ワースト入りするざんにこ。「ニ子。このうわす?うおすて?ってなんだ」
「ワーストです」
「ワースト?」
「一番の反対です。一番悪いってことですね」
僕の説明を聞いて、うなだれる斬鉄くん。
この前、突然全員に配布された質問表。
そこには20問の質問がのっていて、ブルーロックエントリー選手の中で一番ポジティブなのは、とかおしゃれなのは誰とか、選手がお互いに思いつく人の名前を1人だけ選ぶというものだった。
そしてその逆も。一番ポジティブではないネガティブなのは誰か。ダサいのは誰か、などなど。
最もベスト入りしたのは玲央くん。
さすがです。
逆にワーストに最もランク入りしたのはチームzにいた五十嵐くん。
これはまあ、仕方がない。
僕もいくつかの項目に五十嵐くんの名前は書いている。
そしてその項目の中に一番勉強できるのは?という質問に対するワースト一位が斬鉄くんだった。
多分、ダントツ。
まあ妥当なんだろうけど。
自分の学力を理解していても、改めて他人から評価を受けると落ち込む、その気持ちはわかる。
僕だってそうだ。
むしろワーストでランク入りした数で言えば斬鉄くんより僕の方が多い。
「僕なんて身体能力が低いとか、喧嘩が弱いとか肉食系じゃないとか、、散々言われてますからね」
僕は何の慰めにもならない言葉を斬鉄くんにかけた。
フィジカルが強そうなのは、でワースト2位。
客観的に自分のことを見て考えても、まあ妥当、間違ってはいない。
僕は体格には恵まれていない。
選手としては小さい方だし、どんなに体を鍛えても國神くんや時光くんみたいな体にはなれない。
試合中ボールを奪いに行ってはふっとばされるのは大体僕の方だ。
喧嘩が強そうなのは、でワースト2位。
うん、まあこれも妥当。
そもそも僕は生まれて15年、未だかつて喧嘩をしたことがない。
これまでも争いごとは避けてきたし、争いごとは傍観してきた。
どちらかと言えば争いごとを避けつつ、自分の思い通りになるように策を巡らせるタイプだ。
そして肉食系なのは、で堂々の第一位。
僕はこれまで女の子と付き合ったことがない。
中学でも高校でも、正直色恋沙汰には無縁なタイプだ。
どんな子がタイプかなんて聞かれても正直困ってしまって、所謂女の子の話になると僕は完全に聞き手に徹している。
これも妥当。
肉食系なのは、でベスト1位になったチームZの今村くんだ。彼は相当女の子と遊んでいるらしい。
そんな今村くんが、ランキング結果が出た時に肉食系ワースト3人は男としてバグっているんじゃないか、と言っていたのを思い出す。
…バグ、ねえ。
今村くんに悪気はなさそうだけど、なかなか残酷なことを言うよな、と思う。
女の子に興味を示さないで、斬鉄くんを好きになってしまった今の僕は今村くんの言う通り
バグを起こしてた人間なんだろうか。
「斬鉄くん、僕はバグを起こしてるんですね?」
「夢を食べる奴か」
「それはバクです。」
「大丈夫。どう見ても人間だ」
なぜか自信たっぷりに笑いかけてくる斬鉄くん。
僕は小さくため息をつく。
「二子は今落ち込んでいるのか」
斬鉄くんが少し屈んで僕の顔を見る。
前髪で隠れてるから僕の顔なんて見えないはずなのに。
前髪の隙間から見える斬鉄くんはまっすぐ僕を見ていて、なんだか全てを見透かされているような気になる。
僕は実際少し落ち込んでいる。
体が大きくないことも、喧嘩が強くないことも、男としてバグっていると言われたことも、全部自分では分かっているし、間違っていないと思っているのに。
他人にそう言われれば、まるでそれが間違いないと、改めて烙印を押されたような気になって澱んだ気持ちになっている。
「…落ち込んでたとしたら、どうします?」
僕は斬鉄くんに問いかける。
斬鉄くんは真面目な顔で僕を見ていて、僕はその顔を黙ってたら本当にかっこいいのに、なんて場違いなことを考えている。
「…ニ子がけんかしたら」
「?」
「俺がニ子の味方にする。そしたらニ子は負けないからワースト2位でも心配しなくていい。喧嘩が弱くても大丈夫だ。安心しろ」
予想外の言葉に僕は困惑する。
ん?これ、今僕は慰められてる?
「肉食のワーストの意味はよくわからんが、多分大丈夫だ。二子なら」
俺がついてるぞ!と斬鉄くんがまた自信たっぷりに笑いかけてくる。
今度はすごく雑に慰めてきたな。
「あと、そうだな、俺はバカだし、バカだと思われてるけど、わからないことは二子が全部教えてくれるからうん、きっと大丈夫だ」
今度は斬鉄くんが自分に言い聞かせている。
斬鉄くんも勉強ができない第一位になって気にしているのだ。
斬鉄くん、僕年下だから勉強は教えられないですけどね。
「あと、ニ子はバクじゃない。人間だから心配するな」
…いやバグの話はそうじゃないです。
バクのことは心配してないけど、ありがとうございます。
意味は全然分からないけど、斬鉄くんが一生懸命僕を慰めようとしている。
意味はよく分からないし、なんの解決にもならないのに、僕の中の暗く澱んだ気持ちが、少しだけ軽くなって、自分の気持ちが救われているのがわかる。
本当に不思議だ。
斬鉄くんはかっこよくて優しくて、それなのにわけがわからなくて残念で、そんなところが最高だと思う。
これまでの僕ならそんなこと思わなかった。
そんな意味のわからない言葉で気持ちが救われることもなかった。
そしてそんな彼を最高だなんて思う僕は。
(やっぱり僕は今村くんのいうとおりバグを起こしてるのかもしれない)
「斬鉄くんは変な人ですね」
「変?それはワーストの意味か?」
「どっちでしょうね」
端正な顔立ちの彼がまた少し悲しそうな顔をしたので、僕は笑った。