お題
(ゲームセンター)
青い監獄軸
付き合う前
〝1日好きに使って良い”そう言われて外に出るのは面倒くさかったけれどふと久し振りにゲームセンターに行きたいと思って、部屋に残っている馬狼にベッドの上から声を掛ける。
「キングー、外出るから準備してー」
「は?自分でやれ、俺は残る」
「やだ、一緒にゲーセン行こ」
俺の言葉に行かねぇと唸る馬狼に背後からゆっくりと近寄って馬狼の手元を見下ろせばスパイクを磨いていて、手の中にあるそれを奪い取る。
「ッ!おい!クサオッ」
「ゲームじゃ俺に勝てない?負け越しキング」
「あ…?」
俺の挑発にドスの効いた低い声が聞こえてきて内心でチョロいななんて思いながら行くでしょ?ともう一度聞けば大きく舌打ちが部屋に響く。
下ろされている馬狼の髪の毛を背後から掻き上げて後ろに撫で付ければ鬱陶しそうにまた、クサオ、と呼ばれる。
「待っててあげる」
「……クソが」
髪の毛のさらさらとした感触を楽しみながら言えば、手が払われて小さく悪態が落とされる。
監獄から抜け出して来たゲーセンは意外にもいろんな種類のゲームが置いてあって、ゲーセンならではの騒がしい環境音に少し胸が躍る。
キョロキョロと辺りを見渡す馬狼を引き連れて、2人で出来るゲームを探して歩く。
「ねぇ、馬狼ってゲーセンで遊んだことあるの?」
「ボーリングの後に気が向いたらな」
「ふーん」
きっと馬狼の性格じゃあ一緒に行く友達も居なかった
だろうなと、自分のことを置いて話を振ってみれば意外な答えが返って来て、ああ、と納得する。
ゲーセンと併設されてる場合に良くあるサービス券で遊んだんだろうなと思いながら軽く返事すれば、馬狼の視線が奥に置いてある卓に向いていることに気付く。
「あれ、やろうよ。」
「…お前やったことあんのかよ」
「無いけど、やり方くらいなら分かるよ」
好奇心を抑えられないのか、興味津々な表情を隠しきれていない馬狼と台に近寄ってお金を入れれば軽快なメロディと同時にパックが1つ落ちて来て、それを拾ってフィールドに置く。
空気で浮いたパックを手に持ったマレットで弾き馬狼の守る場所に向けて飛ばせば、ぎこちない動きで打ち返してきて、カンッカンッと音が響く。
「キング、今から勝負しよ、負けたら俺の言う事聞いてよ」
「はぁ?ふざけんな、誰が負けるか。お前は帰ったら部屋掃除しろ」
「うへぇ、めんどくさ、絶対負けたくない」
徐々に慣れてきた馬狼に提案すれば、軽く腕捲りをしてやる気な男が力強くパックを飛ばしてくる。
まるでサッカーをしてる時と同じ様に、ただ真っ直ぐ飛んでくるそれにキングらしいなと思いながら、パックを弾いてフィールドの端に当てて反射させる。
「ッ」
「単純過ぎ」
馬狼の飛ばしてきたパックの勢いを殺さず弾いたことで、結構な速さで反射しながら手元へ潜ったパックがガランっと音を立てて馬狼側のポケットに落ちて頭上の電子ボードに点が入る。
それと同時にゲーム終了の音楽が鳴って、噴き出ていたフィールドの空気が止まる。
「俺の勝ち」
「ッ普通、勝負は三番勝負だろうがクソが」
「え、何それ、普通一発勝負でしょ」
負けず嫌いもここまで行くと笑えてくるかもしれない。どんだけ俺のお願い聞くの嫌なの。
高圧的に次の勝負を挑んでくる馬狼に内心で笑ってしまう。
ゲームで俺に勝てるわけないのに…。
その後、仕方なくシューティングゲームとレースゲームをして難なく俺が勝ちを収めたわけで、悔しさで震える馬狼に目を細める。
「3回とも俺の勝ち〜」
「ッ〜」
