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    カイネ

    @kainefry0

    成人済/fryとgrc・pngの夢女/腐カプ✗
    ⚠up後もたびたび作品の加筆・修正をします⚠
    fry落ち長編【二度、恋をする。】
    1〜4→ゼロ執の順番にお読みください。

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    カイネ

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    fry落ち(たまに📖沿い)
    夢主設定→教師 fryの高校の同級生 両片想いのまま卒業
    #decnプラス #decn夢

    #decnプラス
    decnPlus
    #decn夢

    二度、恋をする。【ゼロの執行人沿い】⚠1〜4を読んでからお読みください4月28日土曜日__…ナマエは干していた洗濯物を取り入れると、テーブルの上に置いていたリモコンでテレビを点けた。そしてチャンネルをまわし、普段観ているワイドショーで止める。「《無人探査機【はくちょう】が火星からのサンプル採取を終え、日本時間の5月1日、いよいよ地球に帰って来ます。》」女性アナウンサーが帰還計画図に沿って、帰還カプセルの回収方法やカプセルの説明をしている。ナマエは取り入れた洗濯物をたたむため、テレビ画面から目をそらした。「《番組の途中ですが、たった今入ったニュースです。》」顔を上げると女性アナウンサーが探査機について説明していたスタジオから切り替わり、報道局が映っていた。緊迫した様子が男性記者の表情から読み取れる。「《お伝えします。来週、東京サミットが行われる国際会議場で、先程大規模な爆発がありました。その時の防犯カメラの映像です。》」記者がそう伝えると、テレビ画面が防犯カメラの映像に切り替わる。お腹に響くような音がしたかと思うと、国際会議場が爆発し、煙に覆われた。『サミット会場で爆発だなんて…。』洗濯物をたたむ手を止め、テレビの映像を食い入るように観る。「《現場となった統合型リゾート【エッジ・オブ・オーシャン】はまだ開業前だったため利用客はいませんでしたが、サミット警備の下見をしていた警察官数人が死傷したとの情報が入っています。繰り返します。》」再び、爆発現場の映像が流れ、ナマエはただただその映像を見つめる事しか出来なかった。

    テレビでは国際会議場が爆発した事を伝えるニュースが何度も報道されていた。だが流れてくる情報はほとんどが同じで、目新しい情報はない。ナマエは昼御飯の後片付けをしているとふと、キッチンの端に置かれたスマホが点滅している事に気付く。ナマエは手についた泡を流すとタオルで水気を拭き取り、スマホを持ち上げた。【着信 毛利探偵事務所】『毛利さんから?』不思議に思いながらも電話に出ると、電話の相手は毛利小五郎ではなく、娘の蘭だった。『どうしたの、毛利さん?』どこか様子のおかしい蘭にゆっくりと優しく問い掛ける。「《ミョウジ先生…国際会議場の爆発のニュース見ましたか?》」『えぇ…凄い事になってるわね…。』「《………父の指紋がその国際会議場から出たらしくて、父が警察に疑われてるんです。》」『毛利さんが?サミットが開催される国際会議場になんて易易と入れる場所ではないと思うけど…。』「《ミョウジ先生もそう思いますよね?私も何かの間違いだとは思うんですが…。》」毛利探偵事務所に警察が来るや否や、事務所のパソコンや棚に置いている資料などが押収された事を聞き、ナマエは眉間へと皺を寄せた。『毛利さんは国際会議場へは行ってないのよね?だったら心配する必要はないと思うけど、警察が家にまで来たら不安よね…。蘭さん…何かあったらいつでも先生に連絡して。話を聞く事ぐらいしか出来ないけど、蘭さんの力になりたいの。』ナマエのその言葉に蘭は少し明るさを取り戻し、お礼を伝えると電話を切った。ナマエは通話が切れたスマホを元の場所へ戻す。何故か胸のざわつきが治まらず、不安な気持ちがじわじわと押し寄せ、黒い靄が足元から這い上がって来るようだった。

    国際会議場爆発数時間前___グレーのスーツに身を包んだ降谷は公安として部下と共に、国際会議場内の点検を行っていた。「これは…!」手に持つタブレットから不穏な情報を見つけ、降谷はすぐさま公安鑑識へと連絡を取った。だが時は既に、遅し。鑑識へ指示している最中、降谷の後方で大規模な爆発が起こった。何台もの車が宙に浮き、地面へと叩きつけられる。降谷は爆発の影響で飛んできた瓦礫や煙、炎を避け、安全な場所を求めて駆け出す。共に点検を行っていた部下達の安否が気がかりだが、今はそれを確認する事は難しい。「(まさかサミット前に爆発されるとは…!)」奥歯を噛み締め、降谷は一刻も早く部下達と合流するべく地面を蹴った。

    夕日が静かに傾く頃___。ナマエは蘭からの電話がどうしても気になり、毛利探偵事務所を目指していた。黒い靄に足元を取られるような感覚を受けながらナマエは足を止めない。西日が異様に眩しく感じ、ナマエは瞳を細めた。『はぁ…はぁ…!』普段の運動不足が裏目に出る。一度立ち止まり、息を整えようとたくさんの酸素を吸い込んだ。下を向き、呼吸を整える。しばらく深呼吸を繰り返すと心臓も落ち着き、呼吸が正常に戻って来る。ナマエは膝に手を付いたまま、毛利探偵事務所の方を見上げると一滴の汗が顎を伝い、地面へと落ちた。『…あれは、江戸川くんと…安室さん?』ポアロの店内へ入った安室を追い掛け、話しかけるコナンの姿が確認できるがポアロまで少し距離があるため会話の内容まで聞こえない。ナマエは声を掛けようと腰を伸ばしたその時。「なんでこんな事するんだ!」小学生とは思えぬ程の剣幕をしたコナンにナマエの身体がビクリと反応する。どんな会話をしているのかまったく想像出来ない。小学生にあれ程の表情をさせると言う事は只事ではないのだろう。ナマエはコナンに声を掛ける事が出来ずにただただ、険しい表情を浮かべるコナンの横顔を見ている事しか出来なかった。しばらくのあいだポアロを睨み付けていたコナンはゆっくりと踵を返し、毛利探偵事務所へ繋がる階段を上がって行く。ナマエはしばらくのあいだそこを動く事が出来なかった。しかし先程の2人の様子が気になり、意を決しナマエはポアロの扉に手を掛けた。ドアベルが鳴り、中にいた安室がそれに反応する。「いらっしゃいま…あ、ナマエさん!」ポアロに入って来たのがナマエだと分かると満面の笑みでナマエに近付いて来る。右頬に貼られた大きな絆創膏に目が行き、ナマエは口を開いた。『それ…どうしたんですか?』右頬を指差しながら問うと、安室は絆創膏に触れながら困ったように笑う。「ちょっと探偵業でミスしてしまって…。」恥ずかしそうに笑う安室に違和感を感じ、ナマエは拳をきゅっと握り締めた。『…さっき…江戸川くんと何の話、してたんですか?』「コナンくんとですか?…別に他愛もない話ですよ。」そう言って安室は踵を返し、ナマエに対して背中を見せる。拒絶されているようなその背中にナマエは悲しさを感じたが、どうしても引く事が出来なかった。『小さな子にあんな顔をさせて“他愛もない話”?安室さんがそんな事をするわけ、ないですよね?』「…ナマエさん…あなたには関係のない事ですよ。」口調は普段と同じで物腰柔らかだが、言葉からは拒絶を感じ、ナマエは胸の奥が締め付けられた。『………そう、ですよね。………安室さんの事、よくも知らないのに知ったような事言って、ごめんなさい。』ナマエはそう言うとポアロから逃げるように飛び出した。カラン…とドアベルが悲しく響く。降谷は歯を食い縛り、カウンターへと左の拳を振り下ろした。「ッ…くそッ…!!」この先、何が起こるかわからない危険な状態にナマエを巻き込みたくないが故に、敢えて厳しい言葉を選んだ。この答えは正解だったのだろうか…。降谷は肩を震わせ、こみ上げて来る物を必死に堪える。鼻から酸素を吸い、口からゆっくり吐き出す。これを何度か繰り返し、降谷は顔を上げた。「…ミョウジすまない…だが…僕には、命に代えても守らなくてはならないものがあるんだ。」全てが終わったらミョウジにきちんと謝罪しよう。謝って済む問題でない事は分かっている。もしミョウジが僕を殴る事で気が済むのなら、黙って殴られよう。君が住むこの国を守るためならば、僕は惡にだってなれる。降谷は意を決し、ポアロの奥へと姿を消した。

    ポアロを飛び出したナマエは毛利探偵事務所と毛利宅へ繋がっている階段を駆け上がった。事務所の電気は消えており誰もいない様子だったため、自宅の呼び鈴を押す。すると、しばらくしてコナンが姿を現した。「あ…ナマエお姉さん…。」『…江戸川くん…。』先程の安室とのやり取りを盗み見してしまった手前、何と声を掛けたらいいのか困っていると奥から蘭と園子が姿を見せた。「ミョウジ先生…。」瞳に涙を浮かべた蘭の様子から毛利の身に何かあったのは感じ取れたが、ナマエは恐る恐ると蘭に問い掛けた。『…毛利さんは?』「…父は…父は、今さっき警察の人に連れて行かれました。」弱々しく答える蘭をナマエは何も言わずに強く抱き締める。抱き締められた蘭の瞳から一筋の涙が流れ落ちた。

