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    小1しょたなかくん掌編集「たなかくんと!」より
    居候のイゾーが風邪をひき、たなかくんが拗ねる話です。

    ▼しょたなかくんシリーズの他の話はこちら▼
    https://galleria.emotionflow.com/113773/656724.html

    #武新
    wuXin
    #トサキントリオ
    toshikiTrio
    #年齢操作
    ageManipulation

    たなかくんとむやむやバカは風邪をひかないというのは、どうやら迷信だったらしい。さんざん雪遊びをした次の日、先生も新兵衛もぴんぴんしているのに、なぜか以蔵が熱を出した。
    「こたつで寝るのがやっぱり良くないんじゃないか」
    体温計を見ながら先生が言う。以蔵がカスカスの声でいや雪合戦のせいじゃろと口答えをする。こたつはベッドよりあったかいのに、どうして風邪をひくのだろう。よくわからないが、こたつが以蔵に占拠されなくなるなら良いことだ。
    「こたつなんぞで寝ちょっでだ。はよ自分の家に帰れ」
    「新兵衛、そういう言い方はやめなさい。病人だぞ」
    新兵衛はきゅっと身をすくめた。先生と同じことを言ったつもりだったのに、叱られてしまった。悪いのは以蔵のはずなのに。先生と以蔵はそのまま、ホケンショウはあるのかとか何とかついていけない話を始めてしまって、新兵衛は唇をへの字にしたままランドセルを掴んで外へ飛び出した。玄関がバタンと閉まった瞬間、黄色い帽子を忘れたことに気がついたけれど、取りに戻る気にはなれなかった。

       ◆

    学校が終わっていつも通りに先生の仕事場へ行くと、鍵がかかって、書き置きが貼られていた。以蔵のお昼をやりに帰るから、新兵衛も家の方に帰っておいでと書かれている。昼飯といったって、新兵衛は給食も食べて掃除もして帰りの会もすませて帰ってきているのだから、もうとっくに終わっているはずだ。以蔵なんていい大人なんだから、そんなに世話を焼いてやる必要はないだろう。米を炊いて、冷蔵庫のおかずをチンして食べるくらいなら、新兵衛だって一人でできることだ。全く面白くなかった。むやむやした黒い雲が、胸の中に垂れこめていくようだった。
    道の端に残っている雪の塊を踏みつけながら、来た道を戻った。残り雪はもう足跡がついたりしなくて、凍ってしまったみたいに固かった。泥で汚れて、昨日とは全然違う様子だった。そんな雪を踏んでいると、なんだか自分が意地の悪いことをしているみたいで、ますます気分が落ち込んできた。
    途中の公園に、同級生が何人かいるのが見えた。こっちを見て手を振った。新兵衛は手を振り返し、公園に入っていった。あずまやの日陰のところに雪が結構残っていて、それで遊んでいたらしい。帰る気になれなかった新兵衛はベンチにランドセルを放り出し、日が暮れるまで公園で遊んだ。



    そんなに遅くなるつもりはなかったのだけれど、家に着くころにはもう、夕焼けはほとんど夜の紺に押しつぶされていた。音を立てないよう、そうっと玄関を開けて忍び足で滑り込む。家に帰れという書き置きを無視する形になってしまって、先生はきっと怒っているだろうと思ったからだ。
    新兵衛は先生が怒るところを見たことがなかった。今朝のようなほんのちょっとした注意だって、本当に珍しいことだった。新兵衛は先生のことが好きだから、いつもはちゃんと何でも言うことを聞いて、行儀良くしている。いい子だねと褒められることはあっても、怒られたりしたことは一度もないのだ。だから先生がどんなに怒るかも、怒られた自分がどうなってしまうのかも想像がつかなかった。
    びくびくしながら居間の様子をうかがう。電気がついていない。以蔵が寝ているのかと思ったが、こたつにも誰もいなかった。先生の部屋からも明かりは漏れていない。家じゅうしんとして、どこからも人の気配がしなかった。
    先生は、以蔵を病院につれていったのかもしれない。それならそうと、言ってくれたらいいのに。でも、帰ってこいと書いてあったのに公園でずっと遊んでいたのは新兵衛だ。言いたくても、帰ってこない奴に言うことなんかできない。先生に非はない。以蔵は急に具合が悪くなったんだろうか。あったかくして寝ていれば治るものだと思っていたのに。自分の家に帰れなんて新兵衛が意地悪を言ったせい、なんてことはないだろうが、ああでも、先生も一緒に新しい家を探しているんだったらどうしよう。先生が以蔵と新しい家に行ってしまって、帰ってこなかったらどうしよう。意地悪で言うことも聞かない新兵衛のことはもう、嫌いになってしまったかもしれない。ずっとこの家で、一人だったらどうしよう。
    真っ暗な玄関に、新兵衛は座り込んでしまった。自分の家なのに、自分の家ではないみたいだった。胸がくるしくて、鼻がつんとして、泣きそうなんだとわかった。泣いてもしょうがない、泣くな、情けない、そう思うのに、目がじわっと熱くなって、息が震えて、止めることなんてできなかった。だめだ、こぼれてしまう――――そう思ったとき、目の前のドアが急に開いた。

