オメガバ
いさばろ
馬狼の事が好きだ。
そう自覚してから隣でサッカーをして、時々見せてくれる新しい表情にドキドキしっぱなしで最高に幸せだった。
暫くして、なんとなく馬狼からの好意にも気付いていて、馬狼も俺の気持ちに気付いてくれていて、後はどっちから吹っ掛けるか…そんな小さい駆け引きを楽しんでた。
そんな時、馬狼がΩだと知った。
俺は自分がαである事を伝える事が出来なかった。
俺がαだと知ったらきっと、弄ばれてるとでも思って離れていく気がして、テンパった俺は「運命の番に会ったらそっちに行くんだろうな」なんて口を滑らせた。
出来るのなら俺が運命になりたい。
そう願いながら笑って誤魔化した。
自室に戻ろうと施設を歩いていたところ、いつもなら開く自動ドアが反応せず、電力が切れたかのようにうんともすんとも言わない。
きっと絵心がモニタリングしてるだろうから、そこで気付いて貰うしか無くて、待つしかないなと馬狼に声を掛けたところで息の荒い馬狼に気付く。
突然の事に慌てて駆け寄れば咽せ返るほどに浴びせられるΩのフェロモンを感じて、突然のそれに奥歯が疼きはじめる。
どくどくと心臓が高鳴りはじめてそれにつられて身体が熱くなり、次々と溢れ出てくる唾液を飲み下す。
瞬時にΩのヒートだと分かった。
苦しそうに息を荒げ吐息混じりに悪態を吐く馬狼から目が離せない。
今すぐにでも俺のものにしないといけない気がして、落ち着け落ち着けと平静を保つ為に理性を掻き集める。
「潔……?」
戸惑いの浮かんだ声で名前が呼ばれたかと思えば、揺れる紅い瞳と目があって、それがゆっくりと見開かれる。ああ…気付かれた。
「は…、何でテメェまで…βのはずじゃ…」
「……」
「まさか…」
震える馬狼の言葉に今まさに罰が執行されようとする罪人のような気持ちになる。
逃げる所なんて無いはずなのに、馬狼が何処かへ行ってしまいそうで思わず手が伸びる。
「ばろ…っ、」
「触んな!!っ、テメェ騙しやがったな」
伸ばした手が叩き落とされ、叱責する声が胸に響く。
心臓が痛いくらいに締め付けられて頭が回らない。
違うんだと聞いて欲しいのに、声が詰まって出てこない。
「βのフリなんかしやがって…っ、そうまでして俺を見下してェかお偉いα様がよッ」
叫ぶように向けられる悲痛な言葉が馬狼の痛みを伝えてくる。
ちがう、違うんだ馬狼…っ
お前を見下したいわけじゃない。
お前の隣に立ちたかったんだ。
フーッフーッと息を荒げて俺を睨みつけてくる馬狼に手足が冷たくなっていく。
フェロモンに当てられて頭の中がぐわりと揺れる程に興奮して熱い筈なのに、…痛い。
「違う、ばろ……っ」
「触んな、近寄んな。どうせテメェも俺をΩだって見下すんだろっ」
「ちがうっ、好きなんだばろう、お前のことが…っ」
徐々に強く濃くなってくる大好きな人のフェロモンに全身が歓喜していて今すぐにでも抱き締めたいのに、間違っても手を出さないように、未だにジンジンと痛みを訴える手で服を握り締める。
「信用出来るわけねぇだろ。この状況でαのテメェの言葉なんか」
「俺はお前が好きだから、お前が嫌がることは絶対しないッ」
俺の動向、一挙一動を見落とさないようにと疑い深く向けられる視線に、今までの信用が無くなったのだと思い知らされる。
αだとかΩだとか、そんなもので俺の気持ちを疑って欲しくなくて、確かに好きな気持ちを伝えたいのに、伝わらない事に歯噛みする。
好きだ好きだとほざく目の前のαに苛立ちが募る。
互いに本能剥き出しのこの状況下で、そんな言葉信用出来るわけが無い。
どこまでいっても甘ちゃんな考えの男は握り締めた手を振るわせながら俺を見つめてくる。
その瞳に、今まで無かった興奮と欲情の色を見付けてしまってゾッとする。
噛まれてしまったら俺の中の何かが変わりそうで、漠然とした嫌悪感と不安感を感じる。
抑制剤を飲んでいても関係無く引き上がる熱と疼く下腹部にどうしたって舌打ちが漏れて、密室の中、俺と潔の荒い息遣いが響く。