    ナマエが自宅へ帰宅した頃にはとっぷりと日が落ちていた。あの後、コナン達と蘭の母親で弁護士の妃英理の法律事務所を訪れたが、これと言って解決策を見出す事が出来なかった。ナマエは鞄からいつものポーチを取り出し、キツネのキーホルダーが付いた自宅のカギを取り出す。そしてそれを鍵穴へ差し込もうとした瞬間、キーホルダーの繋ぎ目が外れ、キツネのマスコットがゆっくりと地面へ落下して行った。『え、嘘?!』ナマエは慌てて座り込むと、それを拾いあげる。少し汚れてしまっているが払えは取れるほどのゴミに安堵のため息を漏らした。『………なんだが、嫌な予感がする。』拾いあげたキツネのマスコットを手のひらに握り締め、ナマエは夜空を見上げた。

    降谷は白み始めた空の元、人気のない公衆電話のボックスの中にいた。部下である風見からの報告を受け、こちらの進捗も伝える。「例の件はどうなっている。」「《はい。〈2291〉を投入する手筈になっています。》」指示通りに事が運んでいるようで、降谷は安堵する。それと同時に公衆電話のボックスの中に光が差し込んだ。朝日が昇り、新しい1日が始まりを迎える。「《……降谷さん?》」返事を返さない降谷を不思議に思い、風見が呼び掛ける。降谷は短く、「わかった。」とだけ返事を返すと受話器を戻した。朝日がまるで自分を責めているかのように見え、降谷は足早にその場を後にした。

    毛利小五郎が逮捕されてから2日、3日とあざ笑うかのように過ぎ去って行く。蘭からの連絡で毛利の弁護士が決まったと言う事は聞いたが、どうにも頼り無い印象が拭えない。電話越しだが、蘭の不安が手に取るように分かった。ナマエは部屋着を脱ぐと、白いブラウスとブルーのプリーツスカートに身を包む。スマホ、財布、そしてポーチを鞄へ入れると玄関へ向かう。玄関のドアを締め、カギを掛けるためにポーチを開く。そしてキツネのマスコットが付いていないカギを取り出し、カギを掛けた。目指すは妃法律事務所__…。

    妃法律事務所が入るビルの入口でコナンの姿を見つけ、ナマエは声を掛けた。『江戸川くん!』「あ、ナマエお姉さん!」『今からどこ行くの?』ナマエの問い掛けにコナンは警視庁の目暮に会いに行くと答える。『……江戸川くん…私もついて行ってもいいかな?…役に立てれるかわからないけど、この前の事で毛利さん、蘭さんにはお世話になったから何か力になりたいの。』強い眼差しに見つめられ、コナンは息を飲んだ。そして例のストーカー事件の事を思い出し、小さく頷く。「……分かった。ナマエお姉さんの力を貸して。」

    ナマエとコナンは警視庁のエントランスホールで目暮を待つ。しばらくすると目暮がやって来たため、3人は近くのベンチへと腰をおろした。「小五郎のおじさんのパソコンが、誰かに操られた可能性を調べているんだよね?」「まぁ確かに、日下部検事に追加の捜査を頼まれてはいるんだが……。」「言える範囲でいいから教えて。新一兄ちゃんが小五郎おじさんを助けるために、どんな情報でもいいから欲しいって__」コナンの言葉に新一が影ながらこの事件の調査をしている事を知り、ナマエも目暮に懇願しようとしたその時。「毛利先生がどうしたって?」聞き慣れた優しい声とは裏腹に、やや緊張感のある声が耳に飛び込んで来た。ナマエとコナンは驚き、声がした方を向くと大きな紙袋を下げた安室の姿がそこにあった。「……聞いてたの?」「何を?僕は毛利先生が心配で、ポアロから差し入れを持って来ただけだよ。」そう言って手に持つ紙袋を見せる。「あ、毛利くんはもうここにはいないよ。」「送検されたら原則、身柄は拘置所へ行く。安室さんが知らないはずないよね?」コナンの言葉にわざと感心したような返事を返し、安室は踵を返す。ナマエはそんな2人のやり取りを見て困惑していた。「あ、そうだ。」正面玄関へ向かおうとした安室が振り返り、ナマエの前へと立つ。そしてナマエの事を見下ろし、口を開いた。「この前の僕の言葉、忘れちゃいましたか?」笑顔を浮かべてはいるが、拒絶感が漂う安室にナマエは口がうまく動かない。『…わ、忘れては、いません。でも、関係ないなんてあなたに決め付けられたくない、です。』まっすぐと安室を見つめる瞳に安室の冷たい表情がうつり込む。安室は少しのあいだナマエを見下ろしていたが、無言で踵を返し、正面玄関へと向かい出す。ナマエは安室が完全に背中を向けた事を確認すると、視線を下へと向ける。プリーツスカートを握り締める手に力がこもり、たくさんの皺が出来ていた。そして隣に座るコナンへと視線を向けようとしたその時。コナンは勢い良くベンチから立ち上がると、正面玄関から入って来た風見へと飛び付いた。「ねぇ、刑事さん!おじさんちから持ってったパソコン返してよ!僕の好きなゲームも入ってるんだから!」風見にぶら下がるようにして抗議するコナンを目暮がたしなめる。ナマエも慌てて駆け寄り、コナンの手を引き警視庁を後にした。

    警視庁から妃法律事務所へ戻る道中、コナンは手を繋ぐナマエの顔を見上げた。“力になりたい”と言っていた時の表情とはうって変わり、どんよりと曇っている。「……安室さんと何かあったの?」コナンの問い掛けにナマエは弱々しく微笑むだけで、何も答えない。ただ、繋いだ手に力がこもったのをコナンは感じ取っていた。

    妃法律事務所へ戻ると、ほどなくして毛利の弁護士である橘境子が資料封筒を持って現れた。ナマエは毛利とは他人のため、その資料を見る事は出来ない。英理に挨拶をし、英理の飼い猫であるゴロちゃんの頭をひと撫ですると、その場を後にした。法律事務所が入るビルの扉を開け、表へと出ると外は夕暮れに近付いており、空がオレンジ色に染まりつつあった。毛利を助けるため“力になりたい”と言ったが、何も出来ていない自分に腹立たしさを感じる。ナマエは先程の安室の様子を思い返し、空を見上げた。『…安室さん、あなたは一体何をしようとしているの?』その言葉は風に乗り、遠くへと吹き飛ばされる。決して安室の元へ届く事のない問いかけに答えが返ってくるはずもなかった。

    ナマエは傘を持ち、警視庁近くの公園を訪れていた。空は灰色の雲に覆われ、今にも泣き出しそうなほどだ。『(まるで今の私、みたい。)』自身に不甲斐なさを感じ、俯き加減に当てもなく公園内を移動する。上空よりカラスの鳴き声が聞こえ、ナマエは顔をあげた。ふと、少し離れたところにある休憩所に見知った人影を見つけナマエは目を凝らす。だがすぐにその影はその場から姿を消した。『今の…江戸川くんと安室さん?』気が付けばナマエの足は2人が姿を消した方へと向かっていた。ポツリ…ポツリ…と降り出した雨が顔にかかるが、そんな事はお構いなしに走る。道に出来た小さな水溜りが、スカートの裾を濡らす。それでもナマエは足を止めなかった。傘をさす人達のあいだを抜け、安室の姿を探す。雨がかかる目を手で守りながら辺りを見渡し、雑踏の中に見知った後ろ姿を見つけた。『あ、安室さんッ!』ナマエはまわりの目も気にせず、大きな声でその後ろ姿に名前を叫んだ。安室はゆっくりと振り返る。そして今にも泣き出しそうな笑みを浮かべ、雑踏へと姿を消した。ナマエは足取り重く、横断歩道を渡っていた。先程の悲しげな安室の表情が脳裏に焼き付いて離れない。歩行者用の信号が赤になる前に渡り切ろうと少し足を早めたその瞬間。車のクラクションが耳に飛び込んで来た。『(な、なに?)』音の先に目をやると、暴走した車がこちらの横断歩道へ突っ込んで来ようとしているのが見えた。ナマエは驚き、その場から逃げようと駆け出す。まわりにいた人達もパニックに陥り、我先にと横断歩道から逃げようともがく。ナマエはそんな人達に背中を押されバランスを崩し、アスファルトの上へと転倒する。だがそんなナマエに気を止める者はいない。横断歩道へ突っ込む寸前のところで暴走車は停車し、大きな事故にはならなかったが、転倒したナマエの膝は擦りむき血が滲んでいた。

    「まさかIoTテロとはな。」風見は突然現れた降谷にスマホをポケットへ直すと、少し距離を取った。傘もささずに柵へ肘をつく降谷に口を開く。「さすがですね。そんな手口を特定するなんて。」「特定したのは僕じゃないが、おかげで事件化には成功した…よって我々がした違法作業にカタをつけたい。【協力者】の解放だ。」降谷はそう言うと、いまだやまない雨の中、階段を上がって行く。風見はその後を少し遅れる形で着いて行った。

    消防車のサイレンが鳴り響く中、ナマエは鞄からティッシュを取り出し傷口から流れる血を拭う。大した傷ではないが痛みを感じ、ナマエは眉をひそめた。近くにいた人がスマホのニュースを見ながら「IoTテロだってよ」と呟く。ナマエは血を拭い終えると、その場を後にした。方になると雨はやみ、夕日に空が赤く染まり始める。ナマエは痛む足を庇いながら自宅へと向かっていたが、スマホの着信を知らせる振動に気付き足を止めた。鞄からスマホを取り出し、相手を確認する。電話は蘭からの物でナマエは慌てて電話に出た。「《ミョウジ先生!父の不起訴が決まりました!》」『毛利さんの?よかった…本当によかったですね。』蘭の報告に涙が浮かぶ。「《ありがとうございます。それでこれから警視庁へ父を迎えに行く事になってて…。》」『警視庁に?私も近くにいるので一緒に行ってもいいですか?』ナマエの問い掛けに蘭は「是非!」と返した。

