ぼくハマー やあこんにちは、君も泊まりで修理なんだね。ここの修理の人は腕がいいからね、ちゃんと直してボディもピカピカにしてもらえるから安心だよ! なんたって気難しいぼくのオーナーが頼りにしてくるくらいだもん!
ぼくのオーナーはドクターTETSUっていうお医者さまでね……運転も上手でこうやってぼくを定期的にケアしてくれるしシートベルトしない以外はほんとに最高のオーナーなんだ!
……わ、わ、ごめんね、怖がらせちゃった? ボクってば大きいから他の車をびっくりさせちゃうのにうっかりしてた。そう、ぼくハマーだよ、この大きなボディと左ハンドルが自慢! お医者さまの大事なお仕事道具も……お医者さまのための医療道具も沢山積めるからね。え? 泣いてないよ、車が泣くもんか。
そ。オーナーは僕に乗っていろんなところにお仕事に行くんだ。色んな所に行ったよ。例えば? そうだなぁ……昔の貴族のお屋敷に行ったことがあるよ。オーナーはお客さんがいればどこにでも行くからね。
……でもほんとはT村に行くのとあさひ学園に行くのがぼくは1番好き。T村のK先生はね、ぼくの足音を覚えてくれていてぼくが来たら表に出てきてくれるんだよ。ほんとはオーナーと仲良くしてくれたら嬉しいけど……ぼくは車だし人間のことはよく分かんないからなぁ。あさひ学園も好きだなぁ、園長先生が優しいんだよ。みんなも元気いっぱいでね、ぼくを見たらかっこいいって言ってくれるんだ。特にクリスマスイブにプレゼントを積んでいくのが好き、だってオーナーがすごく楽しそうなんだもん。
だからはやく元気になってまたオーナーと走りたいなぁ!
……そっか、君は初めての入院なんだね。不安だよねぇ、分かるよ。怪我の具合によってはずいぶん長いことオーナーから離れちゃうでしょう? その間代わりの車に乗るし……ボクのことなんて忘れて新しい車に乗り換えちゃうんじゃないかって不安になっちゃって……。だから初めて入院した時にオーナーが引き取りにここまで来てくれた時はすっごく嬉しかったなぁ。
……ねぇ、せっかくこの修理工場にお泊まりする仲だし、ぼくの話をしても良い? ぼくら車は無口はものだけれど、なんだかすっごく話したいんだ。だって、走ること以上の喜びがあるなんてぼく、今日初めて知ったから。
ぼくね、ずいぶん前に手紙を預かったんだ。オーナーあての手紙。あの子はそんなこと一言も言わなかったけど、そうなんだろうなぁってあの目でなんだか分かっちゃった。例の貴族のお屋敷から出発する少し前だったかなぁ。あの子はぼくのダッシュボードに手紙を入れて、少しの間そこを見つめて念を押すみたいにそこをそっと撫でてK先生のところに戻っていったんだ。人間としゃべれたらって思ったのは久しぶりだったけど、あんまり苦しい気持ちじゃなかったなぁ。
……うん、あるよ、苦しいくらいにオーナーに声をかけたくて仕方なかった時。もうずいぶん昔なんだけどね、身体の大きな子供をぼくに乗せたことがあるんだ。優しい目であったかい声の男の子。あの時のオーナーは何だか悪い方向に吹っ切れて覚悟を決めていたみたいで、2人を乗せて廃墟みたいなねぐらに走りながら、ぼくはずっと不安だった。ぼくが走れば走る程オーナーは死に向かっているんだと予感して……。
あ、もちろん大丈夫だったよ?! その男の子がオーナーを助けてくれたんだ。その後はずっと杖を突いたりして大変だったけど変わらずぼくを丁寧に運転してたから。
あ、そうそう。あの手紙の子ね。……あの子はあさひ学園から来た子でさぁ。オーナー以外であんなに長く沢山ぼくに乗ったのってあの子だけだったんだ。オーナーはひとりきりの人だったから。だからオーナーがあの子と一緒にぼくに乗って、普通のマンションに向かったときには凄く驚いたんだ。