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    hirata_cya

    @hirata_cya

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    hirata_cya

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    一番穏やかなのに一番狂ってるシャリア・ブルがメインです。

    #シャアシャリ

    ソドン首飾り事件2【シャアシャリ】 掲げられた手に「シャア・アズナブル」のサインがされた始末書が翻る。
    「……というわけで、そちらはシャア大佐の筆跡では御座いません。ご理解いただけましたでしょうか」
     絞首台の床が開くときはたぶんこんな空気なのだろうと思う。軍の処刑は銃殺刑だが。
     顔面を蒼白にした宝石商の男は、机上にある「シャア・アズナブル」の偽サインがされた契約書と、それからマリガン中尉の手元へ忙しなく交互に視線を遣っている。
     なお、始末書は機密保持のためにサイン以外の部分がほぼ黒塗りにされていた。
     それでもなお始末書だとわかるのは書式と、この書類を仕上げるときに私が手伝ったからという事実の2点である。
     軍の書類を目にする機会のない宝石商は知るまい。これが「私はコロニーに立ち寄った際、暇を持て余してノーマルスーツを着用し、ソドンの甲板を端から端まで走り見張りの兵士を不眠症にしました、もうしません」というすこぶるくだらない始末書だということを。
     もう一度、契約書へ記された偽物のサインを確認する。
     確かに似せようとはしていた。しかし、マリガン中尉が端的に「勢いと雑さが足りない」と評した印象そのままで、丁寧に書きすぎている。何処かで入手した大佐のサインを幾度も練習して真似たのだろう。
     下手をしたら親の顔よりこのサインを見ていると豪語したドレン大尉などはちらりと見ただけで「違うな」と断じていたくらいだから出来はおそらく悪い。偽造する側になったことはないので推測になるものの、真似し辛い筆跡なのかもしれない。
    「しかし……確かにシャア大佐は当店にいらっしゃったのです」
    「大佐は眼底色素の異常のため、常にバイザーを着用されています。悪人がなりすますには、都合の良い方です」
     記録映像を確認したらルウム戦役の叙勲パーティーでもきっちり仮面を被っていた。そこで外さないのならどこでも外しはしない。
     あの仮面は人物判定によく使われる耳介も半分隠れる作りだ。本人が正体を詳らかにしていないが故に、他人がその姿に成り済ますことも楽に出来る。
     ように思えて、常日頃顔の半分を隠しているくせに、彼の人に影武者の使用はかなり不向きである。あまりにもすぐバレる。
     本人に存在感がありすぎるのだ。
     一度でも本物に出会い話したことがありさえすれば、影武者を立ててもこれは偽物だとすぐ分かる。
     有効なのは目の前でソファに腰掛け冷や汗を流しているような、一度も大佐に出会ったことがない人間に対して、となる。
    「当店に設置された監視カメラの画像があります」
     宝石商が覚束ない手つきで鞄の中を掻き回し、ひとつの記録媒体を取り出す。無線での通信は、有事となればミノフスキー粒子が撒かれてあってないようなものとなる。予め落としてきたデータなのだろう。
     入艦の際に爆発物の有無などは兵士によってチェック済みだ。記録媒体をセットした端末のボタンを押したとたんに爆発することはないだろう、と踏む。
     再生しても良いかとおずおず申し出られ、現時点ではこの場の最高責任者であるドレン大尉が、貸し出し用の端末を彼に差し出すことで許可を与えた。
     見下ろすアングル。流れる画像に映る店内はオフホワイトで統一され、高級感があった。
     グラナダにて地球産の天然ダイヤモンドを取り扱う宝石店だ。それなりの格式は要るのだろう。
     赤い軍服。白いヘルメット。縦に長く細いシルエット。もう少し暗い色の識別色を纏うものは他にもいるが、この赤を希望し許可されたのはシャア大佐のみ。
