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    高2秋の綾と桃妄想
    ヘコんじゃった綾のこと励ます桃がみたいなと思って書き出したらこうなりました
    功罪+読み切りのいいとこどり時空かつ寮同室設定です

    台風一過まであと半分毎日二十一時のスマホ回収に、二人分のスマホを預けて部屋に戻ると、部屋の明かりが落とされていた。
    出る前は点いていた照明をさっさと消した犯人は、布団にくるまるわけでもなく、ベッドの上で壁にもたれてぼんやり座っている。台風の中、わざわざ暗くした雨音と風の音が響く部屋の中で明らかに意気消沈している様子は、見ている方まで気が滅入りそうだった。
    綾瀬川がこうなっている原因は、先ほど回収の時間だからと取り上げたスマホで、直前までしていたことなのは明白だ。
    「なんでエゴサなんかしたん。『天才』言われとるに決まっとるやろ」
    綾瀬川の活躍はめざましい。数日前の秋季大会でも一番目立っていたし、おそらく遠方から群馬までわざわざ見にきた人もたくさんいた。次の地区大会への期待もあり、今は色々と語られている時期だろう。
    「エゴサじゃない……。東京も台風で大雨降ってるって聞いて、ちょっと水位気になって調べただけ」
    「あー」
    綾瀬川という川が本当にあってそのすぐ近くで暮らしていたと、綾瀬川が言っていたのはいつだったか。地元の川が氾濫しそうかどうか気になって調べる気持ちはわかったので、桃吾は調べたことへの追及は止めることにする。情状酌量の余地というやつだ。
    「水位は全然大丈夫だったから、ほとんど何も言われてなくて、それで……」
    「おまえんことばっかり、言われとったんか」
    小さな頃から見てきた川の名前に言及量が勝ってしまっているのは、綾瀬川にとって予想外だったのだろう。『天才』と言われたことに加えそれもあって二重にショックを受けているらしい。本当に難儀な投手だと桃吾は思う。
    「事情はわかった。一晩ヘコんでてもええで」
    「一晩だけなんだ……」
    「明日、練習仕合あるやろ」
    「台風で中止じゃない?」
    「アホか。明日台風一過でピカピカの予報やぞ」
    「今こんなに降ってるのに、晴れるんだ……」
    台風とはそういうものなのに、それは嫌だと言う綾瀬川は、試合がどうなるかよりも晴れた空を見たくないようだった。
    桃吾の言葉で簡単にメンタルが戻るとも思えないが、放っておくわけにもいかない。
    「台風なんてそんなもんや。一時的にやってきても、すぐ通りすぎてくやろ。どんだけ雨降るかは台風ごとに違っても、それだけは変わらへん」
    とりあえずそんなことを言って宥めてみると、綾瀬川は桃吾だ……と小さく、ほとんど聞き取れないくらいの声で呟いた。何が、と桃吾が聞く前に、少しトゲが混じった声で綾瀬川が言う。
    「ね、さっき見てたやつ、桃吾にも教えてあげよっか」
    「あ?」
    「群馬に揃った最強バッテリー、一年の時からずっと組んでたら仲よさそう、鉄壁の投手と強打の捕手のバッテリーとか理想じゃん、綾瀬川もヤバいけどキャッチャーも代表正捕手とかヤバいよね。代表で意気投合して同じ学校行くことにしたのかな、世代最強投手と捕手が揃って対戦相手かわいそう」
    桃吾が断る前に、意図的に桃吾が聞きたくないだろう褒め言葉ばかり選んで、綾瀬川はすらすらと述べていく。
    「褒められてても、聞きたくないこと聞くのイヤでしょ?」
    綾瀬川の言葉をそこまで聞いて、一緒に落ちこんで欲しいのかと桃吾は理解した。ただ、わかってもできないことはある。聞きたくないことを聞けばイヤな気分にはなるし、できれば耳に入れたくないなとは思うが、今聞いたような言葉で桃吾が落ち込むことはない。自分で選んで行動した結果ついてきた評価だ。第一、桃吾が綾瀬川の元にいったら、そんな評価がついて回ることなんて、桃吾には最初からわかっていた。
    「イヤやけど、そういうもんやろ」
    「……桃吾はなんで、そんなまっすぐ頑張れるの」
    同じ心境にはなってやれないと綾瀬川を柔らかく拒絶し、意図的に傷つけようとした言葉に落ち込む様子もなく逆に覚悟を強めた桃吾を、綾瀬川が眩しそうに見る。
    「誰に何言われとっても、俺の夢は変わらへん。それだけや」
    「夢、なかったらどうしたらいいのかな」
    「普通は夢も目標もなしにこれる場所ちゃうんやけどなぁ」
    才能に振り回されて普通は来ないところに来てしまった。そんな事情に気づいたら、桃吾も流石に夢がないという言葉にいちいち怒る気にはなれない。綾瀬川にとって唯一のモチベがやって来るのは次の夏の大会だけで、春のセンバツにこだわりがないのもわかっている。
    「周りなんか一切見ず、三振取るの楽しんどればええんちゃう。マウンドで投げるんは好きなんやろ」
    だから、せめて楽に野球ができるよう、桃吾はそう提案したのだ。



