美大生×ムヒ 小話01 意識が朦朧とする。思考できない。ベンチに接している尻が痛いほど冷たい。指先の感覚もない。
明日もバーでバイトがある。こんなところでこんなことしてる場合じゃない。早く酔いを覚まさなければ。二日後に提出する油絵を仕上げなければ。
ふと光を感じて少し顎を動かすと、満月が視界に入った。寒いから空が澄んでる。吸い込まれるみたいに満月を眺めてたら、いつの間にか傍に人の気配を感じた。
視線だけ泳がせて確認してぎょっとする。今一番会いたくない人だった。
「………こんばんは」
普段と比べて少し低い声で挨拶された。いつも穏やかな顔は今は無表情だ。何か言おうとしたけど、オレの口からは空気が掠めたみたいな音しか出なかった。
そんな様子でだいたい察したのか、この人は目を閉じて肩を少し落とした。
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