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    洋三
    お題「火を付ける」
    洋三がCM出演する話。
    大人・三プロ選手設定注意です

    #洋三
    theOcean

    トレンド一位『禁煙CM』「彼氏でもいいですか?」

     などと。思わず『え、すみませんもう一度』と聞き返してしまうような台詞を放たれて、CMディレクターを任された田中は閉口してしまう。長らくこの仕事についてきて、もうベテランとも言える頃合いになってきたが、このような手合いは初めてだ。世間の評価が蘇る。『おもしれー男、三井寿』

    「え、すみませんもう一度」
    「このCMの相手役、俺の彼氏でもいいですか?」
    「あー、彼氏さん、は業界人でいらしゃいます……?」
    「や、普通に一般人です。でもすげーかっけーんで行けます」

     断言だ。煌めくような笑顔を向けられて、はは、と笑みが溢れる。

    「えぇと、どうしても?」
    「はい。この、俺が相手のタバコに火をつけるシーンあるじゃないすか。これ、俺彼氏以外にやりたくねーんで。まだ決まってないんですよね?」
    「はい、まだ」
    「俺、アイツ以外とこのCM撮りたくないです」

     三井は今をときめく大スターだ。持ち前の着やすい性格やその面の良さ、また本業であるバスケの神がかったプレーで世間を魅了している。その話題性からも、脚本の都合上でも、ぜひとも三井には出演して欲しいところであった。
     仕方がない。一般人に任せるのは少し不安だが、そこは田中もベテランだ。なにかあればフォローすることくらいできるだろう。田中は、相手役の話を持ちかける予定であった大物女優の名前を取り消し、三井の彼氏の名──水戸、と書き込む。
     それを見て三井は今更申し訳そうな顔をして笑った。

    「我儘言ってすみません」




     三井が連れてきた男は、随分とオーラのある男だった。数多くの一流芸能人を相手取ってきた田中も驚くほどの、なにか別の筋の匂いがした。本当に一般人か?と勘繰ってしまうほど。

    「我儘言ってすみません」

     あ、同じセリフ。
     リーゼントで髪を固めたいかつい風貌の水戸は、へにょりと眉を下げて三井そっくりの表情で申し訳なさそうにするものだから、自然と二人の付き合いの長さが伺い知れてしまう。

    「いえいえ、ところで、脚本は読んできてくださいましたか?」
    「はい。で、ここで使うタバコって実際のものですか?」

     書き換えた脚本は、水戸がアパートのベランダでタバコを吸おうとするところから始まる。そこへ三井がやってきて、ライターを取り出して水戸のタバコに火を付ける。そのまま吸おうとする水戸は、ふと三井の方を見てやっぱりタバコを灰皿に押し付けるのだ。そこでナレーション。『大切な人を守るために。禁煙を始めよう』。

    「ああはい。もしいつも使っている銘柄があればそれでも構いませんよ」
    「ならこれ、一発で撮れますか?」
    「へ、一発で」
    「三井さん、スポーツマンなんで。何回も煙を吸わせるわけにはいかないんすよ」

     ──ぴったりだ。
     田中は、自信のディレクター魂が刺激されていくのを感じた。人気バスケ選手である三井の体を慮ってタバコをやめる。脚本の配役にふさわしい人が来た。
     失敗の許されない一発撮り。難易度は高いが、だからこそ挑みがいがあるってもんだ。

    「できます。もちろん、水戸さんと三井さんにも頑張っていただかなくてはなりませんが」
    「はは、あの人のためなら何でもやりますよ。三井さん!一発撮りだって!大丈夫だよね?」

     案外愛想の良い笑顔でニコリと笑って、水戸はスタイリストと話している三井に呼びかける。一瞬キョトンとしたものの、勝ち気な笑みが返ってくる。

    「おう!誰に物言っていやがる!」

     役者二人の気合も十分。田中にとっても、忘れられない作品になりそうだ。ゾクゾクと興奮が背筋を伝った。


    **


     空は赤く染まり、夕日が沈み始めている。
    水戸は古びたアパートのベランダに出て、片肘をその欄干に置く。片手だけでタバコを取り出すさまは、ひどく手慣れていた。
     口に咥えると、カチ、と音がなって目の前にチラチラと翳る小さな灯火が差し出され、タバコの先端が焦げる。
    水戸は少しだけ目を見開いて、ゆったりとした動きで横を見やる。水戸よりも大きな背。
    見上げると、三井が悪戯げな笑みで立っていた。ひどく蕩けた、優しげな瞳と目が合う。チロ、と真っ赤な舌が、煽るように覗いた。
     水戸は目元を細めて、タバコを灰皿に押し付けた。ジュ、と音。三井がパチリと瞬きをする。今度は水戸が愛しいものを見るように口元を緩めて、手をのばす──