    「うわっ、びっくりした……どうしたんだ、こんなところで」

    買い物袋を提げた先生が電気をつける。白い光が新兵衛の目をしくんと刺す。真っ暗だった玄関がいつもの顔になる。先生の靴と、新兵衛の靴と、以蔵の靴がある。
    「っせ、せんせ……!」
    体が勝手に動いて、先生の腹にしがみついていた。仕事場で喫っているたばこの甘いにおいがした。こぼれかけた涙を引っこめようと、顔をぎゅうぎゅう押し付ける。手袋の手がちょっと頭に触って、それから手袋を外して、今度はたくさん撫でてくれた。
    「行き違いになっちゃったかな? 以蔵がいるから大丈夫かと思ったんだが」
    「ぃ、いぞ、いる……?」
    「新兵衛の部屋に寝かせたんだが……」
    部屋を覗くと確かに、新兵衛のベッドにもじゃもじゃした影が見えた。まさか自室にいるなんて思わず、確認していなかったのだ。先生が帰ってきたのは良かったが、ベッドを勝手に使われていることは納得がいかない。しかし今さら文句を言える立場でもなく、新兵衛は先生のコートの裾をぎゅっと握ることしかできなかった。
    「勝手に部屋を使わせてしまってごめんね」
    大きな手が髪をくしゃくしゃかきまぜる。べつにいいですと言ってしまいたいのに、頭のなでなでと胸のむやむやが押し合って、互いに譲らない。寝ているのが以蔵でなかったら、たとえば小さい赤ん坊とかなら、いいですと言えた気がするのに。
    「今夜は私のベッドで一緒に寝てくれるか? あっちの方が広いから」
    新兵衛は面食らって顔を上げた。言われてみればそうだ、新兵衛の寝る場所がない。先生の部屋で寝ていいのなら、それはいつもと違って特別で、わくわくする。
    「一緒に寝てくれるなら、夕飯はピザを取ろう。そうだ、生ハムを載せてもいいぞ。デザートは……」
    いやだなんてひとことも言っていないのに、分不相応なおまけが勝手に積み上がっていく。新兵衛は大急ぎで首をこくこく縦に振った。断る理由も資格もどこにもなかった。先生のお顔が、花の咲いたみたいにぱっと明るくなる。

    「ピザて、おまん……ひとが伏せっちゅう時にピザて……」

    部屋から悪霊みたいな恨みがましい声がした。ゴホゴホ咳きこむ音が続く。寝床泥棒が目を覚ましたらしい。
    「以蔵にはお粥を買ってきたからな。梅がゆと玉子がゆ、どっちがいい? プリンもあるぞ。桃缶も」
    「ピザがえいぃ……テリヤキ……」
    「元気だな……まあ食べ切らんでも新兵衛がいるしな」
    頼んでやるのか。先生は本当に以蔵に甘い。残飯処理のあてにされているようなのも釈然としないが、新兵衛もテリヤキは好きだ。おこぼれがもらえるものならもらいたい。新兵衛が複雑な思いで口をとがらせていると、脇の下に手が入り、突然ふっと体が浮いた。
    「さ、早いところピザを選ぼう」
    幼児にするように新兵衛を正面に抱き上げた先生は、そのまま居間へと歩き出した。落っこちないよう慌てて首にしがみつくと、先生も新兵衛をぎゅっとした。温かな首すじに額を擦りつけると、もっともっとぎゅっとされた。涙はとっくに引っこんで、ただただ腹がぐうぐう鳴った。おやつを食べていないのを思い出した。
    先生がかすかに笑ったのが息の音でわかった。先生のにおいが胸にたまっていく。凍った雪に日があたったみたいに、むやむやはもう、とけてどこかへ消えていってしまった。
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    phnoch

