食堂でざんにこ。俺は二子とチームを組み、1回目の試合で負けてしまった。
その結果、俺が凪たちのチームに引き抜かれ、俺と二子はすぐに別行動となってしまった。
チームが別になると、試合も練習時間も寝る部屋も変わるので、食堂や風呂場のような共用スペースでしか他のチームの奴と会うことはない。
そして試合により脱落者が決まる以上、今日隣で一緒に飯を食べていた奴が明日の夕食には脱落してもういないということが当たり前だ。
ニ子は決して体格には恵まれている方ではないけど、簡単に負けるようなやつではない。
そうわかっていても、実際にその姿を見るとどこかで安心する自分がいた。
幸いにもニ子の周りには誰もいない。
自分の食事を受け取ると、ニ子のいる方へ向かった。
「ニ子」
「……ん、、ざんてつくん、お疲れ様です」
ニ子は行儀が良いので口の中の肉を咀嚼し終えてから返事をする。ニ子のテーブルにはステーキがのっていて、ニ子はステーキを頬張っていた。
ニ子がゴールを決めたのかと思うと、自分のことではないけどなんだか少し嬉しくなる。
「ステーキか。ゴール決めたんだな。」
「ええ、おかげさまで。斬鉄くんは?今日はステーキないんですか?」
「今日は試合なかったからな。これだけ」
ニ子の正面の席に座り、エビフライののっだカレーの皿を机の上に置き、ニ子の隣に座る。
ニ子が俺のカレーライスを見ながら、
「斬鉄くん足りますか?」
と聞いてくる。
二子は俺がよく食べるのを知ってる。
正直言ってもの足りない。
けど、こればかりは仕方がない。
…と思っていると、
「食べます?」
ニ子は食べかけですけど、と言いながら、ステーキ肉ののった鉄板を指差した。
「いいのか」
「好きなだけどうぞ」
俺はステーキを一切れ箸で掴んで口に入れる。
「肉はいいな、やっぱり」
「ふふ、斬鉄くんは幸せそうに食べますね」
二子が嬉しそうに笑う。
「二子も好きなの食っていいぞ」
好きなものを、と言っても今日の俺の夕飯はエビフライカレーだからカレー皿をそのままニ子の方に近づけた。
ニ子はスプーンをもつと、遠慮がちにカレーの野菜とルーをひとすくいして口に含んだ。
「…カレーもおいしいですね。もう少し甘い方がいいですけど」
「そうか?ちょうどいいくらいの辛さだと思うが」
「カレーは甘口派です」
「ニ子のそういうところかわいいな」
「バカにしてます?」
ニ子はかわいいと言われて怒ったのか、今度はカレーの具を次々と食べていく。
「ニ子、好きなだけ食べてくれていいが、具だけ食べられるとカレーが寂しくなる」
「こちらは肉ですからね。相応の対価が必要なんです」
ソーオーノタイカが何かはよくわからないが、ニ子はカレーの上に鎮座しているエビフライカレーの主役を指差していた。
俺は好きなものを食べていいとニ子に言った手前、エビフライはあげないなんて言えない、言えないがしかし、エビフライは食べたい。
思わずじっとエビフライを眺めているとニ子がふっと微笑んだ。
「うそですよ。だからそんな悲しい顔しないでください」
いじわるしてごめんなさい、と言いながらニ子は笑ってる。
なにが楽しいのかわからないが、普段は見れないニ子の表情だ。
二子が笑雨たびにその長めの前髪が揺れ動き、その間から時々二子の丸くて大きな目が見えて、不覚にもドキドキしてしまう。
きっと可愛いなんていったら、きっとニ子は怒るから言わないけど。
「ステーキ、もっと食べていいですよ。僕はもうお腹いっぱいですし、斬鉄くんをからかったお詫びです」
結局俺はニ子から半分くらい肉をもらった。
やっぱり肉はうまくて、ニ子と一緒に飯を食うのは楽しい。
「二子」
「なんですか?」
「俺は明日試合がある。ゴール決めて、明日は自分でステーキを獲得する。そして明日は俺が二子に肉をやる。だから明日も絶対ここで会おう。明日も一緒に飯を食おう」
明日もまだこの場所にいるなんて保証はどこにもないから、約束なんて意味がないかもしれない。それでも。
「たくさん食べる斬鉄くんから肉がもらえるなんて僕は光栄ですね」
「そうだな。他の奴にはやらないからな、特別だ。」
「それは負けられませんね」
ふ、と笑いながらニ子がお茶を飲みほし、席を立つ。
「楽しみにしてますから、斬鉄くんこそ負けないようにしてくださいね」
そう言ったニ子の背に俺は当然だ、と呟いた。
おわり。
znttくんはこのまま勝てば勝ち抜きで食堂でこれない気がしたのでいったんこちらに掲載。