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    ことじか

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    ことじか

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    以前リクエスト募集したときに『喧嘩するヒカテメ(真剣に怒っているヒカリくん)』というのを頂きまして、ものすごい時間かかったうえにリクとかなりずれているヒカテメ話になりました。
    なんか、色々とめちゃくちゃで思ったような話になりませんでしたが怒っているヒカリくん書けて満足です。(途中のヒカリの一人称が違うのはワザとです。)

    #ヒカテメ

    喧嘩するヒカテメ鼻につく酒の香り、そこかしこから漂ってくる香水の匂い。纏わりつくような、むせ返るその香りに酔いそうで。あぁ、気分が悪い。
    「あぁ、貴方にこんなところにお越しいただけるなんて…いや、名前を呼ぶのはよそう。さぁ、こちらへ」
    「えぇ……。閣下」
    内密に、と密やかに囁やきながら人差し指を唇の前に立てる。
    画面に隠した涼やかな目線を細めてテメノスは心の中で舌打ちをする。
    “異端”を探るためにどうしても必要な情報であった。表向きは慈善事業に熱心な信徒…。しかし裏の顔は人身売買を行っているというとんでもない悪党である。孤児を保護する名目で、行き場のない子どもたちを集め、その子達を商品のように売り捌く…。そしてこの男にはもう一つ趣味があった。男女問わず子ども好きで、それと同じくらい聖職者も好きという。……性的な意味でだ。全く理解できない。
    その男にとある夜会に誘われた。仮面パーティというものである。ここでは、仮面をつけて人々は何者でもない自分となって楽しむのだ。
    良からぬ取引にはうってつけ、というわけだ。
    だからここに潜入した。仮面をつけて、何者でもない振りをしながらも法衣を身に纏い。もちろん、正式な服装ではないが。
    もっとも、目にする人々は仮装とでも思うだろう。意図を理解するのは主催の男、テメノスがターゲットとする男だけでいい。
    こちらへ、とテメノスは部屋の奥へと促されていく。男はテメノスの腰に手を回す。香る匂いに頭がくらくらする。
    あぁ、気分が悪いがここは我慢するしかありませんね…。
    「お約束は守って頂けますか?」
    「あぁ、今宵ベッドのうえでなら」
    ひそ、と男が耳打ちをする。
    「まぁ。はしたのうございませんか?」
    くすくすと笑いながら、恥じらうように口元を覆う。その仕草に男が愉快そうに微笑んでテメノスの頬を甲で撫で、そのまま髪を一房掬って口づける。
    「さぁ、我らが同志よ。歓迎の証を…」
    「感謝します」
    手渡されたグラスに注がれているのは真っ赤な液体であった。おそらくはワインであろう。それ以外になにも入っていないことを祈る。
    促されるまま、人混みをかき分けながら奥へ、奥へと進んでいく。
    どこか別室に案内されるのだろう。二人きりにさえなってしまえばなんとでもなるだろう。テメノスは黙って男に着いていく。
    「閣下」
    低い、凛とした声。呼びかけられたその声に男とテメノスが振り向く。
    目元を覆う狐面。黒い見慣れない民族的な衣装を身に纏う、狐面の男は長い黒髪を高いところに一つに纏め、結い上げそこに紅い玉のついた簪を差していた。
    「失礼。そちらの者は私の連れ、でして」
    離していただけませんか? と。
    丁寧で柔らかな口調ではあるが有無を言わせぬ力を持っていた。狐面の男は私を引き寄せ、抱きとめる。持っていたグラスは彼に奪われて、そのままぐいと飲み干された。
    ガシャン。
    飲み干したグラスを真下に落とせば、乾いた音とともに破片が散らばる。周囲のものがこちらに注目するやいなや狐面の男は私の手をひいて、人混みをかき分けていく。
    「走るぞ」
    「えっ、ちょ」
    ものすごい勢いで狐面の男は走り出す。そのままついていくより他はなく、取引相手の男はいつの間にか見えなくなってしまった。



