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    8kawa_8

    @8kawa_8

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    8kawa_8

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    ブラレノが好きなのに書くのが異様に難しい。

    #ブラレノ
    braleno

    【ブラレノ】認めるには、あまりにも 右手には愛銃、左手にはふわふわの毛玉。くしゃみをした先に出くわしたのは、魔法舎でよく見知った顔だった。
     肉弾戦を得意とするわりに、視界の邪魔になりそうな重たい前髪。戦闘時の引き締まった時のそれらとは打って変わり、ぼんやりとした表情に口元。「羊飼い」とブラッドリーが彼の名の代わりを口にすれば、ぱちぱちと紅色の瞳が瞬いた。
     見渡したところこじんまりとした室内であったので、飛ばされた先は魔法舎だと一瞬だけ期待をしたのだが。その期待はこの大男の言葉であっけなく打ち砕かれた後である。
     南の国にある、レノックスが塒としていた小屋。それが今回のくしゃみでの転移先だった。
    「なんでこんなところに」
    「それは俺の方が聞きたいくらいなんだが……。くしゃみなら、仕方がないか。俺は魔法舎で過ごす時間の方が長くなったから、家の物を整理しようと」
     言うなり、ブラッドリーの耳には呪文が届く。精霊たちがレノックスの指先へと近づいて、仄かな光に姿を変えた。
     彼の魔法はいつも穏やかで、言葉を選ばずに語るならば、ブラッドリーにとっては生温く気持ち悪いものだった。強者として精霊たちを支配するような北の国で良く見知った形の魔法ではなく、友人として精霊たちに寄り添うような温かさで繰り出される魔法。その硬い拳と逞しい脚から繰り出される、苛烈な一撃とは大違いだ。
    「肝が据わってんな」
    「そうだろうか」
    「魔法使い同士が対面して呪文を唱るなんざ、北の国なら抗争の合図だ。おまえの魔力は弱いからな、きっと即死だろうよ」
    「ここは北の国ではないからな……」
     そういう話をしているんじゃねぇよと、ブラッドリーは肩を竦ませる。
     北の国の大魔法使いであるブラッドリーを前にしても普段の調子を崩さない、この男の語り口がどうにも苦手だった。嫌悪感の類はないものの、ペースを狂わされ、思った通りの動きが出来ないことはストレスだ。たとえば西の魔法使いを相手にしている時のような。そうした気の削がれ方によく似ている。
     そんなブラッドリーの苛立ちに気付いた素振りもなく、レノックスは呪文を何度も繰り返し、精霊たちの力を借り、家の中のものを小さくしては鞄の中へと詰め込んでいた。
     羊たちが気に入っているバスケットに、幼い頃のフローレス兄弟から贈られたという羊たちとレノックスの絵。気に入りの喫茶店で手に入れたコーヒー豆。南の国に移住した頃から使っていて、手に馴染んでいる工具類。
     ブラッドリー個人にとっての価値は無いに等しかったが、他人がいたく大事にしているという点ではある種の宝だ。とはいえ興味が湧いて欲しいと渇望することもない。その程度の物のはずなのに、独り言のようにひとつひとつへの思い出を語る声になんとなく聞き入ってしまう。
     レノックスの行動は、単にこれまでとこれからを見据えた結果の、生活の効率化にすぎない作業であったけれども。この部屋から自身の痕跡を消していく男の姿は、気配と一緒に存在も眩ませてしまいそうで寂しくもある。
    「ネロみたいだ」
    「ネロ?」
    「……東の飯屋も、馴染みの道具には拘るだろう」
    「ああ、なるほど」
     迂闊に口を滑らせる元相棒へ、あまり強くは言えないなと自嘲する。やはりこの、自身の棘を抜き取って丸裸にしてくるような、そんな男が苦手だと思った。
    「ネロといえば、この前二人で酒を飲んだな」
    「おまえら、仲良かったのか?」
     言葉の途中で手を伸ばす。棚の上に、まだ鞄に詰められていない状態の酒瓶を見つけたのだ。封は開けられていなくて、それなりに上物だ。最高級品とまではいかずとも、なんとなく飲みたい日に口を付けられたなら機嫌も良くなるだろう。
     ブラッドリーの手癖の悪さを、レノックスは指摘しない。気付いていないというよりかは、容認されているような状態に近かった。
    「悪くはないんじゃないかな。よく、相談に乗ってもらっているし、相談をされることもある。この間の話題は、それぞれの国の印象だったな。感性の違いだろうか、同じ国を相手にしても得手不得手やその理由が異なっていて、面白かった」
    「へぇ、たとえば?」
    「たとえば……。ネロは西の魔法使いを相手にすると、恋愛をしている気分になるらしい」
     俺は童心に返って、あやされているような気分になる。
     そう加えたレノックスの後半の言葉は、あまりブラッドリーの耳には入ってこなかった。レノックス越しに伝えられたネロの感覚に同じ北の魔法使いとして『分かる』という深い共感を示す一方で、胸をざわつかせる不快感がブラッドリーを襲ったのだ。
    「その酒はお前が持っていくといい。もともとそのつもりで買って、持ち帰るのを忘れていたんだ」
    「……なら、いらねぇよ。そんな酒」
     施しは好まない、というのは建前で。込み上げた感情を誤魔化すように、酒瓶を半ば放り投げるような勢いで、レノックスのもとへと突き返す。
     そのまま踵を返したブラッドリーが向かったのは、換気で少し開けられたままの窓際だった。すると少しだけ慌てたような、気持ちだけ早めに紡がれた声がその背中を呼び止めた。
    「ブラッドリー、もう少し待ってくれないか。そうすれば魔法舎まで俺も一緒に行ける」
    「別に、そんな約束もしてねぇだろ」
    「それもそうだが……。一人より二人なら、退屈しないだろう?」
     その提案が足を止める理由になると、本気で信じているのなら。この男は本当に南の土壌と精霊に愛された、そんな能天気な魔法使いなのだろう。ブラッドリーはそうして鼻で笑うこともできたのに。
     だが、どうしても嫌いにはなれないのだ。
     南の国の、自己より他者を優先しがちな、お人好しな魔法使いが。自身が愚かであることを自覚して、それでも己の意志を突き通す、芯の通った頑固者が。
    「ブラッドリー」
    「……さっさとしねぇと食っちまうぞ、おまえの羊」
     単にレンズを通した反射だ。そう分かっていても、見上げる位置にある眼鏡越しの瞳が、輝きを増したようにも見えてしまう。「それは困る」と穏やかに返された声色には、秘めたる感情が存在していない。ただ心地が良いと、自分に懐き、慕うだけの姿を前に『物好きなやつめ』と心の中で悪態吐くのが、今のブラッドリーにとっての精いっぱいの抵抗だった。

