普通盛りと普通盛り商店街の奥まったところにある喫茶店へみんなでやってきた。
外食なんてご飯を作るという負荷が一食分なくなるから嫌で嫌で仕方ないが、ここのランチは確かにそれなりに美味しいのと、奥まっているということでこの大人数で来てもさほど迷惑にならないのでたまにみんなで来ていた。
みんなが好きな味を覚えて完璧に、いやそれ以上に再現してもう外食になんて行きたいと言わせない作戦のためでもある。
二~三人でメニューを共有して決めていく。
こういうところでも各々の個性が出る。
テラさんと天彦さんとふみやさんは割といろんなメニューに挑戦している。
猿ちゃんと大瀬さんと理解くんは絶対固定派だ。
僕はというと、ふみやさんに他に食べたいものがないか聞いてそのメニューを選んでいる。
「じゃあ注文しますね」
ベルを鳴らして注文をしていく。
「ナポリタンを二つで、一つは大盛りにしてください」
猿ちゃんの定番メニュー。
それなのに、なぜだか横から口を挟んできた。
「いや、両方普通盛りで」
「え?」
ビックリしている間に店員さんがメニューを復唱して行ってしまった。
当の猿ちゃんは何でもない顔でお冷を飲んでいる。
「猿ちゃんお腹空いてないの?」
「あ? 別に空いてっけど」
じゃあなぜだ。
いつもの反発だとも思えない。
理由が全然分からず悶々としているうちに料理が次々と運ばれてきた。
僕の目の前にメンチカツが置かれる。
ひとまず食べる前に二個あるうちの一個をふみやさんへ献上した。
流れるように猿ちゃんからセットでついてくるサラダが渡される。
これはいつも通りなのに。
意味が分からないまま、手を合わせて食べ始める。
メンチカツはまぁまぁ美味しい。
でも絶対に僕の方が美味しく作れるはずだ。
何を使っているのか、配合は何だと考えながら箸を動かす。
ふみやさんが早々に食べ終えて食後のデザートを選んでいた。
それに続くように猿ちゃんもフォークを置く。
やっぱり足りないのではないか。
そう感じていると、目の前の大瀬さんの動きが止まった。
まだ三分の一ほど残っている。
お腹がいっぱいになってきたんだろう。
僕が貰おうか、と思った瞬間に猿ちゃんが自分の空の皿と大瀬さんのお皿を入れ替えた。
大瀬さんはビックリしながら固まっている。
「いらねぇなら俺が食うからな。文句あっか?」
「い、いえ……すみません……」
それ以上は何も言わずに黙々と食べ進めた。
大瀬さんも黙ってお冷を飲んでいる。
なるほど、こういうことか。
大瀬さんが残す分を足せば、大体大盛りくらいの量になる。
食べきれない大瀬さんのことを視野に入れていたんだ。
なぜだか少しだけモヤッとしながらも納得した。
いや、モヤッとした原因は役目を盗られてしまったからだろう。
残したものを食べるのだって奴隷の役目であるのに。
猿ちゃんに盗られるだなんて、油断していた。
悔しい。
「大瀬さん、次からは多かったら僕が食べてあげるから。すぐ言ってね」
猿ちゃんのサラダも、大瀬さんの残した分も僕がキッチリ食べてあげよう。
それが、ハウスの前向きで自発的な奴隷、本橋依央利の役目なのだから。
「いおくん、ナポリタン好きだったんだ」
大瀬さんが驚いたようにこちらを見てきた。
しかし首を左右に振って答える。
「ううん、別に。だって残したものを食べるのって奴隷である僕の役目でしょ? なら僕が食べるべきじゃん」
大瀬さんの目がジトリと細まる。
何でそんな顔をされねばならない。
「出た……いおくんは奴隷なんかじゃないのに……」
「ハァ!?」
言い返そうとしたところで、隣に座っていたテラさんに腕を引いて止められてしまう。
「依央利くん、流石にここでは止めて。恥ずかしい」
「だって……!」
「はいはい、良いから。早く食べちゃいな。置いて行くよ」
いつの間にか僕以外ほとんど食べ終えていた。
これはヤバい。
急いでメンチカツとご飯を口に詰め込む。
目の前では、大瀬さんと猿ちゃんが一緒にメニューを覗き込んで何やら話し込んでいた。
次からは絶対に席も離してやる。
「チョコテリーヌのアイス添え……」
「お前アイスまで食えねぇだろ」
「うぅ……」
「ったく。アイスは食ってやるから頼めよ」
どういうことだ。
割り込もうとすればテラさんに肘で突かれてしまった。
ふみやさんにお願いすれば甘いものなんて食べてもらえるだろう。
ていうか、僕に言え僕に。
何で猿ちゃんに言うか。
僕にそんな風に頼るような真似したことないくせに。
会計を終わらせて店を出る。
大瀬さんと猿ちゃんは本当にデザートまで分け合ってやがった。
今までで一番腹立たしい外食だ。
何が何でも、次こそは僕が隣を陣取って大瀬さんの残した分を食べてやる。
「絶対負けない……」
一体何と勝負しているのか、自分でも分かっていない。
でも、負けたくないという気持ちだけは本物だった。