    パーティの会場であった大広間から抜け出し、長い長い回廊を走る。
    「ちょっ、ちょっと、待ってください」
    手を引く、狐面の男はなにも喋らない。静止の言葉は届かないようだ。
    さらさらと目の前を走る長髪が揺れる。髪に刺さる簪の飾りがしゃらしゃらと音を立てて揺れるのをただ眺めるしかなかった。やがて廊下の端にある狭い部屋の一室へと滑り込む。部屋には誰もいない。ばたんと扉が閉まる。
    ようやく止まった目の前の狐面の男に問う。
    「私の邪魔をして…どういうつもりですか? ヒカリ」
    面をつけたままではあるが、その声、姿はどう考えても私の仲間であるヒカリであった。
    「邪魔?」
    ようやく狐面の男――ヒカリは口を開いたがその口調には怒りが滲み出ていた。
    「取引する予定だったのです。彼から情報を得られたはずが……。一体どこからここを嗅ぎつけたのですか?」
    「嗅ぎつけたとは…随分な言い方だな、テメノス。取引、とは一体どのようなもので? そなたがなにを差し出すと言うのか」
    「情報の対価として差し出すのです、私を」
    安いものでしょう? テメノスの言葉にヒカリの、狐面の下の目が細められる。
    「ほう、」
    ヒカリがテメノスに迫る。壁際に追い詰められていく。
    「そんな馬鹿げた仮面も、媚びたような化粧も、身に纏うその香りも男に対価として差し出すためのものか」
    「えぇ、そうですよ。情報の対価として見合うように精一杯の努力ですよ」
    男を喜ばすために、見せかけの法衣に身に纏い、目元と唇程度ではあるが色を乗せ、男が指定した香水をつけてきた。その程度どうということもない。仮面が取り払われ、放り投げられる。からからと、床に乾いた音が反響する。
    ヒカリが指の腹で私の化粧を拭っていく。苛立ちを隠そうともしていないし、私自身隠すつもりもなかった。
    「そんなものが対価になり得るとでも?」
    「なにが言いたいんですか。貴方だって、情報の対価として金銭を差し出すでしょう。それに見合った金額を。それと同じです。貴方にそこまで言われる筋合いはありません」
    「……そうだな。情報は貴重だ。戦場において情報一つにとんでもない価値が生まれる。敵を欺くために偽の情報をばら撒くこともあるし、諜報員を使って敵の内情を探ることもある。また、捕虜とした敵を拷問にかけ、その情報を引き出すこともある。まさしく“命”をかけて…」
    「……」
    ヒカリが、私の顎を掴んで上を向かす。有無を言わさないその瞳に捕らえられる。ヒカリは、怒っていた。
    「そなた、その対価として差し出したその身が無事に帰るとでも思うたか。殺されたかもしれないのだぞ」
    「私だって、身を守る術は持ち得ています…それぐらい……」
    「はっ。今だって俺に捕らえられてなにもできていないくせに?」
    「……ッ」
    ヒカリが懐から出してきた飲み物を飲むとそのまま口づけをされて、液体を流し込まれていく。合わさった唇から流れこむ液体をこくこくと必死に飲み下す。酷く苦い。
    「会場に出された飲み物なぞ、碌なものが入ってないだろう。キャスティが調合した解毒薬だ。飲め」
    「ヒ、ヒカリこそさっき変なもの飲んでいたでしょう!」
    口元はヒカリに掴まれたままだ。せき込みながら必死に反論する。
    「俺は、別に大丈夫だ。毒には慣らされているから。それに、それを飲もうとしていたのはどこのどなただったろうか?」
    ヒカリらしからぬ口調に調子が狂う。面のせいで表情がよく見えないせいもあるかもしれない。いや、それよりも毒に慣らされているとは。
    「……ぐッ!」
    喉を掴まれる。声が出ない。息が苦しい。
    「そなたなど、声を封じればなにもできないだろう。それに俺が本物のヒカリでなかったとすれば? 親しい者の姿をして近づいてこられればどうだ? それが偽物か本物かそなたに区別はつくか?」
    「……っ」
    背筋が凍るようだ。恐怖心が今さながら湧き上がってくる。狐面に隠された視線に慄然とする。
    怖い。
    仲間に怖いと思うなど、あってはならないが今はヒカリが怖かった。じわり、と眼尻がなにかが込み上げてきそうだ。
    ただヒカリは本気では、ないだろう。このまま、どうにかされるのはごめんだ。
    男が神官の格好に拘るのである意味幸運だったのかもしれない。杖を持ってきていたからだった。振りかぶって力いっぱいヒカリの頬を手に持っていた杖でうち付けた。
    「…っつ」
    鈍い音がして、ようやくヒカリの手が自身の喉元から離される。大きく息を吸い込む。荒い息を整えて顔を上げる。
    殴った衝撃で狐面が外れたのだろう。頬を腫らし、口元から血を流したヒカリが冷ややかな視線がこちらを捕らえる。
    「ふ、やればできるじゃないか」
    「あ、」
    思いっきり打ってしまったようだ。思った以上の怪我に思わず、口を開こうとした瞬間、後ろから声が見知った声がした。
    「はい、ちょっと喧嘩は後でしてよね」
    「テメノス、ヒカリ。落ち着け?」
    ソローネとパルテティオによって、ヒカリとテメノスは引き離される。遠くから爆発音がする。
    「オズバルドの旦那がやってくれたみたいだな。もう、大丈夫だ。取引とやらもする必要はないし、騎士団の連中も騒ぎを聞きつけてそろそろやってくるから帰るぞ」
    「そうか、よかった。俺は、少し頭を冷やす」
    くるり、とヒカリは背を向ける。
    「キャスティがあっちにいるから後でほっぺた見てもらえよ」
    その背にパルテティオが声をかけた。