    『大切な人を守るために。禁煙を始めよう』


    **


     朝方の、空がようやく白み始めてきた時間帯。
    水戸は広いベランダに出て、片肘をその欄干に置く。白く清潔なそこは、未だに少し慣れないが、片手だけでタバコを取り出すさまはひどく手慣れていた。
     口に咥えると、カチ、と音がなって目の前にチラチラ翳る小さな灯火が差し出され、タバコの先端が焦げる。
    水戸は驚くこともせずに、すぐにジュッと火を消して、それから緩慢な動きで斜め上を見やる。

    「……ようへい」

     掠れた声で、誘うように名を呼ばれる。悪戯げな笑みだ。首に情事の跡をびっしりとつけて、真っ赤な舌をチロと出している。目元は昨晩散々泣いたせいか、赤く染まっている。

    「ひさしさん」

     水戸の声はひどく柔らかい。どちらともなく顔を近づけて、舌を絡ませあった。苦味のない腔内。煙も吸わないで、タバコを捨てたらしい。

    「っは、ずっとこうしてやりたかった」

     銀色の線が二人の間を繋いで、水戸が目元を細める。興奮したときの水戸の癖だった。三井だけが知っている。
     たまらない気持ちで、三井は水戸の頭に手を伸ばした。セットされていない、柔らかな髪。これも三井だけの。水戸が思い出したように笑って、幼い顔を三井に向ける。

    「そう言えばアンタ、すごい駄々こねてたよね」
    「……みとのその顔は、俺だけのだろ」

     スタイリストの一人が、水戸に髪を下ろすように打診した時、強い反対の意を示したのが三井だった。『水戸はリーゼントのままのがかっこいいですよ』『髪下ろすと放送できなくなります、ダメです、とにかくダメです』なんて随分と必死だった。

    「髪下ろした俺は、かっこよくない?」
    「んー、かわいい」

     くしゃくしゃと頭を撫でられる。最初は気恥ずかしかったが、今は愛されているなあと実感する。
     それにしても、公共の電波で随分といちゃついてしまった。スタジオの人々には大絶賛をもらったし出来は自分たちでも理解しているが、あれが皆の目につくと考えると、少し複雑だ。大楠たちには確実にからかわれるだろう。それに。

    「三井さんのエロい顔、テレビに出ちゃったなあ」
    「うはは、エロいて」

     一発撮りと言ったものの、なんど撮り直しを希望しようと思ったか知れない。舌を出したりあんな目をしたり。台本には書いていなかった。できれば独り占めして、誰にも見せたくなかった。
     三井はひとしきり笑ったあと、伺うように覗き込んだ。眉を下げた、弱気な顔。誰にも見せない、水戸だけの顔。

    「……嫌だったか?」
    「んー、俺のものって言えたのは良かったかも」

     このCMで、三井を諦める輩は多いだろう。あんな目を向けられる水戸に、敵わないと。
    でもどうだろうか。男を煽る気満々の表情を見て我慢できなくなる輩もいるだろうから、やっぱりイーブンかも知れない。まあ、直接手を出してくるようなやつは処分してやればいいだけなのだが。
     三井は嬉しそうに笑って、また水戸に口付けた。ちゅ、と可愛らしい音を鳴らせるだけの、触れるようなキス。高校時代からの気に入りのスキンシップだ。

    「俺も、お前のものって言えて嬉しかった」

     ──ああ、この人は。
    火を付けるのがうますぎる。
     体育館に襲撃に来たときだったり、信じられないプレーで魅了してきたときだったり、今回のように的確にツボを突くようなことを言ってきたり。タバコを吸わないのに、火を付ける動作だけは様になっている。
     水戸は燃え上がる心地で、三井に手を伸ばす。
    嬉しそうに受け入れらるのだから、もう手に負えない。
    ずっとずっと、ジリジリと燃やされ続けている。これからもきっと、絶えることなく。

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    DONEラブレターの日ということなので。同棲洋三でラブレター小ネタです。恥ずかしがり屋のラブレター


    いつもより、少し遅めに起きた休日の朝。
    リビングのテーブルに置かれた封筒へは【水戸へ】と書かれた三井さんの文字。
    なんだろう?と思いながら中を取り出せば便箋が一枚。
    二つ折りにされたそれを開いて目にしたものは。
    【俺はお前が思ってる以上にお前に惚れてるし、愛してんだかんな。あと、この気持ちはお前のと一緒にお前と俺ごと墓場まで持っていくつもりだから覚悟しとけ】
    「・・・・・」
    まったくもってこの人は・・・
    俺との関係を全然周囲には隠しはしないけど、変なとこで恥ずかしがり屋で、俺に面と向かっては「好きだ」とか「愛してる」とかはなかなか言わない。
    それなのに、こんな熱烈なラブレター寄越してくるなんて。
    「・・・マジで、何回惚れ直させたら気がすむの、あの人・・・」
    三井さんの文字をなぞりながら、俺は口許が緩んでいくのを止められない。
    きっとこれを書いてる最中も、封筒に入れ込む時も、顔を真っ赤にしてたんだろうなと、想像できてしまう。
    「帰ってきたら、三井さんにどんだけ嬉しかったか教えてやんなきゃな」
    真っ赤な顔して涙目で逃げを打とうとするだろうけど、逃がしてやる気 551