げんぱろ尾鯉+ふぉぜ尾鯉 俺とくぅの寝床は、家で一番広い部屋にある。ご飯を食べる部屋の隣だ。ご主人たちが座るふかふかの後ろ側、壁のすぐ近く。寝床は空みたいな色で、四角くて、ふわふわで、二匹で寝てもたっぷり広い。ご主人やおとと一緒に眠ることもあるけれど、殆どは此処で俺たち二匹で寝る。
くぅが本当の赤ん坊だった頃は起きてあちこち行かないように寝床はケージで覆われていたけれど、今は少し大きくなったからそれもなくなった。広い部屋で気持ち良く眠り、外が明るくなるのとご主人がご飯を作る音と匂いで目が覚めるのは、とっても良い気分だ。
でも、別の部屋で眠ることもある。
「リンちゃん、くぅちゃん、今日私のお部屋で寝る?」
おとがそう言うと、くぅは大喜びで飛びついた。
こんな風に、ご主人かおとの部屋で寝ないかと誘われることがある。この『寝る』は、俺とくぅがそのお部屋に二匹だけで寝ることだ。一緒の時だったら「一緒に寝る?」って聞かれる。そうじゃなくて、例えば今日は俺とくぅがおとの部屋で寝て、おとはご主人の部屋で寝る。
俺たちの寝る場所がご主人の部屋でも、言い出すのは必ずおとだ。つまり俺が思うに、おとがご主人と二匹で一緒に寝たいから、俺たちを誘うんじゃないかな。
だったら俺とくぅみたいにずっと同じ部屋にしたらいいのに……でも、ご主人は仕事があるし、おとも勉強しなきゃいけない。そういう時は一匹の部屋が必要だ。他にも理由が有るんだろう、きっと。
「じゃあお部屋の何処にベッド置くか、選びに行こうか。」
「きぇ!」
おととくぅはとことこ歩いていく、途中でくぅが振り返って「リンちゃん!」と大きな声で呼んだ。俺はくぅが選んだ場所なら何処でもいいのに、くぅはそうじゃないらしい。やれやれ、でも仕方ない、俺も二匹の後ろをついていく。
おとの部屋はご主人の所より物が多いけど、ご主人の所よりは綺麗だ。床はいつもぴかぴかで、本とか服とか、色んな物が大体まっすぐになっている。窓を開けると風が端っこまで流れて、いつだって居心地がいい。
「さて、何処にしようか。奥の端っこにする?クローゼットの中?」
「きぇ!きぇ!」
くぅはおとの寝床の端を引っ張った。「秘密基地にする?」「きぇーい!」両手を上げたくぅにニッコリ笑うと、おとは自分の寝床から薄い上掛けを取る。椅子を少し引いて机と隙間を作り、そこに上掛けをかけたら『秘密基地』の完成だ。くぅは大喜びして上掛けの中に潜った。
おとはしゃがんで、にこにこしながら俺を見る。
「私も小さい頃に、椅子二つの間にお布団かけて秘密基地作ってたの。兄さあの部屋からデスクライト持ってきて、本かゲームと、おやつ持って。うふふ、楽しかったなあ。」
「きぇ?」
「ん?……ああ、違うよくぅちゃん、今の『おやつ』は違うの。」
『おやつ』の言葉にくぅは上掛けから顔を出す。おとは笑いながらくぅの頭を掻いた。それで今日俺たちは、おとの部屋で寝ることになった。
いつもの寝床を『秘密基地』の真ん中に置いて、おとは小さい灯りも持ってきてくれた。丸い所を押すと点けたり消したりできる偉いやつだ。
「ドア、いつもと同じで少し開いてるからね。何かあったらおいで。」
「きぇ!」
「んな。」
おやすみを言っておとは部屋の灯りを消した。くぅは早速『秘密基地』に潜って、クスクス笑う。
「たのしーね、ちみつちち!リンちゃん、あそぼ!」
