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    花洋 お題「傘」
    中学生時代、傘を忘れた花に「入れてあげよーか?」と聞いたところ笑顔で入れてくれ!と言われてしまったので「冗談。貸してやるよ」と逃げる洋の話

    #花洋
    huaYang

    rain of liars「入れてあげよーか?」

     あーあー。可哀想だな花道。今回はどうやらなかなかの性悪を好きになっちまったらしい。好意に応える気もないのに、こうしてからかって遊んでる。
     数秒前まで、傘がない!と喚いていた花道は、途端に降って湧いた機会に顔を真っ赤にした。ハクハクと口を開閉させて、ふぬっだかぐうっだか唸っている。さっさと頷いちまえばいいのに。そうしたらチャンスは生まれるわけだし、あんまりグズグズしてると……ああほら。女は笑みを深くして、パサ、と花柄の傘を開く。

    「あはは、冗談に決まってるでしょ!」

     そうして、さっさと雨の中を歩き出し、友人と見られる奴らと塊になってキャッキャ騒いでいってしまった。ねーミサキ、桜木くんと付き合うの?まさか!ちょっとからかっただけよぅ、と。だんだん遠くなっていく声が雨音をかいくぐってこちらまで届いてくる。

    「……あー、花道」

     こりゃ失恋かな。でも今回はそれで良かったんじゃないか?ああやって弄んで遊んでるヤツとなんてうまく行きそうにないし……いや、これは逆効果か。慰める言葉を考えながら、斜め上にある赤い頭の友人を見上げる。てっきり傷ついてあの悲壮な音楽を漂わせているかと思ったのに、どうしたことかぽーっと浮かれたツラをしていた。

    「い、イタズラな笑顔もかわいい……すきだ……」

     ……はあ。これだから恋ってやつは。
     舌を打ちそうになる気持ちを必死でこらえて、とん、と小突く。それでお前、どうやって帰るつもりだよ。この大雨、流石に身一つじゃ大変なことになるぞ。
     すると花道の目が下りてきて、俺の持った黒い傘にとどまった。ええ?うそ、やめろよ。花道がじっと俺の傘を見つめて、指さして、なぜか腕まで掴んできて。今にも言葉を吐きそう。まずい、いやだ。なんか黙らせないと。慌てて口を開いて、

    「入れてあげよーか?」

     間違えた。
     あの女と同じ、性悪な笑み。真似して小首までかしげて上目遣い。サブイボが立つ。
     どく、どく、と心臓が拍動して、永遠にも似た数秒。たぶん、花道にとっては何でも無い3秒間。どんな答えをもらっても悪い方向に向かう気しかしない。
     花道が一回瞬きをして、それから。ニカリ、と笑う。ザアザアと雨は降りしきっているのに、さんさんと太陽が輝いているような錯覚。一瞬雨音が耳を占領して、でも花道の声はどんなに遮断しようとしても聞こえてしまう。大きく口を開けて、笑みの形で元気よく。

    「おう!入れてくれ!」

     ────、
     ──ああ、ほら。悪い方向に向かう気しかしないって。こんなのいつものことなのに、ちょっと今日はダメみたいだ。あれかな。今回は女のほうが積極的にベタベタしに来てるからかな。面白いおもちゃ見つけたみたいに散々遊ばれちまってさ。その度に頭と同じくらい顔真っ赤にするんだから、あれだよな、ほんとあれ。
     はは、とごまかすように笑って、傘を押し付ける。ふぬ?となんにもわかってない顔。

    「冗談。貸してやるよ」
    「え、でも洋平は」
    「いいって。俺これからバイトなんだ。じゃーな、花道!」

     まだなにか言おうとする花道の腕を強引に払って押し付けて、パシャパシャと水溜りの中をひた走る。すぐに校門を抜けて、いつもと違う道へ。花道のことだから追ってくる気がして。まあそれも自惚れかもしんねえけど用心するに越したことはないんだし。だってこんな顔、絶対見せらんねえ。

    rain of liars

     薄暗い路地は人の気配がない。駆けていた足を次第に緩め、立ち止まる。水を吸った靴が重い。早まる雨足は俺の体を冷たくするばかりで。セットしたいた髪が崩れ、目に入ってうざったい。

