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    鞭打ち少年パロまとめ本「私の少年」より
    はしかにかかった先生に唾をもらいに行く新兵衛の話
    先生のおばあちゃんが出ます
    ▼鞭打ち少年パロの他の話はこちら▼
    https://galleria.emotionflow.com/113773/644613.html

    春にはまだ早いお熱を出すときの先生は、いつもと違う匂いがするのですぐわかる。
    体の中で何かが変わるのだろうか。何とも言えない、少しだけ古い書物にも似た匂いが混じる。その段階ではまだご自身では何も感じないようで、普段通りに元気にされている。けれどすぐにお顔があったかくなって、反対に手足が、指の先からすうっと冷たくなる。そこまでいくと具合が悪くなってくるのか、いつもよりいくらか甘えん坊になって、寒いからそっちのどてらも貸してほしいとか、足が冷えるからさすってほしいとか、お白湯を吹いて冷ましてほしいとか言い始める。
    新兵衛はそれもいやではない。先生の言葉に従って、手足のように動くのが好きなのだ。それに、どうやら自分は鈍くできているのか、熱など出すことがまるでないから、それがどれほどつらいものかわからない。先生が少しでも楽になるなら、自分は裸で過ごしたって構わないし、足も一晩中だってさするし、お白湯が水になるまで吹いたっていいと思っている。
    実際には、ひとつふたつご要望を叶えるころには大抵お熱が上がりきって、もういいと真っ赤な顔でしんどそうにつぶやいて目をつむってしまわれる。手足もすっかりほかほかとして、温める必要もなくなっている。なので汗をお拭きしたり、井戸から水を汲み直して額を冷やしてみたりする。
    しばらくしてお熱が引くと、ちょっぴりバツが悪そうに、いつもよりもっと優しい先生になる。きっと、普段なら言わないようなわがままを言ってしまったことが恥ずかしいのだと思う。新兵衛は好きで言うことを聞いているのだから、全く気にすることはないのにとも思う。でもしおらしい様子で新兵衛に気を遣う先生は珍しくて可愛らしくて、少しどきどきして、悪いことに新兵衛はそれもまた、いやではないのだ。

    お熱が長引いていた。年寄りの医者が往診に来て、ぶつぶつとまだらに赤くなった体や口の中を見て、はしかだと言った。はしかには薬がないのだと言った。もう山を越えているから、できるだけ栄養をとってよく休んでいれば数日でよくなると言って帰っていった。薬も出さず、よく食ってよく休めと言うだけなんて、医者というのはなんという楽な商売だと新兵衛は思った。
    「はしかは命定めと言うてな、婆の弟も三つでのうなったぜよ」
    大奥様に言われて鶏小屋から取ってきた卵は、まだ温かかった。めんどりが産んで、まだ一刻と経っていない、命のある卵だ。大奥様はそれを使って、先生のために玉子酒を作るという。新鮮な命には、きっと今の先生に必要な栄養がたっぷりと含まれているのだろう。
    すぐできるから待っているようにとのことで、新兵衛はくりやの入り口から大奥様の手元を眺めていた。酒精を飛ばすむわむわとした香りが新兵衛のところまで漂ってきていた。
    「あの子は一番えい時に罹った。さすがちや」
    大奥様は先生のことを目に入れても痛くないほどに可愛がっている。才気に溢れ、愛嬌があり、お顔立ちも凛々しい孫息子だ。それは可愛くてたまらないだろう。しかしそれにしても、病に臥せりあれほど苦しんでいるのにさすがということがあるものだろうか。不思議に思い、新兵衛は思わず口を挟んだ。
    「罹るなら、もっと大きくなって、体の強くなってからの方が良いのではないのですか?」
    「十を過ぎて高熱を出すと、種無しになる人もあるきねえ」
    溶いた卵を濾しながら大奥様が答えた。種無し。種を抜かれた、萎んだ干し柿の様子がぼんやりと頭に浮かんだ。きっと人間の中にも種があって、その種が無くなると非常に困るということなのだろう。河童に尻子玉を抜かれると死ぬという話を思い出した。股ぐらがきゅっとなった。
    「おんしもまだじゃろう。今のうちにもろうちょき」
    もらう、というのはどういうことだろう。お熱で辛そうにしている先生を見るたび、自分がお熱をもらってさしあげたいと新兵衛は思っている。しかし、現実にそうできたことは一度もない。できないものだとばかり思っていた。
    それができるのだとしたら、これほど良いことはない。先生は元気になって、自分は種無しの未来から逃れられる。なんだ、薬はなくとも方法はあったのだ。あの医者、耄碌しているのではないか。
    「もらうには、どうしたらいいのですか?」
    何やら注ぎ込まれた湯呑み茶碗がほこほこと湯気をたてる。大奥様はそれを盆に載せ、布巾を絞って隣に置くと、新兵衛に手渡した。
    「唾でももろうて飲んだらえい」
    ふんわりと甘い、いかにも滋養のありそうな香りが鼻をくすぐった。