「ばろ…っ、絶対襲わない、、ッ、お前が、好きなんだっ、だから、っ、今は絶対、どうやったら信じてくれる…?」
独り言のように繰り返される言葉
ぐずぐずと鼻を啜りながらも俺から視線が外されることは無くて、その必死さにすら嫌気がさす。
αなんてみんな同じだろ。
信じるも何もない、どうせ心の中じゃハンデのあるΩを見下し弄ぶだけ弄んで自分の欲望を満たすだけの下衆だ。
気付いた時にはネックコルセットのベルトへと手が伸びていて、震える手でガチャガチャと音を立てて外していく。
「はッ、αなんざみんな同じだろっ、これでも噛まねぇ襲わねぇなんて言えんのかよ!?」
「ッ…、、?!」
「おら、ほんとは噛みたいんだろ?」
首元を覆っていた革を剥ぎ取れば頸が空気に晒されて本能が危機感に悲鳴を上げる。
見せ付けるように後頭部を撫であげて首を傾ければ、αのフェロモンが膨れ上がったように感じて、力の入った視線が潔から向けられる。
αから向けられる強い視線に身体が竦みそうになり心臓が締め付けれる。
それを隠すように挑発して笑えば、潔の唇がきゅっと引結ばれる。
αはどうしたってαなんだよ…
Ωもそれは変わらない。
第二性なんてクソ喰らえだ、俺は俺だ。
「お前も、、どうせαなんだろ」
「ッ〜〜、、、」
ぎゅっと寄せられた眉間と責めるような視線を鼻で笑ってやれば、潔の身体がゆらりと揺れる。
ほら見ろ…
どうせαはΩを噛んだって痛くも何とも無い。
番なんてものになったところで飽きて捨てられた後、苦しむのはΩだけだ。
αに捨てられたΩの末路はいつだって悲惨だ。
噛んでみろよ、嗤ってやる。
「ッ、ぐっ、ぅ、、、」
「…は?」
潔の唸る声が上がったと同時に、いつ来ても良いように構えていた身体から力が抜ける。
目の前でΩに煽られたαが自分の腕に歯を立てている。
戸惑う俺をよそに、潔が口端から唾液を溢れさせながらぐっと顎に力を込めるのが見える。
Ωのヒートに当てられてるんだぞ…
驚いて向けた視線の先、潔の熱の篭った視線と俺の視線が合い、ばちりと目の前が爆ぜる。
強く求められていると分かるそれに身体は嫌でも歓喜する。
そこからは地獄だった。
唾液が垂れるのを構わず腕を噛み続ける潔からの視線を受けて、ヒートになった身体は容易にαを求めて熱くなり渇望感にごくりと咽喉が上下する。
2人して床に座り込み、荒い息遣いが響くだけの空間…
ぽたぽたと落ちる汗が床を濡らして、胎内がαを欲して受け入れる準備を始めるのが分かる。
ぐつぐつと煮えたぎったような熱さに息をすれば潔から溢れるフェロモンを嗅いでしまい欲が煽られる。
今までこんなに重いヒートが来た事は無かった。
αが近くにいるからなのか…それとも単にそういう周期だったのか…。
身体の倦怠感と疼く下腹部、濡れる胎内の感覚が気持ち悪くて、熱で浮かされた思考はΩの欲望をありありと俺に突き付けてくる。
これ以上乱されたくなくて痛いくらいに歯を噛み締めて息を殺す。
早く開けよちくしょう…っ
身体が熱くて堪らない…
少しでも冷たい場所を探して壁へ身体を押し付けたころ、閉まっていた扉が開いてβの職員が数人入ってくる。
何か言われている気がしたけれどそれに答える気力は無く、肩を支えられて部屋を出る時、朦朧とした意識の中で、潔が俺の名前を呼んだ気がした。
その後はΩ用のシェルターへと移されて、ヒート期間中約1週間をそこで過ごした。
サッカーも出来ず、身体に溜まる熱で思い出すのは潔の視線で、ちらつくそれを頼りに1人で熱を発散する。屈辱的で情けない…
シーツに縋ってαの熱を探す身体が俺の身体じゃないようで苛立ちを感じながらも考えるの潔の事ばかりだった。
シェルターから出る時、チーム変更の申し出があったけれどそれに従う気も無く断った。
αだから、Ωだからと決めつけられるのは嫌だった。
それはきっとあいつも同じなのかも知れない。
シェルターから出てチームに当てられている部屋に戻った時、あれだけ感じていたαのフェロモンは無くなっていて、心配そうな表情を浮かべた潔と目が合う。
