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    imoyam

    @mayuka0284

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    imoyam

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    遠ちかワンドロ・ワンライ様よりお題お借りしてます。
    医ヒラです。
    ※何でこんな話になったのか自分でもよくわかりません
    ※ちょっとシリアスです

    #一カラ
    oneKaraoke

    『ゴールデンウィーク🎡』+『旅行✈️』+『エンジョイ🎉』世間はゴールデンウィークと浮かれているようだが、超ブラックな会社でこき使われるオレには、休みというものは存在しない。
    いや、建前としての休みはある。出退勤管理システム上は、土日祝は仕事をしていないことになっている。
    だがゴールデンウィークに入った五月三日の今日も、オレはよれたスーツを身にまとい会社への道を歩いている。
    世間が休みの土日祝なら、取引先からの連絡や営業回りも無い。溜まりに溜まった精算書類を作成したり、プレゼン資料を作ったり、平日の仕事をまわすための準備ができる。
    平日は終電間際まで仕事をしているが、土日祝は夕方には帰れるし口うるさい上司も居ないから少しだけ気が楽だった。
    そんなルーティンを続けてようやく一年になる。一緒に入社したはずの同期は既に退職したり行方不明になったりして居ない。数か月前にできた後輩も、先日電車に飛び込んでしまった。
    昔は何とか会社や仕事を変えたいと思っていた気がするが、いつの間にかすり減り、疲労の重なったオレは日々のルーティンをこなすので精一杯だ。抗う気力もない。
    実家とは疎遠で、激務で友人も居ない。たぶん壊れて動かなくなるまで、こんな日が続くんだろう。
    オレは会社の歯車で、使えなくなれば捨てられるだけだ。
    ――壊れたら、楽になれるのかもな。
    そんなことを考えたのがいけなかったのか。ふと顔を上げると、信号が変わりそうな交差点を通り抜けようと、スピードを上げて走ってくるトラックが見えた。
    不意に、このままあの車の前に出たら楽になれるかもしれない、という魔が差した。
    あの後輩も、こんな気持ちだったんだろうか。
    その時のオレは、ただ楽になりたいということしか頭になかった。
    ふらりと足を踏み出す。
    トラックの運転手の顔が驚愕に歪むのが見えた気がした。
    「バカ野郎!」
    ぐい、と強く肩を引かれ、気が付けば歩道へ連れ戻されていた。勢いに負けてしりもちをつく。
    耳元で怒鳴られたからか、キンと耳鳴りがした。周囲のざわつきも遠く感じる。
    呆然としたままのオレを、痛いほど肩を掴んだ手の主がにらみつけてきた。
    「信号見えてなかったのか? あぁ!? 寝ぼけてんじゃねえぞ!」
    「……す、いま……せん」
    今頃になって血の気が引いてきた。オレは何をしようとしてたんだろう。
    「……あんた、ひどい顔してるね」
    櫛を通していないぼさぼさ頭のその人は、メガネの下から冷徹な目でオレを見下ろしていた。
    「すいません……大丈夫です。ご迷惑をおかけしまして、申し訳ありませんでした」
    「大丈夫な奴はトラックの前にふらふら飛び出したりしねぇんだよ」
    ため息をついたその人は、ちらりと腕時計を見、オレの腕をつかんで立ち上がらせた。
    「あんた、今日仕事休みな」
    「え?」
    「そんな状態で仕事できないでしょ。どうしてもずらせない予定がある?」
    「いえ……そういうわけでは」
    「じゃあ休んで。家帰って寝て。つか、家族は? 迎えに来れる人いる?」
    「一人、です……」
    「あー、じゃあ、とりあえず誰か友達の家行ける?」
    「友達も……仕事が忙しくて……」
    「マジか……」
    再度深くため息をついたその人は、舌打ちをして掴んだままのオレの腕を引っ張った。
    「じゃあ、ウチ来て」
    「え?」
    見ず知らずの人の家に?と疑問符を浮かべているオレに向かって、その人は今気づいたとばかりに口を開いた。
    「おれ医者なんだよね。ウチ、病院。松野医院ていうの。専門は内科。あんた一人にしとけないから、とりあえず来て」

    腕を引かれるままたどり着いたそこは、昔ながらの個人病院というたたずまいだった。
    休診と札が下げられた建物に入る。しんとした院内は、清潔なにおいがした。
    「あんた、朝ごはん食べてる?」
    「え、食べてない、です……」
    「まあそうだろうね」
    待合室にオレを座らせ、松野先生は診察室と思われる部屋に消えた。
    ――と思ったらすぐに出てきた。手にはインスタントの味噌汁がある。
    待合室に備え付けられているウォーターサーバーのお湯を注ぎ、隣に戻ってきた。
    「とりあえずコレ、食べて」
    「……はい」
    いつからか食欲がなくて、水や栄養ゼリー以外ほぼ何も口にしていなかった。
    一緒に渡されたスプーンでかき混ぜると、だしのいい香りがする。
    恐る恐る口にして、ほうっと息をついた。
    久しぶりに、まともな食事をしている気がする。
    不意に鼻の奥がつんと痛む。あ、と思う間に涙で目の前がにじんだ。
    ぽたりぽたりと味噌汁にしずくが落ちていく。
    「ふ……っ、ぐ……うぅ~」
    ずっと泣けなかった。泣きわめきたい気分を押し殺して、無視をしなければ毎日会社に行けなかった。
    暖かかった味噌汁がぬるくなってしまうまで、オレはずっと涙が止まらなかった。
    こころのどこかも一緒に、温められた気がした。