     ゆったりと店内に設えられた応接セットのソファに腰掛け、机上に書類を置いて店主と何やら話し込んでいる様子の赤い男。傍らには部下なのか、少尉の階級章を付けた男が直立不動で控えている。
    「違いますね、大佐ではない」
    「判定がお早い」
     断ずると、マリガン中尉が感嘆した。私からするとこんなに簡単な間違い探しもなかろうといったところだが。
    「書類の大きさから周りの調度品と人間の身長を大雑把に割り出しました。全身が写っていないので腰から上のみの計測になることはご承知おきください。それでも大佐より座高が高い。腰の位置が低いせいで制服を着こなせていない。この体格に対して袖も長すぎます。大佐の制服はオーダーメイドです、体格に合っていないということはあり得ない」
    「測定用のソフトも使わず目視のみでよくもそこまで」
    「実際に赴くことの難しい場所の距離、障害物の大きさなどを、画像のみから判断できねば話にならない現場があるのですよ。無論ソフトを使用したほうがより正確ですが、大雑把にはわかります。ああ、制服の大きさは大佐と同じものだと思いますので、大佐の制服を発注したテーラーから型紙のデータを手に入れたのでしょうね。それでも同じ生地は手に入らなかったと見えて、光沢と厚みの足りない等級の落ちる生地のようですが……画素の良い監視カメラですのでそういうことも分かりますね」
     ドレン大尉が唇のみで「こわい」と呟くのが見えた。日頃大佐と接してさえいればこのくらい直ぐに分かるものだと思うのだが。
    「ドレン大尉からは何か御座いますか」
    「この日付、大佐はグラナダにおられたが、ムサイから一歩も降りてはいない。正確に言うなら降りる予定はあったんだ、だが仕事が立て込んでいて執務室から出られなかった。ずっと張り付いていたから間違いはない。なんなら乗降船の記録を出してもいい、ムサイに残っているはずだ」
     その時私は大佐の部隊に所属してはいなかったが、推測は出来る。間違いなく溜まりに溜まった事務雑務をドレン大尉監視のもとでやっつけさせられていたのだろう。艦長権限を独断で明け渡してはいても、艦唯一の佐官で最高責任者という立場は揺るがないのだ。
    「この記録媒体、マスターテープではありませんよね。であれば、お預かりできますか? あなたも詐欺に遭ったのだと証明するために必要かと思われますので。他にも偽者の大佐が残したものがあれば拝見したいのですが」
     マリガン中尉が茫然自失といった様子の宝石商に声を掛ける。あなたは悪くありませんよ、私たちは詐欺に巻き込まれた被害者同士です、とはじめに言い含めることで、協力を引き出す算段なのだろう。
     首尾よく偽者の残していった証拠の写しを巻き上げるマリガン中尉に加え、宝石商の正面に腰掛けたドレン大尉が追撃をかける。
    「この件に関してはこちらで預かって調査を行う。偽者がキシリア閣下の名前を出して貴殿を信用させようとしたことを考えると、大胆不敵でよく準備された詐欺だ。大きな組織が関係していることも考えられる。もし公になんの準備もなく訴え出れば命の危険があるかもしれない。ひとまず大佐は不在で何も聞き出せずに出直すことにした、という体を装うのが良いだろうよ」
     解決するまでの間、宝石商に騒がれると面倒なので、脅して釘を差しておこう。そういうことだ。
     顔色を紙のように白くした宝石商が頷く。
    「分かっていただけて何より。それでは何か判明し次第こちらからご連絡差し上げる。今日はお引き取りいただいて結構。……客人のお帰りだ、ご案内しろ!」
     大尉が扉に声を掛けると、失礼します、と外に控えていた下士官が入室する。
     宝石商はドレン大尉に向けてこくこくと頷いて、よろしくお願いしますを幾度も幾度も繰り返し、深く頭を下げ、下士官に連れられて部屋を辞していった。
     重い金属扉が閉まる。
     四つの目が、何故か真っ直ぐに私を向いた。
    「……こわい」
    「こわいな」
    「詐欺がですか」
    「お前がだよ」
     マリガン中尉とドレン大尉の怯えを含んだ視線が向けられている。怖がられるような事をした覚えは全くちっともないのに。
    「シャリア・ブル大尉が大佐と出会われたのはつい最近ですよね……?」
