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    fuyukichi

    @fuyu_ha361

    腐った絵を描き貯めとく

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    fuyukichi

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    100日後にくっつくいちじろ50日目


    「……いってきます」
    「おう、いってらっしゃい!」

     朝、玄関で靴を履く二郎。
    その光景を眺めながら一郎は笑顔で手を振って、バタン、ドアが閉じた瞬間に顔面を右手で抑えた。

    「え、なに?なんか不機嫌じゃね?」

     言葉に出ていた。
    そう、二郎が昨日の夜からどこか不機嫌なのだ。口をきかないとかではないが、どこかつっけんどんというか、ジトっとした視線を向けられている気がする。一郎は壁に手をつきながら心当たりを探す。しかし、昨日、夕方に家を出る前は普通だった。日付を回る前に帰ったとき、寝る寸前だった様子の二郎とリビングで会ったとき。どこから今朝、今の瞬間までどこか不機嫌なのだ。昨日のシチューが不味かった?いや、二郎はそんなことでヘソを曲げたりしない。じゃあ、帰ったあとの物音がうるさかった?いや、それもないだろう。それとも何か約束をすっぽかしただろうか。考えるが、弟との約束を忘れるわけがない。なんだ、どうしてだ。ブツブツと呟きながら壁伝いにリビングへ戻ると、ちょうど食器をキッチンに下げている三郎と目が合った。(二郎はサッカーの朝練で少し今日は早い)

    「どうしたんですか、一兄。体調でも悪いんですか?」
    「いや……あのよォ、三郎」
    「?」
    「二郎の奴、なんか不機嫌じゃねえか?」
    「あー」

     三郎からは「そうですか?」というリアクションが返ってくると思っていた。しかし返ってきたのは「ああ、そのことか」くらいの反応であった。何か心当たりがあるらしい。

    「あいつ、昨日の夜から、ああですよ」
    「俺の留守中になんかあったのか……?」

     三郎との喧嘩か?いや、しかし、だとしたら俺に真っ先に告げ口し合ってくるだろう。それに今朝も二人は普通に会話していた。だとするとやはり自分に怒っているのだろう。
     頭を抱える一郎を見かねたように三郎は苦笑いすると、食器を水に浸けながら昨晩の話をしてやった。

    「一兄は悪くないですが、アイツが不機嫌なのは一兄が原因ですね」
    「え……それって俺が悪いんじゃ」
    「いえ、悪いことはしてないです。アイツが勝手に不貞腐れてるだけで」
    「え?何に?」
    「これです」

     三郎は昨日、スクリーンショットしておいた例の『一郎と思われる人物が合コンに参加している画像』を一郎本人へ見せた。すると画面を見つめて数秒固まる一郎。そして。

    「は?なんだこれ」
    「身に覚えないんですか?合成っぽくはないけど……」
    「いや、え?あいついつの間にこんなの載せてたんだ……」

     と、言うことはその場には本当にいたんだな。
    三郎は、ふむ、と頷いた。すると一郎は何故か言い訳をするように三郎の肩を掴んで説明を始める。

    「いや、本当に昨日言った通り、ダチが相談あるっていうから出掛けたんだよ。そしたら指定された店がここで、勝手に合コンセッティングされてたんだ」
    「やっぱり」
    「え?」
    「僕はそんなことだろうと思ってました」
    「さぶちゃん……!」

     ぎゅっとハグをされて、朝から「へへ」と上機嫌になる三郎。そして体を話すと一郎は「ん?」と小首を傾げる。

    「てか何で二郎がこれで不機嫌になるんだ?」
    「知らないですけど、一兄が合コンに参加して、女の子と一緒にご飯食べてる画像見たら凄くイラついてました」
    「え……」

     何だそれ、と少しだけ口元を緩めたが、直ぐに拳でそれを隠した一郎。
    そしてテーブルに置いてあった麦茶をごくごくと飲む。

    「僕達に隠して、可愛い女の子と恋愛したいって思ってる一兄がいやらしいって言ってました」
    「ブッ!」

     飲んでいた麦茶を噴き出した。三郎は要約しただけで嘘は言っていない。愉快な兄達だ。そんなことを思いながらコートを羽織り、リュックを背負って玄関へ向かうと、ゴホゴホ咽ながら一郎が後ろから見送りについてきた。

