Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    phnoch

    @phnoch

    @phnoch

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🌋 💯 🚨 🍫
    POIPOI 24

    phnoch

    ☆quiet follow

    小1しょたなかくん掌編集「たなかくんと!」より
    居候のイゾーが風邪をひき、たなかくんが拗ねる話です。

    ▼しょたなかくんシリーズの他の話はこちら▼
    https://galleria.emotionflow.com/113773/656724.html

    #武新
    wuXin
    #トサキントリオ
    toshikiTrio
    #年齢操作
    ageManipulation

    たなかくんとむやむやバカは風邪をひかないというのは、どうやら迷信だったらしい。さんざん雪遊びをした次の日、先生も新兵衛もぴんぴんしているのに、なぜか以蔵が熱を出した。
    「こたつで寝るのがやっぱり良くないんじゃないか」
    体温計を見ながら先生が言う。以蔵がカスカスの声でいや雪合戦のせいじゃろと口答えをする。こたつはベッドよりあったかいのに、どうして風邪をひくのだろう。よくわからないが、こたつが以蔵に占拠されなくなるなら良いことだ。
    「こたつなんぞで寝ちょっでだ。はよ自分の家に帰れ」
    「新兵衛、そういう言い方はやめなさい。病人だぞ」
    新兵衛はきゅっと身をすくめた。先生と同じことを言ったつもりだったのに、叱られてしまった。悪いのは以蔵のはずなのに。先生と以蔵はそのまま、ホケンショウはあるのかとか何とかついていけない話を始めてしまって、新兵衛は唇をへの字にしたままランドセルを掴んで外へ飛び出した。玄関がバタンと閉まった瞬間、黄色い帽子を忘れたことに気がついたけれど、取りに戻る気にはなれなかった。

       ◆

    学校が終わっていつも通りに先生の仕事場へ行くと、鍵がかかって、書き置きが貼られていた。以蔵のお昼をやりに帰るから、新兵衛も家の方に帰っておいでと書かれている。昼飯といったって、新兵衛は給食も食べて掃除もして帰りの会もすませて帰ってきているのだから、もうとっくに終わっているはずだ。以蔵なんていい大人なんだから、そんなに世話を焼いてやる必要はないだろう。米を炊いて、冷蔵庫のおかずをチンして食べるくらいなら、新兵衛だって一人でできることだ。全く面白くなかった。むやむやした黒い雲が、胸の中に垂れこめていくようだった。
    道の端に残っている雪の塊を踏みつけながら、来た道を戻った。残り雪はもう足跡がついたりしなくて、凍ってしまったみたいに固かった。泥で汚れて、昨日とは全然違う様子だった。そんな雪を踏んでいると、なんだか自分が意地の悪いことをしているみたいで、ますます気分が落ち込んできた。
    途中の公園に、同級生が何人かいるのが見えた。こっちを見て手を振った。新兵衛は手を振り返し、公園に入っていった。あずまやの日陰のところに雪が結構残っていて、それで遊んでいたらしい。帰る気になれなかった新兵衛はベンチにランドセルを放り出し、日が暮れるまで公園で遊んだ。



    そんなに遅くなるつもりはなかったのだけれど、家に着くころにはもう、夕焼けはほとんど夜の紺に押しつぶされていた。音を立てないよう、そうっと玄関を開けて忍び足で滑り込む。家に帰れという書き置きを無視する形になってしまって、先生はきっと怒っているだろうと思ったからだ。
    新兵衛は先生が怒るところを見たことがなかった。今朝のようなほんのちょっとした注意だって、本当に珍しいことだった。新兵衛は先生のことが好きだから、いつもはちゃんと何でも言うことを聞いて、行儀良くしている。いい子だねと褒められることはあっても、怒られたりしたことは一度もないのだ。だから先生がどんなに怒るかも、怒られた自分がどうなってしまうのかも想像がつかなかった。
    びくびくしながら居間の様子をうかがう。電気がついていない。以蔵が寝ているのかと思ったが、こたつにも誰もいなかった。先生の部屋からも明かりは漏れていない。家じゅうしんとして、どこからも人の気配がしなかった。
    先生は、以蔵を病院につれていったのかもしれない。それならそうと、言ってくれたらいいのに。でも、帰ってこいと書いてあったのに公園でずっと遊んでいたのは新兵衛だ。言いたくても、帰ってこない奴に言うことなんかできない。先生に非はない。以蔵は急に具合が悪くなったんだろうか。あったかくして寝ていれば治るものだと思っていたのに。自分の家に帰れなんて新兵衛が意地悪を言ったせい、なんてことはないだろうが、ああでも、先生も一緒に新しい家を探しているんだったらどうしよう。先生が以蔵と新しい家に行ってしまって、帰ってこなかったらどうしよう。意地悪で言うことも聞かない新兵衛のことはもう、嫌いになってしまったかもしれない。ずっとこの家で、一人だったらどうしよう。
    真っ暗な玄関に、新兵衛は座り込んでしまった。自分の家なのに、自分の家ではないみたいだった。胸がくるしくて、鼻がつんとして、泣きそうなんだとわかった。泣いてもしょうがない、泣くな、情けない、そう思うのに、目がじわっと熱くなって、息が震えて、止めることなんてできなかった。だめだ、こぼれてしまう――――そう思ったとき、目の前のドアが急に開いた。