癖できゅっと唇を尖らせ、不機嫌に眉間に寄せた皺が深くなって馬狼が俺を見てくる。
俺のお願いを一応は聞く態勢をとってくれた馬狼に律儀なやつだなと思いながら、スッと華やかな可愛らしい飾り付けのある場所を指差す。
「俺とプリクラ撮って」
「……、はぁ!?」
少しの間があって驚いたように目を丸めた後、ふざけんな絶対ぇ嫌だ、なんでお前なんかと、そんな言葉を並べながら俺のお願いを断固拒否する男にそんな嫌がらなくてもと少しだけ気落ちする。
「いいじゃん、面白そう」
「面白くねぇ、男2人でプリクラなんてきしょいだろ」
「それは俺が決めるから、ほら、3回も負けたんだからちゃんと言ったことくらい守ってよ」
3回も、を強調して言えば悔しそうに歯噛みした馬狼の視線がプリクラ機の並ぶ場所に向けられて嫌そうに舌打ちが溢れる。
駄目かな…と半ば諦めていれば大きくため息を吐いた馬狼がプリクラ機に向かって歩き始め、驚いて思わず声が漏れる。
「え、、」
「撮るんだろ、さっさっと来い」
「…っ、うん」
まさか撮ってくれるとは思ってなくて、馬狼の言葉に一気に嬉しさが溢れ馬狼の後ろを着いて歩く。
2人して適当に目に付いた所に入ってみれば背景のグリーンバックに眩しいライトが直ぐに視界に入って、慣れた手つきでお金を投入する馬狼にソワソワする。
「キングなんか慣れてない?」
「ー、妹に付き合って撮ったことあんだよ」
「へー…」
なんだ妹か…なんて少しホッとしてしまって、そう思う気持ちになんだろ。と不思議に思って首を傾げる。
適当で良いだろ、と言いながら俺の意見なんて求めてないとばかりに画面をタップして決めていく馬狼を後ろから眺めながら、初めての経験にドキドキと気持ちが昂まる。
「ねぇ、ポーズどうするの」
「ンなの知らねぇよ、真似でもしとけ」
カウントダウンが始まって俺の横に並んだ馬狼に聞けば投げやりに返されて、馬狼が顎で指した画面に映る女の子のポーズに合わせて無難にピースを作る。
次々と変わっていくポーズとは違ってずっと変わらない馬狼が面白くなくて馬狼の手を掴んで引き寄せる。
「キングもやってよ、ハート」
「やんねぇわ…勝手にやってろ」
「ほら、メイド馬狼得意でしょ」
嫌がる馬狼の手を何とか無理やりハートの形にしてみればカウントダウンが始まりカメラの外に出ないように暴れる馬狼を押さえ込む。
軽い声と共にシャッターが切られる音がして、確認画面に嫌そうな馬狼がハートを作っている写真が映し出されて思わず口角が緩む。
「だぁ!クソが!触んなっ」
「良く撮れてるじゃん」
ばっと勢いよく俺を振り払った馬狼に画面を指差して言えば盛大に舌打ちが返ってきて、丁度写真も最後だったのか、画面が切り替わり落書きスペースに行くように指示される。
それに従って移動した先で、ペンを持つ気もない馬狼を横目に撮った写真に落書きをしていく。
どれも仏頂面な馬狼の周りにファンシーなスタンプを押したり、ハートを作った写真には勿論メイド馬狼の文字とハート、序でにバロバロきゅんと描いて、上手く書けたのを見て落書きもタイムアップがくる。
ゲーセンから青い監獄に戻ってきて、断固として出来上がったプリクラを受け取らなかった馬狼の代わりに今俺の手の中にあるそれを眺める。
嫌そうな馬狼の表情を見るたびに締まりが悪くなる口元を、誰にみられるわけもなく手で押さえてベッドへと寝転ぶ。
きっと馬狼は俺の事だからすぐ無くすだろうと思ってるだろうし、確かにこのまま置いておいても無くしそうでどうしようかなと頭を捻る。
……ここから出たらチョキの植木鉢にでも貼っておこうかな。
end.