100日後にくっつくいちじろ31日目


　今朝、久しぶりにすっきり寝た心地で目を覚ました二郎。これは良いのでは？直感でそう思い、体温計を脇に挟んでみると叩き出した体温は平熱。思わずよしよしと頷いた。時刻はまだ午前７時。急げば学校に間に合わなくはないが昨日まで病人をやっていた反動であまり力が入らない。それはそうだ、ろくに食事もできていないのだから。しかしそこまで考えて気づいた。今日は学校休みじゃないか。

　久しぶりにリビングに向かうと、朝の準備をしていた一郎と三郎が驚いて二郎を迎えた。すっかり良くなったことを告げると二人とも安心したように表情を和らげた。汗をかいて気持ち悪いから風呂に入りたいと伝えると、とりあえず朝食を食べて薬を飲んでそれからにしろと言われ、大人しく頷く。

「兄貴は？今日は仕事だよね？」
「ああ……でも二郎大丈夫か？」
「うん、流石にもう全然平気！」
「そっか……じゃあ行ってくるわ」

　三郎も依頼の手伝いらしい。くそー、俺も元気なら行きたかったと悔しがると病み上がりは大人しくしとけ、と弟に呆れられた。

　二人を送り出して、二郎は風呂に入り、空気の籠っていた自室を掃除して、ついでに皿を洗った。流石にまだ全快復はしていないので休み休みであったが、これなら来週から問題なく学校へ行けそうだと確信した。

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『問題ないか？』

『大人しくしてるのかよ？』

　昼過ぎ、スマホに兄と弟からそれぞれメッセージ。
どうやら仕事の合間らしい。二郎はすぐに『全然問題なし！』と元気よく返事をするとすぐに既読。

「……つか兄貴、大丈夫かな」

　二郎は最近、兄がどこか思い詰めている気がしていた。何か確信があるわけではないが、たまに苦しそうな表情をする瞬間があるのだ。理由を聞こうにも「最近元気なくない？」とか「調子どう？」のような気の利かないどストレートな文句しか思い浮かばず、どうしたら兄が自然に頼りたいと思ってくれるだろうかと頭をひねる。悩みがあるなら話して欲しい。家族なんだし。そう思うがしかし兄がそういう表情を見せるのは本当にふとした瞬間なのだ。看病してくれていた時もぼんやりした視界の中でどこか兄の方が辛そうな顔をしていたのを見た。だが、確信があるわけでもないし、一日中なにかを悩んでいる感じでもない。
　……もしかしたら隠しておきたいもの悩みなのかもしれない。兄の方から話をしたくなるまで追求しない方がいいのかもしれない。

「……てか今日、勤労感謝の日じゃん」

　カレンダーに目を向け、気づく。元気も出てきたし、そうだ。元気のない兄のため、そして数日、風邪で迷惑をかけた二人のために夕飯でも作って驚かせてやるか。二郎はそう決めるとパンと膝を叩いて座っていたソファーから立ち上がり、家事を再開した。




「ただいまー」

　夕方、先の帰宅した三郎に手伝ってもらって夕飯を完成させた。テーブルを拭いていると玄関から兄の声。二郎は洗い物で濡れた手を拭いて玄関へ向かった。

「おかえり、兄貴」
「おう、体調大丈夫か？」
「うん！もう本調子って感じ！」

　色々ありがとう、そう言って笑うと兄は安心と嬉しさが半々になったような表情で顔を綻ばせ、二郎の頭を撫でたのだった。


2024.12.23