    「帰ってきたらちゃんと説明しなきゃな……」
    「仮に一兄が恋愛したくて自ら進んでそういう出会いの場に行ったとして、二郎が不貞腐れる意味は分からないですけどね。一兄の自由だし」
    「おー……大人だな、三郎」

     ぽんぽん、と頭を撫でると幼い顔で嬉しそうに顔を綻ばせ、靴を履く三郎。二男と同じように手を振って笑顔で見送ると、再びドアが閉まった後、壁に手をついて顔面を右手でおさえた。

    「ええー……ンだそれ」

     期待してしまう。何の期待だよ、と思うがニヤける頬をどうにかしようと軽く叩いてみるも駄目だった。自分が合コンに行ったことで不貞腐れてるのだと思うと、今朝はヒヤヒヤしていた態度も今思うと非常に可愛く思えてしまう。

    「ニヤけて説明したら余計に怒らせそうだな」

     一郎は鼻歌まじりで、自宅の掃除をはじめたのだった。




    「ただいま……」
    「お、おかえり」

     午後三時半。二郎のご帰宅だ。
    リビングで書類を作成していると、何故か妙におずおずとした動作で二郎が入ってくる。三郎は既に帰宅していて、自室にて良い子で宿題をしているところだ。さて、二郎に昨日の誤解を解かなくては。そう思い顔を上げると、二郎はどこか申し訳なさそうに猫背でこちらまで近づいてくると、兄の正面の椅子に着席した。そして

    「兄貴、ごめん」
    「え?」
    「俺、今朝、不機嫌だったんだ……気付いてたと思うけど」

     まあ、ウン。知ってるけど。内心でそう思いながらも「そうか……なんかあったか?」と聞き返す。

    「実は、昨日、兄貴のダチの投稿で兄貴が合コンに参加してるの見ちまって……」
    「ああ……二郎、あれはな」
    「いいんだ、ごめん。俺、なんか勝手に置いてかれた気分になってさ、不貞腐れて、兄貴は悪くないのになんか八つ当たりみたいなことしたなって……すげえ反省した。学校で」
    「いや、ええと……」

     しゅん、と肩を落とす二郎。
    今朝、三郎に不機嫌の理由を聞かされた時は、正直、本当にそんなことで二郎が不機嫌になるか?と思った。しかし、本人が言っている。本当にそれが原因らしい。しかし態度に出してしまったことに罪悪感を感じ、こうして正面切って謝ってきているのだ。二郎らしい、と苦笑いして、兄は弟の肩を掴んだ。

    「あれな、ダチに相談あるからってメシ誘われたのは本当なんだよ」
    「え、あ、うん」
    「そんで指定された店行ったら、実は合コンでよ……合コンっつったら絶対に来ないと思ったからとか言われて強制参加させられたっつうワケ」
    「え、えええ……あ、そうだったんだ」
    「二郎も前になかったか?ダチにカラオケ誘われて行ってみたら他校の女の子も何人かいたって」
    「あった……気まずかった……」
    「そういう感じの会だったんだ。だから一次会で帰ったしな」
    「そ、そう……」

     どこか呟くように頷いた二郎だったが、次には「そっか!」と嬉しそうに笑って顔を上げた。おい、やめろ、可愛い。一郎はクッと目を閉じる。しかし二郎はすぐにハッとして咳払いをすると頭を左右に振った。

    「いや、別に合コンでもいいんだよ。兄貴の自由だしな」
    「はは、今後は行く予定ねえな」
    「そうなんだ……!あ、いや、行きたかったら全然行ってきてね。なんならセッティングしようか?」
    「ふは、お前が?合コンしようって女の子集められるのか?」
    「……ごめん無理だ」
    「はっはは」

     ぽんぽん、と今朝、三郎にしてやったのと同じように二郎の頭を撫でて「ドーナツあるから着替えてこい」と笑うと、今日一番の笑顔で二郎は頷いたのだった。


    2024.12.12



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