「馬狼…、もう大丈夫なのか?」
「ああ」
「そっか、良かった」
心底安心したように笑う潔につきりと胸が痛んで会話を切れば、それ以上に潔が話しかけてくる事もなく、部屋の汚さに怒り部屋にいないクサオの愚痴を言いながら一緒に掃除をした。
日常に戻ってからも違和感はどことなく感じていて、俺との距離が一定以上保たれていて必ずと言って良いほど、俺が出口に1番近い位置にいる。
そして何かを探るように話しかけてくるようになった。
それに苛立ちを感じていたのも初めのうちで、次第に寂しさを感じるようになってくる。
「潔」
「ん?なに馬狼?」
「…っ、何でもねぇ」
「ふはっ、何だそれ!」
2人きりの部屋、2段ベッドの下に腰掛けた潔と1人ベッドに腰掛けた俺。
ぽそりと無意識に呟いた言葉に反応した潔の目が嬉しそうに細められて、首を傾げる。
いきなりの事に声も出ず、ぶっきらぼうに誤魔化せば吹き出して笑う潔の表情にじんわりと暖かい気持ちになる。
ここで、きちんと確認しておく必要がある。そう思って小さく口を開く。
今度はしっかりと意思を持って潔の名前を呼ぶ。
「潔…」
「んー?なんだよ」
「…まだ俺のこと、好きなのか」
笑いを含んだ声に確信をつくように言葉を選んで投げ掛ける。
しんっと静まり返った空間で心臓が煩いほどに跳ねているのが分かる。
…もう後には戻れない。
逃そうになる身体を叱咤して、潔へと目を向ければ、潔の目も強く俺を見つめてきていた。
「…俺は今でも馬狼の事好きだよ。αだって黙ってたのはごめん。でもお前が俺の隣で安心したように笑ってくれるから、言い出せなかった。あの時だって、きっとツラくて怖いのは馬狼なのに、俺はお前の番になりたくて仕方なかった。連れて行かれる馬狼を見て心臓張り裂けそうだった。俺のなのにって…、勝手に思って、ごめん」
「…ッ、そうかよ」
「馬狼が嫌だったら、部屋分けてもらうし、チームも…」
ああ、こいつはどこまでも潔なんだな。
馬鹿正直でお人好し、それでいて自分の中の芯は通っている。…俺が好きだと思った男のまま。
俺は潔が好きなんだと改めて自覚した。
その瞬間、噛んで欲しいと、潔のものになりたいと本能が叫びはじめる。
あれだけ第二性なんざ関係ないと思っていた筈なのに、俺と潔を繋ぐ手段になり得ると分かった瞬間に何がなんでも繋ぎ止めろと頭の中に響いてくる。
「チームを変えるのも部屋を変えるのも俺が断った。」
「え…?」
立ち上がり、そんなに空いていない潔との距離をゆっくりと縮めながら、ネックコルセットを固定しているベルトに指を掛け一つずつ外していく。
あの時と同じことをしている筈なのに、恐怖よりも興奮が上回り身体が上気していく。
震える指先で革の感触をなぞりながらいつもより冷たく感じる小さいバックルを外してベルトを引き抜く。
そんな俺の手を驚いたように見つめた潔がたじろぎ、ベッドから立ち上がりごくりと喉を鳴らす。
困惑した視線が俺に向けられて、掠れた声で名前が呼ばれる。
「ッ馬狼?」
「…、俺も、お前が好きだ。」
ゆっくりと確かめるように舌に乗せた俺の言葉に大きく見開かれる潔の瞳が光に照らされて綺麗な青色を浮かべていて、それがじわりと潤み揺れる。
泣き虫だな…
そう思いながら、ネックコルセットのベルトを全て外し終え、次に首元にあるボタンをぱちりぱちりと音を立てて外していく。
首元の締め付けが緩んでいくのを感じながら、潔の目から視線を外さず、拘束の意味を無くしたネックコルセットをガチャリと音を立てて床に落とす。
空気に晒された頸を一度撫でてから、潔を見つめる。
「お前はαなんだろ…」
「うん」
「俺はΩだ」
「うん」
確認するように落とす言葉に律儀に頷く潔の目の前に立ち、早く噛んで欲しいと溢れる思いを押し殺しながら、俺の言葉を待つ男へと、口を開く。
「噛ませてやるから俺のモンになれ」
不遜な態度で言い切った俺を見上げる潔の口元が驚いたようにぽかりと開いて、間抜けずらを浮かべたかと思えばふるふると唇を震わせながら泣きそうな表情を浮かべる。