    「うわっ、びっくりした……どうしたんだ、こんなところで」

    買い物袋を提げた先生が電気をつける。白い光が新兵衛の目をしくんと刺す。真っ暗だった玄関がいつもの顔になる。先生の靴と、新兵衛の靴と、以蔵の靴がある。
    「っせ、せんせ……!」
    体が勝手に動いて、先生の腹にしがみついていた。仕事場で喫っているたばこの甘いにおいがした。こぼれかけた涙を引っこめようと、顔をぎゅうぎゅう押し付ける。手袋の手がちょっと頭に触って、それから手袋を外して、今度はたくさん撫でてくれた。
    「行き違いになっちゃったかな? 以蔵がいるから大丈夫かと思ったんだが」
    「ぃ、いぞ、いる……?」
    「新兵衛の部屋に寝かせたんだが……」
    部屋を覗くと確かに、新兵衛のベッドにもじゃもじゃした影が見えた。まさか自室にいるなんて思わず、確認していなかったのだ。先生が帰ってきたのは良かったが、ベッドを勝手に使われていることは納得がいかない。しかし今さら文句を言える立場でもなく、新兵衛は先生のコートの裾をぎゅっと握ることしかできなかった。
    「勝手に部屋を使わせてしまってごめんね」
    大きな手が髪をくしゃくしゃかきまぜる。べつにいいですと言ってしまいたいのに、頭のなでなでと胸のむやむやが押し合って、互いに譲らない。寝ているのが以蔵でなかったら、たとえば小さい赤ん坊とかなら、いいですと言えた気がするのに。
    「今夜は私のベッドで一緒に寝てくれるか? あっちの方が広いから」
    新兵衛は面食らって顔を上げた。言われてみればそうだ、新兵衛の寝る場所がない。先生の部屋で寝ていいのなら、それはいつもと違って特別で、わくわくする。
    「一緒に寝てくれるなら、夕飯はピザを取ろう。そうだ、生ハムを載せてもいいぞ。デザートは……」
    いやだなんてひとことも言っていないのに、分不相応なおまけが勝手に積み上がっていく。新兵衛は大急ぎで首をこくこく縦に振った。断る理由も資格もどこにもなかった。先生のお顔が、花の咲いたみたいにぱっと明るくなる。

    「ピザて、おまん……ひとが伏せっちゅう時にピザて……」

    部屋から悪霊みたいな恨みがましい声がした。ゴホゴホ咳きこむ音が続く。寝床泥棒が目を覚ましたらしい。
    「以蔵にはお粥を買ってきたからな。梅がゆと玉子がゆ、どっちがいい? プリンもあるぞ。桃缶も」
    「ピザがえいぃ……テリヤキ……」
    「元気だな……まあ食べ切らんでも新兵衛がいるしな」
    頼んでやるのか。先生は本当に以蔵に甘い。残飯処理のあてにされているようなのも釈然としないが、新兵衛もテリヤキは好きだ。おこぼれがもらえるものならもらいたい。新兵衛が複雑な思いで口をとがらせていると、脇の下に手が入り、突然ふっと体が浮いた。
    「さ、早いところピザを選ぼう」
    幼児にするように新兵衛を正面に抱き上げた先生は、そのまま居間へと歩き出した。落っこちないよう慌てて首にしがみつくと、先生も新兵衛をぎゅっとした。温かな首すじに額を擦りつけると、もっともっとぎゅっとされた。涙はとっくに引っこんで、ただただ腹がぐうぐう鳴った。おやつを食べていないのを思い出した。
    先生がかすかに笑ったのが息の音でわかった。先生のにおいが胸にたまっていく。凍った雪に日があたったみたいに、むやむやはもう、とけてどこかへ消えていってしまった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏🙏🙏😍😍😍☺☺☺☺💖💖🍕💘💞☺☺☺💞💞💖💖💖💖💖👏👏💖💖💖💖💖💖💖😍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    phnoch

