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    8kawa_8

    @8kawa_8

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    8kawa_8

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    ブラレノです。
    マーキングされるブラレノというお題でしたが、多分お題をくださった方の意図していない男にマーキングをされています。すみません。筆が乗ってしまった。
    NTRを書こうと意気込んだわけではないのですが、略奪的なテーマが含まれている不思議な話になっちゃいました。
    【朗報!】ボスが羊飼いを口説き落とすのに成功してお付き合いしてる世界線

    #ブラレノ
    braleno

    【ブラレノ】残滓は捨てて、飲み干した げぇ、と。言葉を口にしたわけではなかったが。きっとその表情に台詞を当てるとなったら、そんな音が適切だろう。
     眉間に皺を寄せて、如何にも不快感を露わにしたブラッドリーを至近距離で見つめながら。そんなに嫌だっただろうかと、レノックスは問いかける。その問いかけにブラッドリーの眉間の皺はますます深まり、「おまえ、本気でそれを言ってるのかよ……」とかぶりを振った。
     単刀直入に言うならば。レノックスから、フィガロの魔力の気配がしたのだ。


     フィガロといえば、現在は南という厚すぎる皮を被っている、北の国の魔法使いだ。ブラッドリーよりも千年以上もの長い時を悠に生きる魔法使いで、多くの北の魔法使いにとってはオズや双子に並んでの天敵ともいえる。単純な魔力の強さを測ればオズほどに圧倒的なものを持っているわけでもないので、たとえばミスラを味方につけたブラッドリーであれば勝機は見えるのかもしれない。しかし実際にはミスラを手玉に取って意のままに操りながら、フィガロの智謀の裏を掻く必要があるわけなので、その勝利の仮定はあまりに現実的なものではなかったのだ。
     それからブラッドリー個人からすれば、意に介さぬ約束の発端となった、忌々しい男でもあった。囚人として服役せざるを得なくなった己の経緯や処遇について、納得はしていないが、社会的に必要なパフォーマンスであったという理解はしている。
     繰り返すが、だからといってブラッドリーは一切の妥協も許しも覚えたつもりはない。
     今はその時ではないと理解しているだけであって、いつかは自身の受けた屈辱に見合うだけの報復を与えようと、来たるべき時のための備えに徹しているだけである。
     ただこの準備も、すべてが上手くいくわけではない。フィガロの南の国の医者としての人となりであったり、秘匿されている弱点であったり。そうした情報を探りに探って、真実に辿り着くこともあれば、彼のかぶる剽軽者の仮面よろしく虚偽の情報を掴まされることもある。
     たとえば南の国のフローレス兄弟。
     チレッタの息子たちである若い魔法使いたちは、彼の弱点と成り得るのか。最初の見立てでは『そうだろう』とブラッドリーに思わせていたが、今は違うと断言が出来た。
     二人のうち、特に弟であるミチルについて、フィガロは必要以上に過保護にしている節がある。よほどの気に入りの相手で、さぞ大切な子どもなのだろうと思ったが――。もし心から慈しんでいる相手であれば、まさか人質などには使わないだろう。
     死なないように守ってやってもいいが、死んでしまったら、それまで。どこまでも北の国らしい非情な面を汲み取れて、すぐにブラッドリーは手札から彼らの存在を捨てて行った。
     それはそれとして、未知の強さに憧れる幼子の存在は、彼にとっても可愛らしくはあったので、今でも目にはかけている。
     次にブラッドリーが目を付けたのは、同じく南の国の羊飼いだった。
     元は中央の国の革命戦士の出だというだけはあり、がたいが良く、腕っぷしに優れ、有事の判断力には目を見張るものがある。ただいかんせん魔力が弱く、この魔法舎で最も微力と評しても差し支えはないだろう。魔法を使わない戦いであれば十分に頼れる男ではあるが、そうでないなら足手まといだ。
     更には愚直で頑固な性格をしているので、北の国ではすぐに死ぬタイプであるに違いない。しかしこの男が仮に北の国に出向いたとして、予想通りに石になるかと問われれば、やはり違うと予感ができた。
     纏う魔力は弱いとはっきり分かるのに、彼の堂々とした臆せぬ振る舞いが、底知れぬ手札の存在を感じさせて、北の魔法使いを躊躇させるのだ。端的に言えば、彼ははったりが効果的に通用するだけの風格を持ち合わせていた。
     加えてそれを裏付けるようにして、彼はフィガロと、そしてオズと、親しげに言葉を交わしている。誰しもが恐れる強者たちと対等に接し合う姿を見て、なおも弱者として侮れる北の魔法使いは、おそらくこの世にいないだろう。見落とした秘策が、隠された力の源が、あの大魔法使いたちが一目置くだけの何かが、この男にはあるのではないか。少なくとも慎重な性格をしたブラッドリーであれば、そうと考えて警戒するに違いがなかったし。実際に、警戒したものであった。
     さて、それではこの男こそ、フィガロの弱点と成り得る存在なのだろうか。
     その問いについてブラッドリーは「わからない」と首を振る。
     フィガロがこの男に向ける目は親しみであり、羨望であり、軽蔑であり、哀憐でもあった。
     対してその男がフィガロに向ける目はというと、尊敬であり、畏怖でもあり、情愛であり、時に憐憫でもある。
     お互いに住む世界や立場が異なることを理解しながらも、高さの違う土台に足を付けたまま、視線だけを交錯させるような。一線を引きあった冷たさと、それでも見放さない温もりのようなものが、二人の間に敷かれていた。その正体を何か突き詰めようと、手ごたえのようなものを感じながらブラッドリーは探りを入れ続けていたわけだが。ここに、再び誤算があった。
