あいく誕小説捏造三昧
未来軸
両片思いな2人のお話し
女の子はみんな可愛い。
小さくて細くて柔らかくて、いい匂いがする。
守りたくなる存在だ。
けれど出会う子達はみんなアクセサリーのように男を側に置きたがる。
俺に愛を向けている訳じゃない。
俺を侍らすことの出来る自分を愛しているだけだ。
野郎と遊ぶのも楽しいけれど、それとはまた違った楽しみがあって女の子達と遊ぶのは止められなかった。
高くて甘い声で強請られるように名前を呼ばれる。
その声が耳障りになり始めたのはいつからだったか。
「おい、愛空、そんなところで寝てんじゃねぇ」
「お、ばろちゃん、待ってたよ」
不機嫌極まりないと言わんばかりの低く唸る声。
シャワー室から戻ってきた馬狼の言葉に寝転んでいたベンチから身体を起こせば、俺の言葉に不思議そうに首を傾げる。
「は?さっさと帰れ」
「そんな冷たいこと言わないでよ…今日俺の誕生日よ?」
「だからだろ」
ため息を吐いた馬狼が呆れたように言って帰る支度を始める。
丁寧に詰められる荷物を見ながらどうやって誘おうかと考えあぐねていれば荷物をまとめてしまった馬狼が、バックを担いで今にも帰ろうとするのでドキドキと煩いくらいになる心臓を抑え馬狼の手を掴む。
「ね、俺にプレゼント頂戴」
「?」
「お前の時間、頂戴」
怪訝そうな表情、きゅっと寄せられた眉が馬狼が困っているのを知らせてくれる。
きっと今、馬狼の中で自分のルーティンと俺の誕生日を天秤に掛けていて、なんで自分が誘われるのか分からなくてどう返答するべきか迷ってる。
「ドライブするだけ!飯奢るからさ!」
「……、他のやつと予定ねぇのかよ」
お前と過ごしたくて全部断ったよ、なんていつも通りの笑みを浮かべながら言えれば良い。
喉元まで出そうになった言葉を飲み込んで、眉を垂らし出来るだけ同情を煽るように情けない顔を作って見せる。
「それがさぁ〜みんな薄情なんだよ…、誕生日に1人なんて寂しいだろ?」
「…チッ、仕方ねぇな」
お前はほんとチョロくてお兄さん心配だよ…。
唇を尖らせる馬狼が渋々と言ったように呟いた言葉に、内心安堵しながら車の鍵を揺らして見せる。
車内での会話なんて殆どなくて、海沿いを走らせて窓の外を眺める馬狼の顔を盗み見する。
夕日に照らされる横顔が男らしくて、俺の視線に気付いた男が、なんだよと問いかけるように眉を上げるのでそれに何でもないよと笑いかける。
王様然としていて、芯を貫く強さのある男は自分勝手な癖に何処か生きにくそうな年下で、どうしても構いたくなる。
構えば構うたび何度も冷たくあしらわれて諦めれば良いものを、時々見せる困った顔やプリンが好きなところ、その理由、堪らず溢れた笑顔に吸い込まれるように惹き込まれていった。
猫撫で声の甘ったるい声で呼ばれる名前より、低くて何処か不機嫌そうな声で呼ばれる自分の名前の方が好きになった。
徐々に、スキンシップを嫌がらず受け入れてくれるようになってきて、俺の存在が馬狼に許容されている事に胸が騒ついた。
どこが好きなんだと言われれば、幾つも際限なく浮かび上がってくるけれど、堕とされたと思うのは馬狼の生き方にかもしれない。
俺が諦めて染まってしまったありきたりな色を塗り替えるように強烈な紅色。
どれだけ強風が吹こうが雨に打たれようが関係ないと言わんばかりに咲き誇る背中をピッチの上で見てきて、俺の手の中で、囲いたいと思ってしまった。
きっとそれは馬狼にとっては邪魔な柵でしかなくても。少しだけで良いから拠り所になってやりたいと思った。
「ばろちゃん甘いの好き?」
「嫌いじゃねぇ」
「プリンは好きでしょ?」
「…まぁ」
流れてくる洋楽に合わせて指でリズムを取りながら、ちゃんと下調べまでした店までの経路を頭の中で辿る。
馬狼は甘いものが好き、特にプリン。
好きな映画はダークナイト、歌は静かなものをよく聴くし、妹ちゃん達の影響でジャンルも幅広い。
子供に対しては王様気質よりお兄ちゃん気質の方が上回って良く可愛い言葉を使っているのを聞く。
同じ時間を過ごすことが多くなって少しずつ知っていく馬狼の事に一喜一憂してもっと知りたいと思ってしまう。
プリンが好きな馬狼のために調べた店に寄って、おすすめだと言う硬めのプリンを美味しそうに頬張る年下の男を微笑ましく眺めながら、試合中には見られない皺の伸びた眉間を突きたくなる。
「アンタ、甘いの好きじゃないだろ」
「…え?まぁ、食べられないことは無いけど?」
唐突に頬を膨らませた馬狼に視線を向けられてそれが手の中のアイスコーヒーに移る。
「アンタの行きたい店に行けば良かったろ、誕生日なんだろ」
「んー?ここ俺が行きたかった店、アイスコーヒーが美味ぇの」
「…そうかよ」
煮え切らないような反応に内心苦笑しながら、お前が美味そうに食ってる姿が見られるならどこにだって行ってやる。なんて思う。
誕生日に好きな人の幸せそうな顔を見れるなんてそれこそ幸せ以外の何者でもない。
いつかこの気持ちを伝えたいとは思うけれど、なかなか踏み出せずにいる。