    警視庁を目指し、来た道を戻る。しかし、先程のIoTテロの影響のためか交通機関に混乱をきたしていた。ナマエはタクシーを拾おうとするも、止まってくれそうなタクシーが見当たらない。肩をおろし、途方に暮れていると目の前に1台の車が止まった。赤のスバル360。てんとう虫のようなフォルムをしたその車の助手席の窓が開いたと思うと、運転席に座る沖矢の姿が見えた。「こんなところでどうしたんですか?」『沖矢さんこそ…。』「僕はドライブを楽しんでいたところなんですが、何やら事故が多発してまして…ドライブどころではなくなったのですよ。」そう言って肩をすくめた沖矢は人差し指で眼鏡を押し上げた。「で、あなたは?」『あ、私は…警視庁へ行きたいのですがなかなかタクシーが掴まらなくて…。』「ほぉー…警視庁にですか…。もしよかったら送って行きますよ?乗って下さい。」そう言って沖矢は助手席のドアを開ける。ナマエは少し躊躇したが、ここで沖矢の申し出を断っても仕方ないと思い、助手席へと乗り込んだ。

    安室の愛車であるRX-7とはまた違った乗り心地のスバル360に揺られ、警視庁を目指す。ナマエはスカートを握り締め、自身の足元を見つめる。だが無言の車内に耐えきれず、ナマエは思わず口を開いた。『あの…沖矢さん…変な事聞いてもいいですか?』「………どうぞ。」ハンドルを握り、前を見据えたまま沖矢はそう答えた。『……もしも…もしも、沖矢さんが大切に思っている人が、悪い事をしているかもしれないと感じた時…沖矢さんならどうしますか?』「………僕だったら大切に思っているその気持ちがあるのであれば、最後までその人の事を信じると…思いますね。」沖矢の言葉に足元から顔をあげ、運転する沖矢の横顔を見る。『…信じる、ですか。』「はい。例えば、突き放されたとしてもそれは表側から見た感情でしかない。裏側から見ればまた違った顔が見えて来るかもしれませんよ。」その言葉に安室から放たれた一言を思い出す。「あなたには関係のない事ですよ。」あの言葉は本当にナマエを突き放す言葉だったのか…。
    あの言葉の真意は…。『………沖矢さんって、エスパーみたいですね。』「問題は解決しましたか?」『…はい。』ナマエはそう返事を返すと、目の前に見えて来た警視庁を見据えた。

    「では、僕はこれで。」ナマエを警視庁の前でおろし、沖矢は愛車のスバル360を再び走らせ、その場を後にした。程なくしてやって来た蘭と英理、そして園子と合流する。「…高木刑事が段取りしてくれてるようだから行きましょうか。」英理の言葉にナマエ達は警視庁の中へと足を踏み入れた。

    ナマエが警視庁に到着した頃、コナンと降谷は1つの答えに辿り着いていた。「きっとまだ犯人の復讐は終わってない!!」そう言うや否や、コナンはスケボーを急発進させ、道路を滑るように駆ける。降谷もそれを追う形で、RX-7を路肩から発進させた。

    ナマエは蘭達と共に釈放された毛利がやって来るのを今か今かと待っていた。「あ、来た!おじさま!」高木と共に廊下を歩いて来る毛利に蘭が駆け出す。「お父さん!お帰りなさい!」胸に飛び込んで来た蘭を毛利は優しく抱き締めた。「……心配かけたな、蘭。それと……英理も色々すまんかった。」照れくさそうにそう言った毛利に英理は「何言ってるの」とこちらも照れた様子で返事を返す。『…蘭さん、よかったですね。』「よかったねぇ、蘭。」もらい泣きをしているナマエと園子に蘭は感謝の言葉を返した。「そうだ!この感動シーンを推理オタクにも送ってやろ!」園子はそう言うとカメラ機能を起動させ、スマホを構える。「ちょっと園子!」恥ずかしそうに頬を赤らめる蘭を無視して園子はシャッターへと指を添える。「これで連絡取れるはずよ!はい、チーズ…え?」シャッターを押そうとしたのその時。突然まわりの電気が消え、辺り一面暗闇に包まれた。「な、何なのよ?!」園子は驚き、ナマエの腕にしがみつく。ナマエは少しでも安心出来るように『大丈夫よ』と園子の背中に手をまわした。毛利の近くにいた高木はスマホのライトを起動させるとナマエ達の足元を照らす。「皆さん、無事ですか?…この近くに捜査会議が行われている会議室があります!とりあえずそこへ向かいましょう!」高木の言葉に従い、大会議室を目指す。高木、ナマエ、園子のスマホで辺りを照らすもその範囲はしれてる程度だった。何とか大会議室に到着するも、中では刑事達が慌ただしく部屋を出入りしている。高木の指示で、大会議室の隅で立っていたナマエは刑事達の行動を不安げに見つめていた。

    「カプセルが警視庁に!?」NAZUからの予想落下地点が警視庁だと判明し、大会議室の中は騒然とした。「4メートルを超えるカプセルがここに落下すれば、被害は想像がつかないぞ!」「落下カプセルはGPSを積んだ精密誘導システムにより、半径200メートル以内の誤差で落ちて来ます。」黒田はその言葉を受け、しばらく考えたのち、口を開いた。「大至急、大型人員輸送車を手配しろ!警視庁を中心に半径1キロ圏内は即時退避!!」黒田の指示に刑事達が「ハイッ!」と返事を返し、各自持ち場へと急ぐ。「お父さん…。」不安そうに毛利を見つめる蘭。毛利はそんな蘭を安心させるため、「大丈夫だ」と声を掛ける。そして言葉にはしないが同じく不安そうな英理にも手を添え、「英理、お前も俺の傍を離れるな!」と真剣な表情で訴えた。そんな毛利の行動に対し、園子の口からは感心する言葉が漏れる。ナマエも毛利の男気に賞賛のため息が零れた。

    東京湾に架かる東京ゲートブリッジ__…大勢の避難者を乗せた大型人員輸送車が何十台と連なり、走行していた。ナマエは蘭と園子が座る席の1つ前に座り、輸送車の窓から外を見る。そしてこれから向かう先、カジノタワーに目をやった。『(…安室さん。)』悲しげな表情を浮かべた安室を思い出し、ナマエは胸を締め付けられる。ナマエは鞄からスマホを取り出すと、トークアプリを起動させた。そしてトークの1番上にある安室とのトークルームを開く。そこには28日以前の他愛もないやり取りがあり、最近のでは【新しいケーキを考えてみました。】と言うトークの後に、半熟ケーキの画像が貼られていた。【美味しそうですね。】と返信すると、すぐに【今度、ご馳走します。お時間がある時にでもポアロへ来て下さい。】と返事が返って来た事を思い出し、ナマエは笑みを漏らす。またこうやって他愛もない話をする事が出来るのだろうか。…いや、出来る。ナマエ自身が安室の事を信じていれば、必ず。ナマエは伏せていた目をあげ、安室とのトークルームへ新しいトークを送信した。

    その頃、降谷とコナンは今回のテロの犯人である日下部を取り押さえたところだった。「日下部検事。あなたがテロを起こした動機は、本当に公安警察なのか!?」日下部の両腕を後ろ手に締め上げ、降谷は問う。その痛みに日下部は顔を歪めながらも口を開いた。「……サミット会場が爆破され、アメリカの探査機が東京に落ちれば、公安警察の威信は完全に失墜する。」「何故そこまで公安警察を憎む?」「お前らの力が強い限り、我々公安検察は正義をまっとうできない!」あまりにも身勝手な理由にコナンは声はあげた。「正義のためなら人が死んでもいいって言うのか!?」「民間人を殺すつもりはなかった!だから公安警察しかいない時に爆破し、死亡者が出にくいIoTテロを選び、カプセルを落とす地点もあそこを選んだ!」そう言って、日下部は警視庁を睨みつけた。

    ナマエ達を乗せた大型人員輸送車はエッジ・オブ・オーシャンに到着し、カジノタワーのたもとで止まった。それぞれの輸送車から続々と避難して来た人が降りる。ナマエも前の人に続いて輸送車を降りた。目の前にそびえ立つカジノタワーを見上げ、息を飲む。ナマエは、降りて来る人の邪魔にならないように隅へと移動し、鞄からスマホを取り出す。そして安室とのトークルームを開き、既読の確認をした。『(…やっぱり既読になってない、か。)』先程から何度、この動作を繰り返しているだろうか。既読にならない不安からナマエはため息を漏らした。

    日下部からNAZUに不正アクセスして変更したコードを聞き出すも、ブラックアウトにより軌道が確実に修正されているか分からない状態だと風見の報告を受けた。降谷はその報告をコナンと日下部にも告げる。「そんな…。」「羽場を…羽場を早くあそこから避難させてくれ!」日下部はそう言うと降谷を突き飛ばし、羽場がいるであろう警視庁の屋上ヘリポートを目指し駆け出した。すぐに体制を整えた降谷はコナンと共に日下部の後を追う。

