二度、恋をする。23
テストも無事に終わり、ナマエは久々に【ミチクサ】を訪れていた。いつもはカウンター席に腰掛けるが、今日は窓側のテーブル席に身を置き、ノートパソコンと向き合う。テーブルの上には頼んだカプチーノと手帳にスマホ、びっちりと文字が書き込まれたノートにポーチが並んでいる。パソコンの画面とにらめっこしながらキーボードをカタカタと打ち、時折、目頭を抑えてはため息をつき、再びキーボードを打つと言う作業を繰り返す。宮本はそんなナマエに目をやりながらも自分の作業を進めて行く。他に客は居らず、ナマエの打つキーボードの微かな音と店内に流れるBGMが心地良い。『あ…』不意にナマエの口から声が漏れ、宮本はそちらを見た。ナマエはパソコンから顔をあげ、店の外へと視線を向けている。宮本は不思議に思い、窓の方へと視線を動かす。そして窓ガラスをはさんだ向こう側に1人の男が立っている事に気付いた。金色に近い髪が風になびき、男の青い瞳があらわになる。「(あいつは…)」風が強かったあの日。【ミチクサ】の向かいの歩道でナマエと抱き合っていた男だと宮本は気付き、眉間に皺が寄る。そんな宮本とは裏腹にナマエは笑顔を浮かべ、席を立った。そして荷物をそのままに宮本に一言声を掛け、店の外へと出て行く。どうやら男が外へ出て来るように合図したようで、宮本の心の中をどす黒い影がじわりじわりと侵食して行った。
カラン――…とドアベルが鳴り、ナマエが歩道へと出て来る。『こんにちは。先日はどうもありがとうございました。』「こちらこそ急に付き合って貰ってすみませんでした。…ところで今日は日曜日ですが、お仕事ですか?」安室はそう言って窓ガラスの向こうにあるパソコンを指差す。『えぇ…。気分転換にと思って外へ出たのですが、なかなかはかどらなくて…。そろそろ夕飯の買い物に行こうかなって思ってたところなんですよ。』そう言ってチラリと腕時計を見る。時刻は午後3時30分を少しまわったところだった。「へぇー!奇遇ですね。僕も今から買い物に行こうと思ってたんですよ。ナマエさんさえよかったらどうです?一緒に。」安室の提案に目を大きく見張るナマエにさらに安室が誘惑の言葉を放つ。「僕…車で来てるので、重いお米も買えますよ?」『なんでお米を買いたいって知ってるんですか?!』「さっきあそこの窓から覗いた時に、手帳へ貼られた【やることリスト】の中に【お米を買う!絶対!】って書いているのが見えて…。」『うぅ…お恥ずかしい…。』そう言ってナマエは俯き、頬を赤らめる。「パソコンを持ってお米も…となると大変でしょう。この前、映画に付き合ってくれたお礼をさせて下さい。」そう言ってウインクを飛ばす安室にナマエは『よろしくお願いします』と頭を下げた。そして一度【ミチクサ】の中へ戻るとテーブルの上に広げていた物を慌ててまとめると鞄へと詰め、残っていたカプチーノを飲み干す。伝票を持ち、レジへ向かうといつものようにそれを宮本へと渡した。会計を済ませてお釣りを財布に直していると、ふいに声を掛けられ、ナマエは顔をあげる。「あの…先程の男性は彼氏さんですか?」『え?』「あ、いや!この前、向こう側の道で抱き合っているところを見て…」宮本の言葉にナマエはこの前の出来事を思い出し、慌てて否定する。『ち、違いますよ!あれはその抱き合っていたワケではなくて…』「そうなんですか…。」何故か安心したような表情を浮かべる宮本を不思議に思いながらもナマエは鞄を持ち直し、【ミチクサ】を後にした。