     ――西の魔法使いを相手にすると、恋愛をしている気分になるだって?

     先ほどの会話の一部が、残響としてこびりつく。窓枠に足を掛けながら、ブラッドリーは答えが分かっていながらも、認めるには難しい自問自答を、己に科した。

     なら、西の魔法使いのように感じている、この男の存在は何なのだ、と。

     
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    8kawa_8

    DONEブラレノです。
    マーキングされるブラレノというお題でしたが、多分お題をくださった方の意図していない男にマーキングをされています。すみません。筆が乗ってしまった。
    NTRを書こうと意気込んだわけではないのですが、略奪的なテーマが含まれている不思議な話になっちゃいました。
    【朗報!】ボスが羊飼いを口説き落とすのに成功してお付き合いしてる世界線
    【ブラレノ】残滓は捨てて、飲み干した げぇ、と。言葉を口にしたわけではなかったが。きっとその表情に台詞を当てるとなったら、そんな音が適切だろう。
     眉間に皺を寄せて、如何にも不快感を露わにしたブラッドリーを至近距離で見つめながら。そんなに嫌だっただろうかと、レノックスは問いかける。その問いかけにブラッドリーの眉間の皺はますます深まり、「おまえ、本気でそれを言ってるのかよ……」とかぶりを振った。
     単刀直入に言うならば。レノックスから、フィガロの魔力の気配がしたのだ。


     フィガロといえば、現在は南という厚すぎる皮を被っている、北の国の魔法使いだ。ブラッドリーよりも千年以上もの長い時を悠に生きる魔法使いで、多くの北の魔法使いにとってはオズや双子に並んでの天敵ともいえる。単純な魔力の強さを測ればオズほどに圧倒的なものを持っているわけでもないので、たとえばミスラを味方につけたブラッドリーであれば勝機は見えるのかもしれない。しかし実際にはミスラを手玉に取って意のままに操りながら、フィガロの智謀の裏を掻く必要があるわけなので、その勝利の仮定はあまりに現実的なものではなかったのだ。
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