    桃吾の投げやりに聞こえるが実は的確な提案は、綾瀬川の心にすとんと入り込んできた。負けて落ち込むベンチの対戦相手も、深く考えることなく『天才』と言う観客も、知らなければ気にしなくてよくなる。今日はうっかり事故で見てしまったが、そんなものは見ずにただ楽しいと思うことだけ集中していたら傷つくことはない。
    そうやって割り切ると、綾瀬川の意識は『天才』と言われたことよりも、桃吾がそんな的確な慰めをできるようになったことに向かっていた。
    高校の三年間が終わったら、桃吾は綾瀬川の元から確実に去っていく。それならずっと嫌いなままでいて、堅い態度を崩さないでいてくれたらよかったのに、一年半一緒に過ごしたせいで互いの行動原理に理解が及んでしまった。更に、調子よく投げてもらうためだろうが、綾瀬川がこうして落ち込んでいる時にわりと的確な言葉を放り込んでくる。
    嘘が混じっているなら聞き流せるが、桃吾の本心の範囲内で言っているから質が悪い。
    「……俺に投げさせるために優しくするの、やっぱズルいよ」
    「は? 俺のどこが優しいん?」
    更に本人には優しくしている自覚がないらしい。もしくは、自覚しているものの綾瀬川に優しいと思われることに後ろめたさがあるか。どちらにしても、綾瀬川にとって不都合なことには間違いなくて。
    「電気つけなかったとことか、一晩はヘコむの許してくれるとことか?」
    桃吾といると、バッテリーのはずなのにたまに一人でいるように感じられる。出会ったばかりの頃、桃吾と円といたら、一人でいるよりも寂しかった時と同じだ。あの時、綾瀬川が円にしてしまったような酷いことは流石にしないが、今日も当て付けるように調べて見つけた桃吾が聞きたくない綾瀬川とセット扱いされている言葉をぶつけてしまった。それなのに、綾瀬川が落ち込んでいたからと、ほぼ怒らずにこうして付かず離れずで寄り添ってくれている。大げさに心配するでもなく、かといって完全に突き放すのでもない、綾瀬川にとって居心地のいい距離感に桃吾はいつの間にか陣取っていた。
    だが、桃吾の一番(エース)が円から変わることはありえない。
    それなら、嫌いなままでいてくれたなら、桃吾のことをこんな風に傷つけないですんだのに。
    「明日、ちゃんと投げるつもりだけど……、練習仕合だし、今夜の影響出たらごめんね」
    そう言って、綾瀬川はまだ早いのに布団に潜り込む。今夜の影響が指すものが、エゴサで見てしまった『天才』という評価の影響なのか、それともズルいと言った優しさのせいなのか。
    雨を降らすだけ降らしてすぐに去っていく桃吾に、それを尋ねられてしまうのを避けたかったのだ。
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    iduha_dkz

    DONE綾と桃吾の高校での卒業式の話です。
    前半は1年時、後半は3年時。
    3年一緒に過ごすうちに色々理解して仲良くなり情も湧いたけど、それでも桃吾の一番は円なので綾の一番にはなれないことを最後に突きつける、一番のために他の大事なもの切る痛みを伴う別れが100通り見たくて書きました。
    最後の日を迎えて卒業式で久しぶりに会った二つ上の先輩は、綾瀬川と桃吾が二人で花束を持ってきたのを見て、はじめは落第点しか取れていなかった学生が百点満点を取った時の教師のような顔で微笑んだ。
    「二人一緒に来るとは思ってなかった」
    「元主将を心配させるなって、二年の先輩たちが二人で行けゆうてくれはったんです」
    「桃吾、それ言っちゃったら不安にさせるやつじゃない?」
    「大丈夫だよ綾瀬川。雛がどうしても俺に渡したかったって言えない照れ隠しなのはわかってるから」
    「主将ぉ!」
    「あ、ならよかったです」
    抗議の声を出した桃吾を綾瀬川はまったく気遣わず「ほら渡すんでしょ」と花束を差し出すように促す。長持ちすることを考慮してドライフラワーで作られた花束を二人から受け取り、鮮やかな花束に一度視線を落とした後、彼は自分より身長の高い後輩二人を見上げた。
    6957

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    iduha_dkz

    MOURNING話が進んで解釈変わる度に書き直される円桃。
    枚方シニア戦が終わったら完成します。たぶん。

    5/13追記
    13話で解釈が変わったので、この流れのままで書き換えるのはここで終了です
    今後はこちらで→https://poipiku.com/7684227/8748586.html
    枚方シニア戦の夜の円桃構えたところでピタリと静止し、そこに吸い込まれるかのように、豪速球が投げ込まれる。ミットにボールが納まる音だけが繰り返されて、U12と枚方ベアーズの試合は終了した。
    格上相手を当然のことのように抑えたエースピッチャーに対し、ある人は球威の凄さに圧倒され、ある人は球種の豊富さに目を奪われ、またある人はそのコントロールの正確さに魅了されていた。
    とにかく鮮烈だったのだ。綾瀬川次郎という才能は。
    だから、綾瀬川の活躍の裏で当然のことのように行われていた異常なことに気づいたのは一握りのよく見ていた人だけで、円が気づいたのも桃吾と常日頃から組んでいて、彼のことをよく知っていたからだ。
    枚方ベアーズ戦の桃吾のリードは、これまで円に対して行われたものより、ずっと厳しい要求がなされていた。ストライクギリギリの下半分に集められる投球は、打者にも打ちづらいが投手にだって投げにくい厳しいリードだ。
    1982