ゴオゴオと、燃えている。怪物の雄叫びのように、もしくは雪崩れのように。地獄にかかる門がその口を開ける音とは、このようなものかもしれない。
ノートン・キャンベルは不随意に動く四肢の筋肉と霞んで揺れる視界に阻まれながら、木の幹に全身を打ちつけて、はね返された先でまた、全身を打ちつけて、転がり回るように森を邁進した。もうどれほどの時間こうしているのか、ノートン自身にもわからない。音は鼓膜にこびりついたように絶えず聞こえていて、あの惨劇がなおもすぐ背後にあるものか、或いは幻聴なのかも、判別する術がノートンには最早なかった。両の目はとうに、かたちのあるものを何も映してはいないのだ。かすかに判る明暗だけを頼りに、光へ、月光の射す方へと、進んだ。月明かりを想わせる彼の人の面影を、まぶたの裏に想い描き、それだけを追いかけるようにして。
だがそれも、長くは保たなかった。不意に泥濘に足を取られ、ノートンはとうとう地面に崩れ伏せた。ゼエゼエと呼吸をする度毎にまるでガラスの破片を飲み込んだかのように、喉や胸に鋭く重い痛みを感じた。
「ア、ァ…、グ、ェッ! はっ、は、ぁぁ……あつ、ぃ…熱い…!くッるし……ェぇ、ッ! ……、…」
ノートンの意識は、そこで途絶えた。