Ωからの言葉じゃねぇな…とは思いながらも、それ以上に伝える言葉を持っていない。
思いを告げて立ち尽くす俺の頭へと潔の手が伸びるので、仕方なく目線を合わせるために少しだけ屈んでやる。
そうすれば勢いよく潔の胸元へ顔を抱き込まれ、洗剤の匂いと潔の匂いが鼻腔いっぱいに拡がる。
「ッ、おぃ、」
「すっげぇ、嬉しい…っ、ばろ…」
「ッ〜…」
「馬狼、お前のもんになってやるよ…、でもほんとの気持ちも聞きたい」
嬉しそうな潔の声色にふわふわと幸せな感覚が広がって、鼻がツンッと痛む。
顔を上げようとしたところで、突然声色が変わったかと思えば、耳元で呟かれた低い声と言葉に、慌てて離れようとした頭をグッと抱き締められる。
その力が強くてまるで言うまで離さないと言われているようでぐぅっと喉が鳴る。
恥ずかしくて堪らない筈なのに、促されるように名前を呼ばれてしまえば、俺がお前のことを求めてるんだと聞いて欲しくて戦慄く唇から搾り出すように今の気持ちを吐き出してしまう。
「ッ、お前に…っ、噛まれたい、噛んで欲しいっ、お前だけのモンになりたい…ッ」
潔の腹に顔を埋めてくぐもって聞こえる俺の声が欲望を曝け出す。
堪らず掴んだ潔の服を握り締めて呼吸をする度にフェロモンの混じった匂いに頭の中がくらくらとする。
「はッ…最高…、馬狼、好き、大好き」
頭を抱き込まれたまま、スルッと頸を撫であげられゾクゾクと快感が走り抜ける。
ヒートでもないのに身体が一気に熱を帯びて、詰まった息を吐き出す。
噛んでもらえると期待する身体がぢくぢくと疼いてαからの痛みを期待する。
頭を抱き込む腕の力が弱まり、顔を上げれば潔の顔が寄せられて、額をくっつけて擦り寄ってくる。
甘えるような仕草に小さく笑えば、吐息を吐いた潔の目が近くで俺の目を覗き込んでくる。
「馬狼…っ、俺の番になって」
いざ噛もうとしたところで、体格差でなかなか難しいと分かり、四苦八苦する潔となにやってんだよと2人で笑い合って、仕方なく床に座り込む。
1人ベッドの縁に腰掛けた潔の脚の間へと身体を寄せて背を向ければ、潔の手が確認するように何度も頸を撫でてくる。
「んっ、っ、擽ってぇ」
「うん…ちょっと待って、すげぇ興奮する」
「あ?」
「これから俺の歯型がつくって考えたらやばい」
ちゅっちゅと唇を押し当てられて興奮したような声で喋る潔に焦ったくなる。
早く噛めよ…っ
悶々とする身体に舌打ちをして、見えないせいで他の感覚が敏感になっている気がする。
頸に潔の吐息を感じたかと思った瞬間、ベロっと生ぬるい感触がしてぢゅっと薄い皮膚を吸い上げられる。
いきなりの事にびくつく身体と上がりそうになる悲鳴を飲み込み、慌てて振り向いた先、雄くさい顔をした潔と目が合う。
「ッ、潔!」
「ん、ごめんって、ちゃんと噛むから」
潔も俺も興奮していて、ふうふうと荒い息遣いが部屋に響く。あの時もそうだった。
必死に抑えていた…
今はもう抑える必要も耐える必要もない。
「馬狼…」
ぐっと頸に歯が食い込む感触に息を呑む。
はぁっ…っと漏れ出る息が詰まり、潔の手が俺の顎を掴み下へと向けて固定する。
抑えきれない興奮に唾液が次から次へと溢れてきて、飲み込みきれなかったそれが床を濡らす。
堪らず目を瞑った瞬間、潔の顎へと力が入って痛みが走る。
皮膚が突き破られる痛みに身体が硬直して、それと同時に襲ってくる快感に、痛みよりも快感と多幸感が上回り目の前がばちばちと爆ぜ、きゅっうと収縮する胎内がαを欲しがる。
「ぐっ、、っ、ン、ぁ」
「っ〜」
潔の歯が皮膚に食い込む度に、ぶわりと膨れ上がる支配される喜びと身体が潔のために作り替えられる感覚に声が上がる。
ぐっと強く噛み締められたそこが、暫くして解放されて、歯型をなぞるように舌が這い、キスが落とされる。
「あ…っ、、ッは…ァ」
「はぁ…、これでもう、全部俺のもん」
硬直した身体が弛緩すれば潔の手が後ろから回ってきて抱き締められる。