    「はい」
     なんならきちんと存在を知ったのも最近である。
     木星船団は立ちはだかる物理的な距離の問題からそう頻繁に本国とやりとりが出来ない。通信にタイムラグが発生するため、最新のニュースが逐一確認できるとはいかないのだ。さすがに開戦の一報などは届いていたが、戦争で生まれたエースパイロットたちの顔や名前までは知らなかった。
    「ですが、大佐とそれ以外のものの区別はつきます」
     あれほど眩く輝くものを、いまだ他に知らないのだ。
    「大佐が聞いたらお喜びになるだろうよ」
    「流石に大佐も怖がりませんか? これ」
    「大佐は大尉に判定が甘いからな」
     失礼なことを言われている気はするが、本題ではないので突っ込まない。
    「先ほどの映像、ドレン大尉は何か他に気づかれましたか」
     映像を確認していた時に、どんぐり眼が眇められた瞬間があったのだ。
     それを指摘すると、ドレンは端末を操作して動画を止め、映っている少尉の階級章を付けた男を拡大する。
    「気になったのはこいつだ」
    「見覚えはありませんね、この艦の船員ではない」
    「私も、見たことのない人間です」
     偽大佐と一緒にいるのだから、共犯なのだろう。完全な軍歴詐称者、というには立ち姿が堂に入っている。軍に所属しているか、元軍人か。
    「こいつの付けている腕時計は、グラナダ占領作戦で軍功があった者へ贈られた記念品だ。大佐が懇親会の参加を面倒だとゴネて、無理矢理引きずって連れて行ったせいで到着が遅れた時、自慢していた男がいたから覚えている。そのあと登場した大佐に全部話題を持っていかれて悔しそうにしていたな」
     赤い彗星の武勲に衝撃で対抗できるのは、それこそ連邦の旗艦アナンケを沈め、レビル将軍を捕虜にした黒い三連星くらいだろう。
    「簡単に手放すようなものでもなかろう。該当者を調べれば身元はすぐ割れる。マリガン」
    「はい。少し時間をください」
     マリガン中尉がコンピュータへ情報を打ち込みだした。
    「と、いうことは。詐欺師は突撃機動軍内部の者の可能性が高いですね」
     グラナダの占領を指揮したのはキシリア・ザビだ。記念品の腕時計を与えられているということは、時計を非合法な手段で入手したのでなければ、突撃機動軍の人間ということになる。
    「ジオン軍内部の醜聞、か。正直、蜂の巣を突きたくはない」
    「しかし、このままでは大佐が巻き込まれます」
    「大佐が掻き回すと余計に面倒な事態になりかねんからなあ……」
     最新鋭の軍艦を鹵獲するならば指揮官のいる第一艦橋を焼けば自爆されずにお得、を即時に立案実行する男だ。爆煙を背負って本人だけ優雅に此方へ歩いてくる姿が似合いすぎている。
    「最終的には解決するとはいえ、爆弾で跡形もなく吹き飛ばされた更地を平和と呼べるか? という話だ」
    「ならば取るべき道はひとつだと思いませんか?」
    「そのクソ度胸、まったく、あの大佐の相棒だよ、違いない」
     ドレン大尉が深い溜息をついたところで、マリガン中尉の「結果が出ました」という声が上がる。
    「早いな」
    「腕時計を授与された者でなおかつグラナダ勤務、となると該当者は10人もおりませんでした。背格好で絞り込んだところ、ほぼ間違いなくこの男ですね」
    「レックス・ヴァイオレット少尉」
     印刷された紙片に記された情報を見る。士官学校を優秀な成績で卒業、突撃機動軍、ルネ・ルアン大佐の部隊に配属。そのままルアン大佐の腹心として勤務を続けている。
    「ルアン大佐……」
    「ご存知で? マリガン中尉」
    「キシリア閣下の有力な部下のひとりだった御方ですよ。ただ、母親が地球の出身であまり周囲から良く思われておらず、加えてジオンの富裕層の出ということもあり、ギャンブルがお好きでなおかつ金遣いがかなり荒い人で。そこを突かれてマ・クベ大佐との政争に負け、近頃は精彩を欠くと聞きます。まあ能力自体もそこまで高くはないのでしょうが」
     マリガン中尉の辛辣な評が飛ぶ。
    「近頃キシリア閣下に重用されているシャア大佐を妬んで失脚させようとした可能性は……あり得るな」