    警視庁屋上ヘリポート__…風が吹き荒れるその場で、日下部は自身の協力者である羽場の姿を探していた。だがいくら探しても羽場の姿は、ない。「彼はここにはいない。」意味が分からないといった表情を浮かべる日下部にドローンで撮影した映像に羽場の姿を合成していたのだと説明する。その言葉に日下部は安堵のため息を漏らした。「安室さん…軌道修正できてないとしたら、落下位置はやっぱり…。」「あぁ。4メートルを超えるカプセルが、秒速10キロ以上のスピードで、ここに落ちて来る。」想像するだけ被害は莫大な物になる事が予想出来る。「安室さんなら、今すぐ爆薬を手に入れられる?」「耐熱カプセルを破壊するつもりか…」降谷の問いにコナンは口角を上げた。「太平洋まで軌道を変えられる爆薬だよ。」コナンの提案に驚き、目を見張る。だが、他に方法があるかと問われれば、ない。降谷はポケットからスマホを出すと一瞬、目を見開きスマホ画面を見つめる。「安室さん?」不思議に思ったコナンが声を掛けると、降谷は「あぁ…」と返事を返すと、風見へと電話を入れた。

    カジノタワーの最上階へと登った避難者の中にナマエの姿はあった。中央付近に固まる人々から離れ、窓側から警視庁がある方角を見る。『(本当に警視庁へとカプセルが落ちてしまうの?)』警察や国が動く中、不安は募る。そして既読にならないトークルームへと視線を落とした。

    風見が用意したプラスチック爆弾をカプセルへぶつけ、軌道をかえる準備が着々と進む中、降谷は夜空を見あげていた。先程、ロック画面に表示されたナマエからのメッセージを思い出し、自身に問い掛ける。【安室さん…あなたの正義を信じています。】正義とは…正義とは何か…正義は育った環境や価値観によって違い、ひとりひとりが己の正義を持っているだろう。僕にとっての正義が誰かにとっては惡かもしれない。逆もまた然り__…。正義は不完全でいて、脆く儚い。君が信じると言ってくれた僕の正義で君を悲しませてしまった事も事実。あの悲しげな表情を思い出すだけで胸が苦しくなる。だけど、それが僕の選んだ正義_…。君を悲しませてばかりだが、もし…もし、許されるのなら僕は__…。見上げていた夜空に突然、一筋の光が差し込んだ。

    ナマエは夜空に一筋の光を見つけ、息を飲んだ。『(…あれは…!)』警視庁目がけて落下して来るカプセルだと理解するのに時間はかからなかった。『(…あれが、警視庁に落ちたら…)』想像するだけで、背中がぞくりと震える。今、まさに水面下で落下するカプセルの軌道を反らすため、降谷とコナンが警視庁の屋上ヘリポートでその時を今か今かと待っている事など知らないナマエはその光を見ていられず目を固く閉じた。

    降谷はコナンから渡されたスマホに意識を集中する。ドローンからのカメラ映像を映し出したそれからアラーム音が鳴り出し、画面の中のカーソルが近付く。「(焦るな…焦るな…あと少し……!)」瞬きする事も呼吸する事も忘れ、画面に集中する。そして、2つのカーソルが重なりあった。「(ここだ!)」2つのカーソルが綺麗に重なったと同時に、降谷の指がスマホの通話ボタンに重なった__…

    ナマエはゆっくりと目を開けた。目の前には先程変わらず、夜空が広がっている。唯一違うところは一筋の光が消えて無くなっている事だった。『…どう、なったの?』遠くからのため正確な事は言えないが、カプセルが警視庁に落下したようには見えない。何が起こっているのか理解出来ないまま、ナマエは夜空を見上げた。

    「君のおかげで、日本を貶めるテロリストを逮捕出来た。」「いつ、テロだと思ったの?」「君の推理通りだ。あの日……国際会議場を点検中に、ガス栓にネットでアクセス出来る事を知った。それを使った爆破テロの可能性を考え、公安鑑識に指示していた時、爆発に巻き込まれた。だが、現場の状況から事故で処理される可能性もあった。」降谷は真っ直ぐとコナンを見据え、そう答えた。「それで容疑者を作ったんだね。」何もかも見透かされたような瞳に降谷は苦笑いを浮かべる。「凄いね、君は。全ての謎を解く。」「いや。まだ解けてない謎がある。それは……」コナンが次の言葉を言おうと口を開いたその時。降谷がコナンの持つスマホを指差した。「ケータイ……さっきからずっと光ってるよ。」そう言われ、コナンはスマホを確認する。蘭から着信が何件かと留守電にメッセージが残されていた。降谷は不意にかかって来た電話に不穏な空気を感じ取る。その不穏な空気が気のせいであってくれと願いながら電話を取った。だがしかし、そんな願いは淡く儚く散る。部下である風見からカプセルが東京湾の埋立地に落下するとの報告を受け、降谷の顔に焦りが滲んだ。「(待て待て待て…!さっき見たミョウジからのメッセージになんて書いてあった…?)」降谷はスマホのトークアプリを開くと、ナマエとのトークルームをタップする。【安室さん…あなたの正義を信じています。】と言う言葉の前にナマエからの謝罪文が届いていた。【この前はごめんなさい。】きっと警視庁で会った時の態度を謝っているのだろうと降谷はそう理解する。そして、次に送られて来ていたトーク内容を見て、愕然とした。【今、どこにいますか?】【私はこれから警察の人達とカジノタワーへ向かいます。】【もう安室さんとは会えないかもしれないけど、】【安室さん…あなたの正義を信じています。】「…ミョウジが、カジノタワーにいるのか?」スマホを持つ手が震える。こんな事、今までに一度もなかった。どんな過酷な捜査や組織で与えられたミッションでも動揺する事なく、こなして来た。だがそんな降谷の手が今は、震えている。「(あぁ…僕はこんなにも…。)」降谷は奥歯を噛み締めると、コナンの方を見る。状況を把握したコナンの表情に、先程のような余裕などない。降谷はコナンと共に警視庁の階段を駆け下りた。

    カプセルの落下予測地点が東京湾の埋立地と知った大勢の避難者は不安と恐怖に押し潰されそうになっていた。ナマエのいるカジノタワーの最上階もエレベーター前に人が押し寄せ、パニックになっている。ナマエは再び夜空を見上げた。闇に包まれた暗い夜空に浮かぶ厚い雲のあいだから時折、月が顔を覗かせる。だがその月の光が今のこの状況を嘲笑っているように感じ、ナマエは自身の身体をきつく抱き締めた。

    警視庁前に停めた愛車のRX-7に乗り込み、降谷はアクセルを踏み込んだ。助手席に座るコナンがスマホ画面を見ながら焦った声で「この先は渋滞だよ!」と叫ぶ。「避難誘導がうまくいってないのか?!」苛立ちに降谷は声を荒らげ、2台並んで走るトラックの横を滑るように抜ける。他の車もどんどん追い抜き、時速は180キロを振り切り、猛スピードで駆けるRX-7がカーブを曲がった先に渋滞にかかるキャリアカーを見つけ、降谷は口角をあげた。コナンは助手席からそんな降谷を見て、さらにきつくシートベルトを握り締める。それと同時にRX-7の左側が浮き、コナンはぐっと踏ん張った。片鱗走行でキャリアカーを目指し、渋滞にかかる車の間をすり抜けて行く。そしてキャリアカーの前まで来ると、降谷は迷わずそれに突っ込んだ。コナンが気付いた時には、RX-7はゆりかもめの上を走っていた。絶妙なテクニックで車両の上を走行させたかと思うと息つく暇もなく、降谷はRX-7を反対方向の走行路へと飛び降ろす。大きな衝撃が降谷とコナンの身体を襲うが、まったく気になどならない。大切な人を守りたい…。その気持ちが降谷を突き動かしていた。「〈降谷さん!カプセルのパラシュートが外れて加速しています!〉」風見の報告に降谷は奥歯を噛み締めた。「それで?」「〈NAZUから予測落下地点が出ました!このままじゃ、あと5分でカジノタワーに落下します!〉」降谷は目を見開き、舌打ちをする。「(ナマエ…!俺はまた、大切な人を失うのか?!)」先に旅立った友の顔が次から次へと浮かんでは消える。そして最後にナマエの笑顔が浮かんだ。「(いや、失いなどしない!!俺が必ず…守る!)」降谷はそう覚悟を決めると、前方よりこちらに向かって走行して来るゆりかもめに不敵な笑みを浮かべた。「……………!」走行して来るゆりかもめの正面へとアクセルを踏み込む降谷の顔を見て、コナンは目を見開く。自ら正面へと踏み込んで行く降谷の真意が読めない。「(ぶつかる…!)」危険を察し、コナンは固く目を瞑った。次の瞬間、ゆりかもめの車体に触れたRX-7のサイドミラーが宙を舞う。だが降谷はそんな事はお構いなしにRX-7の車体を走行路とゆりかもめの側壁を使い、走らせる。降谷はちらりと下を見ると、すぐ下の走行路を目の端に捉え、急ハンドルを切った。そのままRX-7は下の走行路へと着地するも車体が振られ、前のめりになったかと思うと左右の壁へと車体をぶつける。後方からはまた違うゆりかもめが迫っており、コナンは息を飲んだ。降谷はバックミラーでそれを確認すると、左右へと触れるRX-7の大勢を無理矢理立て直し、衝突を回避した。コナンはそんな降谷のテクニックに冷や汗を拭いながら、降谷を盗み見する。「(死ぬかと思ったぜ…にしてもスゲェな…。)」「で、どうする?」降谷の問いにコナンは慌ててスマホを開く。そして国際会議場の近くの建築中のビルに目が止まった。コナンはその画像を降谷へと見せ、「この建築中のビルに向かって!」と叫んだ。

