわからないのか歯痒い。

    どう動こうか考えている間、モンスターボールからチルタリスが出てきて擦り寄るように体を近づけてきた。
    もこもこの羽根に覆われながら青い頭を優しく撫でていると、ふと目に入ったカレンダーを見て思いつく。

    …そうか。アオイが来ないんなら、ぼくが会いに行けばいい。




    「今日も元気にバトル学! 押忍! やっていくぞ!
    今回の授業では、特別講師としてナッペ山ジムリーダーのグルーシャさんが来てくれたぞ!
    めったにない機会だからこそ、今日はたくさん学んでほしい!」

    今日の授業内容について隣のアツ苦しい先生が話している間、目の前で集まる生徒達の中からアオイを見つけた。
    一番後ろであの大きな目をまんまるにしながらこっちを見ていたけれど、手を振ったり駆け寄って話しかけたりしたい気持ちをグッと抑える。

    あくまでぼくがここにいる理由は、随分前からリーグ経由で依頼されていた仕事だからだ。
    本来の目的は別にあるとしても、目の前のことをきちんとやりとげないと。

    そんなことを考えながらも、視界にアオイを捉えたまま離さなかった。



    「もう時間か…。
    それでは今日来てくださったグルーシャさんに、全員で礼を!」

    チャイムが鳴ったと同時に今回の授業が終わり、バトル学の先生からの掛け声と共に、生徒達から感謝の言葉を元気よく伝えられた。
    それに対して軽く手を振って応えると、各自解散となる。

    後の方にいたアオイに声をかけようとしたけれど、授業が終わったと同時に校舎に繋がる出入り口に向かって走り出した。

    「アオイ…!」

    慌てて追いかけようとすれば、ぼくの目の前へ金髪の女の子が飛び込んできた。

    「あ、あのグルーシャさん!少しだけいいですか!?」
    「ごめん、ちょっと今は…」
    「この前はナッペ山で助けてくださり、ありがとうございました。
    それでその…プレゼントも受け取ってもらえて嬉しいです…」

    顔を赤らめながら話す彼女を見ても、何のことだかわからない。
    助けたって何のことだ?

    「もう一度こおりのいしを探しに行けるように、今みんなで強くなろうと頑張っていて…」
    「こおりのいし?…ああ、前に遭難してた子か。
    アオイ経由でお菓子と手紙を贈ってきた…」

    ようやく何のことか思い出せば、彼女は何かを決意したように顔をあげてぼくを見つめる。

    「わたしあなたともう一度会えたら、伝えたいことがあるんです」



    *****


    ああ、とうとう二人が出会ってしまった。
    彼女もグルーシャさんと話したいことがあるって言ってたな。
    恋がどんなものなのか いまいちピンときてない私だって、彼女が何をしようとしているのかくらいわかってる。

    あんなに可愛くて笑顔も素敵な子だから、グルーシャさんもOKしちゃうのかな。
    そんな子が好きだって言ってたし…。

    また体の奥で痛みを感じて胸元をぎゅっと握りしめる。

    遠くで二人が向かい合って話している姿をもう見たくなくて、立ち止まっていた足をなんとか動かしながら、また私は逃げ出した。


    走って走って、たどり着いた先は校庭のベンチ。
    ぼんやり花を眺めていたら、手の甲にぽたぽた水分が落ちてきた。
    雨かなって見上げても空は気持ちいいほどの快晴で、ようやくそこで落ちていたのが私の涙だったことに気がついた。

    なんで?
    何にもないはずなのに。
    最近ずっとおかしい。

    気がついたらグルーシャさんのこと考えていて、心が落ち着かなくて、急にこんな風に辛くなる。

    次の授業開始のチャイムが聞こえたけれど、ここから一歩も動くこともできなくて、そのままジニア先生の授業に出ないままずっと泣いていた。

    誰もやってこない、ひっそりとした場所で、私は声を押しつぶしたまま…――



    「やっと見つけた…」

    不意に聞こえた声に頭を少し上げると、アイスブルーの瞳が現れた。

    「ぐるーしゃさ…」

    目の前で、グルーシャさんが片膝を地面についた状態で屈んでいた。
    いつもマフラーで隠れている口元は露わになっていて、形のいい唇からは短く少し荒い息が漏れている。
    よくよく見たら額には汗が滲んでいた。

    「どう、したんですか…」

    今まで見たこともない姿に驚いていると、それはこっちのセリフだと返される。
    その言葉の意味がわからなくて混乱していれば、長い指が私の目元までやってきて、未だ溢れ出る涙を拭ってくれた。

    「告白…されたんじゃないんですか?」
    「ああ、見てたんだ。うん、終わったからアオイを探してた」
    「なんで、彼女のところに行ってあげないんです?
    …付き合うんですよね」

    また込み上げてくる何かを抑えつけながら、問いかける。
    金髪の彼女みたいなタイプが好きだって言ってたから、そうなるんだろうな。
    それなら、もう グルーシャさんには会いに行けなくなる。
    そんなの…――

    「しないよ。ぼくには他に好きな子がいるから」

    また溢れ出てきた涙を手の甲て乱暴に拭おうとしたら、突然告げられた言葉に衝撃で体が固まる。

    「笑顔が可愛いくて努力家の負けず嫌いで、ぼくよりずっとポケモンバトルが強い女の子」
    「だれ…ですか?」

    そんな子 いるんだ…と思いながら独り言のように呟くと、グルーシャさんはため息をつきながら右手を目元にあてる。

    「まだわからない?ほんと鈍感。
    …全部あんたのことだよ。ぼくはアオイが好き」

    真剣な瞳に貫かれて動けない。
    グルーシャさんが私のことが好き?
    それって…。

    「もちろん恋愛の意味での好きだから」

    心の中に居座ってた黒い感情が、消えていく。
    それと同時に冷え切ってた体がぽかぽか温まってきた気がする。

    「彼女とグルーシャさんが出会ったら、絶対に好きになっちゃうって思ってました。
    そうしたらすごく嫌な気持ちになって…。
    でも、どうしてそう思うのかわからないんです。
    こんなことすらわからないのに、私…」

    「…返事は今すぐじゃなくていいから。
    あんたのことだし、まだちゃんと理解できてないんだろ。
    元々長期戦を予想してたからいいんだけど…」

    大きくて骨ばった手が、私の右頬を包み込むように撫でてくれた。
    グルーシャさんからこんな風に触れられるのは初めてで、どうしたらいいのかわからない。
    でも、全然嫌じゃなくて…。

    「なんでそう思うのかわかった時に、またぼくから伝える。
    …だから、またこれまで通りジムに来てよ。
    理由はなんだっていいから」

    いつかあの黒い感情の正体がわかる日が来るのかな?
    グルーシャさんを他の誰かに取られるかもしれないと、危機感を持った理由を。
    …ううん、私は知りたい。
    知らなくちゃいけないんだ。

    「わかり、ました…」

    その瞬間、向けられた優しい微笑みに心臓が大きく跳ねた。

    「じゃ、次の授業まで広場でアイスでも食べよう。
    ぼくがおごるから、会わなかった間 なにか面白いことがあったら教えてよ」

    ズボンについた土埃を払いながら立ち上がると、グルーシャさんはまた右手を私の目の前に差し出した。
    その手を取ると、ベンチから腰を上げて歩き始める。

    「ソーダアイスがいいです」
    「わかった。ぼくもそれにする」

    今までのモヤモヤが嘘みたいに、心の中が晴れやかだった。


    終わり
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