     北の国の気質にも似た素養をミチルの感情から見出した時と同じように。過去の部下にも似たこの羊飼いに、妙な愛着を抱き始めてしまったのだ。おまけにこの男と話していると、自分の研ぎ澄ました爪や牙が、知らずと容易に欠けてしまう。
     フィガロの視線に込められた感情。それを紐解く糸口を探した結果、この妙に毒気の無いマイペースな男に絆された。それがブラッドリーの認めがたい現状であり、紛れもない現実でもある。
     欲しいと願ったものを手に入れなければ気が済まないのは、普段であれば盗賊としての矜持だとして誇りたかったが、この件ばかりはベイン一家の末っ子としての癇癪の存在も否めない。
     そんな心地を覚えながら、ブラッドリーはようやく口説き落としたこの男を白けた眼差しで見つめ続けた。
     気に入りの男から、気にくわない男の魔力がする。
     それだけで機嫌を損ねるには十分な理由だ。
    「今晩、部屋で待ってろって言ったよな」
    「だが、夕方まで南の国の授業があると。俺も伝えたと思うんだが……」
     ああ言えばこう言う。そんな減らず口だって、北の国では早死の理由にしかならないのに。彼は、レノックスは、躊躇なくそれを口にする。そうした姿を組み敷きながら、ブラッドリーは一層呆れ、溜息を吐いた。
     ブラッドリーがフィガロの内情を探っていたように、フィガロだっておそらくはブラッドリーへと探りを入れているだろう。そしてこのレノックスが、ブラッドリーとの関係を器用に隠し通せるとは思えない。つまりこの関係性は、フィガロに筒抜けであってもおかしくないと考えるべきであった。
     ブラッドリーにとって、レノックスは確かに気に入りの相手だが。だからといって自分の命を賭してまで石になってしまうことを妨げたいと、そうとまで願いたい相手かと問われれば、実のところそこまででもなかった。なのでフィガロはおそらく、ブラッドリーにとってのミチルのように、彼にとっても普遍的な存在とはいえないレノックスをわざわざ人質として使ってまで、ブラッドリーの行動をあやつろうなどとは考えないはずだ。
     しかしそれはそれとして、日頃の苦労の憂さ晴らしか、或いは趣味のわるい悪戯心か、そうしたものが起因した嫌がらせを働きたいと、企てることはあるのかもしれない。そしておそらく、今こそがその瞬間だった。
    「何をどうすりゃ、あいつの魔力なんざ身体の中に残るんだよ……」
    「それは……治癒魔法の訓練のせいだな」
     魔力を注ぎ、身体の傷を強制的に治癒する魔術は、北の国の魔法使いが最も苦手とするものだ。治癒はともかく強化という点に限れば、ブラッドリーもその貴重な才覚の持ち主ではあったのだが。改めてフィガロがそれを施したという話を耳にしながら、背筋を凍らせる。
     治療を口実に、殺されてしまっても可笑しくないようなシチュエーションだ。
     よくもまぁ大人しく受けようなどと思えたものだと、面の厚さに、或いは無知に、憐れみと背中合わせの賞賛を送ってしまう。
     一方でレノックスは平然とした顔付きのまま「俺にだって抵抗はあった」と口にする。
     彼が言うには、治癒の効果を実感する必要があったので、被験者は何かしらの健康を損ねた状態になる必要があったわけだが。ルチルやミチルに不要な怪我を負わせるわけにはいかないと、自らその役割を申し出たらしい。
     おまけにフィガロの治癒魔法はしおからく、むず痒く、心地良さとは無縁であるらしい。それを受けなければいけなかったのは、気がすすまなかったとも付け加えられる。
     いかにもレノックスらしいエピソードだ。だからといって、それを聞いて心を温めるだなんて行動をブラッドリーが取るわけもない。表情を歪ませる彼を前に、レノックスは本気で不思議そうな顔をして「そんなに嫌だっただろうか」などと口にしたのだ。
     逆にどうして、嫌がられないと思ったのだろう。
     彼は世間を知らない中央の国の子どもでも、夢ばかりを負う南の国の子どもでもない。それなりに見聞を広げた、数百年を生きる魔法使いだ。おまけにフィガロやチレッタといった、北の国の大魔法使いと大魔女が傍にいる生活を何年も送り続けている。北の国の者が何を愛し、何を嫌うかだなんてことは、ある程度は汲み取れるはずであったのに。
    「ブラッドリーは北の国の魔法使いだろう」
    「南や中央に見えるとでも言いてえのか?」
    「そうかっかしないでくれ。ええと……北の国の魔法使いは、強い者に一杯くわせるのは好きじゃないのか?」
    「そいつは結構スカッとするな。まぁ、どうせなら一泡吹かせたついでに完全勝利と行きたいところだが」
     で、それが今の状況と何の関係があるって?
     ブラッドリーがそう問えば、レノックスはその血色の瞳を、ブラッドリーの姿からふいと外して。「自分で言うのは、少し、気恥ずかしいんだが」と頭につけて、語りだす。
    「俺の身体にフィガロ様の魔力が残っていれば。おまえが、フィガロ様から何かを奪うような気持ちになって、興奮してくれるんじゃないかと、期待したんだ」
     言葉の内容を、かみ砕くように。ゆっくりと自分の頭に流し込んで。それからブラッドリーは再び、大きく、肩を落としながら溜息を吐く。
    「何も分かっちゃいねえな、羊飼い。どうぞ奪ってくださいって用意された宝を奪ったって、何の価値も悦びもねえんだよ。むしろお膳立てされなきゃ何も奪えないガキだって、舐められているようでむかつくぜ」
    「それはすまなかった。……おまえも随分と興ざめしただろうし、機も、日も、今回は改めた方が良いだろうか」
     そう口にして身を起そうとしたレノックスの腕を、咄嗟にブラッドリーは掴んで制していた。
    「まぁ、待て。早まるな。それはそれとしてだな。用意された据え膳は、綺麗に平らげるのが礼儀ってもんさ」
     そう語ったブラッドリーの瞳を見つめながら。レノックスは不服そうに、納得のいかない面立ちで「結局食うつもりなら……俺は今、何故、説教を挟まれたのだろう」などと口にする。細かいことは気にするなと。その理由を語らずに、ブラッドリーは牙を抜かれたままの唇で、レノックスへとかみついた。

