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    洋三 お題「ビニール傘」
    相合い傘がしたくてたまらない両片思い洋三の話

    #洋三
    theOcean

    相合い傘がしたいッッッッ!!!! 相合い傘。それは憂鬱な雨の日を一気に天国へと変えるキャッキャウフフなイベント。一度傘の中に入ればそこは二人だけの世界。「あ、ごめん体当たっちゃった……」「ん……もっと近く来なよ。濡れちゃう」だとかいう甘酸っぱ〜い会話が量産される、急展開余儀なしの大チャンスだ。
     つまり俺は何が言いたいのかって?いいぜ、ズバリ言ってやる。

    相合い傘がしたいッッッッ!!!!

     ターゲットは俺が絶賛片思い中である水戸洋平だ。この日のために相合い傘の何たるかを研究し、逆さのてるてる坊主を吊るしまくり、オシャンな傘も買い込んだ。気合は十分だ。雨足はムードの演出には少々熱烈すぎる勢いだが、傘さえさせりゃ何でもいい。
     徳男の熱い応援を背に昇降口へ向かうと、そこには。早速お出まし、というか佇んでいる。水戸の姿。

    「水戸?」
    「あ、ミッチー。おつかれ」

     微笑をたたえながら、ひら、と手をゆるく振られる。うっ、クリーンヒット。トスっと来た。
     ぽうっとだらしなくなりそうな頬を引き締めて、何でも無い風を装う。悟らせないようにするのが重要だ。男と相合い傘なんて、普通じゃ嫌がられるに決まってるからな。

    「どうしたんだ?帰んねえの?」
    「んー……実は、傘忘れちゃって」
    「まっじかー!」

     ッッしゃオラァ!!
     マジかすげー順調だ。水戸が傘を忘れたことにより、俺が忘れたふりして頼み込む必要がなくなった。『え?番長とかに借りなよ、俺嫌だよ』なんて言われる可能性がなくなったのだ。
     つまり現状は俺のが立場が上。かわいー上目遣いで少し恥ずかしそうに頬を掻いてるその姿は、俺のスマートな『入れてやろうか?』待ちだろう。イケる。絶対断られない。

    「入れてやるぜ水戸!!」
    「ふっ、うん。じゃあ入れてもらおうかな」
    「ッおう!!」

     思わずぐ、っと拳を握り込む。直後ハッとして慌てて水戸を見やるが、微笑んだだけで何も言われない。よし、不自然には思われてないみたいだ。
     いやしかしこんなにトントン拍子に事が進むとは。おいおいこれもしかしてチューくらいはできんじゃないか?それでなんやかんやで家に連れ込んであんなことやそんなことが出来ちまうかも。なんたって相合い傘のパワーはすごい。超絶急展開を迎えさせる舞台装置なのだから。徳男の買ってきた少女漫画に描いてあった。
     威勢よく傘立てに闊歩していき。そして。

    「……あ、あれ?え、うそだろ」
    「どうしたの?」
    「………ぬすまれた……」
    「えっ!」

     ビシャーン、と雷が落ちる。俺の心にも、リアルにも。
    徳男と買った2530円……。自作しようとしてくれた徳男を必死で止めて買いに行った、シックな黒い傘……。上から下から横から見ても、どこにもない。最悪だ。誰だ盗みやがったやつ。見つけたらぶっ飛ばして、ああいやダメだ。喧嘩はしないと誓ったんだった。
     計画が頓挫し、フラフラと歩く。水戸も困りきった顔をしている。そうだよな、こいつ帰る方法なくなっちまったもんな。俺は最悪徳男に入れてもらえばいいけど。

    「大丈夫?盗んだやつは俺がとっちめておくから。……ぁー、でもどうしようか……」
    「マジでわりい水戸。部室に置き傘ねえかな。ちょっと行ってくるわ」
    「え!あ、ちょ、ッあー!よく見たら傘っぽいのあったかも!」
    「ほんとか!?」

