未定自身の不運について思うところは多くある。そのような星の下に生まれたのだと、今では諦めの域だ。祝われたいと思っていた訳ではないが、それでもやはり誕生日を高熱で迎えるのはなんともいえないやるせなさがある。なんの予定があったわけでもなく、先程アムロに「貴方誕生日についてないな」と言われて思い出した程度の誕生日であってもだ。
熱がこもる布団の中でシャアはそんな事をぼんやりと考える。壁に背を向け、窓の方に目をやると綺麗に晴れた空の青が薄手のカーテンから透けて見えた。出かけるにはぴったりの日だったのに、とありもしなかった予定のことを残念に思った。
色々と考えたものの、今出来ることは休養をとることだと思い直し、改めて深呼吸をして脱力をした。
壁の向こう側にはキッチンからの生活音。
心地好い音に目を閉じて、アムロに先ほど言われた言葉を思い出す。
あなたの指示を待つ部下がいるわけでもないし、あなたが赴かないとおさまらない戦場があるわけでもない。ただ僕の話し相手が一人減るだけだ。ゆっくり休めよ。
嫌味ともとれる文章は優しい言葉で締めくくられ、熱のせいで気だるい身体にじわりとしみた。
火照った頬を包む彼の冷たい手のひらが気持ちが良かった。ただの風邪なので不安なことなんてありもしないのに、その優しさにほっとしたのだった。
話なんて、君は返事をするばかりで喋るのは私ばかりだと思っていたのに。
アムロの足音が近づきドアが開いた。食欲は?と聞かれた。
ない。と短く答えた。
食欲がなくとも何かを口に入れる必要があるのはわかっている。けれど、早く回復する必要のない今、少しくらい体調の悪さに甘んじて、思ったままに答えたっていいだろう。病人なんだ、それくらい許されたい。
アムロは、水分は摂った方が良いぞ。と言って、枕元に水のボトルを置いていった。
ボトルのキャップは緩めてあって、さすがに熱があってもそんな非力ではないと言ってやりたかったがアムロはもう去った後だった。
そっけないのか、優しいのか。
壁の向こうから野菜を刻む音が聞こえる。
完成まで、シャアは眠ることにした。