【ミチクサ】を出て、すぐのところに安室の愛車であるRX-7を見つけ、駆け寄る。そして助手席のドアを開けた。『お待たせしてすみません。』「大丈夫ですよ。ささ、乗って下さい。あ、荷物は後部座席に置きますね。」安室はナマエの手からパソコンの入った鞄をさり気なく取ると後部座席へと置いた。流れるような安室の動作に息が漏れる。「ナマエさん?シートベルトはしましたか?」安室にそう話掛けられ、慌ててシートベルトを閉める。その様子を楽しそうに見つめる安室の瞳。「さ、準備はいいですね!行きましょう!」RX-7は他の車のあいだを滑るように駆け抜けて行った。
「いっぱい買っちゃいましたね。」『買っちゃいましたね。』後部座席に置かれたエコバッグの膨れ具合がそれを物語っている。「大型スーパーって何でもあって天国みたいなところですよね。」安室はそう言って、ふふっと笑う。「あ、そうだ。ナマエさんのマンションは来客用の駐車場ってありますか?」『たしかあったと思いますけど…。』「お米…重いでしょ?部屋の前まで持って行きますよ。」安室はそう言って、先日の映画帰りに名前を送り届けたマンションの方へとウインカーを出す。『そこまでしてもらうわけには!』「僕がしたいんです。…駄目ですか?」運転席からちらりとこちらを見る安室にナマエの胸が高鳴る。『うぅ…駄目じゃないです。よろしくお願いします。』安室に口で勝つ事は出来ないと悟ったナマエは素直に負けを認め、白旗を振る。そして鞄の中から自宅の鍵が入ったポーチを取り出そうとしてある事に気付いた。『あ、あれ?』「どうしましたか?」『あ、いや…家の鍵を入れているポーチが見当たらなくて…。』鞄の中には手帳、スマホ、ノートは入っているが、肝心のポーチだけが姿を消している。「ポーチだけがないんですか?」路肩にRX-7を停め、こちらを見る安室に小さく頷く。『ど、どうしましょう!』慌てるナマエを落ち着かせるように安室は肩に触れ、ナマエの瞳をまっすぐと見つめる。「落ち着いて…今日あった事を一緒に思い出してみましょう。」『えっと…昼すぎに自宅を出て鍵をポーチに入れてそれから…しばらく散歩をして安室さんに会ったミチクサへ入りました。で、ポーチに入っているUSBを出して…ちょっと待って下さいね。』そう言ってナマエは鞄に入っているパソコンを見た。『あーやっぱり…USBを外すの忘れてる。』「と言う事は、あの店に忘れて来た可能性が高いと言うわけですね。」安室はそう言うとサイドブレーキを外し、RX-7を発進させた。『すみません…そそっかしくて…。』「誰だってミスをするものですよ。気にしないで下さい。」『そう言って頂けるとありがたいです。…でも安室さんってミスとかしなさそうですよね。』「そうですか?…そうでもないですよ…今でも後悔してる事だってあります。」そう言った安室の横顔がなんだか寂しそうでナマエはそれ以上言葉を続ける事が出来なかった。
「じゃあ僕は車を停めて来ますね。」ナマエを【ミチクサ】の前で下ろし、再び安室はRX-7を走らせる。閉店時間には間に合ったようで店内には明かりが灯り、客も数人いるようだった。ナマエはドアをゆっくりと開けるとドアベルが鳴り、宮本がこちらに近寄って来た。「いらっしゃいませ!夕方ぶりですね。」宮本にこう声を掛けられ、ナマエは恥ずかしさに頬を赤らめた。『あ、あの…すみません。ちょっとお尋ねしたいのですが、このぐらいの花柄のポーチ忘れてませんでしたか?』両手で大きさを表現し、宮本に問う。「花柄……あぁ!そう言えば椅子の下に落ちてましたよ。持って来るので確認お願いします。」宮本は一度カウンター裏へ回り、姿を消す。ナマエと宮本のやり取りを店内の客達がチラチラと見ており、恥ずかしさからさらに頬が染まるのを感じた。