    「……こんなの、いつものことだろ」

     たとえば、俺の飲んだコーヒーを『一口くれ!』とねだってきたり。
     たとえば、俺の弁当を指さして『洋平が作ったのか?くれよ』と、あぐと大口を開けて待ってみたり。
     たとえば、手つなぎデートがしてみたいとウブな夢を語ったその日の内に『洋平!あっちにでっかなカブトムシがいたんだ!こいよ!』と手を取って引っ張ってきたり。

     こんなの、いつものことだ。いつもどおりでなかったのは俺の方。
    さっさと頷いちまえばいいのに、そうしたらチャンスは生まれるわけだし……数分前の自身の言葉が耳に痛い。生まれるわけねえだろチャンスなんて。だってあんな反応見せられたら、わかっていても再認識してしまう。

     その意味を考えることもないほどの、脈なし。

     いつもだ。いつもそれを繰り返している。今回は多分、脈アリの方の反応を目の前で見せられた上でだったのがまずかった。反省反省。次からは女のマネなんて馬鹿なこと、しないよーにしようぜ。
     タバコを取り出して、ライターをカチカチ弄る。つかない。運よくついて一瞬煙が上がってもすぐに立ち消える。そりゃそうだ。嵐がごとき大雨だから。ぼうぼうと風がうるさくて、どこからかキャアだかウワだか知らん奴らの悲鳴が聞こえて、ドスドス足音。近づいてくる。え、なんだよ。まさか不良?こんな日にも絡まれんのかよ、しかたねえ、この鬱憤晴らさせてもらうか。
     身構えて、雨の中に目を凝らす。くそ、見にくい。相手は俺の事がわかっているようで一直線に向かってくるのに。と、かすかに見えてくる相手の姿。赤い。あかい、髪──

    「え、」
    「ようへいっ!!!!」
    「おいバカ、」

     勢いを殺しきれずに飛びかかってきて、俺もツルンとすべって、あ、やべ。コンクリートに強かに頭を打つ。いたい。チカチカと点滅。いくつかの瞬きの後に、はあはあと息を切らした花道の姿を確認して。石頭で良かった。

    「洋平!大丈夫か!」
    「おー……つか退けよ、重い」
    「いやだ!」
    「はあ!?」

     花道の大きな右手が、俺の胸のあたりにあって、正直気が気じゃない。その上いつも決まってるリーゼントが崩れてぽたぽたと水を滴らせていて。花道は雨から俺を守るように左腕を俺の顔の横に突いて、おっきな体で覆いかぶさってきた。顔が近い。女子が騒いでいたのを思い出す。床ドン、ってやつ?やべー、心臓の音、雨でかき消えててくんねえかな。

    「ようへ、逃げるだろ。何でおいてったんだよ、酷いぞよーへー」
    「言っただろ、バイト。急いでんの。だから早くどけ」
    「じゃあ何でこんなとこでぼーっとしてたんだ」
    「足音がうるせえから、ヤベー奴が来てると思って身構えてたんだよ」
    「うそだ。タバコの匂いする」

     うそはお前だ、鼻良すぎね?一瞬煙出ただけなのに。まさかそれ追ってここまで来たわけ?すげえな花道、天才か?

    「……傘貸してやったのに結局ずぶ濡れじゃん」
    「むっ……質問に答えろ洋平」
    「ちょっと機嫌が悪かっただけだって。ほら、目の前で青春見せられちゃって」
    「ほんとか?」

     ほんとだって、と笑いながら、押しのけようと胸板を押す。びくともしない。本気で押して無いのもあるけど、俺の力で押してるのに一瞬もよろめかないのはびっくりだ。

    「洋平、俺はしっかり言葉で言ってくれないとわかんないぞ」
    「なに?言いたいことは言ってるって」
    「いつもなんか言いたげにしてるだろ。今日もそうだった」
    「、そう?気のせいだろ」
    「なあ洋平、俺お前の嫌なことしたくねえ」