    DONE小1しょたなかくん掌編集「たなかくんと!」より
    居候のイゾーが風邪をひき、たなかくんが拗ねる話です。

    ▼しょたなかくんシリーズの他の話はこちら▼
    https://galleria.emotionflow.com/113773/656724.html
    たなかくんとむやむやバカは風邪をひかないというのは、どうやら迷信だったらしい。さんざん雪遊びをした次の日、先生も新兵衛もぴんぴんしているのに、なぜか以蔵が熱を出した。
    「こたつで寝るのがやっぱり良くないんじゃないか」
    体温計を見ながら先生が言う。以蔵がカスカスの声でいや雪合戦のせいじゃろと口答えをする。こたつはベッドよりあったかいのに、どうして風邪をひくのだろう。よくわからないが、こたつが以蔵に占拠されなくなるなら良いことだ。
    「こたつなんぞで寝ちょっでだ。はよ自分の家に帰れ」
    「新兵衛、そういう言い方はやめなさい。病人だぞ」
    新兵衛はきゅっと身をすくめた。先生と同じことを言ったつもりだったのに、叱られてしまった。悪いのは以蔵のはずなのに。先生と以蔵はそのまま、ホケンショウはあるのかとか何とかついていけない話を始めてしまって、新兵衛は唇をへの字にしたままランドセルを掴んで外へ飛び出した。玄関がバタンと閉まった瞬間、黄色い帽子を忘れたことに気がついたけれど、取りに戻る気にはなれなかった。
    3262

    phnoch

    DONE鞭打ち少年パロまとめ本「私の少年」より
    はしかにかかった先生に唾をもらいに行く新兵衛の話
    先生のおばあちゃんが出ます
    ▼鞭打ち少年パロの他の話はこちら▼
    https://galleria.emotionflow.com/113773/644613.html
    春にはまだ早いお熱を出すときの先生は、いつもと違う匂いがするのですぐわかる。
    体の中で何かが変わるのだろうか。何とも言えない、少しだけ古い書物にも似た匂いが混じる。その段階ではまだご自身では何も感じないようで、普段通りに元気にされている。けれどすぐにお顔があったかくなって、反対に手足が、指の先からすうっと冷たくなる。そこまでいくと具合が悪くなってくるのか、いつもよりいくらか甘えん坊になって、寒いからそっちのどてらも貸してほしいとか、足が冷えるからさすってほしいとか、お白湯を吹いて冷ましてほしいとか言い始める。
    新兵衛はそれもいやではない。先生の言葉に従って、手足のように動くのが好きなのだ。それに、どうやら自分は鈍くできているのか、熱など出すことがまるでないから、それがどれほどつらいものかわからない。先生が少しでも楽になるなら、自分は裸で過ごしたって構わないし、足も一晩中だってさするし、お白湯が水になるまで吹いたっていいと思っている。
    6214

    phnoch

    DONE10/8まだまだ叫信のペーパーラリー企画に参加したお話です。
    はんぺ~た坊ちゃまとボディガードのたなかくんが節分の豆まきをします(季節感の死)
    坊ちゃまがたなかくんのことを犬として扱ってたりちょっと性の目覚めがあったりします。助けてください。
    鬼がくるいつもと同じ能天気な音でチャイムが鳴って、本日の授業はおしまいになってしまった。いつものようにお支度をして、お帰りの会をして、ご挨拶をして、帰らなくてはならない。帰りたくないのに。いつもと違って、家になんか全然、これっぽっちも帰りたくなかった。
    二月三日だ。国語のノートにも、算数のノートにも、連絡帳にも2/3と書いた。給食には小袋入りの炒り豆がついてきた。生活科では行事と節句について習った。今日が二月三日であることは、どう足掻いても変えられない決定事項であるらしかった。
    古い家柄のせいもあってか、武市家は年中行事を疎かにしない家である。姉の八段飾りは雛祭りが終われば速やかに片付けられるし、端午の節句が近づけば五月人形だけでなく本物の鎧兜まで蔵から出てきて飾られる。当然、節分ともなれば、一家総出でまくのだ、豆を。今朝、升に入った福豆が神棚にお供えされていたのも確認済みだ(どこからか美味しいお菓子をいただくとまず神棚にお供えされるので、半平太にはしょっちゅう神棚を確認する習慣があった)。
    4525

    related works

    recommended works