カラン――…とドアベルが鳴り、振り返ると安室が中に入って来ているところだった。「ポーチはありましたか?」安室の問いに答えようと口を開いたその時。「お待たせしました。はい、どうぞ。」宮本の手に握られた花柄のポーチを見てナマエの口から『あ…』と声が漏れた。ナマエの反応からこのポーチが本人の物だと分かり、宮本も目尻が下がる。だが、ポーチを渡し終えた直前、一瞬ではあったが安室に冷たい視線を投げた事に安室は気付いていないふりをした。ナマエは受け取ったポーチのチャックを開けると中身を確認する。そして自宅の鍵の存在を確認すると、それに付けているキツネのキーホルダーを愛おしそうに撫でながら小さな声で『よかった』と呟いた。「無事に見つかってよかったですね。他に失くなってる物とかはないですか?」安室の言葉に再度、ポーチの中を覗く。自宅の鍵の他に保険証、かかりつけの病院の診察券などを入れていたが、特に失くなっている物はないようだった。『大丈夫です。』「それならよかった。では送って行くのでそろそろ行きましょう。」安室はそう言うと【ミチクサ】のドアを開けた。『あ、はい。…あの、ありがとうございました。では。』ナマエは宮本に一礼すると安室に続き、店を後にした。
『本当にありがとうございました。安室さんがいなかったら今頃途方に暮れてたかもしれません。』「いえいえ…僕は何もしてませんよ。……そう言えば、ポーチが見つかった時…鍵が見つかって安心と言うよりも鍵に付いてるキーホルダーが見つかって安心してるように見えたのですが…。」安室の指摘に名前は持っていた自宅の鍵とキーホルダーを握り締めた。『これは私にとって大事な物なんです。』「大事な物…ですか?」安室の言葉に小さく頷き、口を開いた。
***
京都――…海外旅行者や修学旅行生が賑わう観光地でナマエと1人の男子学生はグループからはぐれてしまい、困惑していた。『どうしよう。』「うーん…。」本来なら6人で行動しないといけないグループ行動をしている途中だったが、残りの4人が人混みに紛れてどこかに行ってしまったようだった。
探そうにもあまりに人が多く、探せそうにない。ナマエは鞄から携帯を出し、同じグループの子に電話をかけるが繋がらず、困り果てている。一方、男子学生…降谷零は幼馴染にしてやられたと眉間に皺を寄せていた。「(ヒロの奴…わざとはぐれたな…。)」降谷とナマエを2人きりにしようと企んだ他の4人がわざとはぐれた事を察した降谷は小さなため息を漏らした。『ごめんね、降谷くん…。』「ミョウジが謝る事じゃないさ。悪いのはあいつらだし。」『でもお土産見てたのは私だから。』降谷は自身のせいでみんなとはぐれたと思い、落ち込むナマエの頭を優しく撫でた。「僕も一緒にお土産見てたし、おあいこだ。…携帯、連絡つかないんだろ?もうあいつらなんかほっといて2人でまわろう。」そう言うと降谷はナマエの手を取り、観光客のあいだを縫うように歩き出した。ナマエは繋がれた手の熱を感じ、頬を赤らめる。後ろから見た降谷の耳も心なしか赤らんでいるようにも見えた。
予定で立てた最終目的地に辿り着けるように観光地をまわって行くと一軒の雑貨屋が目に飛び込んで来た。ナマエの瞳が輝いている事に気付いた降谷はさり気なくその雑貨屋へ立ち寄る。ナマエは嬉しそうに後へと続いた。古民家をリノベーションした雑貨屋の隣にはちょっとしたカフェスペースがあり、コーヒーのいい香りが鼻腔をくすぐる。2人は休憩がてら、カフェスペースへと腰を下ろした。そして抹茶ラテとケーキのセットを頼む。程なくして届いたそれを口に運び、ほっとひと息つく。目の前で嬉しそうにケーキを頬張るナマエを見て、なんだかデートしてるみたいだな…とぼんやり考えた降谷は自身でも驚き、頬を赤らめた。カフェでひと息ついたのち、思い思いに店内を見てまわる。