100日後にくっつくいちじろ32日目
「なー三郎ォ、今日カツ丼にしねえ?」
「……お前、よく病み上がりで揚げ物なんて食べる気になるな」
「明日から学校だしエネルギーチャージしなきゃだろ」
「発想が脳筋すぎてついていけないよ」
久しぶりの外出。空気がうめー!と騒ぐ二郎と数メートルの距離を取った三郎が向かったのは近所のスーパー。夕食の買い出しである。仕事で出掛けていた一郎もそろそろ帰ってくる頃合いだ。
「いやー、まじでお前にも兄貴にも風邪うつらなくて良かったわ。特にお前にうつったらどんだけ恨み言を言われてたことか……」
「馬鹿の風邪は僕と一兄にはうつらないんじゃないか?」
「喧嘩売ってんのか?」
「よく分かったじゃないか」
結局、折衷案として親子丼になった。鶏肉やらの材料を買い込んで二つになった袋をひとつずつ持って帰路に着く。さて、帰宅は自分達が早いか、兄が早いか。見えてきた自宅。ふと、玄関に誰かいるのが見えた。
「あれ、お客さんかな」
行かなくちゃ、と駆け出そうと思ったときドアがガチャリと開き、一郎が顔を出した。どうやら兄の方が先に帰宅したらしい。兄は少し驚いたような顔をして話をしている。お客さんは若い女性で、もしかしてまた兄のファンか?と思いながら弟達が近づいていくと気づいた一郎が二人へ顔を向けた。それにつられて来客の女性も振り返る。その顔を見たと同時に二郎が声を上げる。
「あ!」
彼女は二郎のクラスメイトだった。それも先日、風邪をひいて早退した時に保健室まで付き添ってくれた子だ。え、なんで?と二郎が駆け寄ると彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「山田君が休んでる間のプリント持ってきたんだけど、元気になったんだね」
「え!わざわざ!?まじか…悪ぃな。つか早退した日もそうだけどありがとう」
「ううん、明日は学校来られるの?」
「おう、もう完全復活」
「じゃあ良かった」
二人がそんな会話をしている間に一郎は一度、部屋の中に戻ると可愛いらしいパッケージのキャンディを持って戻ってきた。そして話をしている二人へ「これ良かったら、ほんと色々と二郎のためにありがとな」と割り込むようにしてそれを渡した。
「えっ、これ駅の中に出来た新しいお店の…!良いんですか?」
「もちろん」
新店舗出店した知り合いの店でその祝いに顔を出した時に一郎が購入したものであった。女の子に渡すにはちょうど良い。
案の定、嬉しそうに彼女は受け取って「それじゃあまた明日学校で」と帰って行った。
「兄貴、早かったね」
「おう、買い出しありがとな」
「今日は親子丼にしました」
「お、いいじゃねえか」
こいつカツ丼にしようとしてたんですよ、病み上がりのくせに。まじかよ。そんな会話をしながら三人で玄関に入り靴を脱ぐ。冷凍品が入った袋を持っていた三郎は先にリビングへ向かい、二郎が靴を脱いでいると兄が声を掛ける。
「彼女、良い子だな。仲良いのか?」
「特別に仲良いとかじゃないかな。良い奴だよね」
「ああ、可愛いし親切だな」
どこか遠くを見るような目でそう言う一郎。二郎はそんな兄に驚いたように目を丸くした。
「もしかしてタイプとか……!?」
え、え、と慌てる二郎。その予想外の反応に兄は一瞬、面を喰らった後、楽しそうに笑って「ちげぇよ」とその頭を撫でたのだった。
2024.11.24