    障子戸を細く開ける。先生、新兵衛ですと声をかけてから一人分の幅を開けて入る。少し空気が悪いように感じて、換気をしようと開けたまま床に向かう。部屋の主は藪医者の帰った時のまま、水にも本にも手をつけた形跡なく布団の中にいた。
    「大奥様の玉子酒です。飲めそうですか」
    桃の実のようにふっくらしていた先生の頬は、この幾日かでずいぶんと痩せてしまった気がする。ほとんど何も召し上がっていないのだ。肉が減ってしまった分、切れ長の双眸がいっそう大きく目立って見えた。
    ぼんやりと虚空を眺めていたその目が、けだるげに動いてこちらを見た。そのお顔つきがどこか大人びて見えて、新兵衛の胸は不意に餅でも詰めたように息苦しくなった。もしかしたら、病が治っても、細ってしまったお顔はもう元には戻らないのではないかという予感が、ひやりと首筋をかすめていった。それをいやだと言うつもりはないが────先生が遠くに行ってしまうような、置いてけぼりにされるような、心もとない気分になっていた。
    「……飲む。もう寝るのも飽いた」
    かさついた声に我に返る。呆けていた新兵衛が手をお貸しするより早く、先生は独力で体を起こしてしまった。少し焦って言葉が滑る。
    「あ、えと、熱いので、ふーふーしま、……冷ましますか?」
    とっさに出てしまった幼言葉を言い直してから、言い直さない方がましだったかもしれないと少々後悔した。知らんぷりしておけば見逃されたような気がしなくもない。しかし考えてももう遅い。
    「うん、ふーふーして」
    先生が大人みたいな顔で微笑んだ。首から上がかあっと熱くなる。急いで茶碗を手に取り、淡い黄色の水面にふうふうと息を吹きつけた。
    手の中の満月に細かな波が立つ。甘い湯気が顔にかかる。ほんのわずかに酒精の気配を残す優しい香りが、すっかり忘れかけていたもうひとつの用事を新兵衛に思い起こさせた。そうだ、そうだった。唾をいただいて、飲まなくては。息の吹きつけを中断し、新兵衛は顔を上げた。
    「あの、先生────」
    「ん?」
    唾を、とお願いするつもりだった舌は、しかしそれ以上は動かせなくなってしまった。また胸がぎゅっとなって、手のひらに汗が滲んだ。今日はお顔を目にするたびに何やら調子が狂ってしまう。とてもじゃないが唾をくれなどとは言えそうにない。
    いつもの健康的な、桃の頬をした先生にだったら、つるりと言ってしまえたものだろうか。今となってはそれもよくわからなかった。
    「……っこ、このくらいで、いかがですか」
    苦しまぎれに、茶碗を差し出してごまかす。ありがとうと返る声は、ちょっぴり嗄れてはいるものの、確かにいつもの先生なのに。これでは逆に、自分が先生を遠ざけてしまっているようではないか。少しばかりお顔の雰囲気が変わったくらいで人見知りか。何を情けない。空になった両手を、新兵衛は思わずぐっと握りしめた。
    こくん、こくんと喉が動くのを、前髪の隙間からちらちらと盗み見る。先生が玉子酒を飲み終えたら言う。あの血の気の薄い唇が茶碗から離れたら、言う、ちゃんと言う。着物の裾で手汗を拭う。湯呑み茶碗が少しずつ傾く。喉の色はさらしのように白い。ほんの少しだけ赤みを取り戻した唇が、思ったより早く茶碗を離れた。ああ、言わなくては。言わなくては────