ふと、ナマエの目にひとつのキーホルダーが止まった。デフォルトされたキツネの首に鈴が付いており、揺らすとチリンチリンと音が鳴る。「あ、それ可愛いな…。」いつの間にか隣に来ていた降谷がそう呟く。『買って来よっかな。』「…じゃあさ、僕も買うから、お互い交換しないか?」『え?』急な申し出にナマエは目をぱちくりさせる。「嫌だったらいいんだ…忘れ『する!交換する!』店内にいた他の客がこちらを見て「若いっていいわね」と微笑むのを見て、2人はそれを購入し、そそくさと店を後にした。
***
「じゃあそのキツネのキーホルダーはその男の子と交換した物なんですね。」『えぇ。なんだか恥ずかしい話しちゃってすみません。でも私にとっては忘れられない思い出なんです。』「………その彼とは?」安室の問いにナマエはキーホルダーから視線をあげ、窓の外を見た。『……高校を卒業して、それっきりです。…彼もキーホルダーを大事にしてくれてたらいいんですけどね。』そう言って無理矢理と笑顔を浮かべるナマエに安室は胸が締め付けられる思いだった。
ナマエを無事に送り届け、自宅マンションへと戻った降谷は電気も点けずに部屋の中にいた。手には先程ナマエが持っていたキツネのキーホルダーと同じ物が握られている。「……大事に持ってるに決まってるだろッ…!」あの時の悲しそうな表情を思い出して奥歯を噛み締める。自身が【降谷零】だと伝えられたらどんなに楽だろうか。だが、それは出来ない。だからしばらくは【安室透】と言う仮の姿でナマエとの過ごせなかった日々を出来るだけ埋めたいとただただ願うばかりであった。
4
ピンポーン――…呼び鈴が鳴り、ナマエは玄関へと向かう。そしてチェーンと鍵を開け、玄関のドアを開けた。ドアを開けた先には1人の女性が立っており、手には紙袋が握られている。『おかえり、夏子!』「ただいま!」女性の名前は澁谷夏子…ナマエとは大学からの友人で先日まで海外へ行っており、帰国したばかりだ。『向こうはどうだった?』「こっちとは全然違って、いろんな刺激受けて来たわよ!はい、これお土産ね!」そう言うと澁谷は手に持っていた紙袋を名前に手渡した。ナマエはそれを受け取り、礼を告げる。そして澁谷をリビングへと通した。「で?」『“で?”って、何?』「もう!とぼけちゃって!彼よ、彼!例の喫茶店の彼!あれからどうなの?!もしかしてもう…!」鼻息荒く詰め寄る澁谷にナマエは慌てて口を開いた。『ちょ、やめてよ、夏子!いつも言ってるじゃない。そんなんじゃないって!』「“そんなんじゃない”…ねー…。」疑うように見つめる澁谷の目にナマエは顔を伏せる。そんなナマエへさらに詰め寄り、澁谷が三日月のように瞳を細めた。「ねぇー!お昼まだでしょ?今からさ、その喫茶店へ行こうよ!」『え?!』「いいじゃん!はい、決まり!そうと決まれば、ささ!用意して!」澁谷に無理矢理立ち上がらせられ、背中を押される。言い出したら引かない澁谷の性格を知っているナマエは反論も出来ない。ため息をつくと、『余計な事は言わないように』とだけ釘を刺して出掛ける準備を始めたのであった。
自宅マンションを出て、しばらく歩くと【ミチクサ】が見えて来た。先日のポーチ紛失事件以降、訪れていない。何となく気恥ずかしさもあり、行く事を躊躇してしまう。そんな事を考えていると前方から子供たちの声が聞こえて来た。その中に見知った顔を見つけ、ナマエは立ち止まる。『こんにちは、江戸川くん!』「あ、ナマエお姉さん!こんにちは!」ナマエの挨拶に立ち止まったコナンに続き、他の子供たちも立ち止まる。「誰だ、この姉ちゃん?」「この人は蘭姉ちゃんが通ってる高校の先生だよ。」