    PROGRESS野球留学生たなかくんと、元プロ選手のタケチ監督と、新兵衛は俺が育てたと思っている地元リトルリーグ監督俺の幻覚です!!!!!https://x.com/phnoch/status/1835224802514399563
    夏を待っていましたこのサイレンの音を聞くと、夏が来たという感じがする。蝉の声でも花火の音でもない。野球人にとっての夏は、甲子園に始まり甲子園に終わる。テレビに群がる子供らのうち何人かは、数年以内にあの土を踏むのかもしれない。このサイレンの音を、全身の肌で聞くのかもしれない。
    「田中先輩どけおっと? 先発じゃなかと?」
    「こんた相手チームやっど。先輩は高知じゃ」
    練習を早々に切り上げたのは、もちろん甲子園中継に合わせてだ。集会所を借り切り、希望者はそこで見られるようにした。二日目、第二試合。この春に我がチームを巣立ったばかりの超大型選手、田中新兵衛が出場するはずだからだ。
    超大型、というのは比喩的な意味だけでなく、とにかく体が大きかった。小学生の頃から見てきたが、著しい成長期があったわけではなく最初からずっと同学年の子に比べひとまわりデカい体、強い力を持っていた。あまりに差がありすぎるので、物心ついた頃から遊びのドッヂボールでは利き手を封じられていたらしい。大きい子、特に急激に背が伸びた子は体のバランスを見失いやすいものだが、新兵衛は体幹が恐ろしく強く、ボディコントロールもしっかりしていた。
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    phnoch

    DONE小1しょたなかくん掌編集「たなかくんと!」より
    居候のイゾーが風邪をひき、たなかくんが拗ねる話です。

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    たなかくんとむやむやバカは風邪をひかないというのは、どうやら迷信だったらしい。さんざん雪遊びをした次の日、先生も新兵衛もぴんぴんしているのに、なぜか以蔵が熱を出した。
    「こたつで寝るのがやっぱり良くないんじゃないか」
    体温計を見ながら先生が言う。以蔵がカスカスの声でいや雪合戦のせいじゃろと口答えをする。こたつはベッドよりあったかいのに、どうして風邪をひくのだろう。よくわからないが、こたつが以蔵に占拠されなくなるなら良いことだ。
    「こたつなんぞで寝ちょっでだ。はよ自分の家に帰れ」
    「新兵衛、そういう言い方はやめなさい。病人だぞ」
    新兵衛はきゅっと身をすくめた。先生と同じことを言ったつもりだったのに、叱られてしまった。悪いのは以蔵のはずなのに。先生と以蔵はそのまま、ホケンショウはあるのかとか何とかついていけない話を始めてしまって、新兵衛は唇をへの字にしたままランドセルを掴んで外へ飛び出した。玄関がバタンと閉まった瞬間、黄色い帽子を忘れたことに気がついたけれど、取りに戻る気にはなれなかった。
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    phnoch

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    たなかくんとむやむやバカは風邪をひかないというのは、どうやら迷信だったらしい。さんざん雪遊びをした次の日、先生も新兵衛もぴんぴんしているのに、なぜか以蔵が熱を出した。
    「こたつで寝るのがやっぱり良くないんじゃないか」
    体温計を見ながら先生が言う。以蔵がカスカスの声でいや雪合戦のせいじゃろと口答えをする。こたつはベッドよりあったかいのに、どうして風邪をひくのだろう。よくわからないが、こたつが以蔵に占拠されなくなるなら良いことだ。
    「こたつなんぞで寝ちょっでだ。はよ自分の家に帰れ」
    「新兵衛、そういう言い方はやめなさい。病人だぞ」
    新兵衛はきゅっと身をすくめた。先生と同じことを言ったつもりだったのに、叱られてしまった。悪いのは以蔵のはずなのに。先生と以蔵はそのまま、ホケンショウはあるのかとか何とかついていけない話を始めてしまって、新兵衛は唇をへの字にしたままランドセルを掴んで外へ飛び出した。玄関がバタンと閉まった瞬間、黄色い帽子を忘れたことに気がついたけれど、取りに戻る気にはなれなかった。
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    hisoku

    DOODLE昔書いた掌篇小説です
    杉語り、尾の寝る時の癖に気付いた話です
    両手に収まりきらない程の 同棲を始めて毎晩一緒に寝るようになって、尾形が寝ている間はいつも両手を握っていて、ぐーをしている事に気が付いた。毎晩、毎晩、時には眠る前に手を繋いでいたりすることがあっても、いざ眠りに落ちて繋いでいた手がするりと解けると同時にぐーになる。きっかり両手を握り締めていて、ぱーの手になっていた事がない。柔くもなく常にきつく握り締められていて、それに気付いてから目にする度に不思議だと思った。
     こいつは力んで寝ているのだろうか、そんな力を入れたまま寝て休めているのだろうか。夜中にトイレに起きたついでに気になって握っている手の指を開かせてみたくなった。腹這いになって尾形の手元に顔が来るように寝そべり、一本ずつ曲げている指の関節を伸ばしてやろうと指に触れる。親指は人差し指の隣につけられていたので、先ずはそれをそっと横にずらした。出来た隙間から人差し指の第一関節を優しく掴むと起こさないよう細心の注意を払いながら手のひらから離すように伸ばしてやる。開いたら、自分の手の甲の縁で押さえて中指も広げようとした時に声がした。
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