【空蝉日記 短編】白い牢獄に輝く蒼い笑顔病院特有の消毒液の匂いと一切の穢れも無い真っ白なこの部屋。
恐らく僕はここで人生の半分の時間を過ごしているかもしれない。
高校に入ってからは比較的体の調子が良く、長期間入院するといったことはあまり無かったのだけど、昨日突然不定期に来る発作に襲われてしまった。
その際、傍に幼馴染の永介が居たからすぐに救急車を呼んでくれたものの、一人だったら危うかった。度々こうして命の危機に瀕することが何度かある。
「はぁ……お母さんとお父さんにも迷惑かけちゃったよ……。」
僕が入院することになった期間は2週間。その間は授業にも出られず友達にも会えない為完全に学校生活とは隔離されることなった。
だけど、永介をはじめ同じ二年生の子達が何度かお見舞いに来てくれたりしたので、あまり寂しくはなかった。
特に永介は、いつも部活で忙しい筈なのに学校終わりに必ず顔を見せに来てくれて、その度に授業に出られない僕にノートを移してくれたりしてくれた。
「よし、今日のノートはこんな感じだな!15ページ目の数学は、今度テストに出るみたいだからな。」
「うん……テストまでには退院出来ると思う。」
「今のところ体調に変化とかは?」
「ううん、本当にあの時の発作だけ。食欲も大丈夫。看護師さんからはもっと食べた方が良いって言われるんだけど元々少食だから……。」
「そうか、良かった!」
─────両親は、一度も見舞いには来てくれていない。
元々ぎこちない関係だけど、最近は特に会話が減っていって、正直……家は落ち着かない。厄介者……という程ではないと思いたいが、少なくとも、僕が入院する度に迷惑をかけてることは事実なので、あまりよく思われていないのかも……。
「……ね、ねぇ、退院して早々になっちゃうんだけど、今度永介のお家泊まってもいい……?」
「お、うち来てくれんの〜!?勿論大歓迎!母さん聞いたら喜ぶだろうなぁ、クッキーとか焼いてくれるぜ多分!」
彼は、迷惑がるところかとても嬉しそうな顔で笑いながらそう答えた。いつも見せる彼のこの笑顔だけが、僕の救い。
「……あ、ありがとう。その……ごめんね、いつも迷惑かけちゃって。」
「ん?なんのこと〜?」
「い、いや、ほら、突然発作起こしたり、ちょっとの移動で息切れしたり、僕、面倒くさいよね、いつも……。」
勿論、永介が今までそんな僕のことを面倒くさがったり迷惑がったりしたことなど一度も無い。むしろ……。
「あっはは!なんだそんなことかよ、気にすんなって!
むしろ、常に体調に気をつけないといけないような繊細な病気なのに、オレのこと当たり前のようにいつも頼ってくれんのマジで嬉しいぜ!
なんかこう……信頼されてる!みてぇなさ!」
───このように、全て肯定して受け止めてくれる。それでも尚、時折不安になりこんな卑屈な弱音を吐いてしまう僕が本当に嫌になる。
たまに、怖くなるんだ。
無い、決して無い、無いだろうけど、
もし、もしも、もしもだよ?
もしも、"君に見限られるようなこと"があったら……。
僕は……病に殺される前に、自分で自分を殺してしまうかもしれない───。