    「といえわけで割合大物が釣れてしまいそうですが、どういたしますかドレン艦長」
    「艦長代理だマリガン」
     大きな体が腕を組んでソファの上で背を反らす。うーん、と、獣のような唸り声が上がる。
    「証拠を集めて訴え出ると大事になるからな、穏便に済ませるなら向こうの準備が整わないうちに仕掛けたいところだが……いまルアン大佐はどこにいる?」
    「グラナダに邸宅があるようです。おそらく在宅しているでしょう、賭博で干されて以来、任務以外ではおとなしくしているそうですので」
     居ないのならば別の手を打たねばならなかったが、居るというなら話は早い。
    「それは僥倖。マリガン中尉、今から二時間でできる限りルアン大佐の不正の証拠を集めることは出来ますか? この詐欺事件に関係がないことでも構いません」
     うわあやっぱりやる気なんですか、という目で見られたが真顔で返しておいた。
    「我らはシャア大佐の部下です。降りかかる火の粉があるなら全力で払い除けるのみ、でしょう?」
    「つまり?」
     ドレン大尉が胡乱な目で見上げてくる。
    「殴り込みます。……おっと。正々堂々とお話をして彼を説得いたします」
    「建前の前に本音をぶちまける奴があるか」
     よぉし! と膝を叩き、ドレン大尉が立ち上がる。
    「マリガンは突撃機動軍のデータベースに潜って証拠集め、シャリア・ブル大尉はこの件が露見しない程度に軽くでいい、総督府へ探りを入れてくれ。出来るか?」
     お前が総督府の息のかかった人間であることは分かっているが、それはそれとして大佐への忠誠は本物なので不問に付す、とかなり重要なことを暗に言われ、私は目を大きく見開いて瞬く。
    「……良いのですか?」
     ドレン大尉は亡きドズル中将の、マリガン中尉はキシリア閣下の。そして私はギレン総統がシャア大佐を監視するために付けた人間だ。
     大佐のもとで働いているという点では同じでも、繋がる紐の先は異なる。
    「我々は皆あの方という猫に付けられた鈴だが、鈴が猫のために働いてはならないという法はない」
     ドレン大尉の言葉に、マリガン中尉が口を開かずに首肯した。
    「要は面倒事を更に拡大させるダルタニャンが戻る前に我ら三銃士でかたをつけてしまえとそういうことだ。集合は二時間後! 解散!」
    「情報集め、ドレン大尉も手伝っていただけますよね?」
    「構わんぞ」
     肩を並べて部屋を出るふたりを見送って、私はきっとくしゃりと顔を歪めたように見えるであろう笑みを浮かべる。
     あなたの部下を見る目はほんとうに確かですね、シャア大佐。
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    hirata_cya

    PROGRESSシャア大佐が不在のソドン。そこに宝石商が「金払え」と来訪。話を聞くとキシリアに献上するためにシャアが宝石を発注したのだというが、シャアの副官たちは皆否定する。そんなわきゃない。宝石なんかで歓心を買おうとするなら奴は一隻でも多く船をぶち落としている。キシリアもたぶんその方が喜ぶ。シャア不在の間に事件を解決すべく副官たちが奔走する……!
    ソドン首飾り事件【シャアシャリ】プロローグ 野太い悲鳴が遠くから聞こえた。
     ジオニック社より派遣されてきている技術士官がすわ緊急事態か、とぱちりと目を瞬かせて振り向く。
     私はいつもの勘で悲鳴の原因にあたりをつけて素早く耳を塞ぎ、技官にも同じように耳を塞げと身振りで指示をする。
     あとはそう間がなく格納庫から船内に繋がる扉が開くのを待つ。そもそもこの分厚い金属扉を貫通してくる悲鳴といった時点で、そこまでの肺活量を持つ人間は限られるのだ。
    「大佐ァ! 艦内食中毒防止勉強会の報告書を出してくださいと再三申し上げたのをお忘れか!? 上から催促が来ていますぞ!」
     腹の底に響く銅鑼声。首と名のつくあらゆる場所が太い体躯。重力が地球の六分の一という月面では響かぬはずの重厚な足音が聞こえたような気がした。
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