100日後にくっつくいちじろ「やべえ!撮ってもらおーぜ!」
「ちょ、引っ張るな!恥ずかしい!」
家族はグンマディビジョンに来ていた。
中規模の音楽イベントにバスターブロスとしてお呼ばれしたのだ。有志のイベントなので萬屋としての依頼ではない。あくまでもバスターブロスとして呼ばれたイベントであった。そんなイベントの帰り道。駅前にご当地キャラクターの着ぐるみがいた。所謂、ゆるキャラ。夜だからか、周りにあまり子供はおらず、二郎は面白がって駆け寄った。
「すげえ、デカい!写真いい?…いいってー!ほら、二人も!」
「僕が撮るよ」
「インカメでいけるだろ!あ、入らないわ。すんませーん撮ってもらっていいすか」
「あいつすげぇな」
「絶対友達にはなりたくないタイプです、僕」
「はは、兄弟でよかったな」
手の空いていそうな通行人に声をかけ、撮影を頼む二郎。その間に「すみません、待たせちまって」とキャラクターに声をかける一郎。その横でさりげなく、触り心地が気になっていた三郎はその大きな頭を触っていた。
「撮りまーす」
「ハーイ」
ご当地ゆるキャラとの撮影を終え、満足した二郎。その後、駅の中にある土産屋さんで有名なうどんや、煎餅を買い込んで電車に乗った。
ボックス席に座り、必然的に一番ガタイの良い一郎が1人、下二人が隣同士で向かい合う。さっき撮った写真を二郎が見せたり、売店で買ったグミを回し食べして電車に揺られる。外はすっかりら夜で、きっと自宅に着くのは日付が変わるギリギリだろう。明日も休みで良かった。一郎は翌日に仕事を詰めなかった過去の自分を内心で褒めた。
「ふあ……」
三郎が口を手で押さえて欠伸をする。それを見た隣にも伝染したらしく、二郎も大口を開けて欠伸。欠伸は親しいほど伝染するというのは本当だろうか。そんなことを考えながら一郎もしっかり伝染した欠伸を漏らす。
やがて、三郎の頭がコテンと二郎の肩に倒れた。あ、可愛い。一郎は思わず頬を緩める。さっきから船を漕いでいたが、やはり耐えられなかったらしい。兄二人は目を合わせ笑った。
「やっぱ寝た」
「だな」
小声でそう言いつつ、きちんと枕になってあげる二郎。一郎は持ってきていたラノベを開くと読書をはじめた。
そうして5分程度経った頃、ふと顔を上げると、今度は二郎がうつらうつらと頭を揺らして船を漕いでいる。一郎はふっと笑って一度立ち上がると、荷物棚に突っ込んでいた自分のスタジャンを出すと、二人の膝にかかけてやった。
「寝ていいぞ」
小声で言うと、二郎は「ん…大丈夫」と言いながら半分既に目を閉じていた。何が大丈夫なんだ、と思わず笑いながらまたラノベを開く。
「あにき」
ふと、呼ばれた。顔を上げる。
今にも寝そうな顔をした二郎が、へにゃりと笑いながらあまり回っていない舌で喋る。
「明後日、サッカーの試合あんだけど、俺、それすげー楽しみで…」
「おう、三郎と観に行くぞ」
「比べるもんじゃねえけど、なんか、でもさぁ…」
「?」
もうほとんど寝言だな。苦笑いしながらずり落ちてきている膝のスタジャンをかけ直してやる。すると、その手を弱い力で掴まれた。眠いからか、やたらポカポカと温かい。
「やっぱ、俺、二人とラップしてる時が一番楽しい」
へらりと笑うと、そのまま、こてん、と三郎の頭に頭を乗せてとうとう寝始めた二郎。その姿を眺めながら一郎は重ねられた手をゆっくりと離し、スタジャンの中に入れてやって、それから弟達の寝顔を眺めながら頬を緩めたのだった。
「俺もだよ」
ちなみに仲良く寝る二人の写真はしっかりと収め、二人に見せてやると「これは違う」と怒られた。
2024.11.2