「もう夜だから、あんまり遊ばないぞ。ちょっとだけな。」
「やーよ!いっぱいよ!」
くぅはそう言うけれど、いつも最初だけうんとはしゃいで、すぐに眠くなってしまう。今日も『秘密基地』から灯りを持って真っ暗なおとの部屋を探検し、寝床へ戻りお喋りをしているうちにウトウトし始めて、頭を優しく毛繕いしてやったらあっという間に眠ってしまった。
上を向いているくぅの掌に自分の手を重ねたら、きゅ、と握り返してきた。くぅはよく夢を見ている。寝ながら笑ったり、遊ぶみたいに手足を動かしたり、口をもぐもぐしたりするのはしょっちゅうだ。そして、怖い夢を見て寝ぼけて泣き出す時もある。今日は怖い夢を見ないといいなあ。
俺はくぅの手を優しく握って、もし悪い奴が入ってきたらどうやってやっつけようかを少し考えてから眠った。なんと言っても寝ているくぅは温かくて柔らかくて、隣に居たらどうしようもなく眠くなるんだ。ご主人とおとは、まだ起きているみたいだった。
きぃ。ご主人の部屋が開く音がして、俺は眠い目をしぱしぱさせた。窓の外はうっすら明るい。どうも朝になったらしい、隣のくぅがすやすや寝ているのを確認してから、俺は上を向いて大きくあくびをした。顔を軽く擦り、くぅを起こさないように体を伸ばして、そうっと寝床から出るとご飯を食べる部屋に行った。
「なん。」
「おはよ。今日も早起きだな。」
お水を飲んでいたご主人は、自分のコップの残りを俺にも飲ませてくれた。こんな風にご主人と二匹で過ごせる時間が、俺は凄く好きだ。しゃがんでくれたご主人の足を両手でぎゅっと掴んで体を押し付ける。ご主人は何回も何回も撫でてくれて、俺は嬉しくてつい子供みたいに喉が鳴ってしまった。
「そろそろくぅが泣くぞ。向こう連れて行こう。」
そうだ、くぅは半分寝ているような時、隣に誰も居ないとすぐ泣くんだ。俺が頷くと、ご主人は俺を抱っこしておとの部屋に行く。
寝床のくぅはまだ夢の中だったけれど、手足をもぞもぞさせて隣に居る筈の俺を探していた。ご主人はむずかりかけているくぅの手を摘まんで摩る。すぐにくぅは落ち着いて、ご主人はそのままくぅを抱っこして自分の部屋へ向かった。
寝床で寝転んでいたおとは、部屋に入ってきた俺たちに気付くと、眠たそうな目を開けほんのり笑った。ご主人はおとの顔の側に俺とくぅを下ろして、そのままおとのおでこに口を付ける。
「もうちょっと寝てるだろ。先、洗濯回してくる。朝飯、目玉焼きとスクランブルエッグ、どっちにする。」
「んー……スクランブルエッグ。」
「畏まりました、お姫様。」
ご主人はおとの髪の毛を撫でて、もう一回おでこに口を付け、最後に俺をひと撫でして出ていった。
くぅはお腹を上にしてぷぅぷぅ眠っている。おとはくぅの丸い体に掌を優しく添わせて、とろんとした目で俺を見た。
「リンちゃん、寝る?」
俺は首を横に振って、おとの後ろ頭の方に回り込み、ぽんぽん、と二回撫でてあげた。おとはくぅみたいにくすくす笑った。
ご主人と一緒に寝る時、おとはご主人に遊んで貰っているみたいだ。嬉しくてよっぽどはしゃぐのか、次の日声がかさかさになっている時もある。本気になり過ぎるのか泣いたような目で起きてくることだってあるんだ。
本当にくぅとそっくりだ。二匹がもう少し大人になるまで、俺がご主人を手伝わないといけない。眠る二匹から離れて、俺はご主人の所へ走った。