     意外に察しのいいところがあるこいつは、そんなとこばかり気付いてしまっていたらしい。じ、と見つめてくる暴くような瞳に、俺はなかなか、いやかなり弱い。だからといってそのまま言える事情ではないし、嘘をつこうとしても誤魔化されてはくれないのだろう。
     はあ、とため息を吐いて押し返そうとしていた手を緩める。相変わらずなんにもわかっていない、意識の一つもされていない、かわいー顔。言う気になったか!と嬉しそうにしている。言えるわけ無いだろ。ないので、

    「っうお?」

     ぐい、と思い切り胸ぐらを掴む。バランスを崩して倒れ込んできて、唇が。ふれあいそうになる間際、パシ、と手を挟み込んだ。
     至近距離。ふに、と花道の唇が俺の手に当たっている。手がなければ確実にキスをしていた。未だクエスチョンマークが浮かんでいる花道にふっと笑ってから、胸に突かれている一回り大きい手を掴む。今度は簡単に外れたものだから、する、と指を這わせて、ぎゅ。恋人繋ぎ。
     あーあー。可哀想だな花道。こんなやつに好きになられて。流石にキスはダメージでかいかなと思ってやめといてやったけど。その気になればいつでもできんだからな。
     じい、と見つめていると、花道の目が逸らされて、混乱したように彷徨う。口と口の間に挟まる手を見遣って、それから繋がれた右手を見遣って。体温が上がっていって、ぼぼぼ、赤くなる。うわ、俺の行動でこんなになるこいつが見られる日が来るなんてなあ。相手が俺でも、これだけ近けりゃ少しは反応を見せてくれるらしい。

    「よ、ようへ、これは、」
    「な?気持ち悪いだろ?」
    「え、」
    「男にくっつかれんの。花道そういうの多いから気をつけろって話」
    「え。……あ、よーへー、いやだった、か?」
    「おー」

     ば、と飛び退かれて、途端に遮られていた雨がザザザザと降り掛かってくる。アワアワしている花道の様子に笑みを浮かべながらゆっくり立ち上がった。頭、うーん、ちょっとくらくらする。花道の過剰摂取かもな。

    「よよよ、よーへー、すまん!今までずっと我慢さしちまってたか?」
    「いーよ。言わなかった俺もわりいし。でも花道のことが嫌いとかじゃないから安心しろよ。近過ぎは嫌だってだけで、それ以外は別に」

     何も意識されてない顔でベタベタひっつかれんのも困るが、だからといってそれらが一切なくなるのも寂しい。自分がなかなか面倒な性分であるということを知ったのは、花道と出会ってからだった。
     ぽーんと放り出されている傘を拾う。ありゃ、壊れてる。ちょっと大きめの傘。買うときに花道の巨体がよぎってしまったのだから、俺も大概どうしようもない。

    「はなみち、帰ろーぜ」
    「だが傘が、あ、あとバイトは」
    「傘はもう意味ねえだろこれ。ずぶ濡れだし。バイトは嘘。最初っからねえよ」
    「ぬ!?ウソついたのか洋平!!」
    「おー。わるいね、嘘つきで」

     ケラケラと笑って、ちゃんと友達の距離感であることに安心して。いつもより少し離れて並びながら、俺たちは雨路を辿った。


    *******


     生憎の天気だな。
    空港のガラスから見える空模様に、ぐ、と顔をしかめる。せっかくの花道の帰国日だってのに、大雨だ。荷物も多いだろうからめんどくさい。こんなことならチュウたちを引きずってでも来させりゃ良かった。荷物持ちくらいにゃなっただろ。

    「よーへー!!」

     なだれ込む人混みの中から、頭一つ抜け出した赤い髪が、ブンブンと凛々しい腕を振っている。浮かべられるニコニコの笑みはアメリカに行く前と全く変わらない。
     おー、と手を上げると尻尾が増えたようだ。たたた、と駆け寄ってきて洋平洋平!!と周りをウロウロされる。ほんとに犬か。

    「花道、おかえり」
    「っ、た、ただいま……」

     ありゃ?てっきり大声で返されると思ってたのに、聞こえた声は消え入りそうでたどたどしい。
    もしかしてしばらく離れてたせいで価値観が正常に戻っちまったかな。冗談のノリからだんだん慣らしてって、うちに来る度に言い合うようにしてったのに。まぁ今となってはどうでもいいことだけど。

