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    テメノスを叱るオルトの話。
    頭ゆるゆるです。

    #オルテメ

    職権濫用2その日、青白い顔をしたテメノスが機関の執務室に顔を出したのは昼近くの事だった。目も合わせずそそくさと机に向かい、書類を広げたと思ったら突っ伏してこめかみ辺りを押さえグリグリと揉んでいる。どうせ昨日の怪しい薬にやられたのだろう。色々問い詰めたい事はあるが本人の調子が悪そうなので一旦は置いて何も言わずに解毒の茶を淹れて出した。渋い顔をしてカップに口をつける彼を横目に自分は淡々と書類仕事を片付ける。静まり返った部屋にペンを走らせる音と時計が時を刻む音だけが響いていた。

    「あの、君は昨晩の記憶ありますか?」
    しばしの沈黙の後そう切り出したのはテメノスのほうだった。
    「断片的にある」極めて素っ気なく答える。
    「そうですか。私はさっぱり覚えていなくて。まさかアレでそんな事になるとは。その、すみませんでした」
    彼にしては珍しく先に謝るなんてよほど後ろめたい思いがあるのだろう。
    「まったくだ。あんなのが巷で流行ってたら今頃町中廃人だらけだぞ。アレの中身は何なんだ。」
    「尋問ですか。まぁああなった以上はきちんと答えますが。アレはニューデルスタの娼館で取引されているものでして──」
    「ちょっとまて、ニューデルスタの娼館?先日提出された書類で娼館から似たような小瓶が1つ、成分分析のためにサンプルを取り寄せたと書いてあったが。」
    「えぇ。それと同じものです」
    「まさか書類上は1つにして他に2つ余計に取り寄せたのか。これは職権濫用と着服ということになるが」胃がキリキリと痛みだす。
    「誤解ですよ。信用ないですね。いくら私でも着服は断じてありません。機関の情報網を使って取り寄せたのは職権濫用に当たるかもしれませんが.......別途2つ取り寄せた分の代金は自費ですよ。ちゃんと領収証もあります。ほら」そう言って鞄から取り出された領収証を確認する。確かに自費のようでひとまずは安心した。それにしても払った金額の大きさの割にそこまでの価値があったのか?考えても仕方ないので話を進める。
    「着服していないのは分かった。しかしついでとはいえ私的な理由で機関の情報網を使って通常では買えないような物を取り寄せるとは職権濫用に値するぞ」
    「...すみません。...それはその通りです。立場のある審問官としてあるまじき行いをしました。もう断罪して下さい...」自嘲気味に言い放つ彼に深いため息が溢れた。
    「だいたい成分の分析に回すほど怪しい薬を自ら使うやつがあるか。今回は記憶が飛ぶくらいで済んだから良かったものの」
    「そう、ですね。迂闊でした。ニューデリスタの高級娼館で取引されている貴族も御用達の媚薬だというので油断しました。」そう言い放つ銀髪の審問官。全く何を考えているのか読めない。益々胃痛が酷くなるような気がした。動機もどうせ興味本位とかそんなしょうもない理由だろう。

    「一応聞いておくが動機は?」
    「動機、ですか。、、、そんなの、たまには、、、たまには激しくしてほしかったんですよ、、、、、、」しばらく間があいたあと消え入るような声で小さく白状し、耳まで真っ赤に染めたテメノスは再び机に突っ伏してしまった。予想外の告白に動揺した。

    たまには激しく、、、か。
    しょうもないリスクを冒してまで激しく抱かれてみたいのか。そんなの直接言えばいいのに全く素直じゃない。これは急務で休みの調整が必要そうだ。

    ◇◆◇
    これほど職場に行きたくないと思った日は未だかつてないだろう。真実を追求する立場の人間が愚かしくも己の欲求のため職権を使ってしまうとは。なんとも頭の悪い。ああいう事にならなければ咎められる事もなかったのに聖火神はよく見ていらっしゃる。悪い事はできないものだ。決して安くはない値段の小瓶の割に大した効果もなく記憶がないだけ。馬鹿げている。

    真面目な彼のことだ。当然のように何かしらお咎めがあると思った。ところがしょうもない動機の告白の後、彼は眉間に皺を刻み眉を吊り上げながら「今回の件は秘匿とする。次はないからな」とあっさり秘匿されてしまった。確かに汚職や横領が絶えなかった以前の聖堂機関にしたら些細な事だろう。しかしそれで良いのだろうか。私は思わず「秘匿?断罪しないの?それこそ職権濫用では?」と彼に聞き返してしまった。彼は「お前が言うな!!」と一喝した後いそいそと部屋を出て行ってしまった。さすがに怒らせてしまったみたいだ。金輪際若い恋人に苦労をかけるのはやめようと誓った。


    ◆◇◆
    ──その日の夕方
    「テメノス、腰痛くないか?」
    「腰ですか?確かに痛いですが」
    「やはり。あれだけ上で腰振れば痛めるのも当然だろ」
    「私が?君の上で?」
    「あぁ、かなり乱れてた。そこだけしっかり覚えている」
    「!?どうしてそこだけ。忘れて下さい。忘れて!!」
    「いや無理だ。あんな顔で上に乗られたら忘れたくても忘れられるものか。腰は後で貼り薬を貼ろう。」

    そんな。全く記憶がないのが惜しい。
    私がそんな状態になっている時の彼の表情を拝んでみたかった。そう思った矢先「週末空けといてほしい。今度はお互いしっかり覚えているようにやり直しをしないか」と言われた。昼間あんなに怒っていたのに。諸々気遣ってくれるとは。入れてもらったお茶も解毒作用があったようで頭痛もすっかり良くなった。仕事も休日を合わせるために急いで調整してくれたのだろう。そんな気遣いを押し付けることなく、ただ柔らかい表情を浮かべるだけの彼にまた一段と惹かれていくような気がした。

    週末が待ち遠しい。


    ◇◆◇
    アレの正体
    後日成分を調べて分かったことなのだが、アレの使い方は2人同時に同じものを接種するのではなく、小瓶の片方は色のついた水、片方は薬にして抱きたい相手に薬のほうを飲ませ、自分は水の方を飲む。すると相手は媚薬の効果で乱れ狂うのに翌日は記憶がすっかりない。異端騒動に使われるのも納得の危険なものだった。購入する際にそういった説明は一切無かったが機関経由で事務的に手に入れたものなので仕方がないだろう。そんなものは危険薬物に指定して使用禁止にしてしまいたいが貴族が絡むものだしそう簡単には無くせないだろう。今後聖堂機関の手腕が問われる難しい案件の種となるだろう。
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