100日後にくっつくいちじろ84日目
「三郎、大丈夫だったかな」
「兄貴、そればっかり……」
「だってよ……」
「だってじゃないでしょ、大丈夫だよ。自分で行くって言ったんだから」
15:00
一郎と二郎はリビングで蜜柑を食べていた。二郎は「これアタリだ」と蜜柑の合否判定をしているが、一郎は蜜柑の味がよく分からない様子。
昨日、学校をサボった三郎が今日は普通に朝から学校へ行った。それが心配で居ても立っても居られない、という状態なのだ。
「結局、なにがあったかは聞いてねえけど……なァ、やっぱ聞き出した方がいいかな?いじめとかだったら大変だろ」
「うーん……三郎は聞いてほしくないって言ってたんだよね。でももし今日も暗い顔して帰ってきたら兄貴から聞いてやってよ。俺相手だと言いにくいとかあるかもだから」
「むしろ二郎の方が話しやすいとかねえか……?」
「そんなことないよ。内容によりそうだけど……むしろケロっとしてたら俺から結局どうしたのか聞いてみるわ。平気そうな顔してても悩んでるとかあるかもだし」
「ああ……」
一郎はそわそわと落ち着かず、蜜柑を皮ごと食べそうな勢い。そんな兄に苦笑いしながら二郎が二個目の蜜柑に手を伸ばしたとき。玄関からドアが開く音がした。ガタツと立ち上がる一郎の腕を二郎が掴んで引き留める。
「いつも通りでいいよ。どんと構えててやらないと」
「お、おう……」
すとんと椅子に腰を再びおろす一郎。やがて三郎がリビングへやってきた。
「ただいまー」
「おう、おかえりー」
「おかえり、三郎」
結論、三郎は「いつも通り」であった。
酷く落ち込んでいる感じもないし、昨日のしんどそうな表情でもない。二郎はそんな三郎にいつも通り声をかける。
「蜜柑、お隣さんから貰ったんだってよー。早く手洗ってこねえとなくなるぞ」
「はあ?甘いの残しとけよ」
「甘いかどうかはランダムでーす」
二郎に尻を叩かれ、制服を着替えに向かった三郎。リビングに残った二人は小声で話す。
「いつも通りだったな、三郎」
「うん、問題解決したのかな」
「あとでそれとなく話聞いてやってくれるか」
「うん」
「あと、俺ももちろん気に掛けとくが、お前も当分、三郎のこと気にしてやってくれ」
「うん、任せてよ」
▼
「おう、兄貴、今日ずっとソワソワしてたぞ」
「えっ、一兄が?」
20:00
一郎が入浴中、二郎と三郎は夕飯の後片付けをしていた。二郎が洗って三郎がテーブルを拭く。そんな中、二郎が夕方の話に触れた。
「ずっと三郎は大丈夫かって、やべえくらいテンパってた」
笑いながら二郎が告げ口をすると三郎は申し訳なさそうに「そうか……」とこぼしつつも、どこか嬉しそうに表情を緩めた。
「お前、今日は大丈夫だったんか」
「ああ……一昨日、ちょっとグループワークで揉めて、嫌味みたいなこと言われたから言い返しただけ」
「おま……言われた倍くらい言い返したんだろ」
「要領が悪かったから少し口出しただけなのに突っかかってくるのが悪いんだろ」
「はー……まあ、そんで?今日はその相手とどうだったんだよ」
「……またグループワークがある日だったから、朝いちにそいつのところ行って、言い方がキツかったことは謝っておいたよ。一応ね」
「おおっ!?偉いじゃねえか!成長か!?」
「うっさい」
「イデッ!スネを蹴るな!」
どうやら相手も謝ってくれたらしい。二郎は一連の話を聞いてホっとした。自分を罵倒してくる元気もあるようだし。
「なあ、これ兄貴に告げ口していいか?心配してたから」
「告げ口って……まあ、いいけど……心配かけちゃったし」
自分で言うのも、なんかちょっとアレだし。
もにょもにょとそう付け足す三郎。きっと自分の物言いで同級生と揉めたという話を一郎にしたくないのだろう。しかし安心はさせたい。そんなフクザツな心境なのだ。
「んじゃ、兄貴が風呂から上がったら三人で蜜柑食いながらマリパしようぜ」
「仕方ないなー」
夜、三郎が部屋に戻った後、二郎が一郎の部屋を訪れた。
そして三郎は大丈夫そうだという「告げ口」をすると、兄は心底ほっとした表情で胸を撫で下ろし、「ありがとな」と二郎の頭を撫でたのだった。
2025.1.15