    「子ども相手にムキになりすぎじゃない?」
    「ヒカリは子どもではないですよ、ソローネ」
    落ち着いたテメノスにソローネが呆れたようにつぶやいた。苦笑しながらテメノスはそう返す。
    「ま、子どもってのは冗談だけど」
    ソローネはん、とパーティ会場からくすねてきた葡萄を頬張る。
    「アンタならうまいこと言い包めることもできただろうに」
    「どうしてでしょうね……。誤魔化したりはできなかったんですよね」
    ヒカリ、怒ってましたよね。
    「まぁ、私も人のこと言えないけどさ。昔、散々汚いこともやってきたし、それこそ相手の懐に潜り込んだり、この身体を取引材料にするなんてざらだったし。でもヒカリに同情するよ」
    「なぁ、テメノス」
    不思議そうなテメノスに呆れたようにパルテティオが声をかける。
    「あのな、あいつ怒ってたよな。それは流石に分かってるだろ?」
    「怒っていましたね」
    「まぁ、お前もヒカリも素直じゃないっていうか、言葉が足りないって言うか……」
    頭を掻きながらパルテティオが続ける。
    「心配してたんだよ。もちろんヒカリだけじゃなく、俺もだぜ。な、ソローネ」
    ふい、と照れ隠しに彼女はそっぽを向く。まったく素直じゃないのは誰かさんと一緒だな、とパルテティオが笑って言えば誰の事? とソローネがじとりと睨みつけた。
    「心配…?」
    そう言われると、そうかもしれない。自分の身を案じて彼はあれほどまでに怒っていたのか。
    「そう、ですね……。謝ります」
    おう、仲直りしてこいとパルテティオが背中を押した。



    「ヒカリ」
    「テメノス…」
    ヒカリはすぐに見つかった。ベランダで夜風に吹かれて、ひとり座っていた。声をかければ彼はすぐに振り向いた。頬はまだ腫れていた。
    「キャスティには会えませんでしたか?」
    「会えなかったわけではないが…」
    ヒカリは先ほどより随分と落ち着いていた。落ち着いていた、というより落ち込んでいるようにも見えた。
    「ヒカリ、その……」
    「すまなかった」
    「えっ」
    「その、俺はやりすぎたと……」
    ヒカリの頭の上に、見えるはずのない犬のような耳が見えた気がした。それがひどく垂れさがって、しょぼくれているようにも思える。
    「いえ、私こそすみませんでした。あなたの気持ちを全く分かっていませんでした。心配、してくれていたのですね」
    「心配も……だが、悲しかったな。頼りにされていないのかと。俺は、いや、俺たちはそなたにとって頼りにもしてもらえない存在なのかと。でも、心配していると、それをただ伝えるだけでよかったはずなのに。俺は、怒りに任せてそなたに随分とひどいことをした」
    「いえ、私が悪かったのです。今は一人じゃないのに、こんな無理をして……。あなたが怒るのも当然です」
    そぉっと。ヒカリの頬に触れる。赤く腫れているままだった。
    「痛かったですね。ごめんなさい。キャスティに治してもらわなかったのですか?」
    「この痛みは、戒めとして受け止めるべきだと…」
    「あなたらしいですね。治しましょうか?」
    「いや、このままにしておいてくれ」
    「そうですか。でも、手当てぐらいはしましょう」
    「そうだな。その手当てを見る度にそなたが反省してくれれば、そなたにとってもよい戒めになるか?」
    「もう…。ヒカリは意地が悪いですね」
    「冗談だ」
    「あなたが言うと冗談に聞こえませんよ」
    するり、と今度はヒカリがテメノスの喉元に触れる。少しだけ、ぴくりと身体が震える。先ほどのことが思い出されたからだ。
    「痛かっただろう」
    「そう、ですね…。それに、正直に言いますと怖かったです」
    「それについては…反省している。やりすぎた」
    「でも、もう大丈夫です」
    分かっていますからと微笑めば、再び申し訳なかったとヒカリが詫びる。触れられた手に、頬を摺り寄せる。
    「私が悪かったです。あなたにあれほど心配をかけて、危機感が足りなさすぎました」
    「……反省しているならば、もうよい」
    「ヒカリも。もう大丈夫ですよ。私たち、謝ってばかりですね」
    夜風がふたりの間を通り抜けていく。
    「冷えてきましたね。そろそろ行きましょう」
    手当てしますよ、と差し出すテメノスの手をヒカリが握る。
    「テメノス」
    「? どうしました?」
    「その、そなたを抱きしめてもよいだろうか?」
    「ふふ、どうぞ」
    おいで、と手を広げればヒカリがテメノスを抱きしめる。その痛いくらいの強さに、改めて思い知らされる。彼もまた怖かったのだと。
    「ヒカリ、ごめんなさい。もうひとりで勝手なことをしません。そして、言いそびれていましたね。助けてくれて、ありがとうございました。今ここにいるのはきっと、あなたのおかげもあります」
    ぎゅっとヒカリを抱きしめ返す。温かい体温と鼓動の音に心が落ち着く。しばらくそうする二人を満月だけが優しく見守っていた。
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    「あぁ、貴方にこんなところにお越しいただけるなんて…いや、名前を呼ぶのはよそう。さぁ、こちらへ」
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