     光明が差す。水戸がうっすいカバンをガサゴソといじり、えいやと取り出す。…………あれ。

    「あった、かさ………?」
    「……かさ、っぽい形ではあるな……?」

     テレレレッテレーと出されたそれは、傘っぽい何か。折りたたみ傘の形状をしたそれは、鈍い銀の光を放ち、ところどころに赤黒い汚れが付着している。

    「あっ、花道と作った武器だこれ」
    「嘘だろ自作の武器!?」
    「傘と取り間違えた……」

     ずーん、とその場に重い空気が立ち込める。ヘコんでる水戸は珍しかったが、俺もなかなかのダメージを負った。沈んだと思えば持ち上げられて、ぬか喜び。ごろごろごろ、と雷が鳴って暗雲がその重みを増す。
     どうしようか。かたや一方は傘を盗まれ、かたや一方は謎の武器と取り違え。もはや嵐級の大雨を前に、心中は負けず劣らず荒れ狂っていた。
     と。そこに。

    「三ッちゃん!!俺の傘使って!!!!」
    「よーへー!!この天才の傘を貸してやろう!」

     ずささ、と三年の下駄箱の影から徳男が、一年の下駄箱よ影から桜木が同時に飛び出してきて、傘を押し付けてきて。「あ。」「ふぬ、」という声を上げ、だらりと冷や汗を出す。あわわわわ、と騒ぎながら。

    「うおおおお、三ッちゃん、別に使わなくてもいい!どっちでもいい!」
    「そ、そうだぞよーへー!拾いもんだからボロボロだしな!?そ、それじゃ、頑張れよ!」

     頑張ってね三ッちゃん、と徳男も声を掛けてきながら、それぞれの傘を差しながら逃げるように飛び出ていく。
     …………気持ちは嬉しいけどよ徳男。どうすんだこれ。傘、二本なんだけど。相合い傘の難易度鬼レベルになっちゃたんだけど。むしろさっきの状況のほうがまだなんとかなった。適当なやつを探してきて『これ一本しかなかったわ』などと嘯けば。しかし目の前で受け取るところを見られてしまったわけだし。
     ガックリとしながら、それでもいつまでも名残惜しそうにしているわけにもいくまい。相合い傘がしたかったなどど知られてはキモがられること確実だ。

    「……じゃあ水戸、帰るか……」
    「ッ、あー!三井さんこれ壊れてるや!!花道のやつ、拾い物だって言ってたからなあ!」
    「え!?」

     ばき、と妙な音が鳴り、薄汚れたビニール傘の持ちての部分がボロボロと崩れた。壊れたというか、壊したというか。
     驚いている俺に向かって、水戸はニコリと綺麗な笑みを浮かべる。含みながら見上げてきて、かっこい〜表情に疑念は吹っ飛んだ。なんだかわからないがチャンスだ。

    「み、水戸!俺の、つーか徳男の傘だけど!入るか!?」
    「うん。入れてくれる?」

     う、うわ〜!!最高だ!ナイス徳男!あとボロ傘拾ってきた桜木と馬鹿力の水戸!
     じーん、と暗雲立ち込める天に感謝しながら、パサリと傘を開いて。……そして。

    「え?」
    「あ、」

     ぴしり。固まった。
    おい徳男。おいおい徳男。なんだこれ。
     これ、この傘──『水戸とハッピーラブラブ相合い傘計画』のボツ作戦に出てきた徳男の自作傘じゃねえか!!いつの間に作ってたんだよ、やめろって言ったろ!!
     相合い傘の落書き。アレあるだろ、それが傘にいい感じにデザインされている。なんかおかしいと思ったよだって石づきの部分がハートだったもん!
    更に最悪なことに、しっかり名前までプリントされてある。男らしいはっきりとした筆致で、しっかりと。『炎の男、三ッちゃん』と『和光中の狂犬水戸』の名前が並んで。 
     絶望を漂わせながら、ギギギ、と水戸の方を振り向く。軽蔑の色があったらどうしよう。それだけで済めばマシか?俺だったら殴ってるぞ、キモいって言って雨だろうがなんだろうが一人で帰るぞ。