    「────つッ、つばッ、飲ませたもんせっ!」

    噛みつくような声が出てしまい、慌てて口をつぐむ。先生は目を丸くして新兵衛を見ていた。玉子酒のおかげか、お顔の色が若干良くなったようだった。茶碗の中には小さくなった満月が、まだ半分ばかり残っていた。
    病人に大声をあげてしまったのと、言葉が足りなかったらしいのとを同時に自覚し、謝罪と補足説明とがいっぺんに口を出ようとして喉につかえる。新兵衛がぱくぱくと酸欠の金魚のように口を動かしている間に、先に平静を取り戻したのは先生の方だった。
    「……障子を閉めようか」
    新兵衛はふらふらと立ち上がり、外廊下に通じる戸をぴったりと閉め、ふらふらと戻った。顔が溶けそうに熱かった。全部うまくいかなくて、己の不出来が恥ずかしくて、消えてしまいたかった。
    もとの畳の上に正座すると、先生がちょいちょいと手招きをした。うつむいたまま膝歩きで布団のきわまで寄ると、その膝に先生の手が触れた。じんわりと、まだお熱のあるのが手のひらの感触だけでもよく分かった。
    「どうして?」
    落ち着いた優しい声だった。心の乱れを抑えられずに空回りしている自分が、ますます幼稚に感じられた。
    おそるおそる表情を窺う。穏やかな目が新兵衛を見ていた。目のそばの薄い皮膚に血が透けて、生垣に咲いた椿のようだった。
    「…………お、大奥様が、先生のはしかを、そうしたら、もらえると……十に、なる前に、罹った方が良いと……」
    つっかえつっかえに事情を説明する新兵衛の声は、瞬く間に尻すぼみになって途切れた。話を聞いてくれていた先生の目の色が、蝋燭の火を吹き消したようにすっと冷たくなっていったからだ。自分が何か、まずいことを口走ってしまったらしいということだけは分かる。しかしそれがどの部分だったのかはてんで分からなかった。
    「────なんだ。そうか」
    固まっている間に、膝に触れていた手が素っ気なく引っ込んだ。先生は急速にこの会話への興味を失ったようだった。
    「うん、でも、いいよ。そうしよう」
    ほとんど泣き出しそうになっている新兵衛をよそに、先生は再び茶碗を持ち上げ、口をつけた。しかしその手は茶碗を傾けることなく止まり、じっとそのまま動かなくなった。何か考え事でも始まったのだろうか。切れ長の眼差しはただ茶碗の中を見つめている。感情の読み取れないその瞳から先生の胸中を推しはかることは、新兵衛にはあまりにも難しかった。
    先生はしばらくの間そうしていた。
    突然一枚の絵になってしまったみたいに、身じろぎひとつせずにずっとずっとそうしていた。
    混乱したまま新兵衛も息を殺してじっとしていたものの、いつ終わるとも知れぬ奇妙な状況を次第に重苦しく感じ、耐えがたい気分になりつつあった。何がいけなかったのかは分からないままだが、まずは謝ってしまうのが一番かもしれない。何であれ返事をしてもらえたら、この硬直した時間はとりあえず終わるはずだ。新兵衛は息を吸い込み、着物の裾を握り直した。
    「せん────」
    「お待たせ。どうぞ」
    ついと目の前に差し出されたのは、先生の湯呑み茶碗だった。
    小さくなった満月がちゃぷんと波を立てた。碗と月との境目に、いくつか気泡がくっついている。湯気はもう立っていなくて、茶碗がほんのり温かいばかりだった。
    もう飲まないから下げろの意かと解釈し、盆に載せようとすると、茶碗より少し熱い指がそれを阻んだ。寝巻の袖の中に見えた腕に、赤い発疹が痛々しくまとわりついていた。
    「飲まないの?」
    「えっ……」
    先生はまた大人の顔をして、細めた目で新兵衛を見ていた。唇が濡れて光っていた。察しの悪い新兵衛は、茶碗を見て先生を見て、また茶碗を見た。透明な泡が、まだはじけずに残っていた。もしかして、という一つの推測がじわじわと胸の内に広がり始めた。
    「混ぜずにそのままが良かったかな」
    先生が口元に手をやった。もしかしてなどという魯鈍な考えを吹き飛ばされた新兵衛はぶんぶんと首を横に振り、気遣いを謹んで辞退した。先生はくすくす笑って、それからむせてけほけほと咳き込んだ。
    「だ、大丈夫ですかっ」
    「……ん、……だいじょ、ぶ」
    それよりほら、と急かされて手の中の茶碗に意識が戻る。こっくりと黄色い玉子酒。先生が、新兵衛のためにわざわざ唾を入れてくださった特別な玉子酒だ。唾をいただくという目的を果たしたことよりも、新兵衛の不躾なお願いを先生が聞き入れて、嫌がるそぶりも見せず叶えてくださったという事実がそこにあることに胸が高鳴った。
    「いただきます」
    新兵衛は姿勢を正して両手で恭しく茶碗を掲げ、口に持っていった。とろりと人肌に冷めた仄甘い液体は、口に含むと思ったより酒の匂いが残っていた。ぐいぐいと三口半で飲み干して、ごちそうさまでしたと空になった器を見せると、先生は満足げに頬を緩めた。

