お題
(ホラー、慣れ)
同棲済み
カチャカチャとコントローラーの音が部屋に響き、テレビからは悲鳴と銃声と声にもならない不気味な音。ソファーに座って目の前の口の裂けた女をヘッショして倒せば敵は居なくなって、流れてくる音楽も少し落ち着いた曲調になる。
「あ、おいクサオ…そこ銃弾落ちてるぞ」
「んー」
敵を一掃したフロアを散策していれば隣に座っていた馬狼が画面を指差して教えてくれる。
同時に、配信している画面にキングナイスなんてコメントが勢いよく流れていくのを横目に、なんだか少し面白くないな、なんて思う。
今までは携帯画面でゲームすることが多かったけれど
、馬狼と同棲し始めて時折興味ありそうに画面を覗いてくる馬狼に気付き大画面で出来るように、もしかしたら一緒にしてくれるかもと期待しながらテレビゲームを買った。
暫くして前作が面白かったホラーゲームの続編が発売になると聞いて、直ぐにダウンロードしたそれをプレイしていれば気になったのか馬狼が近寄ってきて今と同じようにソファに座ったのを覚えている。
「ねぇ、キング、このゲーム慣れちゃった?」
「?」
「最近全然怖がらないじゃん」
あらかた物色したのでフロアを移そうとキャラを動かしながらチラリと馬狼の反応を見れば、なんだか不貞腐れたような表情を浮かべてむいっと突き出された唇が可愛く感じる。
「別に、初めっからビビってねぇ」
「え?流石にそれは無理あるんじゃない?」
「…、チッ」
ホラーゲームを買ったばかりの頃は集中して見ていたからなのか、ホラーゲームの演出にいちいちビクッと体を跳ねさせていた馬狼も、流石に慣れたのか反応が無くてつまらない。
何度かビクつく馬狼を指摘した事もあったし、配信に馬狼の驚いた声が入った事もあってだいぶ揶揄われていたのが癪に障ったのか、それからはほとんど驚いた姿を見てない。
新しいフロアのザコを倒していきストーリーを進めていく。
資材の収集とかストーリーの回収とか面倒くさいけどテレビゲームなら馬狼も一緒にやってくれるし、ホラーだとなんだかんだで距離も近い。
フロア散策も終わらせて、ちょっと疲れたなぁーなんて思いながらキャラを惰性で動かしてちらっと馬狼を見れば、馬狼は馬狼で流れてくるコメントにちゃんと反応してあげていて時々突っかかってるのが聞こえてくる。
「ねぇ、ばろー、喉乾いた」
「?自分で入れろ。おい、俺はビビリじゃねぇっつってんだろうが」
俺の言葉に馬狼が視線を画面から俺に移したもののあっさりと言われてまたすぐに画面に向かって眉を寄せる。
喧嘩腰な反応を見せる馬狼にちぇーと声をあげて、折角2人でゲームしてるのに、なんて不満に思いながらコントローラーをテーブルに置いて立ちあがろうとした瞬間、コントローラーがけたたましく震えてテーブルが振動で音を立てる。
「ッ、、?!」
「あー、ごめん、バイブ切ってなかったや」
敵が現れたことを知らせる機能で震えるコントローラーを拾い上げ手早く倒してゲーム画面を一度ポーズにすれば、音に驚いたのか、目を丸めて身体を強張らせた馬狼と目が合う。
その反応に俺も驚いたし、馬狼も気まずそうにしていて気付いたら配信を止めていた。
ずらずらと流れるコメントは、こっちのことなんて知らないと言わんばかりに関係ない言葉ばかりが流れていて、びっくりして目を丸める馬狼を誰も見ていないんだと思えば優越感が湧き上がってくる。
嬉々としてゲーム配信自体を雑に切って、逃げようとする馬狼をそのままソファに押し倒す。
「ねぇ、ばろ、びっくりしちゃった?」
「っ、、仕方ねぇだろ」
気恥ずかしそうに口をきゅっと結んだ馬狼の反応が可愛くてそのまま唇を寄せてキスすれば、ぎゅっと服を握られる。
抵抗しているつもりのそれを無視しながら何度もちゅちゅっと音を立てて唇を吸い上げれば、諦めたのかおずおずと唇が開いて俺の舌を受け入れる。
「ンぅ…、っ、ふ」
ぬるついた感触といつまで経っても慣れない舌遣いにもどかしさを感じながら、舌を音を立てて吸い上げれば抗議の声が上がって服を握り締められた手に力が入る。
瞼の合間から見えるとろっと蕩けた紅色にゾクゾクと興奮していれば後頭部に痛みが走って馬狼の唇から引き剥がされる。
「っ、ぁ、っは、急に盛んなっ」
「いたぁ…すぐ殴んないでよ」
グッと後ろに引かれた体で馬狼を見下ろせば顔を赤く染めて睨みつけてくる恋人に興奮を煽られる。
本当は、ソファに置いてあるクッションをバレないように握ってるのにも気付いてるし、いつもより口数が多いのにも気付いてる。
怖がってるのをバレないように慣れたふりして背一杯強がって虚勢を張ってる馬狼を見るのが好きで、どうしてもホラーゲームに誘ってしまう。
「ねぇ、今日一緒にお風呂入ってよ」
「は?ふざけんな1人で入れ」
「怖いから無理、馬狼が入ってくれないなら今日お風呂入らないから」
押し倒した体勢から馬狼の胸に体を寄せてのしかかりながら言えば、不服そうに声を上げてわなわなと震えながら少し逡巡したあと大きな溜息を吐く。
なんだかんだと俺の扱いに慣れてきたんだろう馬狼の、仕方ねぇなの言葉に内心で喜びながら、馬狼の体温がじわじわと移ってくる感覚が心地よくて胸元に額を擦り付ける。
「怖ぇならホラーゲームなんてすんな」
「うん…、次何にする?犬でも飼ってみる?」
「お前どうせ面倒みねぇだろ、それにもうでっけぇ犬がいる」
ペットが飼えるゲームがあるのを思い出して提案すれば片眉を吊り上げてまた大きくため息を吐かれる。
胸の動きに合わせて俺の体も少しだけ上下する。
馬狼のでかい手のひらが俺の髪の毛を後ろに撫で付けてきて、目を細めながら言うもんだからわざとどこ?なんて言いながらきょろりと辺りを見渡してみる。
そんな俺に呆れたような表情を浮かべた馬狼が見えて大人しくまた馬狼の胸元に体を預ける。
「ちゃんと最後までお世話してね」
end.