俺の許嫁殿(ヒカテメ)目が覚めた時、あたりは煙に包まれていた。
「大丈夫ですか?」
知らない人の声がする。目の前にいる人だろうか?伸ばされた手が見える。顔を上げると心配そうにこちらを見下ろす人がいた。
白くて、美しい人だ。緑色の布に包まれた服を身に纏っている。ク国では見たこともない服装だ。月明かりのような銀色の髪が揺れる。丸くて大きな、美しい翡翠色の眼がこちらを見下ろす。吸い込まれてしまいそうだ。
「…美しい」
「へっ」
伸ばされた手を握りしめ、真っすぐに見つめる。
「そなたの名は…?」
「テメノス、と言いますが…」
「そうか。テメノス……良い名だな」
「……はぁ、それはどうも」
「俺と夫婦にならぬか?」
胸が、鼓動が高まる。身体に、熱が帯びる。生まれて初めてのことだ。初めて、目の前の人を欲しい、と。一目惚れというものを経験した。
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