    カジノタワー最上階__…未だに混乱がやまず、避難者達は口々に悪態をつく。ナマエは大きなガラスにもたれ掛かり、安室との出会いを思い返していた。教え子である園子に呼び止められて入ったあの【ポアロ】から全ては始まった。安室が追いかけていたレシートを偶然拾い、それから映画を観に行った。映画館のシートに並んで座ると言う当たり前の事に胸が高鳴った事を思い出し、ナマエは小さな笑みを零す。それから…そう…それからあの白い手紙がきっかけで安室さんと同じ屋根の下、手を繋いで眠りついた。安心するようにと繋がれた手は、朝を迎えても繋がれたままだった。「…僕だって本当はナマエさんを1人残して帰りたくはないんです。でも、好意を抱いている女性と2人きりで何もしない自信なんてありません。ナマエさんを傷付けたくない。」白い手紙の送り主が捕まったあの日言われた言葉を思い出し、頬が赤らむ。「では、僕と一緒に東都水族館へ行きましょう。」しかし今度は叶わない約束を思い出し、目を伏せた。『安室さんと乗りたかったなぁ…観覧車。』そう呟いてナマエは、はっとした。『私……安室さんに、恋してるんだ。』学生時代の想い人である降谷零にそっくりな安室透に出会い、ただ安室に降谷を重ね合わせて見ているだけではないかと不安に思っていたが、そうではなかった事に気付き、ナマエの頬はどんどん赤みを増して行く。だが時、既に遅し。この命はここで燃え尽きるのだから。ナマエの瞳からひとすじの涙が零れ落ちた。

    コナンが示した建築中のビルの資材運搬用エレベーターに愛車ごと乗り込み、降谷はナマエとの再会を思い返していた。偶然にも再会した高校時代からの想い人の成長した姿に胸が高鳴った。本当はあの時すぐにでも降谷零だと名乗り、再会を喜びたかった。だが、それを許してくれる者はおらず。降谷零と言う名を飲み込んだ。それから再び出会い、映画へと誘った。シートの隣に座り、表情をコロコロをかえるところは変わっておらず、思わず吹き出しそうになるのを堪えた。それからあの白い手紙がきっかけとなり、同じ空間で一夜を共に過ごす事になるとは。今、思い返してもよく我慢したと自分で自分を褒めてやりたい。繋いだ手は小さく、このまま握り締めていないとどこへ行ってしまいそうだと感じた。そして、手紙の送り主が警察に連行されたあの日。服の裾を掴む手が微かに震えていた。本当はあのまま、抱き締めてずっと腕の中に閉じ込めておきたかった。だが、理性が警告音を鳴らす。あれからしばらくして東都水族館へ行く約束をしたが、未だにその約束は果たされていない。この事件のかたがつけば、必ず。例え、安室透に降谷零を重ねられていても構わない。本名を呼んで貰えないと言う嫉妬はあるが、少しでも同じ時間を共に過ごせれるのならばそれでもいい。僕に、恋してくれてる事に変わりないから。刻一刻と、RX-7はエレベーターを登って行く。コナンはこの状況を打破するべく、頭を働かせる。「間に合うのか?」降谷はカジノタワーの詳細を確認するコナンへと声を掛けた。「このビルの高さと、カジノタワーまでの距離を考えると……あと1分後にここから加速出来れば…。」そう言ってスマホのタイマーを1分にセットするコナンの瞳に自身と同じ熱い想いを感じ、降谷はコナンを見つめた。その視線に気付いたコナンは降谷を見つめ返し、「何?」と返す。 降谷はフッと息を漏らし、「……愛の力は偉大だな。」と呟いた。

    資材運搬用エレベーターが止まり、降谷はRX-7を発進させ、エレベーターから左に曲がったところで停車させた。建築途中のため、資材があちらこちらに置かれている。コナンはスマホを操作しながら、口を開いた。「……前から聞きたかったんだけど、安室さんってナマエお姉さんの事、好きなの?」降谷は突然の問いに少し考える素振りを見せ、フン…と鼻を擦った。「僕は…」右手の指を1本、1本大切そうにハンドルへと添えて行く。「ナマエの事を…」そして左手で優しくギアを包み、フッ…と息を漏らす。「愛してる。」その言葉にコナンは、今まで不思議に思っていたナマエに対する執着心を全て、理解した。「行くよ……安室さん!」「1ミリでもいい。ずらせるか?」降谷の問い掛けに「そのつもりさ。」と口角を上げる。
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    ヘッドライトが照らす暗闇を見つめ、降谷の唇から舌が覗く。
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    ゼロ__…!!
    その合図と共にRX-7が猛スピードで飛び出した。

    ナマエはカジノタワー近くにある建築中のビルに光を感じ、目を細めてそちらを見る。何の光かまでは分からないが、同じところに留まっておらず、ぐるぐると回っているようだった。不意にその光が見えなくなったかと思うと、今度は炎と黒煙が立ち込める。そして、その黒煙の中に白い何かを見たような気がした。『(…今、のは…?)』一瞬で消えた白い何かの正体を確認する事が出来ないまま、夜空に咲いた大輪の花火に目を奪われた。

    無事にカプセルの軌道をずらす事に成功したコナンは宙を舞っていた。深く煙を吸ってしまい、息が苦しい。そんなコナンの身体を掴むと、その小さな身体を抱き寄せた。それと同時に持っていたH&K P7を構え、銃弾を放つ。撃ち込まれた銃弾によってガラスがひび割れ、降谷はその中心へと突っ込んだ。「ぐっ…!」割れたガラスが降谷の肩に牙を剥き、そこから血が飛び散った。降谷とコナンの身体はそのまま地面へと、叩きつけられる。降谷は痛みに顔を歪めたが、すぐさま起き上がると負傷した左肩を押さえながら、カジノタワーの方角を見た。どうやら展望台に少々の傷を負ったものの、倒壊の危険性はないように見える。降谷は安堵のため息を漏らした。「後はこっちで処理する。君もすぐに行くんだ。」コナンは降谷の方に振り返り、そして口を開いた。「まだ謎は解けてないよ。」真正面から降谷を見据える。「どうして小五郎のおじさんを巻き込んだの?」「……僕は立場上、公に捜査出来ないし、彼を事件に巻き込めば君は必然的に【協力者】になる。そうすれば、君の本気の力が借りられるだろ?」降谷はそう言って、苦笑を浮かべる。「……買いかぶりすぎだよ。」コナンはそう言って、肩すくめた。「………あとさ、余計なお節介だと思うけど、ちゃんとナマエお姉さんと仲直りした方がいいと思うよ?」コナンはいたずらな笑みを浮かべ、踵を返す。降谷はそんなコナンの後ろ姿に「ったく…なんて子だ。」と呟いた。

    カジノタワーを直撃するはずだったカプセルの軌道が変わり、避難者達は安堵のため息を漏らしていた。落ち着きを取り戻した避難者達は、順番にカジノタワーのエレベーターへと乗り込む。程なくしてナマエもエレベーターへ乗り、警察の大型人員輸送車が待つ1階へと降りると、大勢の避難者がひしめき合うホールを抜け、表へと出た。頬を優しく夜風が撫でる。ナマエはふと先程、黒煙をあげていたビルの方を見た。

    降谷はコナンと別れ、ナマエが避難しているカジノタワーの近くに身を潜める。左肩の傷が痛むが、一刻も早くナマエの安否を確認したかった。大勢の避難者がカジノタワーから大型人員輸送車へと乗り込んで行く。そんな人々の列から外れ、1人の女性が姿を表した。「(…ミョウジ!)」降谷は潜めていた身を少しだけ乗り出す。そしてナマエの元気そうな姿に安堵のため息を漏らした。「(…よかった…無事だったんだな…。)」安心からか、膝から力が抜ける。そしてその場に座り込もうとしたその時__…。不意にこちらを見たナマエと目が、合った。

    ナマエは安室の姿に目を疑った。すぐ、そこに安室がいる。気付けばナマエの足は安室へと駆け出していた。降谷は駆けて来るナマエの姿から目を反らせずにいた。本来であればここでなと関わりを持つべきではない。だが、どうしてもその場を離れる事が出来なかった。『あむろ、さ…!!』ナマエの言葉を遮るように安室はナマエの身体を抱き締めた。不意な出来事にナマエはバランスを崩し、その場へと座り込む。安室はそれでもナマエの身体を離さない。それどころか更に力を込め、抱き締める。『あ、安室さん!苦しい、です!』ナマエのその言葉に安室は、はっとし…そしてナマエから少し身体を離した。「す、すみません。…ナマエさんの無事を確認したら嬉しくて身体が勝手に…。」その安室の言葉にナマエの目に涙が滲む。「どうしました?!どこか痛いところでもあるんですか?!」慌てる安室にナマエは違うと首を横に振った。『カジノタワーで、このまま死んでしまうのだと覚悟していたので、またこうやって安室さんと会えて…話が出来て…そして触れ合える事に喜びを感じているんです。』そう言いながら大粒の涙を零すナマエに安室の理性が切れた。再びナマエの身体を抱き寄せたかと思うと、ナマエの頬に舌を這わせ、とめどなく零れ落ちて来る涙を舐めとる。ねっとりと舐め上げられ、ナマエは身をよじるが、安室の力に勝てない。身をよじった事によって露わになったナマエの白い足に安室の大きな手が這う。下から上へと撫でる褐色の手がナマエの膝で止まった。「………これは?」『え?…あ…昼間に転んでしまって…。』暴走した車が横断歩道に突っ込んで来た時の事を思い出し、ナマエは苦笑いを浮かべる。安室は少し考える素振りを見せたかと思うと、その傷口へ舌を這わせようと口を開いた。だがそれをナマエの手によって妨害される。『な、何しようとしてるんですか?!』「何って、消毒ですけど?」サラッとそう答える安室にナマエはスカートで傷口を隠し、『駄目です!』と顔を赤らめた。「残念です。」そう言うと安室はナマエから身を離し、立ち上がる。そしてナマエへと手を差し出した。ナマエはその手に自身の手を重ね立ち上がろうとしたその時、不意に声を掛けられ肩が揺れる。「大丈夫ですか!?」振り返るとグリーン系のスーツに身を包んだ眼鏡の男性が立っていた。「警察の方ですか?僕は大丈夫なんですが、彼女が怪我をしているみたいなので手当てをお願いします。」安室はゆっくりとナマエを立ち上がらせると、そう言って風見へとナマエを託す。『あ、安室さんは?』「僕は大丈夫です。それよりも早く手当てして貰って下さい。化膿して東都水族館へ行けなくなっては大変です。」『!』安室の言葉に顔を赤らめるナマエを風見は見逃さなかった。ナマエは小さく頷くと風見に連れられ、その場を去って行く。左肩に負った怪我に気付かれずに済み、降谷は力尽きたようにその場へ座り込む。「(風見が来なかったら、色々とやばかったな…。)」そんな事を考えながら雲の間から覗く月を見上げ、小さな笑みを零した。