    「チュウ達呼べなくて悪いな。大事な用事があるとか言ってて、」
    「洋平」

     かと思えば、やけに真剣なトーンで名を呼ばれる。ん?と返事を促すと、顔がかああ、と赤くなる。本当にどうした。

    「だ、抱きしめていいか……?」
    「……ん?」

     なんだこれ。どうにもこうにも様子がおかしい。訝しんでいると、やっぱりダメか、と尻尾が垂れ下がっているさまを目にしてしまい、慌ててフォローする。

    「別にいーけどよ。どうした花道、ハグってことか?アメリカに染まってきたな」
    「む、む……」

     ば、と両手を大きく広げて待つと、そろーっと手が回ってくる。大きな体に包まれて、温かい。最後に見たときよりかなり育った胸筋が目の前にある。こんなに近づいたのは中学生以来か。なんだかあの時の恋が蘇ってきそうだ。こいつも寂しかったのかな、と思ってポンポンとあやすように背を叩く。背中に回される腕に力が加わり、みしりと音がなった。痛いって。

    「花道、ちょっとは力加減考えろよ」
    「す、すまん……あと洋平、アイツらには手紙を出しておいて……」

     ごにょごにょ、と言いよどむ。手紙。そうだ、花道は筆まめなやつで、週に一度は手紙が届いた。時折電話もかけてくるものだから、バイトが消し飛んでいった。

    「……来ないように言ったんだ」
    「……なんで?」
    「ふ、ふぬ……」

     なんだなんだこれ。ほんとになんだ。混乱する。どくどく、と心臓がなって、あいや違う。うるさいくらいに鳴ってるのは目の前の、花道の心臓だ。

    「ようへ、まだ俺に触られるの気持ち悪いか……?」
    「え、」

     中学生の頃、たしかそんなことを言って誤魔化したのを思い出す。素直な花道はすっかり信じて要望通りにしてくれて、そのおかげで俺は恋を昇華出来たわけだが。
     ぐりぐりと頭を肩口に擦り付けてくる花道の坊主を撫でてやって、いや?と返す。

    「あんときはほら、思春期だったから。いろいろ過敏だったの。今は大丈夫だぜ」
    「ほんとか!」
    「おー。ちゃんと考えてくれてありがとな」
    「ぬ、そのことで話が、あるんだが……」

     体が離される。真っ赤になった花道の姿。頭と同じくらい赤いその姿は、何度も見た光景だ。……好きな人を、目の前にしたときに。

    「洋平。俺はあの時ウソついた。気持ち悪くなんて全然なくて、むしろ、なんかドキドキして……でもなんでかわからなかった。けどアメリカにいた時、洋平がいないのがすげー違和感があって。そんで電話で洋平の声聞いてほっとして、同時に心臓がバクバク鳴って」

     ぐ、と拳を強く握って、真剣な眼差し。

    「今も、抱きしめて心臓がぎゅうってなった。俺、洋平のこと好きだ」
    「────」

     目を真っ直ぐと見つめて。俺が昔、言えなかった言葉をあまりにもまっすぐ伝えてくるものだから。
     思わず眉を下げて情けない笑みを見せてしまう。

    「……はなみち」
    「おう」
    「傘、忘れただろ」
    「え、かさ?傘は」
    「なあ。花道、入れてやろーか?」

     ぇ、と小さく呻いて、もともと赤かった顔がもっと赤くなる。首まで真っ赤。ハクハクといつかのように唇を震えさせて、でも、あの日のように何も言えないままではなかった。嬉しそうにニカリと笑って、歯を見せる。

    「おう!入れてくれ!」

     いつ花道に伝えてやろうか。ここではダメだな、人の目があるわけだし。じゃあ大雨の中、二人で一つの傘を差して歩くその時に言ってやろうか。花道、俺は愛してるぞって。
     そのときの反応を思い描きながら笑うものだから、変わらず大きな傘はブラブラと揺れた。
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