春の知己 ざあ、と心地の良い風が新緑の葉を鳴らしていく。
目的の藤の木は、この先の緩やかな曲道を進んだ先にある。菓子と茶器を入れたおかもちを手に、藍忘機は逸る気持ちのまま足早に歩を進めた。
「藍湛、花見をしよう!」
「花見?」
静室で共に昼餉を摂り終え、藍忘機が食後の茶を淹れている時であった。
「うん、裏山に藤の木があるだろ?この間散歩してたらさ、チラホラ花が咲き始めてたんだ。きっと今頃見頃だと思う」
飲み頃の温度で淹れられた茶をぐいっと一口で飲んで、魏無羨は身を乗り出した。
「今日の午後の執務は早く終わるって言ってただろ?酒と菓子でも持って…あ、お前は勿論お茶な!花を愛でながら一杯…どうだ?」
本当は食事中からずっと話したかったのだろう、妙にそわそわと物言いたげな視線を向けられていた理由に納得する。ここ暫く執務が立て込んでいて、余り2人で過ごす時間が取れていなかった。花を愛でながら魏無羨と語らうのは、藍忘機にとっても非常に魅力的な提案に思えた。
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