    「三井さん……」
    「は、はい」

     三井さん呼び。だめだこれ完全に怒ってる。ガチギレすると名字呼び出すやつって居るよな。かえって丁寧になるヤツ。
     びん、と背筋を伸ばして顔を青くする。正座したほうがいいのかもしれねえ。雨でびしょびしょの地面だから正直嫌だけど、そうも言ってられないだろうこの状況は。
     どくどくと動悸を激しくしながら顔色をうかがうと、水戸は。ニヤニヤとした笑みをたたえて、楽しそうに見つめてきていた。え、どっちだこれ。

    「そんなに俺と相合い傘したかったの?」
    「う……はい、したかったです……」
    「へぇ〜、こんな傘作っちゃうほど?」
    「いやこれは徳男が、ッ、いや、徳男と売り場1週間うろついちゃうほど!」

     じいっと見つめてくる黒い瞳に耐えきれず白状。そうするとまた嬉しそうになって、ニヤニヤが深くなる。
    へえ、そうなんだ、へえ〜、と赤い顔をジロジロと観察されて羞恥で死にそうだ。

    「三井さん、俺のこと好きなの?」
    「好きだ、すげー好き」
    「……ふーん」
    「つえーしかっけーし、あとちょっと抜けてるところとか。傘と間違えて武器持ってきちまうのもそうだし、猫と間違えてビニ袋に話しかけてたことあったろ。あれで落ちたな。あと近所のばあちゃんの荷物持ってやってたり、じいちゃんの仕事手伝ってやったりしてて、」
    「も、もういい!わかったから!」

     もうどうとでもなれとばかりに指折り列挙すると、幾分か頬が赤くなっている。それもコホンという音とともに跡形もなく消えた。ポーカーでは絶対勝てないだろうな。
     水戸はまた余裕な表情を浮かべてヘラリと笑う。こいつはいつもこんな、オトナな雰囲気でちょっと悔しい。二歳も年下なのに。

    「……じゃあ、付き合ってあげようか?」
    「え、?」
    「俺と付き合わない?」
    「…………え!?は!?!?いいのかよ!?」
    「いいよ、面白そうだし」

     う、うわ〜遊びのつもりだ!けど嬉しい!死ぬほど嬉しい!超絶急展開、すげー!!相合い傘パワーってやっべえ!!
     やったー!!と叫びながら、気持ちが抑えきれずに好きだ水戸、好きだとこぼしてしまう。たとえ気持ちが釣り合ってなくとも、俺のプロ並み恋愛テクニックによってすぐにドボンと落としてやる気概だ。
    ほら、今だって正面から直球をぶつければちょっと照れ臭そうにしている。桜木を相棒としてることから考えても素直な奴が好みなのだろう。

    「はいはいわかったって。ほら、早く帰ろーよ。三井さん、傘入れてね」
    「え、でも……」

     徳男の傘は大雨の最中にあってもインパクトがデカすぎるような気がするが……。晴れて恋人関係になれたとて、この傘で相合傘をするのはどうなんだろう。痛いをこえて変人カップルだ。

    「だってこれしか無いじゃん。花道のは壊し、ん、壊れちゃったしさ。それとも俺とこの傘入るのはイヤ?」
    「ヤじゃねえ!お前が嫌かと思ったんだよ」
    「そう。じゃ、しっかり持ってて」
    「おう!!」

     夢だった相合い傘が出来て更に恋人にまでなれて。こんなに嬉しいこと、そうそうない。
     ルンルン気分でピンクの奇抜な傘を差して、三井と水戸は暴風吹き荒れる外界へと二人並んで踏み出していった。




    ──余談だが、この後二人は、あまりの嵐に中継に入ったテレビに文字通りの『相合い傘』を差してキスをしているところをしっかりと全国生放送されてしまい、翌日には軍団筆頭に校門前で盛大に祝われることとなるのだが……

    「水戸、俺たち相合い傘カップル、日本中で騒がれてるぜ!これでお前、俺と簡単にゃ別れらんねーぞ!うわはははは!!」
    「はは、それはこっちのセリフだよ、三井さん。アンタももう離れられないからね」

    ──いったいこれは、どちらの策略であっただろうか。
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