    【ポアロ】の奥の席で、ナマエとコナンはランチを摂っていた。『蘭さんから聞きましたよ。毛利さんを助けるために色々頑張ってくれたみたいですね。』「頑張ったのは僕じゃなくて、新一兄ちゃんだよ。」そう言って「あははー」と笑うコナンの頭を優しく撫でる。『工藤くんも江戸川くんもよく頑張りました。…それに比べて、私は力になりたいと言ったものの、何も出来ずじまいで反省です。』苦笑いを浮かべるナマエにコナンは「そんな事、ない」と呟く。「大丈夫…ナマエお姉さんはちゃんと力になっていたよ。」愛と言う名の力で、安室さんを支えていたさ__…そう心の中で飲み込む。ナマエはよく分からないと言った表情を浮かべていたが、コナンは気付かないフリをしてあつあつのミートボールを口へと運んだ。「やぁ、楽しそうだね、コナンくん?」買い出しから戻った安室はいつの間にか来店していたナマエとコナンのテーブルへとやって来た。コナンは内心、「(こんな子供にまで嫉妬かよ…)」と呆れる。『安室さん、こんにちは。』「こんにちは、ナマエさん。」愛おしそうにナマエを見つめる安室にコナンは急いでミートボールとキャベツをミルクとトマトで煮たそれを食べ終えると、「ナマエお姉さんご馳走様!」と言い、ポアロから飛び出して行く。そんなコナンの後ろ姿を見送ると、安室はナマエの向かいの席へと腰をおろす。そして他の客から口元が見えないようにメニュー表で隠すと、「あとで東都水族館へ行く日を決めましょう」と囁いた。

    ○名前変換サイトで連載していた作品です○
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    カイネ

    MOURNINGpng夢(?)
    ⚠タヒネタ・夢主コロしてます 鬱展開苦手な方は注意⚠
    #decnマイナス
    書きたいひとコマを書いただけ。4⚠閲覧注意⚠目の前には同僚Aが横たわっていた。しつこく言い寄られ、ただ軽く突き飛ばしただけなのに動かなくなった同僚Aと突き飛ばした感覚の残る両手を交互に見つめ、ナマエは歯をガチガチと震わせる。どうしようどうしようどうしよう…頭の中で警告が鳴り響くが足がすくみ、身体は動かない。「ナマエ?」不意に背後から声を掛けられ、ナマエが慌てて振り返るとそこには首を傾げ、こちらを見るグレースの姿があった。『グ、グレース…わたし…どう、しよう…』今にも崩れ落ちそうな足を何とか奮い立たせ、震える手でグレースにすがればこの場の状況を瞬時に理解したグレースの瞳の色が変わった。「…まずは“コレ”をどうにかしないとね。」グレースは落ち着き払った様子で同僚Aだったモノを静かに見下ろす。この状況がまるで日常生活の一部であるかの様に錯覚するほど、平然とした態度のグレースにナマエは言葉が出ない。「彼…最近は仕事がうまくいってないって愚痴ってたわね。」『…え、えぇ…何をやっても、空回りだ…って…』「なら、自殺として処理しましょう。」同僚Aの亡骸に近付くとグレースは頭を持ち上げる。「あぁ…頭の打ち所が悪かったのね。まぁ海にでも捨てれば何とかなるわね。」パッと手を離すと同僚Aの頭が床へゴトッと落ちた。「遺書を用意して、思い詰めた様子でドライデッキの方へ向かってたとでも言っておけばどうにかなるでしょ。」変わり映えのしない潜入生活に退屈を覚えていたピンガはグレースの仮面の下でほくそ笑むとナマエの身体をそっと抱き締める。「ふふ、これでワタシ達…共犯、ね。」にっこり微笑むグレースの目の奥は一切笑っていない。ピンガは退屈な日常を壊してくれたナマエに感謝の念を抱きながら優しくナマエの髪を撫でた。「(平和ボケした奴らに囲まれてうんざりしてたところだ。せいぜい愉しませてくれよ、ナマエ。)」
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    カイネ

    MOURNINGfry夢(?)
    夢主設定→fryの部下 霊感持ち
    #decnプラス #decn夢
    霊感持ちのfryの部下がK組とわちゃわちゃする話。物心が付いた時からなんとなく生きてる人間、死んでる人間の区別はついていた。でもそれを口に出して言うと周りの大人達は皆、嫌な表情を浮かべ、冷たい視線で私を見た。それが身内であっても、だ。「気持ちの悪い子」のレッテルを貼られ、小さい頃はたびたび居心地の悪い思いをして来た。だから大人になった今では俗に言う幽霊とは一切関わらないように気を付けている。なのに…なのに…『(どうして私の上司にはあんなにたくさんの幽霊が憑いてるの!?)』こちらに背を向け、風見さんと話すのは上司の降谷零。その背後にはここ最近になって現れた4人の男の姿があった。爪楊枝を咥えたガタイのいい男はダテ。顎髭を生やした優男はモロフシ、後ろ髪が長めの色男はハギワラ。そして癖っ毛でサングラスをかけたスカした男はマツダ…と言うのが観察していて分かった名前だ。おそらく、警察関係者なのだろう。まぁこの4人…とにかくうるさいのだ。会議中だろうが、捜査中だろうがとにかく降谷さんの後ろであーだこーだと話すもんだから集中する事が出来ない。おかげで私は捜査資料を何度も読み返すハメになっている。「おい、ミョウジ!」『は、はい!』不意にこちらを振り返った降谷さんに名前を呼ばれ、姿勢を正す。「この前、頼んだやつだが…」『はい、それでしたら…』先日、降谷さんから頼まれていた資料を取り出そうと持っていた鞄に手を突っ込む。すると頭上から覗き込まれる感覚に一瞬、手が止まってしまった。「いつ見てもちんちくりんな女だな。」「えー俺は可愛いと思うけどなぁ〜?マスコットみたいで!」マツダとハギワラだ。自分達の姿が視えていないと高をくくり、いつもこうやって言いたい放題言って来る。「でも公安で働いてるって事は優秀って事だろ?なぁ、諸伏?」「そうだね…女性の登用は狭き門だと思うからここにいるって事はかなり優秀だと思うよ。」「ようするにゴリラみたいな女って事だろ?」どこをどう解釈すればそうなるのか、マツダと言う男は私に対して【ゴリラみたいな女】のレッテルを貼りたいようだ。せっかくモロフシの言葉で上がった気分もだだ下がり、私はバレないようにマツダを睨みつけた……つもりだった。「おい、お前…俺達の事が視えてるだろ?」睨みつけた先には私の視界に入る様、わざわざしゃがみ込んだマツダが居て、しっかりと目が合った。私は突然の出来事に驚き、不覚にも平静を失ってしまう。そん
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    カイネ

    MOURNING⚠🎞沿いでネタバレ注意
    夢主設定→grc(png)の同僚で恋人同士
    #decnプラス #decn夢
    書きたいひとコマを書いただけ。2パシフィック・ブイ メインルームーー…巨大なモニターの下で作業を進めるグレースにナマエは近付くと『お疲れ様』と声を掛けた。「あら、ナマエ!お疲れ様〜」グレースはにっこりと微笑むと座っていた椅子から立ち上がる。『今、直美から連絡があったんだけど、もうすぐしたら警視庁の方々がこちらに来られるそうよ。』「分かったわ。」グレースがそう返事したと同時にメインルームに繋がる大きな扉が開く。二人がそちらを見やるとパシフィック・ブイの局長を務める牧野とエンジニアである直美、そして警視庁から来たと思われる男性二名と小さな男の子がひとり、扉をくぐって中へと入って来るのが見えた。『子ども?グレース何か聞いてる?』と隣を見上げれば、グレースはさぁ?と肩をすくめる。一体、どう言う経緯で子どもが混じっているのか分からないまま、牧野によるスタッフの紹介が始まった。ナマエとグレースはよく分からないままに牧野へと近付いた。「では、メインスタッフを紹介させてください。」巨大なモニター下のコンソールまでやって来た牧野がそう言って順番にエンジニア達を紹介していく。グレース、レオンハルト、エド、直美と順番に紹介され、みな各々にアクションを返す。ナマエはグレースの陰でメインスタッフ達へ尊敬の眼差しを向けていた。「…そしてグレースの隣にいる彼女がメインスタッフのサポートをしている日本出身のナマエ。」牧野の紹介にその場にいる者の視線がナマエに注目する。まさか自分まで紹介されるとは思っていなかったナマエは慌てて背筋を伸ばし、『よ、よろしくお願いします!』と一礼した。そんなナマエに「緊張しすぎよ〜」とグレースがナマエの背中をポンと叩く。「ケッ!仕事中にイチャついてんじゃねぇぞ。」その様子を見ていたレオンハルトがボソリと悪態をつく。そんなレオンハルトにグレースは厭味ったらしい笑みを浮かべ、「あら?“ワタシ”の可愛い“彼女”がそんなに羨ましいの?」と煽る。『ちょ、グレース…』大勢の前で“彼女”と断言され、ナマエの頬が紅潮する。グレースとレオンハルトのあいだに見えない圧を感じ、困惑するナマエに同情したエドが助け舟を出した。「あのさ〜、そろそろ時間じゃない?」エドの言葉に「あっ!」と牧野が慌てて腕時計に目を落とす。そして「総員!配置につけ!」と声を張った。ナマエは紅い頬を隠すように俯くと足早に席へと戻っていく。グレースはフン
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    カイネ

