「いつもどおり」の彼方此方「最近のセバスチャンについて、どう思う?」
二人だけでとわざわざ地下聖堂に呼び出されて、そこでされた質問がこれだった。
「どうってどういう意味?いつもどおりだと思うけど」
問いの意味がわからない。
最近のセバスチャンといえば、本をたくさん読んでいて、授業を受けて、たまに決闘で体を動かして、課題をして、同級生をからかって、ホグズミードに行って、授業をして、読書をして。なんのおかしなところもない。
オミニスは懊悩の浮かぶ顔で目を伏せる。
「…いつもどおり過ぎないか?」
なるほど。あんなことがあったのに、と言いたいのか。
「深刻な顔でいられたら、隠せるものも隠せないよ」
「それにしたってあんな…何事もなかったような態度」
「おかしくないって」
オミニスの言葉を遮って少し大きな声で言う。
「オミニス、僕たちが決めたんだよ、あのことは隠し通すって。だからセバスチャンは僕たちの言うとおりにしてるだけ。ちゃんと隠そうって」
「俺たちの言うとおり…」
オミニスが繰り返す。
僕たちで決めた。僕はそれが良いと思った。セバスチャンは受け入れた。オミニスも納得していた。
「全然平気ってわけじゃないと思う。よくうなされてるの、オミニスだって気付いてるでしょ?」
「それは、気付いているが…」
おじさんを殺したんだぞ。あんな呪文を使って。それなのに。あんなに笑っていられるか?
オミニスは呻くように言って、顔を手で覆う。
「…正直なところ、最近のセバスチャンが…少し怖い」
オミニスの言葉は懺悔のようだった。
それで気づく。
「そっか。オミニスは人を殺したことないんだね」
「あるわけないだろう!」
オミニスが叫んだ。考えるだけでも吐き気がする、とでも言いたそうな嫌悪の顔で。
「僕は、あるよ」
僕の言葉に虚を突かれたオミニスの動きが止まる。
僕が戦ってきたのが、クモや亡者だけじゃないって、とっくに知ってたはずなのに。
「セバスチャンもだよ。あのとき以外に。ほとんどはゴブリンだと思うけど、人間もいたはず」
フェルドクロフトがあんな状況だったから、あそこにはゴブリンだけじゃなくルックウッドの手下もたくさんいた。やったことがないわけない。
オミニスの顔色は蒼白になっていて、そういうところがとても良いと思う。
意思が強くて頑固で、少し臆病で無意識に嫌な答えにたどり着かないように立ち止まったり、逃げ出そうとする。優しい子だなと感じる。
「人を殺したって、いつもどおりは出来るんだよ。ずっとしてる」
僕の言葉に、オミニスは理解と受け入れ難さの間で、ひどく複雑な表情をした。それが少し面白くて思わず微笑んでしまう。
「やらないでいられるなら、それが一番だけど思うけど」
それは本当に。オミニスがそんなことをしなきゃいけないときは、僕やセバスチャンが代わりにやるべきだ。
セバスチャンと約束したことはないけれど、多分同じことを考えてると思う。
「怖いと思うのはわかる気がする。あの出来事は本当に特別なことだったから。でも少しだけ同じことはずっとあったんだよ」
多分こっち側はオミニスの家族とおなじなところだと思う。オミニスには本当は来てほしくない。けれど、僕たちはこうすると決めたから、オミニスにも半歩だけこちらに来てもらわなきゃいけない。
オミニスはこうするって決めたとき、気づいてなかったんだろうか。やっぱり良い人だと思う。
「俺はどうすればいい?」
途方に暮れたように、オミニスが大きなため息をついた。
「深く考えないで」
何も考えずに、僕やセバスチャンが言うことが面白かったら笑って。ムカついたら怒って。これからも友だちでいて。
そしたら、そのうち慣れる日が来る。残酷かもしれないけれど、とても普通で何も痛くない、いつもの毎日があるだけだから。
「難しいな」
苦渋に満ちた顔でオミニスが首を振った。
「なんとかなるよ」
世界はそういうものだから。