70日目
「見て、“失せ物、見つかる”だって。これ絶対にハチの飼い主だって」
新年、元旦。あけましておめでとう、という声が飛び交うめでたい日。
山田三兄弟は初詣に出掛けていた。参拝を済ませ、おみくじを引くと、一郎は大吉、二郎は末吉、三郎は吉。確かに、今のこの状況で失せ物はそれしか思いつかないな、と一郎も三郎も納得する。物ではないのだが。
「つうかさ、末吉と吉ってどっちがいいんだっけ?」
「それ毎年言ってるじゃないか。いい加減覚えろよな。大吉の次が吉で、そこから中、小、末吉……で凶だ」
「ゲッ、じゃあお前の方が上じゃねえか!」
「ふん、日頃の行いがそのまま結果に表れてるじゃないか」
やいのやいのと元気に言い合いを繰り広げる弟達。一郎は元気でよろしい、と笑いながら『恋愛』の項目を目でなぞる。『よいでしょう』という簡潔な文字。ホントかよ、と苦笑いしつつ、ポケットにしまってると近くに甘酒を打っている看板を見つけた。
「おっ、なあ。甘酒でも飲まねえか?」
「飲む!賛成!」
「いいですね。甘酒は飲む点滴とも言うくらい栄養価が高いですから」
三人は意気揚々と甘酒を買って、乾杯した。温かく、濃い味が口の中を包む。
「甘酒って、飲みてえと思うことあんまないけど正月に飲むと美味いよね」
「僕は冬、たまに普通に飲みたくなるけどね」
「通だな、三郎は」
人混みから抜けて、道の隅で甘酒を飲んでいると、三郎が「ちょっとトイレ行ってきます」と二郎に空のコップを預けて近くにあった公衆トイレへ向かっていった。
「はあ、甘酒であったまったな」
「だね」
ちらり、横目で見ると、寒さと甘酒の温かさの温度差のせいなのか、一郎の高い鼻のてっぺんが赤くなり、ずび、と鼻を鳴らしていた。二郎は今日、三人の中で唯一、手袋をはめていて、手がポカポカだった。笑いながら手袋を外し、そのまま一郎の鼻を摘まんでみた二郎。一郎はびっくりして目を丸くし、二郎に顔を向ける。
「あったかい?」
「……というか、ビビった」
「ハハ、兄貴の鼻、赤くなってて寒そうだったから」
俺、手あったかいでしょ。とドヤ顔で笑って見せると一郎は鼻をつままれたままで二郎を見つめながら呟いた。
「あー……既に大吉実感してるわ」
2025.1.1 今年もよろしくお願いします!