いろんな女の子と遊んできたけれど、この感情を教えてくれた子は誰も居なくて、好きな人が出来たと嬉しそうに言う彼女達の気持ちを今、実感しているところだ。
「プリン、美味い?」
「…ん」
また目の前のプリンへと視線を戻した馬狼が俺の問いかけに素直に頷く。こういうところが可愛い。
店から出て、馬狼のマンションへと向かって車を走らせていれば馬狼が何か言いたそうにしている雰囲気を感じ取って、俺からは話し掛けず時々洋楽を口ずさむ。
「…なぁ、これで良かったのか?」
「ん?何が?」
「アンタになんもしてねぇ」
「何もしてなくはないだろ、ちゃんと付き合ってくれただろ?」
重い口を開いたかと思えば、窓の外を眺めたまま尖った唇が言いにくそうに動く。
男同士で誕生日を祝うなんて大体こんなもんだろ、わざわざケーキを買ったり、バルーンを膨らませたり、そんなのは無くて良い。
馬狼の中の誕生日がどう言ったものなのかは分からないけれど、さっきからソワソワしてたのはそう言うことか。
「ねぇ、ばろちゃん」
「あ?」
「俺、好きな子がいてさ、告白…した方がいいと思う?」
「は?」
馬狼のマンションに着くまであと少し。
突然の俺の言葉に、景色から目を離し、驚いたように目を丸めて凝視してくる馬狼の様子に笑いながら、どう思う?と改めて問い掛ければ、きゅっと耐えるように顔を顰めて、さぁな、なんてぶっきらぼうに呟いてまた窓の外を見てしまう。
その反応に驚いたのは俺自身で、まるで失恋したような表情に、まさかなと、湧き立つ気持ちが急いて溢れないように抑え込む。
それから特に会話もせず、大荒れの内心を他所に目的の場所に着いてしまって、仕方なく車を停める。
「到着!今日はありがとね」
「…」
「馬狼?」
むっすりと黙り込んでしまった馬狼を気にかけながら、後ろに置いていたバックを手繰り寄せ馬狼へと渡す。
「おーい」
「ッ…、今日、アンタの誕生日だろ」
「うん、そーだね」
ひらひらと目の前で手を振って見せれば絞り出すように吐き出された確かめるような馬狼の声、それを邪魔しないように小さく頷いてやれば今度は勢いよくバックを開けて手を突っ込む。
「使い辛かったら捨てろ、それか別のやつにやれ」
「…え」
目の前に差し出されたフィールドグローブにはハッピーバースデーのステッカーが貼ってあって、手元を睨み付ける馬狼の言葉に息を呑む。
嘘だろ…
「え、俺に?お前から?」
「っ、ちッ、いらねぇなら良い」
「ッ〜!いるに決まってんだろっ」
息が詰まる程の嬉しさ…
引っ込めようとした馬狼の手を掴んで選んでくれたプレゼントを受け取れば、バクバクと心臓がうるさい程に跳ねて、カッと身体が熱くなる。
まだ寒くないから使えねぇけど、なんて耳の先まで赤く染めた男の言葉が薄らと聞こえてきて、掴んだ手の熱さにこのまま離したくないと思ってしまう。
プレゼントを貰ってこんなに嬉しいことは無かった気がする。
「はっ、ああ…お前は、ほんと…ッ」
「ンだよ」
手の中のプレゼントから馬狼へと視線を向ければ、馬狼が気恥ずかしそうに睨みつけてくる。
お前、さっさと帰る気だっただろ…
プレゼント買ってくれてたくせに。
俺に渡さずどうするつもりだったんだ。
聞きたいことも言いたいこともいっぱいある。
けれど気づいたら身体が動いていて、掴んだ手を引っ張り一気に馬狼と距離を詰め、分厚い唇に噛み付くようなキスをする。
「ッ!?」
キスする時は目を瞑るもんだぜばろちゃん。
なんて思いながら、目の前に広がる紅い色をもっと見たくて、隙だらけな唇を舌で割り開く。
震える手とビクつく身体が慣れてなさを表していて、その反応が余計に俺を堪らなくさせる。
「っ、ンっ、ぅ」
「ん…」
ぐちゅっと口腔内で音を立てれば、焦ったように容赦なく胸元を叩かれて仕方なくゆっくりと唇を離す。
ずっと言わずにいた言葉が口をつく。
「照英、好き…」
「っ、、は…、、っ、」
「プレゼント、もう一つ貰っていい?」
驚きに息を荒げる馬狼を見詰めれば、顔を真っ赤にして口元を拭う馬狼に睨み付けられきっとパニクっているだろう男に畳み掛ける。
「お前のこと、愛させてくれない?」
ぎくりと固まる身体を逃がさないよう、目を見て想いを告げる。
「ッ、好きな奴がいるって…っ」
「はは、この状況でそれ言う?お前に決まってるだろ」
経験値がないせいか言葉が出てこない馬狼の反応が愛おしくて、今すぐにでも、俺のものにしたくなる。
「誕生日に好きなやつとデート出来て楽しかった」
「っ、デートじゃねぇ、っ」
「プレゼントも、お前が俺のこと考えて買ってくれたってだけで嬉しい」
「ッ…」
「照英…好き、お前の傍に居させて」
信じられないと言わんばかりの反応を見せる馬狼の頬をするっと撫でれば、敏感になっているのか大きく肩を跳ねさせて、その反応に恥ずかしそうに舌打ちの音が聞こえる。
「答えはまた今度で良いからさ」
「っ…」
あまり怖がらせないようにパッと手を離してできるだけあっさりと身を引いたかのような態度をとって見せれば、垂れた眉毛がきゅっと眉間に皺を寄せて紅い瞳が俺を射抜いてくる。
あ、と思った時には視界がぶれていて、ごちっと音を立てて歯に痛みが走った。
end.