     
     
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    DONEブラレノです。
    マーキングされるブラレノというお題でしたが、多分お題をくださった方の意図していない男にマーキングをされています。すみません。筆が乗ってしまった。
    NTRを書こうと意気込んだわけではないのですが、略奪的なテーマが含まれている不思議な話になっちゃいました。
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    【ブラレノ】残滓は捨てて、飲み干した げぇ、と。言葉を口にしたわけではなかったが。きっとその表情に台詞を当てるとなったら、そんな音が適切だろう。
     眉間に皺を寄せて、如何にも不快感を露わにしたブラッドリーを至近距離で見つめながら。そんなに嫌だっただろうかと、レノックスは問いかける。その問いかけにブラッドリーの眉間の皺はますます深まり、「おまえ、本気でそれを言ってるのかよ……」とかぶりを振った。
     単刀直入に言うならば。レノックスから、フィガロの魔力の気配がしたのだ。


     フィガロといえば、現在は南という厚すぎる皮を被っている、北の国の魔法使いだ。ブラッドリーよりも千年以上もの長い時を悠に生きる魔法使いで、多くの北の魔法使いにとってはオズや双子に並んでの天敵ともいえる。単純な魔力の強さを測ればオズほどに圧倒的なものを持っているわけでもないので、たとえばミスラを味方につけたブラッドリーであれば勝機は見えるのかもしれない。しかし実際にはミスラを手玉に取って意のままに操りながら、フィガロの智謀の裏を掻く必要があるわけなので、その勝利の仮定はあまりに現実的なものではなかったのだ。
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