    「おまえは本当にかわいいね」

    脳天に手が伸びてきたので、背中を丸めて頭を低くする。くしゃくしゃと髪がかき混ぜられる。先生は玉子酒に残った酒精で酔っぱらってしまったのかもしれない、と新兵衛はようやく理解した。正月に甘酒を舐めた時も、こんな具合に少し様子がおかしくなったのだ。
    犬か何かを構うみたいに、先生はずっと新兵衛の頭をわしゃわしゃ撫でていた。新兵衛は先生が飽きるまでじっと頭を下げて、心地よく従順な犬のままでいた。口の中の甘さが、いつまでもいつまでも消えなかった。





    婆様の知恵袋というやつは大したもので、私が回復するのと入れ違いに新兵衛はしっかり熱を出した。熱の続くのも、全身に発疹が広がるのも同じだったが、食欲だけは落ちずに粥では足りぬと腹を鳴らしてばかりいたので握り飯を出してもらうようにした。新兵衛はこういうところが違うのだ。
    天気は良いけれど病み上がりでは遊びにも行けないし、弱った新兵衛を見る滅多にない機会というのもあって、ほとんどの時間をそばでごろごろして過ごした。庭の梅が盛りを迎えていたので一枝折ってくると、ひどく恐縮して、自分は先生に見舞いのひとつも持ってこなかったと涙ぐんで謝りだした。私が見せたくて持ってきたのだからこれは見舞いではない、それ以上ぐずるのなら捨ててくると脅しつけてようやく黙らせた。慣れない熱を出すと、どうやら心まで弱ってしまうものらしい。
    「…………きれいですね」
    「庭にはうぐいすも来ていたよ」
    一輪挿しの枝を眺める新兵衛の頬は、熱に茹だって梅より赤い。その頬、小鼻のすぐ脇に、さっきがっついた握り飯の米粒がちんまりひっついていた。いつも上手に食べるのに、珍しい。食えてはいても、やはり調子は悪いのだ。
    「ついてる」
    手を伸ばして米粒をつまむと、ぼんやりと定まらぬ目で不思議そうにこっちを見た。半開きの口にそのまま押し込んでやる。かさついた唇と、そこからこぼれる息が熱かった。
    「……せんせの手、よか匂いします」
    「そう? 梅を触ったからかな」
    自分で嗅いでみると、盛りの梅の木に突っ込んで枝ぶりを物色した右手からは、確かに甘くふくよかな香りがした。顔のそばに手を戻してやると、目を細くして犬みたいに鼻先を擦り付けてきた。ほかほかの頬を手の甲で撫でてやる。
    かわいい犬は瞼を下ろし、されるがまま気持ちよさそうに撫でられた。