    MOURNINGfry落ち(たまに📖沿い)
    夢主設定→教師 fryの高校の同級生 両片想いのまま卒業
    #decnプラス #decn夢
    二度、恋をする。【ゼロの執行人沿い】⚠1〜4を読んでからお読みください4月28日土曜日__…ナマエは干していた洗濯物を取り入れると、テーブルの上に置いていたリモコンでテレビを点けた。そしてチャンネルをまわし、普段観ているワイドショーで止める。「《無人探査機【はくちょう】が火星からのサンプル採取を終え、日本時間の5月1日、いよいよ地球に帰って来ます。》」女性アナウンサーが帰還計画図に沿って、帰還カプセルの回収方法やカプセルの説明をしている。ナマエは取り入れた洗濯物をたたむため、テレビ画面から目をそらした。「《番組の途中ですが、たった今入ったニュースです。》」顔を上げると女性アナウンサーが探査機について説明していたスタジオから切り替わり、報道局が映っていた。緊迫した様子が男性記者の表情から読み取れる。「《お伝えします。来週、東京サミットが行われる国際会議場で、先程大規模な爆発がありました。その時の防犯カメラの映像です。》」記者がそう伝えると、テレビ画面が防犯カメラの映像に切り替わる。お腹に響くような音がしたかと思うと、国際会議場が爆発し、煙に覆われた。『サミット会場で爆発だなんて…。』洗濯物をたたむ手を止め、テレビの映像を食い入るように観る。「《現場となった統合型リゾート【エッジ・オブ・オーシャン】はまだ開業前だったため利用客はいませんでしたが、サミット警備の下見をしていた警察官数人が死傷したとの情報が入っています。繰り返します。》」再び、爆発現場の映像が流れ、ナマエはただただその映像を見つめる事しか出来なかった。
    19819

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    MOURNING⚠🎞ネタバレ注意
    夢主設定→grcの同僚で恋人同士
    #decnプラス #decn夢
    書きたいひとコマを書いただけ。フサエブランド数量限定販売のブローチを求めてデパートへやって来た夢主と付き添いのグレース。整理券を受け取り、販売開始時間になるのをカフェで待つ。『今日はありがとう、グレース!』「ワタシも夢主とのデートを楽しめて嬉しいわ」グレースの仮面を被ったピンガがウインクをひとつ飛ばす。デートと言う単語に顔を赤らめる夢主にピンガは満足そうに笑った。「そろそろ販売開始の時間ね」グレースの言葉に夢主達はカフェを後にし、フサエブランドの店舗へと向かった。整理券を握り締め、ワクワクする夢主を隣で眺めるピンガの目元は優しく、尊い物を見つめるような瞳だった。「あの…すみません」突然、後方より声を掛けられ、振り返ったピンガの目にひとりの老婆が映る。「ブローチの販売列はここかしら?」「え、えぇ…そうよ」少し戸惑った様子で返事するグレース。変装してやがるがこのババア、ベルモットだな。ピンガは目の前で笑顔を絶やさない女の動向が読めず警戒する。だがそれ以上、話し掛けて来る様子はない。警戒しながらも楽しそうに話し掛けて来る夢主の話に耳を傾ける。そんなピンガの後ろ姿を見つめながらベルモットは口角を上げた。この子が例のKittyちゃんね…あのピンガを魅了している真っ白な子。ふふ、面白いわね。
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    カイネ

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    #decnプラス #decn夢
    二度、恋をする。35
    帝丹高校での仕事を終え、自宅マンションへと辿り着くと郵便受けの中身をチェックする。会員登録しているデパートからのお知らせなどに交じって白い封筒が入っていた。宛名が書かれておらず、裏返してみても差出人の名前も見当たらない。ナマエは不思議に思いながらもマンションの階段を上がって行く。ヒールの音が静かにコツコツと響いた。ナマエは鞄から花柄のポーチを取り出すと、キツネのキーホルダーが付いた鍵を鍵穴に差し込む。『ただいま…。』誰もいない部屋に向かって、帰宅の挨拶をする。一日履きっぱなしのヒールを脱ぎ、洗面所へと向かった。手を洗い、うがいを済ませると着ていた服を脱ぎ、部屋着へと着替える。普段と変わらない行動なのに何故か違和感を感じ、ナマエは辺りを見渡す。だが、特に変わった様子はない。ナマエは首を傾げながら脱衣所を後にした。簡単な夕飯を作り、テレビを見ながらそれを口を運ぶ。バラエティ番組から流行りの芸人のギャグが聞こえて来る。ナマエは食べ終えた食器を持ち、流しへと向かう。洗い物を済ませ、食後のコーヒーの準備をしている時、ふと白い封筒の存在を思い出した。お湯が沸くまでまだ時間がある。ナマエは郵便物の中から白い封筒を取り出しそれを開けた。封筒の中には一枚の便箋が入っており、ナマエは恐る恐る便箋を開く。『な、に…これ…。』開いた便箋には【君のことは守るから安心して】と書かれていた。手書きではなく、パソコンで打たれた物でどんな人物が書いたのか想像出来ない。ナマエは気持ち悪さを感じ、その便箋を思わず投げ捨てた。『…ど、どうしよう。』初めての事に頭がうまく回転しない。心臓も信じられない速さで鼓動を打ち、次第に呼吸も乱れ始めた。『(落ち着け…!落ち着け…!)』早鐘を打つ胸に手を当て、必死に呼吸を整えようとしていると、ふいに安室の笑顔が脳裏に浮かんだ。ナマエは、はっとしてスマホを掴むとアドレスから【安室透】の名前を探す。だが、探している途中で、その手が止まった。本当に今すぐ安室に頼らなければならないのか?ただのイタズラではないのか?そう思い出すと気持ちがスーッと落ち着き、呼吸も普段通りに戻る。『(…安室さんだって今頃、プライベートな時間を過ごしてるんだから邪魔しちゃいけない…。)』ナマエはスマホをテーブルの上に戻すと床へ落とした手紙を拾いあげる。そしてなるべく内容は見ないようにして封筒へと直
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    カイネ

    MOURNINGfry落ち(たまに📖沿い)
    夢主設定→教師 fryの高校の同級生 両片想いのまま卒業
    #decnプラス #decn夢
    二度、恋をする。46
    「それでナマエは大丈夫だったの?」澁谷の自宅マンションでコーヒーを飲みながら先日のストーカー事件が話題にあがる。『安室さんと毛利さんのおかげでなんとか…。まだ少し夜は怖いけどね。』そう言うとナマエは苦笑いを浮かべた。「だよね…。」『…夏子?』澁谷の様子に違和感を感じ、ナマエは澁谷の顔を覗き込む。「………実はさ、」

    「………なるほど。勤務先の学校から何者かに跡を付けられているような気がすると言うわけですね。」安室の問い掛けに澁谷は小さく頷いた。「…それで、調査のお願いって出来ますか?」「えぇ、もちろん。任せて下さい!」安室はそう言うとポケットから名刺ケースを取り出す。そしてそこから名刺を一枚出すと、澁谷へと差し出した。「基本、調査の報告はメールで行います。」澁谷は名刺に書かれているアドレスを見る。「わかりました。あとでこのアドレスへメール送っておきますね。」手帳へと名刺を挟み、安室を見た。安室は「お願いします」と返事を返すと、ナマエの方へと優しい視線を向ける。澁谷はそんな安室の様子を見て大きな声を上げた。「あ!ごめん、ナマエ!私ちょっと用事思い出したから帰るね!」澁谷はそう言うとナマエの返事も聞かぬ間にコーヒー代をテーブルへ置くと勢い良く席を立つ。『ちょ…夏子?!』澁谷の背中に向かって言葉を投げるも届かず、慌ただしく店を飛び出して行った。『慌ただしくてすみません。』ナマエは小さく頭を下げる。「いえいえ。…ところでナマエさん…あれからしばらく経ちますが、どうですか?」『少しずつ普段の生活に戻っては来てますが、やっぱり夜になると少し、怖いです。』カプチーノが入ったカップの縁を撫でながらそう答えたナマエは何かに気付いたようにパッと顔を上げた。『あ、安室さん!』「はい、なんですか?」『あれほど色々して貰っておきながら私…安室さんへの支払いが…!あのお幾らですか?』ナマエはそう言って鞄の中から財布を出そうとする。だが安室はにっこりと微笑み、それを制す。「ナマエさん…あれは僕が好きでやった事です。なので報酬は入りません。」『そ、そんなわけには!』ナマエ自身が気付いていないところで色々としてくれたに違いない安室に対してこればかりは引き下がれない。ナマエは強い眼差しで安室を見つめる。「……うーん…そこまでおっしゃられるのなら、そうですね。」安室は顎に手をやり、少し考える。そして
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    カイネ