コナンがそう紹介すると、子供たちは口々に先生と呟く。そんな中、灰原だけがコナンの影に隠れてじっとナマエを眺めていた。『初めまして、ミョウジナマエです。学校で先生やってます。よろしくね。で、こっちは私のお友達で、澁谷夏子さん。夏子さんも学校の先生なんだよ。』簡単に自己紹介すると子供たちも順番に自己紹介を始める。「俺は小嶋元太ってーんだ、よろしくな!」「僕は円谷光彦です。よろしくお願いします。」「私は吉田歩美だよ!よろしくね。」『ちゃんと自己紹介出来て偉いね!…そっちの女の子はちょっぴり恥ずかしがり屋さんかな?』ナマエはコナンの服を掴み、隠れる灰原に目線を合わせるようにしゃがむと、そう声を掛けた。笑顔を浮かべ、しばらく待っているとコナンの後ろから少し顔を覗かせ、灰原は小さく口を開く。「……灰原、哀よ。…よろしく。」『はい、よろしくね!ところで、江戸川くん達はこれから遊びに行くところかな?』「うん!知り合いのおじさん家に猫を見に行くんだー!」『猫かー!いいなー!車に気を付けて行くんだよ?』コナンは明るく「わかった!じゃあまたね!」と返すと、他の子供たちを連れて歩き出す。灰原はすれ違う際、ちらりとナマエを見た。その視線に気付いたナマエは灰原の方を見て、笑顔を向けると右手をひらひらと振る。灰原は少し驚いた顔をしたが、小さく手を振り返す。その行動を嬉しく感じ、ナマエは小さくなって行く子供たちの背中を見送った。「あれ…ナマエさん?」子供たちを見送っているとふいに名前を呼ばれ、辺りを見渡す。すると横断歩道を渡ってこちらに向かって来る安室の姿が目に入った。『あ、安室さん!こ、こんにちは!』ナマエの少し上擦った声に夏子は目を細める。何かを確信した表情だ。「こんにちは…そちらはお友達ですか?」『はい、大学からの友人で…「澁谷夏子って言います!ナマエがいつもお世話になっています。」澁谷は深々とお辞儀をする。安室はそんな彼女に習い、お辞儀を返した。「いえいえ。僕の方こそいつもお世話になってるんですよ。ね、ナマエさん?」そう言って、ナマエにウインクをひとつ送る。『そんな…私は何も!あ、安室さん…今日はポアロお休みなんですか?』「いえ…今日は、これから出勤ですよ?」安室のその言葉に澁谷が声を上げる。「私達、今からそこに行こうとしてたんですよ!もしよかったら一緒に行きませんか?」澁谷の提案にナマエは目を丸くする。安室はその提案に考える素振りも見せずに、「いいですね、行きましょう!」と返した。予想していなかった出来事にナマエの頭は着いて行かず、言葉も発せられない。トントン拍子に事が決まって行き、気付けば【ポアロ】に到着していた。「では僕は準備がありますので。」そう言って、ポアロの奥へと姿を消す安室と入れ違いにポアロの女性店員…榎本がナマエ達を迎える。「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ!」案内されたテーブル席に着き、店内を見渡す。昼食のピーク時間を過ぎているためかそんなに客は多くない。澁谷とメニュー表を眺めているとカウンターの奥からポアロのエプロンに身を包んだ安室が出て来た。そして榎本と一言、二言、言葉を交わすと今度は榎本が奥へと姿を消す。どうやら休憩のようだ。榎本から仕事を引き継ぎ、他の客のオーダーであるコーヒーを入れながらサンドイッチを手際よく作って行く安室にナマエは視線を外す事が出来ない。ふと手元から視線を上げた安室と視線がぶつかった。慌てて視線を反らすナマエとは逆に安室はにっこりと笑みを返す。そんな2人の様子を見ていた澁谷は嬉しい気持ちに胸が温まった。
○名前変換サイトで連載していた作品です○