    差し出されたティッシュで鼻をかむと、少しすっきりした気分になった。
    「すみません、本当に。ありがとうございます」
    腫れて赤くなっているだろう目のままお辞儀をすると、松野先生はうん、と頷いた。
    「明日も仕事? 休みは無い感じ? それとも自主的な出社?」
    「そう、ですね……オレはあまり要領がよくないので、時間が足りなくて……」
    「会社で決まってる勤務日じゃないよね?」
    「はい……」
    よし、と松野先生は再度頷いて、立ち上がった。
    「じゃあ、ちょっと付き合って」
    「え、どこに……」
    戸惑っていると、先生はいたずらをする子供のような、何か企んでいるような顔をした。
    「内緒。ホラ立って、車回してくるから外で待ってて」
    「え? あ、……はい」
    手助けしてくれた人を前に、拒否をするのも気が引けて、大人しく従う。
    こんなんだから、多分あの会社からも逃げられないんだろうな、と思った。

    「――松野先生」
    「なに?」
    「ここ、どこだ……」
    車に乗せられ、いつのまにか高速に乗り、数時間かけて連れてこられたのは落ち着いた雰囲気の旅館だった。
    道中世間話をした結果同い年だと分かったので、敬語はやめている。松野先生とは呼ぶけど。
    「どこでもいいでしょ」
    「えぇ~……」
    早く、と腕を引かれ中に入ると、年配の上品な夫婦や、家族連れでにぎわっている。
    いらっしゃいませ、と丁寧な礼をされまごついていると、松野先生がさっさと仲居さんに付いて行ってしまった。
    慌てて追いかけ、たどり着いたのは露天風呂付の部屋だった。
    ぼうっとしているうちに、ごゆっくり、と部屋の戸が締められる。
    「もともと予約してたんだけど、一緒に来る予定だった弟が都合つかなくなって」
    上着をハンガーにかけながら、松野先生が口を開く。
    「キャンセルするのも勿体なかったし、お前が居てよかった」
    「……先に言ってくれないか、そういうことは」
    「だって先に言ったらお前来なかったでしょ」
    この短い間に、すっかりオレの性格を把握したらしい松野先生は、ペットボトルの水を差しだした。
    「水分取ったら風呂入ろう」
    「――え゙っ、一緒に入るのか?」
    「銭湯なんかと一緒でしょ、ただおれと二人ってだけで。何? 嫌なの」
    じと、と睨まれて慌てて首を振る。
    「そんな、滅相もない」
    「おれもリフレッシュしたかったんだよ。ホラ、早く」
    ぽんと背中をたたかれ、しぶしぶスーツを脱いだ。
    部屋付きだからそこまで広くはないが、それでもアパートの狭いユニットバスよりはくつろげる湯舟に浸かる。
    ちなみに、風呂に入るまでもかけ湯をしろとかゆっくり浸かれ等、細かい指示が飛んだのは医者らしい気遣いだろう。……ちょっとうるさいと思ったのは秘密だ。
    「あ゙~~~~」
    「おっさんだな……あ゙~~~~」
    「お前もおっさんだろ」
    軽口をたたきながら、体を伸ばす。
    熱すぎないお湯が心地よかった。湯船に浸かるのなんて、どのくらいぶりだろう。
    いつもは何とかシャワーを浴びているが、それも最短で済ませているから、風呂に入る気持ち良さを忘れていた気がする。
    しばらく無言で空を眺める。
    ゆっくり呼吸を繰り返し、自分が生きていることを感じて、また少し涙が出た。

    夕食は懐石料理だった。分厚いステーキが出た時はテンションが上がったが、思ったより食べられなくて落ち込む。
    「昔はもっと食べられたのにな……」
    「急には無理だよ」
    松野先生とは今日初めて会ったのに、まるで昔から知っている相手みたいにすっかりリラックスしていた。
    安心感から、強烈な眠気が襲ってくる。このところあまり眠れても居なかったから、抗えずに眠りに落ちていった。

    久々にゆっくり眠り、松野先生に何度も声を掛けられ起きた頃には既にチェックアウトの時間ギリギリだった。
    慌てながら一泊二日の予約だった宿から出ると、観光地も回らずに来た道を戻っていく。
    「色々見て回らなくてよかったのか?」
    「ゴールデンウィークで人多いでしょ、無理」
    あくまで温泉が目的だったらしい。助手席に座ったまま、ふうんと相槌を打つ。
    「……少しは気分転換できた?」
    ハンドル操作に集中している横顔を見る。
    「うん。……先生、ありがとう。オレ、会社辞めようと思う」
    「……そう」
    「けどその後はノープランだ。ニートになっちゃうから、先生養ってくれ」
    「……は?」
    動揺したのか少しハンドル操作が乱れた。
    「先生、運転に集中してくれ!」
    「ごめん……っていうか、は? は? 養うって何?」
    「先生は命の恩人だ。だから責任もってオレの面倒を見る必要があると思うんだ」
    「何で?」
    「ペットは終生飼育が基本だろ?」
    「はぁあ~~~~~~~~!?」

    歯車として生きるのはもう終わりだ。
    これからは人生をエンジョイするために生きよう。
    オレは久しぶりに心から笑った。
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