嬉しさの混じる声にふっと笑ってやって、後ろを向けば潔の顔がすぐに寄ってきて、唾液で濡れた唇を啄まれる。
「んッ…勘違いすんじゃねぇ、お前が俺のもんだろ」
「はいはい、馬狼の仰せのままに」
俺の言葉に潔がへらりと笑う。
頸の痛みがここまで幸せを感じるもんだとは思わなかった。
ぎゅうぎゅうと後ろから抱き付いてくる潔に苦しいんだよと文句を言えば、今まで我慢してたから良いだろと言われる。
それからはベッドまで引き上げられて、満足そうに何度も何度も頸に唇を当てる潔に気恥ずかしくなり、潔の身体を堪らず抱き込む。
「馬狼、一つ言い忘れてた」
「?」
「今度から絶対にあんな危ないことすんなよ!?」
向かい合った潔が思い出したと言わんばかりに眉を寄せ、言い含めるように言われる小言にため息が出る。
どうせヒート中にαのいる空間でネックコルセットを外したことを言いたいんだろう。
「今度なんてねぇよ…お前がいるだろ」
「ぐっ、ぅぅ、それでも心配するだろ?」
弱々しく抱き付いてきた男に呆れながら、今度のヒートの時にもう一度やってやろうと決める。
きちんと番になってからのヒートだ。
俺を求めるあの強い視線を思い出して口元が緩む。
end.
おまけ
ネックコルセットを舐める癖をやめさせるため苦い液体をつける馬狼のお話
潔と番になって暫く経つ。
もともとの性格からさらに献身的になった男はまるで犬みたいで、従順なそれに満更でもない。
ただ一つ困っているとしたら、ネックコルセットを執拗に舐めてくることがある。
汚いから止めろと何度となく注意しても止めることはなく、ぴったりとくっついてきたと思えばべろべろと舐め始める。
その後は革に歯を立てて頸を噛むような仕草を見せるせいで、噛まれた痕が疼いてこっちまで煽られる。
どうにか止めさせようと色々と調べれば、犬や赤ちゃんが舐める場所に無害な苦い液体を塗ると良いと書いてあり、直ぐに絵心に頼んだ。
暫くして届いたそれはスプレー状のもので試しに少しだけ舐めてみたけれど確かに苦かった。
それをネックコルセットへ振り掛けてそのまま装着し、いつも通り過ごしていれば、風呂の順番を待っている時に潔がベッドの上へと上がってくる。
「ばろ」
「ん…おぃ、風呂…」
「ちょっとだけ」
そう言って背中へとぴったりとひっついてきた男に内心呆れながらも反応を楽しみに緩む口元をシーツで隠す。
じわりと移ってくる体温を感じ、好きにさせていれば額を背中へと擦り付けてきて離れていく。
コルセットのお陰で舐められているのか噛んでいるのかはあまり分からない。
潔の反応だけを逃さないように集中していれば背中越しに潔の身体がびくりと跳ねる。
「んぇッ!?、、にがぁっ?!」
「ふ…っ、く…」
耐えきれず笑いが漏れる。
びっくりしたような声をあげて何で苦いのか不思議そうにしながらも目を丸める潔の瞳が若干潤んでいるのが見える。
「馬狼!苦いっ!」
「お前が舐めるからだろ」
信じられないとばかりに訴えてくる潔ににやりと笑って見せれば悔しそうな表情を浮かべる潔が何か言いたそうに唇を戦慄かせる。
「もう懲りただろ、これからは舐めるんじゃねぇぞ」
良い反応も見れたし懲りただろう潔に満足して、ふんと鼻を鳴らして言えば潔が静かになる。
流石に苦すぎたか?
いや、人体に害もないし事前に舐めて確認した。
やりすぎたか?
「潔?」
反応が無くなった潔に微かに不安になって顔を覗こむ。首を傾げた瞬間に、潔の手が伸びてきて、反応が遅れ気付いた頃には潔の顔が目の前に迫っていてばっくりと喰われるようなキスをされる。
「ンッ?!」
慌てて口を閉じようとした俺よりも早く顎を固定され口に隙間を作られる。
入り込んできた潔の舌が俺の舌に絡まった瞬間、苦味が広がって慌てて潔の身体を押し退ける。
「っー!だぁ、くそっ、にげぇ!」
「仕返し」
「この、ふざけんなっ」
してやったりと目を細める潔にぷちっと血管が音を立てて手元にある枕を投げ付けてやる。
end.