お題
(命令、もう一回)
Dom/Subユニバース
そわそわしている馬狼がリビングを行ったり来たり。
その原因が分かっていて、俺にはどうしようも出来ない筈なのにどうにかしてあげたくて視界から追い出せずにいる。
青い監獄を出て、久し振りにマッチアップした試合の中で馬狼の調子が悪そうだと思った。
不思議に思ってたのは俺だけで、玲王に聞いてみても「この試合1人で2得点とってる王様が不調な訳ないだろ?」なんて返されて首を傾げた。
ただの興味本位だった。
本当に調子が悪いのか確かめたくて試合が終わって皆んなが帰っただろうタイミングでロッカールームに顔を出せば、馬狼は荷物を詰めてる途中で俺が入ってきた事に気付いたのか小さく舌打ちが聞こえてくる。
「ねぇ、お前調子悪いの?」
「?」
不満そうに低い声で凄まれて、俺の勘違いだったかも…なんて思う。
荷物を詰め終えたのかゆっくりと俺に目を向けてきた馬狼の眉間にはしっかりと皺が寄っていて挑発の色をを含んだ視線になんだか懐かしさを感じる。
今思えばこの時から馬狼のことが気になってたんだと思う。
「お前は調子悪い俺に負けてるって事か?ハッ、ダセェな」
「違うし、お前の体調が悪いんじゃないかって心配したんじゃん、ちゃんと答えてよ」
俺の言葉に噛み付いてくる馬狼の言葉に、ああ、こう言うやつだったと思いながら面倒くさくて投げやりに言えばビクッと肩を跳ねさせて黙ってしまった馬狼に今度はこっちが眉を寄せる。
少し強く言ったけどそれにしても過剰な反応に心配になって近寄れば身体を震わせる馬狼に睨み付けられる。
「ッ〜、っ、俺に、命令すんなっ」
「なに…、お前、もしかして」
苦しげに吐き出された馬狼の声と上がり始めた息遣いにもしかしてと、憶測が頭を過ぎる。
口から出かかった言葉は揺れる紅い瞳に見据えられてグッと喉に詰まり声にはならなかった。
何かに堪えるようにふぅふぅと肩で息をして苦しそうにする馬狼を助けてやりたかった。
馬狼が求めてるものをあげられると思ったから。
「kneel」
思わず口を出たのは1番基本で1番簡単な言葉。
「ねぇ馬狼」
「?」
落ち着きなく動く馬狼が俺のいるソファへ近寄った隙に手を引き寄せてソファに押し倒す。
衝撃と驚きで目を丸める馬狼の上にそそくさと乗り上げて覆い被さればジッと目を見つめる。
「俺じゃダメ?」
何がとは言わない。
今も鮮明に覚えてる。
あの日俺のコマンドにヒュッと息を呑んだ馬狼はサブドロップして、小さく自分自身の身を守るように蹲った。
俺はなんでドロップしたのかすら分からずただ習ったことを試すようにずっと馬狼の名前を呼んで、馬狼の頭を抱えて下手くそに声を掛け続けた。
暫くして落ち着いた頃には俺も馬狼も汗だくではぁはぁと息を乱してたし、心臓が脈打つたびに頭の中に鼓動の音が響いてた。
そんな最悪な出来事からなんとか漕ぎ着けた同棲に一つ不満があるとすればプレイは俺以外と。
そう決められたルールに何も言えなかったし今まで我慢してきた。
見下ろした先、眉を寄せた馬狼はきゅっと口元を引き結ぶ。
「ッ、凝りねぇのかよ」
「俺が居るのに、お前が俺以外の事考えてるなんて最悪…、だから、もう一回だけ、俺のコマンド聞いてよ馬狼。命令じゃないよ。これはお願い」
馬狼の柔らかい胸元に額をぐりぐりと押し付けて頬を寄せればとくとくと少し早い心音を聞きながら馬狼を見上げる。
「…、またドロップしたら、面倒くせぇだろ」
「っ!?大丈夫、俺…お前のこと好きだもん」
「はっ、なんだ、それ…」
痛々しげに吐き出された馬狼の言葉にそんなこと思ってたのかと驚いて顔を上げ、揺れる瞳を見つめればふいっと目が逸らされ揶揄い混じりに信じてないように吐き捨てられる。
「確かめてみようよ、王様」
「っ…」
身体を馬狼に預けて馬狼の胸元に手を置きその上に顎を置く。
馬狼の体温がじわじわと移ってくる心地良さに目を細めて反応を待ってみても馬狼は無言のまま、俺を突き放さない。
「セーフワードは?」
「…レッド」
「ん」
最後の確認で首を傾げて聞いてみれば、少し考える素振りを見せた後、小さく言われた言葉に頷いて身体を起こす。
見下ろした馬狼は恥ずかしいのか顔を逸らして俺をみないようにしていて名前を呼べばぴくりと身体を跳ねさせる。
この反応を俺以外にも見せていたかもしれないと思うとムカつくけど、それ以上に俺に委ねてくれたことが嬉しくて何度も馬狼の名前を呼ぶ。
「ん…、ンっ、ぁ…、はぁ」
「良いね、ちゃんとできてるよばろ。俺もちゃんと出来てる?」
「ン、っ、まぁまぁ…だな」
簡単なコマンドだけを続けて、キスをして、身体を撫でて、気持ち良さそうな声を漏らす馬狼の反応が嬉しくて熱くなった身体を馬狼に寄せながら、吐息を漏らす唇に吸い付く。
ちゅっちゅっと音を立てながら唇を啄んでいれば、馬狼の震える手が俺の髪の毛をくしゃくしゃにする。
大きな手で撫でられる心地良さに好きにさせていれば、キスの合間に焦れたように名前を呼ばれる。
「ッん…、ばろ、舌出して」
俺の言葉に躊躇しながらちろりと出された舌に吸い付いて、さっきまでしていた可愛いキスから深く舌を絡めたえろいやつに変更。
絡めてくる舌の動きに対抗しながら褒めるようにソファに散った馬狼の髪の毛を梳いて口腔内を舐め回す。
暫くキスを堪能して、溢れそうな唾液を吸い上げて口を離せばソファにくったりと脱力した馬狼の少し潤んだ紅い瞳がゆらゆらと揺れながら俺を映しこむ。
「はぁ…、、どう?お気に召してくれた?これからは俺だけで良いでしょ?」
蕩けた表情の馬狼に押し当てるだけのキスをしながら伺うように言ってみれば、口籠もりながらも馬狼の口元が小さく開く。
「ッ〜、好きにしろっ」
end.