    MOURNINGfry落ち(たまに📖沿い)
    夢主設定→教師 fryの高校の同級生 両片想いのまま卒業
    #decnプラス #decn夢
    二度、恋をする。1
    【喫茶 ミチクサ】
    コーヒーの香りが漂う店内にマスターの宮本とカウンター奥に座る女性が1人。宮本はコーヒーカップを拭きながら女性へと視線を向けた。女性は真剣な眼差しを左手の文庫へと落とし、その世界にのめり込んでいるようだ。宮本にはどんな物語を楽しんでいるのかまではわ分からなかったが、女性の真剣な表情を見ているこの時間が嫌いではなかった。ふと、文庫のページが残りわずかな事に気付き、宮本の口から小さなため息が漏れた。ペラ…ペラ…と読み進められていく物語。そして女性は最後の行を読み終えると静かにそれを閉じると『ふぅ…』と息を漏らした。どうやら今、体験し終えた物語に満足しているようだ。しばらくのあいだ、余韻に浸っていたが文庫を鞄の中へ戻すとカップに残った僅かなコーヒーを飲み干しカウンターから腰をあげる。そしてレジでコーヒー代を払うと女性は『ごちそうさま』と礼を告げ、ミチクサを後にした。女性の名前は、【ミョウジ ナマエ】。帝丹高校で国語を教えており、生徒からは親しみを込めて【アダ名】ちゃん先生と呼ばれる事もあった。趣味は、静かな喫茶店を見つけてはそこで読書する事。先程まで居た【喫茶 ミチクサ】はここ最近贔屓にしている店だった。雰囲気も良く、コーヒーが美味しい。学校が休みの日はこうして米花町の喫茶店を渡り歩いている。なので、帝丹高校の学生と出会う事も少なくはない。
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    カイネ

    MOURNINGfry落ち(たまに📖沿い)
    夢主設定→教師 fryの高校の同級生 両片想いのまま卒業
    #decnプラス #decn夢
    二度、恋をする。23
    テストも無事に終わり、ナマエは久々に【ミチクサ】を訪れていた。いつもはカウンター席に腰掛けるが、今日は窓側のテーブル席に身を置き、ノートパソコンと向き合う。テーブルの上には頼んだカプチーノと手帳にスマホ、びっちりと文字が書き込まれたノートにポーチが並んでいる。パソコンの画面とにらめっこしながらキーボードをカタカタと打ち、時折、目頭を抑えてはため息をつき、再びキーボードを打つと言う作業を繰り返す。宮本はそんなナマエに目をやりながらも自分の作業を進めて行く。他に客は居らず、ナマエの打つキーボードの微かな音と店内に流れるBGMが心地良い。『あ…』不意にナマエの口から声が漏れ、宮本はそちらを見た。ナマエはパソコンから顔をあげ、店の外へと視線を向けている。宮本は不思議に思い、窓の方へと視線を動かす。そして窓ガラスをはさんだ向こう側に1人の男が立っている事に気付いた。金色に近い髪が風になびき、男の青い瞳があらわになる。「(あいつは…)」風が強かったあの日。【ミチクサ】の向かいの歩道でナマエと抱き合っていた男だと宮本は気付き、眉間に皺が寄る。そんな宮本とは裏腹にナマエは笑顔を浮かべ、席を立った。そして荷物をそのままに宮本に一言声を掛け、店の外へと出て行く。どうやら男が外へ出て来るように合図したようで、宮本の心の中をどす黒い影がじわりじわりと侵食して行った。
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    recommended works

    moege3

    MOURNING◇注意!
    何でも許せる方のみ。深いこと考えたら駄目だ。
    ヘビースモーカーなK学同期原作知識ありトラ転女主です。

    ※本当の名前(トラ転前の名前)を明かせば存在自体が無かったことになる世界で、それでもお互いに恋情を持っていたfryのみは彼女のことを覚えていたら。



    ?「これは、駄目な私の [[rb: I F > しあわせな]] 物語」
    医療従事者の方々にはマジで申し訳ねぇ!▼僕が欲しいもの▼


    懐かしい場所に呼び出され《少し曰わく付きな彼女》が誰にも明かさなかった本名を教えてくれた。そして突然の『さよなら』を口にした瞬間、目の前のその身が砂のようにサラサラと消えはじめる。『目的を達成したらどうなるかわからない』と言っていた癖に、知っていたんじゃないか。どうにか抱き締めようとしたのに間に合わず伸ばした手の中にキラキラしたものを掴めただけで、手を開くと同時にそれも消えてしまった。彼女の吸っていたタバコの香りだけが残っている。僕には将来を共に歩むのならキミしか居ないのに、どうして。それからこの世から彼女を知る人間が消えた。警察学校同期達をはじめ彼女と親しくしていた者や彼女に関する情報全てが元より存在しなかったかのようにそれとなく改変され何も無い。彼女が好んで吸っていたタバコに火をつけ、あの日からもう何年もこのタバコを吸わなければ眠れないという事態に陥っている。重症だ。最早これは自傷行為に近いなと苦笑した。
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    カイネ

    MOURNINGfry落ち(たまに📖沿い)
    夢主設定→教師 fryの高校の同級生 両片想いのまま卒業
    #decnプラス #decn夢
    二度、恋をする。1
    【喫茶 ミチクサ】
    コーヒーの香りが漂う店内にマスターの宮本とカウンター奥に座る女性が1人。宮本はコーヒーカップを拭きながら女性へと視線を向けた。女性は真剣な眼差しを左手の文庫へと落とし、その世界にのめり込んでいるようだ。宮本にはどんな物語を楽しんでいるのかまではわ分からなかったが、女性の真剣な表情を見ているこの時間が嫌いではなかった。ふと、文庫のページが残りわずかな事に気付き、宮本の口から小さなため息が漏れた。ペラ…ペラ…と読み進められていく物語。そして女性は最後の行を読み終えると静かにそれを閉じると『ふぅ…』と息を漏らした。どうやら今、体験し終えた物語に満足しているようだ。しばらくのあいだ、余韻に浸っていたが文庫を鞄の中へ戻すとカップに残った僅かなコーヒーを飲み干しカウンターから腰をあげる。そしてレジでコーヒー代を払うと女性は『ごちそうさま』と礼を告げ、ミチクサを後にした。女性の名前は、【ミョウジ ナマエ】。帝丹高校で国語を教えており、生徒からは親しみを込めて【アダ名】ちゃん先生と呼ばれる事もあった。趣味は、静かな喫茶店を見つけてはそこで読書する事。先程まで居た【喫茶 ミチクサ】はここ最近贔屓にしている店だった。雰囲気も良く、コーヒーが美味しい。学校が休みの日はこうして米花町の喫茶店を渡り歩いている。なので、帝丹高校の学生と出会う事も少なくはない。
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    MOURNINGfry落ち(たまに📖沿い)
    夢主設定→教師 fryの高校の同級生 両片想いのまま卒業
    #decnプラス #decn夢
    二度、恋をする。35
    帝丹高校での仕事を終え、自宅マンションへと辿り着くと郵便受けの中身をチェックする。会員登録しているデパートからのお知らせなどに交じって白い封筒が入っていた。宛名が書かれておらず、裏返してみても差出人の名前も見当たらない。ナマエは不思議に思いながらもマンションの階段を上がって行く。ヒールの音が静かにコツコツと響いた。ナマエは鞄から花柄のポーチを取り出すと、キツネのキーホルダーが付いた鍵を鍵穴に差し込む。『ただいま…。』誰もいない部屋に向かって、帰宅の挨拶をする。一日履きっぱなしのヒールを脱ぎ、洗面所へと向かった。手を洗い、うがいを済ませると着ていた服を脱ぎ、部屋着へと着替える。普段と変わらない行動なのに何故か違和感を感じ、ナマエは辺りを見渡す。だが、特に変わった様子はない。ナマエは首を傾げながら脱衣所を後にした。簡単な夕飯を作り、テレビを見ながらそれを口を運ぶ。バラエティ番組から流行りの芸人のギャグが聞こえて来る。ナマエは食べ終えた食器を持ち、流しへと向かう。洗い物を済ませ、食後のコーヒーの準備をしている時、ふと白い封筒の存在を思い出した。お湯が沸くまでまだ時間がある。ナマエは郵便物の中から白い封筒を取り出しそれを開けた。封筒の中には一枚の便箋が入っており、ナマエは恐る恐る便箋を開く。『な、に…これ…。』開いた便箋には【君のことは守るから安心して】と書かれていた。手書きではなく、パソコンで打たれた物でどんな人物が書いたのか想像出来ない。ナマエは気持ち悪さを感じ、その便箋を思わず投げ捨てた。『…ど、どうしよう。』初めての事に頭がうまく回転しない。心臓も信じられない速さで鼓動を打ち、次第に呼吸も乱れ始めた。『(落ち着け…!落ち着け…!)』早鐘を打つ胸に手を当て、必死に呼吸を整えようとしていると、ふいに安室の笑顔が脳裏に浮かんだ。ナマエは、はっとしてスマホを掴むとアドレスから【安室透】の名前を探す。だが、探している途中で、その手が止まった。本当に今すぐ安室に頼らなければならないのか?ただのイタズラではないのか?そう思い出すと気持ちがスーッと落ち着き、呼吸も普段通りに戻る。『(…安室さんだって今頃、プライベートな時間を過ごしてるんだから邪魔しちゃいけない…。)』ナマエはスマホをテーブルの上に戻すと床へ落とした手紙を拾いあげる。そしてなるべく内容は見ないようにして封筒へと直
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