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    phnoch

    DONE小1しょたなかくん掌編集「たなかくんと!」より
    居候のイゾーが風邪をひき、たなかくんが拗ねる話です。

    ▼しょたなかくんシリーズの他の話はこちら▼
    https://galleria.emotionflow.com/113773/656724.html
    たなかくんとむやむやバカは風邪をひかないというのは、どうやら迷信だったらしい。さんざん雪遊びをした次の日、先生も新兵衛もぴんぴんしているのに、なぜか以蔵が熱を出した。
    「こたつで寝るのがやっぱり良くないんじゃないか」
    体温計を見ながら先生が言う。以蔵がカスカスの声でいや雪合戦のせいじゃろと口答えをする。こたつはベッドよりあったかいのに、どうして風邪をひくのだろう。よくわからないが、こたつが以蔵に占拠されなくなるなら良いことだ。
    「こたつなんぞで寝ちょっでだ。はよ自分の家に帰れ」
    「新兵衛、そういう言い方はやめなさい。病人だぞ」
    新兵衛はきゅっと身をすくめた。先生と同じことを言ったつもりだったのに、叱られてしまった。悪いのは以蔵のはずなのに。先生と以蔵はそのまま、ホケンショウはあるのかとか何とかついていけない話を始めてしまって、新兵衛は唇をへの字にしたままランドセルを掴んで外へ飛び出した。玄関がバタンと閉まった瞬間、黄色い帽子を忘れたことに気がついたけれど、取りに戻る気にはなれなかった。
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    phnoch

    DONE鞭打ち少年パロまとめ本「私の少年」より
    はしかにかかった先生に唾をもらいに行く新兵衛の話
    先生のおばあちゃんが出ます
    ▼鞭打ち少年パロの他の話はこちら▼
    https://galleria.emotionflow.com/113773/644613.html
    春にはまだ早いお熱を出すときの先生は、いつもと違う匂いがするのですぐわかる。
    体の中で何かが変わるのだろうか。何とも言えない、少しだけ古い書物にも似た匂いが混じる。その段階ではまだご自身では何も感じないようで、普段通りに元気にされている。けれどすぐにお顔があったかくなって、反対に手足が、指の先からすうっと冷たくなる。そこまでいくと具合が悪くなってくるのか、いつもよりいくらか甘えん坊になって、寒いからそっちのどてらも貸してほしいとか、足が冷えるからさすってほしいとか、お白湯を吹いて冷ましてほしいとか言い始める。
    新兵衛はそれもいやではない。先生の言葉に従って、手足のように動くのが好きなのだ。それに、どうやら自分は鈍くできているのか、熱など出すことがまるでないから、それがどれほどつらいものかわからない。先生が少しでも楽になるなら、自分は裸で過ごしたって構わないし、足も一晩中だってさするし、お白湯が水になるまで吹いたっていいと思っている。
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    phnoch

    DONE10/8まだまだ叫信のペーパーラリー企画に参加したお話です。
    はんぺ~た坊ちゃまとボディガードのたなかくんが節分の豆まきをします(季節感の死)
    坊ちゃまがたなかくんのことを犬として扱ってたりちょっと性の目覚めがあったりします。助けてください。
    鬼がくるいつもと同じ能天気な音でチャイムが鳴って、本日の授業はおしまいになってしまった。いつものようにお支度をして、お帰りの会をして、ご挨拶をして、帰らなくてはならない。帰りたくないのに。いつもと違って、家になんか全然、これっぽっちも帰りたくなかった。
    二月三日だ。国語のノートにも、算数のノートにも、連絡帳にも2/3と書いた。給食には小袋入りの炒り豆がついてきた。生活科では行事と節句について習った。今日が二月三日であることは、どう足掻いても変えられない決定事項であるらしかった。
    古い家柄のせいもあってか、武市家は年中行事を疎かにしない家である。姉の八段飾りは雛祭りが終われば速やかに片付けられるし、端午の節句が近づけば五月人形だけでなく本物の鎧兜まで蔵から出てきて飾られる。当然、節分ともなれば、一家総出でまくのだ、豆を。今朝、升に入った福豆が神棚にお供えされていたのも確認済みだ(どこからか美味しいお菓子をいただくとまず神棚にお供えされるので、半平太にはしょっちゅう神棚を確認する習慣があった)。
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